日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅱ〔24〕

 俺には、一回り近く年の離れた二人の姉がいる。彼女達は双子だった。
 名を姉の方はアズサ、妹の方はアカネという。
 一見すると、一卵性双生児の例に漏れず似通った顔立ちこそしているが、その内面の性質
は対照的と言ってよかった。
 上の姉は負けん気が強く自他に厳しい。開拓国風の言い方をすれば、キャリアウーマンと
やらをそのまま少女にしたような女性(ひと)だった。
 下の姉は令嬢の如く大人しく控えめ。臣下にもつい敬語を使ってしまっては彼らに恐縮さ
れている所を度々見かけた程、皇族の威厳といったものからは縁遠い女性(ひと)だったと
記憶している。
 こうして二人も「姉」がいる。
 それはこの皇国(こきょう)──女傑族(アマゾネス)にとっては決定的だった。
 何せ、俺たちはその大半を女性が占める、女系種族なのだから。
 故にその者らによって建国されたこの民族国家を統べる皇も、また女性というのが慣例と
なっている。要するに、俺は皇子ではあっても皇位継承権は一番後になる訳だ。
 別にそのことに疑問を持ってはいなかった。
 姉者らの何れかが皇になるのだろうと、そうばかり思っていたから。
 俺はただ子供心に……あの宮中で渦巻いていたもの等に気付かず、知ろうともせず、毎日
無邪気に将軍らの武芸に、目を輝かせていたから──。

「たぁっ!」
「おぉ……っ? ははっ、お強う御座いますなぁ殿下。ただ踏み込む際には、こうして相手
の体勢を邪魔するようにですね──」
 いつの日だったか、もう具体的な日付は覚えていない。
 だがあの頃の、幼い日々と同じだった、その一頁の中にあったと思う。
 まだ幼子だった俺は、その日もいつものように王宮内の運動場で兵らの訓練に交じって汗
を流していた。
 皆が見守る中、訓練用の模造刀での組み手。
 相手をしてくれていた将軍が俺の一撃を真正面から受けて、微笑んで(わらって)いた。
そして互いに構えを解いて歩み寄ると、より実践的に、その時は至って真剣な面持ちで剣術
の手ほどきをしてくれていた。
 俺は「うむ。うむ」と何度も頷き、握った模造刀を試すがめす。
 そんな様子を、遠巻きの観戦席の幕張(テント)の下で父上と母上、そして姉者達が眺め
ている。
 穏やかな昼下がりだったと、記憶している。
 父上はそんな鍛錬に励む臣下と息子を微笑ましく眺め、母上はアカネ姉様と淑やかに談笑
をし、そして……アズサ姉様は、その横で一人じっと分厚い本を読んでいる。
 そんな最中だった。
「リオ、皆。少し休まない? 軽食の用意もありますよ?」
 とたとたと、茶器一式を運びつつやって来た侍従らを待っていたかのように、母上がふと
そう俺達に声を掛けてきたのは。
 汗を拭って、俺達は誰からともなくその言葉に従っていた。
 侍従らによって手早く組み立て式の卓が広げられ、将校の上下を問わず、俺は皆と共に暫
しの休憩へと入る。
「はい。どうぞ、あなた」
「うむ……」
 母上は──当時の皇はこうして家族や臣下に茶や菓子を振舞うのが好きだった。
 彼女には、父上のように武芸の才こそなかったが、それを補って余りある伝統的美意識と
教養があった。そしてその身に付けたものを自分の中に秘匿するのではなく、積極的に他者
に与えるということにも大いに喜びを見出していたらしい。
 母上に比べて少しぎこちなく、だが妻が直々に淹れてくれる茶に息子の俺から見てもデレ
デレしているように、父上は頬を綻ばせていた。
 その武人としての厳格さが多少なりとも鳴りを潜めた(或いは母上がそうし向けた)から
なのだろう。卓を囲んだ面々も気付けばすっかりリラックスしていた。当然、談笑にも華が
咲き、茶や菓子に伸びる手も進んだ。
「……あら。もうなくなってしまったわね」
 ややあって、器の中の茶が尽きたようだった。
 母上はコトンと、検めた陶磁器の蓋を閉じて侍従らに「予備はある?」と訊いている。
 しかし返事は恐縮しながらの否。
 何せ、こうしたひと時の母上の拘りは彼女らもよく知っていることだ。たとえ当人らが給
仕の専門家であるとしても、そこで独断の追加をしようとは思わなかったのだろう。
