日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「深緑曰く返せよヒューマン」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:泥棒、森、コンビニ】
本文は追記部分からどうぞ↓


 ──元々は同じ大地、同じ空の下で生きる隣人であった筈なのに。
 これはお爺ちゃんやお婆ちゃん、更にはそのお爺ちゃんやお婆ちゃんからと延々大昔から
遡れる、長く私達の間で伝えられてきたお話だ。
 ニンゲン。そう呼ばれている者達がいる。
 かつては恐竜(トカゲのでっかい奴だそうだ)が滅んだ後、ひっそりと生き長らえていた
者のいち種族に過ぎなかったのだけど、今日そんなニンゲン達は世界中に広まっており、今
ではすっかり彼らが地上の支配者気取りをやってくれている。
 お爺ちゃん曰く、分類的には猿(モン)さんの親戚なんだそうで。
 だけど、その手の話題をモンさん達にすると、決まって嫌な顔をされる。
『ニンゲン? あぁ、あの弁えってものを知らない新参者か』
『あんな連中と一緒にしてくれるな。……もうずっと前に、私達とは袂を分かった者らだ』
 森の智者とまで言われるモンさん達をして、そうまで言われるのだからきっと過去に酷い
ことをしたのだろうと(私は勝手にだけど)思っている。

 実際、彼らニンゲンが大昔に独立独歩の道を歩み始めてからは、森は災厄のオンパレード
なのだという。
 先ずニンゲン達は、生っている食糧をやたらめったらに採り始めた。
 彼ら当人から言わせれば「増えた仲間達をしっかり食わせてゆくため」だったらしいが、
食べなければいけないのは何も彼らだけの話じゃない。
 長らく限られた恵みを巧く分け合って暮らしてきた当時の森のご先祖さま達は、その頃か
ら今に連なる不安を抱き出したのだという。
 次にニンゲン達は、ノーギョーという技術を振るい始めた。
 やがて自然に生えている食糧だけではやっていけなくなったらしい。そこで彼らが思い付
いたのが、このノーギョーという営み。要するに“生えてないなら生やせばいいじゃない”
的な発想だ。
 これはお爺ちゃんお婆ちゃん、お父さんお母さんの世代に関わらず、今も私達があちこち
で見かけるニンゲンの光景だ。……随分と、やっている人数自体は減ったみたいだけど。
 聞いた所によると、これはニンゲン達にとって大革命だったらしい。
 それはそうだ。自然の恵みを頂戴する、それ以外の食い繋ぐ方法を思い付くなんて中々で
きるものじゃない。このように大昔からニンゲンという種族の発想力や適応能力は皆の中に
おいて抜きん出るものがあったのだ。
 だけど……結果を言えば、私達全体にとってこの発想は災いだったと言える。
 だって、このノーギョーには土地が必要だから。自分達の都合の良いように弄り回すこと
のできる広い土地が。
 それだけの……ただそれだけの為に、奴らは次々と樹木(キキ)さんを打ち倒し、森とい
う私達にとって大前提の居場所を奪っていったのだ。
 勿論、ご先祖様たちは何度も止めるように言ったそうだ。必死に抵抗運動もした。
 しかし、もう遅かった。ニンゲンの悪癖中の悪癖「欲望」に火が点いた後だったから。
 ニンゲン達は、抵抗する者を容赦なく撃ち破った。荒ぶる獣性も古き良き神性も。
 ニンゲン達は、切り拓き続ける土地を「自分達のもの」と言い張った。そしてあっという
間に、世界の至る所で、彼らはご先祖さま達とは隔絶したセカイを生き始めた。
 
