日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「隣接線上のトラジェディー」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:日常、音楽、新聞】
本文は追記部分からどうぞ↓


 とかく世の中は、きな臭い気配で満ちていると常々思う。
 休日の朝、俺は玄関の郵便受けに突っ込まれた新聞をひったくると、まだ半袖短パンの寝
間着代わりの格好のまま、パサリと文字の羅列に目を通し始める。

 一面からげんなりするニュースで始まっていた。
 政治──というより、単に「政局」というべきか。
 かつては社会の改革を高らかに謳って民衆の支持を集めた与党も、今では理想と現実の差
を知り、壁にぶつかり続け、当初の公約は何一つまともに成されていない。或いは殆ど骨抜
きになった状態のザル法で決着させるような顛末を辿っている。
 その癖、頼みもしていない悪法ばかりに力を入れてくるから困ったものだ。
 一度は先代の政権が実現にこぎ着けた某官庁の改革を、その反対派らの声に押されて、元
の鞘に戻す法案をぽつぽつと出しては骨抜きに。
 とにかく自由に経済活動をさせればいいんだという風潮──確か新自由主義とか何だとか
いったか──に今や少なからぬ怪訝が向けられているにも関わらず、国内産業よりも海外に
打って出てゆく、或いは既に逃げ出している連中ばかりにいい顔をする。
 野党だった頃は散々「談合だ」「独裁だ」と先代を非難しておきながら、いざ自分達が政
策決定を進められないと気付けば同じような手法を採って、ごり押しをして憚らない。
 そして今は、野党連中を口八丁手八丁で口説き落としながら(そして最早お家芸となった
詭弁とごり押しで以って)増税路線まっしぐらという状態。
 おい……。役人を切って仕事の無駄をカットしてゆけば財政は大丈夫って、あれだけ声を
大にして叫んでた頃のてめぇらは何処に行ったよ?
 そりゃあ抵抗はあるだろうさ。だけど俺達庶民がカネが無いってのに、ひたすら力づくで
「おい。ジャンプしろよ」って脅すなんて何時の時代のヤンキーだっての……。

 政治(おかみ)だけじゃない。経済もお先真っ暗なままだ。
 国内じゃあモノが売れず、海外の安い製品がデカい顔をしている。
 別にそれは消費者にとっちゃ安い方がいいんだが、それを続けた所で国内産業はどうなる
んだって話で……。
 まさか全員「海外に通って生計を立てて下さい」ってのはねぇよ。
 殆どこの国を否定するようなもんじゃねぇか。まぁ経済に国境はなくなっているとか言わ
れて久しいけど、やってる事はとにかく人間の欲望を煽って煽って売りつけることに変わり
がない訳だからさ……。最近はテレビもやったらめったらに通販番組が多いし……。
 ただ俺達は、普通に暮らしたい。できることなら裕福でいたい。
 それだけの筈なのに、実際はカネのぶん取り合いだ。
 カネは天下の回り者っては云うけど、どうにも流れて行く先が偏り過ぎてる気がする。
 哀しいかな。もう「普通」ってこと自体が「普通」じゃねぇのかもしれない。

 ……駄目だ駄目だ。どうにも気が滅入ってならない。
 こういう時には好きな音楽をガンガンに聴いて無理くりハイに持ってゆくのが一番だ。
 勿論、それで根本が解決する訳じゃねぇけど……ずっと向き合ってたら心が折れる。
 だけど、いやだからか、お上やカネに不満を持っている人間は多いみたいで。
 株はやってない(あんなのは「虚業」だ、と土方仕事をやってる俺は叫びたい)ので株価
のページはすっ飛ばした。次に目に映ったのは、社会面だ。
 此処までくると地域のほっこりとしたささやかな記事も見られるようになるが、それでも
きな臭い匂いは何処まででもついて来る。
 やれ酒を飲んだままで車を運転をし、登下校中のガキどもを轢き殺す。
 やれ同じ地域で連続して犬や猫といった動物を惨殺して回っている輩がいる。
 挙句は肩がぶつかったってだけで路上で喧嘩。片方がナイフで相手を刺し殺す。
 不快感以上に、不安が胸を満たしてやはりげんなりする。
 俺だって今の世の中に満足している訳じゃない。
 鳶をやってるのも、物弄りが好きだし日給がいいからであって、実家にカネがあったなら
もうちっと専門的なことを学んでからこの業界に入りたかった。
 学がなけりゃあ、独立もできやしない。オッサン連中に万年こき使われるだけだ。
 だけども、そこで“暴発”しちゃ駄目だろうとは思う。
 誰だって嫌さ。だけど我慢して何とかその日の稼ぎを搾り出してる。その横でデカイ声を
出して暴れてみたり、自分達の主張を「宣伝」して回ったり……正直言って迷惑だ。