「じゃあ、新しい葉を出してきましょう。貴方たちは主人達の給仕を続けていて頂戴」
「は、はい」「畏まりました」
 とはいえそれを別段気にすることもなく、母上はすっくと立ち上がると場を彼女らに任せ
て自ら茶葉と菓子の補充に出向いていこうとする。
「……母上はいいですね。このような特技を持っておられて……」
 だからこそ、あの時俺は、もぐと羊羹を飲み込んでから呟いていたのだろう。
「何を言っておるか。お前にも優れた才があるだろう?」
「私に……?」
 応えていたのは、父上だった。
 その周りには、少し反応に困ったように眉根を伏せていた将校達。
 父上はフッと俺に微笑み掛けると、先に姉者達にそれとなく促していた。曰く母上を一緒
に手伝ってあげなさいと。
 ……今だからこそ、俺には分かる。
 あれは、間違いなく当人らを場から退席させる“人払い”だったのだ。
 「はいお父様」そうにこりと返したのは、アカネ姉様の方だった。
 その時父上が何を考えていたのか察する訳ではなく、ただ素直に父の言葉に従っていたの
だろう。ひょいっと立ち上がり、それまであまり喋らず先程の本を脇に置いてぼうっとして
いたアズサ姉様の手を取ると、彼女はそのままほっこりとした笑顔で姉妹揃って母上の後を
追って歩いてゆく。
「……」
 そんな姉者達を確かめ、父上は何処か遠くを眺めていた。
 王宮の外? それとも空? 当時の俺はその程度の認識しかなかったと思う。
 少しの間、父上は黙っていた。だが、ややあって再び俺に微笑み返してくると、
「武芸の才だよ。お前は間違いなく一流の武人となれる素質がある」
 小さく自身で頷き、見上げる俺の幼い瞳を見つめながら確かにそう語ってくれた。
「はは……。そうですとも、殿下」
「ええ。この御年にして我ら皇国軍の訓練に交じっておられるのです。先程も僭越ながら、
私めは殿下の太刀筋に驚いたのですぞ?」
「ですな。もう少しご成長なされば、本格的にトナン流の修練に入られても大丈夫ではない
かと存じます」
 次いで臣下の将校らが言い、笑ってくれていた。
 とはいえ、半分以上は世辞なのだろう。この時褒められた、それが今現在の俺とイコール
であるとは流石に思わない。……それでも、あの時の皆の笑顔は、嬉しかった。
「そうだの。確かにそろそろそんな時期になるやもしれん。ははっ、気付けば逞しく成長し
てくれたものよ」
 だから俺は、互いに微笑み合う父上らをぼんやりと眺めていたのだろう。
「……。では私は、武人として姉様達を支えます!」
 だから俺は、少し調子付いてそんなことを言ってしまったのだ。
 次の瞬間、父上達の間に降りたのは──沈黙。
 長らく、少なくとも当時の俺には、その意味が分からなかった。
 だが今なら分かる。
「……そう、だな。次の皇を支えるのは、きっとお前達だ」
 父上は内心、あの未来(ひ)を薄々予感していたのではないだろうか。
「次の皇……それは、アズサ姉様ですか? それとも、アカネ姉様ですか?」
 なのに、俺は馬鹿馬鹿しくも空気を読まずに問うていたのだ。
 皇位継承。
 古今東西どの王族に限らず、ややもすれば血みどろの惨事を招くその話題を。
『…………』
 父上は、一層黙り込んでいた。何やら考え込んでいた。
 いわんや卓を囲む一介の将校や、給仕の侍従らが口を挟める話題ではない。彼らは只々厄
介な質問をしてしまったものだと言わんばかりに、必死に隠した苦笑で以ってその場に磔に
されたようになっている。
「正直言うと、私はまだ決めかねておる」
 やがて、父上が厳粛な声色で紡いだ答えは──記憶に違わずそんな内容だった。
 思わず顔を見合わせる場の将校や侍従たち。それでも父上は、この問われた言葉がいずれ
出さねばならない回答であると誰よりも強く分かっていたからこそ、ただじっと見上げた俺
の眼を見据えて言ったのだ。
「リオ。お前は先程言ったように、私の眼から見ても優れた武の才を持っておる。できる事
ならお前にはその力を磨き上げ、貴賎に関わらずか弱き者を守る名将となって欲しい」
「……!!」
 今度はお世辞ではないと、子供心にも分かった。
 だからこそ、あの時俺が返していたのは「はいっ!」と頷く満面の笑み。そして引き続き
問う、では貴方は姉者達をどう見ているのかという無言の催促。