 一つに、ノーギョーは確かに少しずつだが増えてゆく彼らの同胞を養っていた。
 しかし、それと同時に頻発するようになったものがある。──戦いだ。
 彼らはご先祖さま達が恐々と遠巻きに眺める中、やがて持つ者と持たざる者に分かれ、日
夜戦いに明け暮れるようになった。より多くの蓄えを求めて。或いはそれらが担保するより
強い権力を求めて。
 二つに、そうした戦いの日々が、彼らの発想力をどんどん磨いていった側面がある。
 ニンゲン自身も『テクノロジーの源泉はセンソウとエロだ』と云う者がしばしば出たとか
出なかったとか。
 とにかく、戦う為の技術が次々に編み出され、それらが日常の豊かさの為に転用される。
だがやがてその蓄積は変化は、再び新たな争いの火種を生み、ニンゲン達を殺し合わせた。
 その頃になると、随分と私達の住む森も寂しくなっていたそうだ。
 ダイコーカイ時代とか、サンギョー革命とか。
 ニンゲン達はその時々の節目を後にそう名付けて自分達の先祖らを称えた(もしかしたら
後悔もした)が、私たち森の住人──この頃になると海の住人らも巻き込み──にとっては
迷惑極まりない状態に変わりはなかった。
 三つに、ニンゲン達は都市という、自分達だけの住処をあちこちに造るようになった。
 と言っても、それはかつての森とは似ても似つかない。
 あくまで自分達に都合が良いように設えられた、石や金属の大小様々な巣を並べた空間と
言えば分かるだろうか。
 ごくごく最近には『都市にも緑を!』と言って、その中にキキさん達を持ち込んだりして
いるが、あれは酷いものだと思う。ご先祖さま達にしてみれば屈辱の極みだろう。結局の所
ニンゲン達の自己満足なのだ。今更取り繕う程度のアピールで、何が良くなるのか……。
 ……と、此処までくればもう私自身の世代にも近くなる。
 とにかく私の耳にしてきたニンゲンとは、こういう独立独歩で高慢な奴らで──。