 何で、こんな風になっちまったのか。
 学のある知り合いに言わせれば『政治不信で若者が投票しないから、政治家は自分達の事
を見ないんだ。札を入れてくれない奴は、連中にとっては視界にないんだよ』とのこと。
 連中だって人間だ。そういう理屈は分かる。
 だが……そういう切り捨て方をして、自分達の利益ばっかり見てるから不信を抱かれるん
だって分からないもんなのかね? いや、分かってても「自分の対象じゃない」って事か。
 勿論、殺したり傷付けたり奪ったり、そういうやり方は論外だけども。
 どいつもこいつも自分のことばっかり考えてやがる。そうやってお互いの首を絞め合って
いるように、俺には思える。
 部屋の壁際のお気に入りのコンポから、大好きなポップミュージックが流れている。
 歌われているのは夢やら希望やら。或いはお互いを大切にしようぜっていうメッセージ。
 人によっちゃ「陳腐」だの「奇麗事」だのと言う。でも俺はこのグループが好きで新曲が
出る度にCDを買いに走っている。給料日を逆算して予約することも珍しくない。
 彼らはチャリティー活動にも熱心だ。
 自分達の歌で、皆を勇気付ける。そしてそのイベントで儲かった売り上げはその殆どが恵
まれない子供達などへの寄付金となっている。
 ノブレス・オブリージュ……だったっけ? 高貴な人間は相応の義務を負う、とか。
 でも実際の所、今の時代ホンモノの「高貴」がどれだけいるのかは怪しいと思う。むしろ
「金だけはやたら持っている庶民」っていうのが幅を利かせているのが今の世だ。
 だからこそ彼らみたいな、稼げたらその分を可能な限り社会に還元する──そういう文化
が根付いてくれればなぁと思ったりもする。
 まぁ、何処ぞの似非チャリティーみたく『愛は地球を救う』なイベントばっかりになるの
は勘弁願いたいが。


「──んっ?」
 背後から玄関の呼び鈴(チャイム)が鳴らされたのは、ちょうどそんな最中だった。
 この静かに世を憂う青年は、起きがけのラフな格好のまま立ち上がった。
 朝から一体誰だろう?
 基本的にアパートで一人暮らしの自分に客など来ない。セールスの類か、或いはふらっと
訪ねてきた友人知人か。おそらく前者かと思うが、そうだとすると正直鬱陶しい。
「へ~い……。どちらさ」
「……」
 だが青年の予想は外れていた。
 チェーンロックを掛けたままでドアを開け、来意を告げた相手を確認すると、そこに立っ
ていたのは一人の中年男性だった。顔はやつれ、着ている服も草臥れている気がする。
「えっと。どちら様ッスかね?」
 青年には見覚えの無い顔だった。書類の一つも持っていないことからセールスの人間であ
るとも思えない(そもそも、こんな風体をしたまま営業に来る神経を疑う)。
「……隣の部屋の、奥山だ」
「……。ああ、お隣さんっスか。ども」
 ゆたりと一歩二歩とドアのすぐ傍まで近付いてきて、この男は言った。
 どうやら、彼は青年の隣人だったらしい。
 互いの顔を知らぬまま過ごすなど今の時代そう珍しくも無いが、いざ不知を曝け出してし
まった格好に出くわすと、存外申し訳なさが込み上げるようだった。
「……」
 だが、青年がそう苦笑し軽く会釈をすると、男性は眉間に皺を寄せて“きな臭い”雰囲気
を漂わせていた。
 青年のアパート。その玄関先。ドアを挟んだ二人。
 男の視線の向こうには、青年越しに室内にどっしりと佇み音楽を流しているコンポ。
「……、だよ……」
「? はい?」
「五月蝿いんだよッ!!」
 それは突然のこと、一瞬の出来事だった。
 刹那、男性が青年に向かって叫ぶ。突然の事に、彼は避けようがなかった。
 ──ドアの隙間越しに、男性から自身に突き立てられた包丁を。
「がっ、ぁ……ッ」
 青年はその場で目を丸くし、両の瞳をぐらぐらと揺るがし、仰向けに倒れた。
 服の上から、脇腹に刺さった包丁と大量の血が滲んでくるのが見えた。一瞬遅れてから、
激痛が身体中を奔りながら叫んでいた。
「ぁ、おま──」
 起きがけの薄着というのも、また不運を重ねたといえる。
 突き立てられた包丁は、男性の勢いある一撃で深く深く刺さっていた。その殺傷力の前で
は、薄い布地など殆ど防壁にはなりえない。
 青年は徐々に大きくなってゆく血だまりの中で何とか声を絞り出そうとしていた。
 しかし、包丁を突き刺して青年が倒れた直後、男性はまるで我に返ったように青ざめた顔
をして彼を見下ろすと、そのまま大慌てでその場から逃げ去ってしまっていた。
「──……」
 故に発見は遅れた。その命を助けるべく駆け付ける者が現れたのは、もっと後のことだ。
 青年は、夢や希望を歌う音楽グループのサウンドを背景にゆっくりと意識を失った。

 完全な傍観者などいない。
 「非日常」への扉は、いつも私達のすぐ傍に立っている。
                                      (了)

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  1. 2012/06/18(月) 18:00:00|
  2. 週刊三題
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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