「アズサは、とても頭の良い子だ。将来皇となれば存分にその手腕を振るってくれるだろう
と思う。だが……あの子は、他人に厳し過ぎる所がある。かといってアカネは、姉のような
英知がある訳ではなかろうな。ただとても優しい子だ。あの子が皇となれば、領民の心は安
らかであろう。しかし……」
 父上は、そこまで言うと黙り込んでしまった。
 当時の俺では理解が及ばなかったが、あれ以上の言及はたとえ信用のおける臣下らを前に
したものとはいえ憚られたのだ。
 それでも、あの頃の俺は愚かだった。……いや、今も大して変わらないかもしれないが。
 小首を傾げ、そんな父の横顔(くじゅう)を見上げていた俺。
 長い間(ま)だった。
 今は確かにあるこの平穏。だがそれも、いずれは──。
「……」
 我が敬愛なる父は、もう一度フッと俺に笑い掛けていた。
 脳裏に描かれる、我が子らの未来。
「少なくとも、国とは民だ。皇一人では成り立たないのだよ」
 その可能性の先にある暗雲を何とか振り払いたく願うようにして。静かに、淡々と。
「リオ。姉らが困ったその時には、是非お前の力を貸してやってくれ。国も家族も、人とは
互いに支え合ってこそ、生きてゆけるものなのだから……」


 Tale-24.古の刃と虚ろいの楼閣

 瞬間、彼女(フェニリア)を取り巻く焔が躍り出るように牙を剥いて来た。
 ジークの視界一面にワッと溢れたのは、赤。紅蓮の赤。
「──!」
 だがそんなごく一刹那、しかし致命的になりかねないこの甥の遅れを、傍らの“剣聖”は
即座にカバーしていた。
 一瞬、文字通り牙を剥きかけた焔。
 彼はそれらの群れを、淡いマナの輝きを纏う一閃の下に霧散させていたのである。
「気を散らすな。灼き殺されるぞ」
「……ぁ、あぁ」
 そこでようやく、ジークはトクトクと胸を打つ焦燥と動揺を抑え込むことができた。
 そうだ。落ち着け。自分が空間結界(あれ)から漏れたのは、偶然じゃない──。
「来るぞ!」
 ギリッと二刀を握り直し、眉を顰めたのとほぼ同じくしてリオが叫んでいた。
「……ふふ」
 見遣り上げる視線。
 そこには大きく片手を挙げ、渦巻く妖しい焔らの中で舞うフェニリア──“結社”の使徒
の姿がある。
 再び、焔が襲い掛かってきた。
 そのさまはまるで生きているかのよう……いや、実際に命を吹き込まれているのだ。
 牙だらけの口を大きく裂くように開け、振りかざしてくるのは半月状の赤刃と一体化した
両腕。悪鬼(デーモン)を髣髴とさせる彼女の使い魔。その大群だった。
 そんな彼らは焔の尾を引きながら、次々にジークとリオに向かって突っ込んでくる。
「ッぅ!!」
 咄嗟にジークは、二刀を盾にしてその場で両脚を踏ん張っていた。
 握り締める得物を中心に錬氣を込め、この魔導の火を何とか防御しようとする。
 だがそれでも、こちらは戦士で相手は(間違いなく)強豪なる魔導師だった。放たれ次々
とぶつかってくるその威力に身体は悲鳴を上げ、少しずつ押されてゆくのが分かる。
(くそっ、やっぱ分断されちまうと……)
 ジークは視界を塞いでくる赤を、何とか弾き返そうとした。
 空間結界に閉じ込められる寸前、リュカが「貴方だけでも」と自分を突き飛ばしたこと。
 それは間違いなく、アズサ皇──いや、この目の前の“結社”を止めてくれと叫んでいた
に等しい意思表示であり、合図であった筈だ。
「ぬぅ……らあァッ!」
 そんな仲間達の思いに応えなければ思った。そして、皆もあそこから助け出す。
 もう一度、ジークは踏ん張り直すと、マナを伝わせた二刀で薙ぎを打つ。
「グギッ!」「ギギィ……!」
 だが、その一撃は握る手への感触からしてもあまり効いていないようだった。
 バチンと、まるで見えない力の壁に阻まれるように放った斬撃の衝撃がほぼそのまま両手
に跳ね返ってくる。
 しかもそれだけではない。掠り傷の如く、細かに削れたこの焔の使い魔らの赤い破片が、
ブワッとそれぞれひとりでに火勢を上げて新しく使い魔らを生み出していたのである。
「な……っ!?」
 分裂。その言葉が頭を過ぎった。
 そうして目の前・周囲に増殖した使い魔の数は単純に見積もっても倍、いや三倍。
 その一体一体が再度中空で体勢を整え直すと、一斉に火の尾を引いて襲い掛かってくる。