「──やぁ。雀(スズ)ちゃん」
「? あ、隣山のモン小父さんじゃないですか。どうしたんですか、こんな所まで?」
 そんな昔話を思い起こしてぼうっとしていると、ふと近くに降り立つ物音と気配がした。
 振り返ってみると、そこには見知った猿(モン)さんが一人。
 だけど、小父さんの住処は私の巣とは少々離れている筈なのだけど……。
「ああ……。最近はあっちも食糧が少なくなってきてね。こうして近隣の土地まで足を運ん
でいるって訳さ」
「……そう、ですか」
 小父さんは「何も私に限った話じゃない。他の若い衆も必死だよ」と笑って語っていたけ
れど、つい先程まで巡らせていた思いもあって、どうにも私は気が塞ぐ思いがする。
「お~? スズちゃんにモンのとっつぁんやないか~」
 そうしていると、今度は足元──キキさんの腕の上から見下ろした地面に、またも見知っ
た猪(シシ)さんの姿を見つけた。
 口調は荒っぽいが、熱いハートを持ったシシ兄(あん)ちゃんだ。
 でも何だか妙だ。普段はご両親や下の弟君・妹ちゃん達と一緒に賑やかにしているのに。
「……おう。で、どうした? 何かあったか」
 それは小父さんも同じ考えだったらしい。
 キキさんの腕からひょいひょいっと持ち前の身軽さで飛び降り、まだ辛うじて残る土と草
の地面(といってもこれもニンゲン達の人工物なのだけど)に降り立つと、小父さんはぽつ
ねんと近寄ってくる兄ちゃんと向き合っている。
「は、はは……。流石はとっつぁんやな。まぁ……ちぃとな。ガキらとニンゲンの巣に近寄
ってたらハッパ持った奴らに追い掛け回されちまって……」
 私も小父さんも、それを聞いて思わず驚いて目を見開いていた。小父さんに至っては少な
からず怒っているようにも、横顔から窺える。
 ニンゲン達は、自分達が森を打ち倒しておいて、一方で自分達の巣に入ってくる私達には
容赦ない。土地にもよるが、彼らはリョーユーカイという武装集団を抱えており、時にはそ
の彼らに“侵入”してきた私達の同胞を殺させるのだ。
 住処を奪い、食糧も奪い、今度は命さえ取るようになった。
 だから不用意にニンゲンには近付くなと長老衆から言われているのに……と私は思ったけ
れど、同時にそこまでしないと満足に食事も摂れなくなっている事実があるのだとも、先の
小父さんの話もあって思い至り、やはり気が塞ぐ。
「──そうか。弟妹(きょうだい)達は無事なんだな?」
「ええ。いざって時は、何よりあいつらを逃がすのが先だと決めてましたから。……やっぱ
そう簡単に、ニンゲンの抱え込んでる食糧は手に入らないもんッスね」
「気持ちは分からんでもないがな……。だが止めておけ、命が幾つあっても足りないぞ? 
何の為に私達は食べているのか、それをよく考えるんだ。何より“泥棒”をやり返した所で
根本的な解決にはならんさ」
「…………。そうッスね。ご心配、お掛けしました」
 下では、小父さんに静かにお説教された兄ちゃんが、苦笑で誤魔化しながらも頭を下げて
謝っていた。
 弟君や妹ちゃん達が無事なら、一安心かな?
 私はキキさんとそっと顔を見合わせ、同じく苦笑で安堵の息をついていた……のだけど。
「──いらっしゃいませぇ~」
 はたと、この仮初の緑地の眼下からそんなニンゲンの声やピロピロと甲高い音が鳴るのが
聞こえてきたのは、ちょうどそんな時だった。
 私達は、つられるようにそれぞれに視線をそこに向けていた。
 ゴツゴツした濃い灰色の地面の上に造られているのは、ニンゲン達がコンビニと呼ぶ巣の
一種。以前小父さんが、食べ物もそれ以外でも何でも揃っている便利屋みたいな所だと話し
ていたことを思い出した。……ということは、やはりあそこにもニンゲン達がたんまりと抱
え込んだ食糧があるのだろうか。
 透明な仕切りが勝手に開き、だけどそれをさも当然といった様子でまだ歳若いニンゲンが
この平たい白壁の巣へと入ってゆく。
 そんな中、私達の目に映ったのは『愛は地球を救う』と書かれた小さな穴の付いた箱。
 気だるげに立つニンゲンの女、その台の上に設えられた代物に、小父さんは「ああ、また
あの時期なのか」と呟いて何やら嘆息をついている。
「どうしたんですか?」
「ん? いやな。あの箱、何か知ってるか?」
「いいえ……。あっ、もしかして食糧でも入ってるんスかね?」
「残念だが、あそこに入っているのは全部食べ物以外だ。まぁニンゲン達にとっては食べ物
以上に手放したくない代物かもしれんが。金(カネ)というものだ。知らんか?」
「あ、はい。聞いた事ならありますよ。ニンゲン達が色んなものを交換する時に使っている
紙切れや金属の塊、でしたか」
「ああそうだ。まぁあの箱──募金箱というんだが、あそこに関してはおそらく金属の方が
主に入っている筈だ」
「へ、へぇ……」
 流石は小父さん。森の智者の一族なだけのことはあります。
 シシ兄ちゃんは既に頭がショートしかけているのか、苦笑を通り越して辛そうだったけど
私は小父さんのこういう披露は好きだった。
 ニンゲンは嫌いだけど……知りたいと思うのは、まだ私が青いってことなのだろうけど。
「最近のニンゲン達はな。先祖達が森を打ち倒してきた、海を汚してきたことを後悔する動
きもあったりする。そんな志(つぐない)の為に、さっき言ったカネという代物を差し出す
ことで自分も償ったぞと、まぁそんな試みな訳だな」
「……随分と遠回しッスね。そんなまどろっこしい真似なんてせずにさっさと森を返してく
れりゃあいいのに」
「所詮は自己満足な部分が強いからな。それに、一度失ったものを易々と取り戻せるほど、
この世界は簡単にはできておらんよ」
「……ええ」「そう、かもしれませんね……」
 暫く私達は、コンビニとやらを行き来するニンゲン達を眺めていた。
 さっきの失敗もあるから、兄ちゃんが今度はあそこに突撃する……なんて事はないだろう
けども。だけど遠巻きに眺めれば眺めるほど、ニンゲン達の抱え込む食糧が気になった。何
より、大昔に隔たれた、彼らと自分達の距離が大きく感じられる一方だった。
「……ニンゲンってのは、一体如何したいんスかねぇ。森をぶっ壊してこんな自分勝手の巣
を並べても、まだまだ止まる素振りすらねぇなんて……」
「私にも分からん。むしろ、彼ら自身も殆どが自らをよく分かっていないのだろう。おそら
くは行き着く先まで、只々進み往くのだろうと思うよ」
「それは、何処なんですか?」
 シシ兄ちゃんは嘆き、私は訊ねてみたが、小父さんは答えなかった。
「…………。滅(ほろ)──いや、これは単に厭な欲望か……」
 いや。答えなかったというのは厳密じゃない。
 きっと答えられなかった、答えたくなかったのではないかと、暫くの間を挟んだ後のその
呟きを耳にしながら、私はまたどんよりと胸が塞ぐ思いを抱いていたのだった。
                                      (了)

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  1. 2012/06/10(日) 00:00:00|
  2. 週刊三題
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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