「──」
 だがその赤い襲撃は、次の瞬間自らの消滅と共に防がれていた。
 ほんの一瞬の所作。だが流れるような半円を繰り返す足運びで以って、横から割って入っ
てきたリオがあっという間にこの焔の使い魔らを一閃の毎に斬り伏せていたのだ。
「……。なるほど、下手に衝撃を与えると分裂するのか。撹乱にはもってこい、だな」
 同性ながら、惚れ惚れするほど見事な太刀筋。ジークは言葉なく目を瞬く。
 その眼前でリオはヒュンッと手元に引き寄せた黒刃を一瞥しつつ、そうジークと同じくこ
の使い魔らの厄介な性質を把握している。
 と、また第二波・三波な使い魔らがフェニリアの魔力の下に飛び掛ってきた。
 だがリオは至極落ち着き、ちょうどジークを庇うように前に立ったまま向き直ると、その
返す半身のまま数度マナを纏う刃を振るってはこの火軍を軽々と斬り払ってみせる。
「ジーク、お前は防御に徹しておけ。奴の相手は、俺がする」
「……みたいだな。しかしこれが“剣聖”の力って奴との差なのかねぇ……」
 あの段上に陣取る緋色のローブの女を。
 或いは向こうの柱に寄り掛かり、気だるげに光球を掌に浮かべている着流しの男を。
 とはいえ、縦横無尽に飛び回っているこの焔の使い魔らの中を掻い潜るというのはどちら
にせよ至難の業だろうなとジークは思った。
 目の前の、世界最強の名を欲しいままにする叔父(だいけんごう)の姿。
 過信していた訳ではないが、やはり実際に“結社”の攻撃に太刀打ちできない自分を知ら
しめられると、どうしても少なからず気は塞ぐ。
「物質で、物質でないものを斬ろうとするからだ」
 ちらりと一瞥をこちらに。
 だがリオはぽつりと、そう前を向いて立ったまま確かに応えていた。
「錬氣の使い方は何もモノを強化するだけじゃない。それだけでは、本質は“モノで斬る”
ことに変わりはない。魔導そのものを迎撃するには足りないさ」
「モ、モノで、斬る……?」
 今度は重なり巨大化した焔の使い魔ら。
 だがリオはジークに背を向けて庇い立ったまま、少し腰を落として下段からの袈裟斬りを
放つと、その剣圧と共々、この突撃も散らした。
 切り裂かれた焔らは先のように分裂して数を水増ししようとするが、渦巻く風の如く余韻
を響かす彼の剣圧がそれを許さず、次々と吹き消している。
「マナは厳密には物質(モノ)ではない。魂の側だ」
「んん? あ~……そう、なのか?」
 曖昧に頷こうにも、実際にはぎこちなくと小首を傾げてしまう。
 魔導に関しては正直詳しくない。それに彼の言葉はどうにもぶつ切れな印象がある……。
「生ける者らは三層(みっつ)に分けられる」
 それでもお構いなしに。リオは構え直した黒刃に己の顔を映しながら続けた。
「器たる肉体。核たる魂。そして両者を結ぶ髄液たる精神──記憶的自我だ」
 その間も、リオは次々と飛んでくる焔の群れを打ち落としていた。
 対するフェニリア自身も時間稼ぎ(もくてき)が果たせればいいのだろうか、語っている
彼に何か口を挟む訳ではなく、しかし時折足運びを変えながらジークを庇って戦う剣聖の姿
に、何処か嗜虐心を刺激されているかのような弧を口元に描いている。
「肉体には物質的な力が、魂には非物質的な力が流れる。精神はその両方を受け止め、互い
に巡らせる役目を果たすという」
「……。頭痛くなってきた」
「魔導生理学──錬氣法の基礎理論だぞ? まぁいい」
 口より実践。リオはそうとでも言うかのように、オォッと太刀にマナを込め始めた。
「要はモノには刃で斬り、モノでないものにはマナで斬ればいいということだ。氣の真髄は
単に自己への配分と強化だけではない。自分の中のマナ──内側の力だけではなく、内から
外へ、或いはその身の回りに流れ巡る力を把握し、利用すること」
 再三の、一閃。
 性懲りもなく突っ込んでくる使い魔らを分裂させることなく直接滅し、
「魔流(ストリーム)を感じろ」
 蒙とにわかに立った土煙の中、彼は言う。
「そう言われてもなあ……。俺はアルスじゃねぇんだけど……」
 やはり叔父(かれ)の言葉は小難しい。ジークは静かに苦笑していた。
 マナが自分達の隅々まで関与しているらしい、そのことは以前より耳にしてきた一般常識
ではあるのだが……。
「ふふ。高説も馬の耳に何とやら、かしら?」
 すると段上のフェニリアが艶かしく、そして嗜虐的に笑った。
 その間も、使い魔の源泉たる焔は彼女の周囲で渦を巻き続けている。
「うっせーな。誰が馬鹿だって」
「伏せろッ、ジーク!」
 だがそんなやり取りも束の間、逸早く次の彼女の一手を察したリオの叫び声が場に響いて
いた。それとほぼ同時、遥かフェニリアの頭上にあった焔の塊が天井を沿うようにこちらへ
奔ってきた。そして彼女がサッと片手を下ろしてみせたのを合図に、焔は豪雨の如く二人に
向かって降り注いでくる。
「ぬ、おぉぉぉっ!?」
 思わずジークは、二刀で大きく屈めた身を屈めながらバランスを崩しかけていた。
 直接二人──リオに使い魔らをけし掛けても詮無いと再確認したのだろう。あの緋色の使
徒は、今度は間接的に自分達を狙ってきたのだ。
 敢えて雨のように焔らを注がせ、物理的にぶつかった衝撃で以って分裂、そこでめいめい
に襲い掛からせるというワンクッション。
 流石にリオも、四方八方から飛んでくる使い魔には手を焼いているようだった。
 何度も円を描くような、輝くマナと黒刃の軌跡。そこに使い魔らはまるで吸い込まれるよ
うに巻き込まれて斬り倒されてゆくが、如何せん飛んでくる数を同時多発的に増やされれば
中々その迎撃も終わりが来ない。
「くっ……。ジーク、防御を固めて俺の背中につけ!」
「い、言われなくても──おわっ!?」
 正直情けない姿ではあったが、剣聖の庇い立ての下に。
 だがそれでも四方八方から落下・分裂・強襲のルーチンワークで攻めて来る使い魔らに、
ややあってジークが牙を剥かれてしまう。
 咄嗟に二刀で防御。錬氣をがっつりと込めて防御。
 だがそれでも数を増した威力はジークを軽々と押し弾き、加えてマナを伝わせていた筈の
二刀をもその炎熱で遂に溶かされる。
「ジーク!」
「……だ、大丈夫!」
 大きくよろめいたジークと使い魔の間にリオがだんっと踏み入り、抉るように一閃。
 剣聖の一撃に滅した焔らを確認するや否や彼は肩越しに振り向いてきたが、ジークは半ば
意地と反射的にそう言っていた。
 転げる前に膝と肘でごろりと受身を取り、刀身の半分以上が溶けてしまった仮の二刀らに
さようならを。その動作と同時に近くの亡骸の傍に落ちていた太刀を二本、新たに拾い上げ
て構え直せば「まだやれるぜ」のポーズ。
「……。聞いてはいたが、魔導には明るくないんだな」
 その様子に静かに、ほんの少し表情に安堵と苦笑をみせると、リオは呟いていた。
 思わずジークは頭に疑問符を浮かべた。
 何を言っている? 戦士と魔導師では元より兵としての性質が違うではないか。
「ああ……。そっち方面は弟(アルス)に任せっきりだよ。俺と違って学もあるしな」
「いや、そういう意味じゃない。六華を使っていたんだろう? 魔導具の扱いはできるので
はないのか?」
「太刀(えもの)としてはな。でも魔導具だって知ったのも魔導具として使い始めたのも、
正味ここ一・二ヶ月ぐらいのもんだぜ?」
「……そうか」
 リオはそこで明らかに、眉間に皺を寄せて何かを思案し始めたようだった。
 剣聖と第一皇子。二人が互いに肩を並べて立つ格好となっている。対する段上では、焔の
渦を纏ったフェニリアがより一層その火勢を強く多くしようと力を込めつつ哂っている。
「ならば……。路を拓く前に、俺から話しておいた方がいいかもしれないな」
「? 六華のこと、何か知ってるのか」
「ああ……」
 頷く代わりに、リオは黒刃を正眼に構え直していた。
 そして彼はちらと横目にこの甥っ子(ジーク)を見遣る。
「──お前は考えたことがあるか? “六華が六本でなければならなかった”その理由を」
 まだまだ“未知”を抱えたままの、この未来を担うべき後達を。


 淡い灰色の、モノクロな色彩の虚空を、何度目かの紅い奔流が駆け抜けていった。
 次の瞬間、響き渡ったのは轟音と広き爆発。紙切れよろしく吹き飛んでいくのは“結社”
の傀儡兵や魔獣達。
 爆風と土煙が濛々と舞っている。
 それらの空間を挟んで対峙するのはフェイアン、バトナス、エクリレーヌの使徒三人。
「……ふん」
 そしてもう一方は、文様(ルーン)を編みこんだ手袋やローブを纏うセドだった。
 灰色の中に倒れ伏し、毀れた傀儡兵や魔獣の亡骸が転がっている。
 点々と、不規則に地面に生える大小まばらな柱の無骨さも手伝って、その光景は当人らが
至って真剣死闘の中にあるにも拘わらず、どうにも無機質めいた違和感を拭えない。
「ほう……。思ったより粘りやがるな」
 それがこの空間結界──使徒・リュウゼンのものぐさな気質に影響されているかまでは定
かではない。
 だが同じ“結社”の手の者として慣れっこなのか、バトナスはやがて腕組みをして眺めて
いた表情をにたりと、しかし変わらぬ不敵な笑みで歪めた。
「紅い電撃の魔導、“凪剣(コーダス・レノヴィン)”の盟友を名乗る者……。そうか、君
があの“灼雷の魔導師”。彼の者の片腕──」
「ほう? その呼び名を知ってるのか。冒険者稼業(あっち)からは随分と前に足を洗った
んだが……」
 隣で爆風の余波に靡くままにされながら、フェイアンが思い出したように呟いている。
 その言葉に、セドはまた同じく不敵に一笑を。
 ローブと手袋、全身に巡らせたルーンにマナを走らせ、再びその紅い雷光を呼び起こす。
「俺もまだ、捨てたもんじゃねぇな!」
 叫びと共に“灼雷”が飛んだ。
 それとほぼ同時にフェイアンが放っていたのは、多数の冷気の蛇。
 紅い熱気と蒼い冷気。見事に相反する二人の力は彼らを両端にぶつかり合い、また大きな
相殺の爆音を奏でて霧散してゆく。
「──っらぁッ!!」
 すると今度は、その土煙の中から飛び出すように、魔獣化させた右腕を振りかざしたバト
ナスが中空から飛び掛ってきた。
 その長身にも匹敵する魔の豪腕。だがセドはパチンと指を鳴らしながらローブの袖を振る
と、灼雷の奔流を一点に交差させる。
 数秒の判断で相手の繰り出す攻撃、そのインパクト空間に魔導を運ぶ緻密なる防御術。
 バチバチッ! と甲高い轟音が真っ直ぐな拳撃とぶつかり合い、ややあってバトナスを弾
き返す。それと同時に、セド自身もまた流れるエネルギーの反動を利用して大きく後ろへと
後退、隙無く魔導師にとって都合の良い間合いの維持を続ける。
「セド君、あまり出過ぎるな。前は私が」
 そして彼と入れ替わるように地面を蹴っていたのは、サウルだった。
 胸元から丸い銀色のペンダント──魔導具を取り出すと、
「銀律錬装(アルゲン・アルモル)」
 厳粛に響く声でその真名を唱える。
 するとペンダントは、膨大な量の魔力ある水銀となって彼の周囲を覆い始めた。
 ぐにゃぐにゃと波打ち、少なからず驚いた傀儡兵や魔獣達の怪訝の視線を一心に受ける。
『…………』
 ややあって、それらによって形作られたのは“騎士”だった。
 魔力の銀によって形成された分厚い重鎧に大盾。そして額に角の装飾を被せられた軍馬。
更に彼が握る手には分厚い鎖のウインチを伴った馬上槍という完全武装。現れた彼を襲おう
としていた雑兵らが思わず、数歩後退っている。
「──はぁッ!!」
 それと同時に、甲冑姿となったサウルは大きく手綱を引いた。銀の軍馬がその合図に嘶き
ぐわっと両前脚を高く掲げる。
 駆け出した勢いに、雑兵らは次々に蹴り飛ばされていった。
 ぶんっと半円を描くようにサウルが馬上槍を引き寄せ、先ずは魔獣達を操っている当人で
あるエクリレーヌへと狙いを定める。
 突撃の数拍前。直接的な戦闘能力には乏しい彼女をフェイアンが冷気の蛇らで遮ろうとす
るよりも早く、サウルの眼前に飛び出したのはバトナスだった。
 ギチッと魔獣化を肩から頬近くまで解放し、次の瞬間、唸り響く大槍の射出と真正面から
向かい合う。
「ぬぐ、ぉおッ……!?」
 血生臭いさの混じる鈍い激突音がした。容赦ない刺突。魔獣の膂力を持つバトナスも、流
石にこの射出力には少なからず顔を歪めて声を漏らしている。
 ウインチが無慈悲に鎖と共に馬上槍を押し込んでいた。
 金属音な火花を散らしながら、バトナスが犬歯を剥き出しにする。サウルもフルフェイス
の兜の中から強い眼を光らせている。
「止まったら──的だぜッ!」
 更に着地していたセドが、後方から灼雷を。
 サウルの周囲を綺麗に縫うように、紅い奔流が駆け抜けて傀儡兵や魔獣もろともバトナス
らを巻き込んで盛大に爆発を起こしてくる。
「……。やれやれ、こっちも一筋縄ではいかない相手……かな?」
「はんっ、上等だぜ! エク、お前は向こうに集中してろ」
「え? いいの? このおじさん達強そうだけど……」
「僕らが負けると思うかい? 大丈夫。それにこのままだと人形達も魔獣達(おともだち)
もいっぱい動かなくなると思うけど」
「……わ、分かったよぅ」
 それでも使徒ら三人は折り重なった盾のような分厚い氷──間違いなくフェイアンの施術
だろう──に護られて無事だった。
 周りでぐったりと戦闘不能になっている手勢たち。そしてそれらを一瞥しながら、フェイ
アンとバトナスに促されたエクリレーヌは幼げな心配顔ながら頷くと、魔法陣を伴って一人
先んじてサウルとセドの後方──共同軍本隊へと転移して(むかって)ゆく。
「チッ。一人向こうに……」
「仕方あるまい。せめてこの者らだけでも仕留めるぞ」
 彼女への追撃を防ぐように、フェイアンの冷気とバトナスが投擲する魔獣の骨牙。
 それを大きく拡がり直した銀の盾で防ぎながら、サウルは肩越しに舌打ちするセドと共に
改めてこの強大なる二人に向き合う。
「仕留める、ねえ……?」
「君達じゃあ勝てないと思うけど?」
 炎熱の雷、冷気の蛇。ストレートな破壊力と柔軟性に富む魔導装。
「……やってみなければ分からんさ」
「逃がすと思ってんのかよ? ……灼き尽くしてやるよ、てめぇらの罪ごとな」
 ある意味。いや実際対極的な力の持ち主同士らが土煙の中、対峙する。

「──セドさん凄い……。既存の術式でも古式詠唱でもないし、あれってまさかオリジナル
の術式……? 嗚呼、それにサウルさんもあんなに易々と広範操作を……」
 そんな父の盟友(とも)らの奮戦ぶりを、アルスは本隊の中に混じりつつ、思わず感嘆の
声を漏らし目を見張っていた。
「余所見をしている余裕はないぞ。魔獣使いの方がこっちに向かってきている」
 だがそうしたアルスの様子を、傍を駆けるサフレが窘めるように言った。わらわらと押し
寄せてくる傀儡兵、更にその前哨的に陣取ってくる魔獣へと彼は次々に槍を突き立てる。
「あ、はい……。でも、サフレさ」
「アルス! 後ろ!」
 あまりに冷淡な横顔だと、アルスには思えた。
 思わず口にしようとした言葉が、傍らの相棒(エトナ)の叫びによって遮られる。反射的
に振り返り、障壁を張って飛び掛ってきた傀儡兵の刺突を防御。それとほぼ同時にエトナが
灰色の大地に力を込め(よびかけ)ると、粗い岩槍が出現して反撃の射となる。
(サフレさん……)
 ふるふるっと、窘めれたように意識を防衛に戻しながらも、アルスは内心胸が痛んだ。
 彼も気付いていない訳などない筈なのに。あそこで実の父親がいる、戦っているのに。
 それになのに……あの反応は寂しいじゃないか。
 父子(おやこ)の溝があるらしいということは、フォンテイムに滞在していた折、サウル
公当人から自嘲交じりに聞かされた話だった。
 確かに今はそれ所じゃないのかもしれないけれど、その溝は“誤解”なんだから……。
 アルスはその間にも四方八方から襲ってくる雑兵らへエトナと共に魔導を以って迎撃しな
がら、密かにそんなほだされたものが蘇ってくるような、自分の中の感情を想う。
「ぬぅ……。わんさかと……」
「陣形を崩すな! シノ様を何としても護るんだ!」
「んなことは分かってる! もっとだ。後衛組、もっと障壁を重ねてくれっ!」
 一方でそんな想いは戦いの中で霞むかのようだった。
 リュウゼンの手によってこの空間結界内に閉じ込められてすぐ、共同軍本隊一同は先ず何
よりもアズサ皇との直接対話を望み同行していたシノの守護に心血を注いだ。
 魔導を扱える者らによって分厚く重ねられた障壁の中に彼女を、そしてリンファを始めと
した警護の中心メンバーで更に“結社”からの攻撃に対処する。
 ざっと三重の構造。円を重ねた防衛重視の陣形。
 先に使徒らへ突っ込んで一番の「厄介」を引き離そうするセドとサウルは心配だったが、
実際にあの交戦を見遣る限り、下手に加勢すればあっという間に足を引っ張るだろう。
 兵士達やレジスタンス、そしてブルートバートの面々は、エクリレーヌが陣頭指揮にやっ
て来て一層勢いを増して襲ってくる魔獣の群れ(と傀儡兵ら)に必死な迎撃を続けていた。
「ったく、相変わらずの団体さんだなオイ……。先生さん、せめてこん中をぶち破れません
かね?」
 戦斧で魔獣も傀儡兵もまとめて叩き割って、ダンがこの状況に舌打ちしつつ叫んでいた。
「難しいですね。そもそも結界という術式形態が──」
 しかし、問うたリュカから返ってくる答えは決して芳しいものではなく。
 風の矢が雑兵らを薙いでゆく中、彼女はちらと不安そうに皆を見渡すしかないシノの姿を
見遣りながら口にする。
「……なさねば、何とやら」
 すると、徒手拳闘で同じく奮戦していたミアが傀儡兵を殴り飛ばした直後、はたと中空を
見上げながらぐっと拳を腰に寄せて構えを取った。
 コォッと瞬発的な力を溜め込み、続けざまに突き出した拳から牙剥く猫のオーラが飛んで
ゆく。彼女の十八番・三猫(さんびょう)必殺だ。
 しかし本来なら討たんとするものを呑み込み爆散する筈のそのマナの塊は、そのまま中空
を飛んでいったまま捉えるものがなく、やがて遠くに往ってしまいながら消えてしまう。
「ぬ……?」
「あぅ。む、無茶だよお、ミアちゃん。此処に“端っこ”はないんだよ」
 ふとそんな友の“ものは試し”に、養父(ハロルド)やステラ、魔導師らと共に障壁張り
に加わっていたレナは苦笑をみせると言った。
「結界系の術式っていうのは凄くデリケートなの。空間結界はその最たるものだから……」
「それに、外と中(あっちとこっち)では空間的な同期が分断されているしね」
「仮に私達が力ずくで此処を破れたとしても、ジークと“剣聖”に合流する前に大量の人肉
ミンチの出来上がりって結果になると思うわよ?」
 その言葉を、冷気の剣を振るうイセルナや陣二層目から次々と敵を射倒しているシフォン
が引き受けて続ける。
「……そいつあ、流石に御免被りたいな」
 思わず顔を顰めつつ再度戦斧一閃。
 ようやくダンもミアも、この場の脱出が素人判断以上に実は困難なものであることを認識
せざるを得なかった。
(兄さん……。リオ叔父さん……)
 それは魔導に詳しいアルスらもまた同じだった。
 外にはかの“剣聖”もいる。そう簡単に兄共々やられはしないと信じたかったが、このま
までは間違いなく消耗戦だ。何よりもこの状況は“結社(れんちゅう)”の術中そのもの。
早く此処を抜け出しアズサ皇を確保しなければ……その焦りは同じく抱いている。
 ──セドとサウルが押し返されて来たのは、ちょうどそんな最中のことだった。
 セドが張っていた障壁をぶち破り、それでも飽き足らぬように武装のサウルも一緒くたに
して殴り飛ばすバトナスの(一層解放を進めたらしい)魔獣化した両腕。
 前衛の仲間達が一部、慌てて二人に駆け寄っていた。
 対する傀儡兵や魔獣達も、押し切れぬ全方位より自分達の大将らの攻勢に乗っかろうとし
たのかはたと後退し、全方向包囲から使徒ら三人を中心とした左右翼に開いた陣形を取る。
「中々粘ったけれど……こんなものだね」
「手こずらせやがって。今度こそ纏めて潰してやらぁ」
 エクリレーヌもひょいと転移してきて傍らに来たのを、バトナスが己の魔獣化を少々進め
過ぎて目が血走っているのを肩越しに見遣り、フェイアンはふっと気障に笑った。
 仲間達に支えられ、悔しそうに顔を顰めるセドとサウル。二人を取り巻く共同軍の面々。
 するとそんな彼らを眺めていたフェイアンは、はたと思いついたかのように、にやりと意
地の悪い弧を口元に描くと、ついと中空を見上げて声を張る。
「リュウゼン、いいことを思いついたよ。中と外(こっちとそっち)の様子、お互いにディ
スプレイできないかな?」
『んあ? 別にできなかねぇが……。全く、姉弟揃って性格悪ぃな。ホント……』
 空中から返ってきたリュウゼンの声は相変わらず気だるげで尚且つ投げ槍な嫌味も交じっ
ていたが、当のフェイアンは気にする素振りもない。
 そして彼がマントを翻してこちらを見遣り直したその瞬間、両者の間、その中空に浮かぶ
ようにして、結界外の景色──毀れ尽くされる王の間で、火の魔導に苦戦するジークとリオ
の姿が映し出される。
「兄さん……!」
 アルスが、仲間達が思わず動揺に声を漏らして重ねていた。
 更にどうやらこの映像は双方向らしい。映像の向こうで、ハッとジークがこちらに気付い
て視線を上げ、眉根を寄せたのがしかと見えた。だがそれも束の間、再び襲ってきた火の使
い魔らに揉まれ、リオに庇われ、二人の姿はすぐにこちらからでは追えなくなってしまう。
「うん、いい揺さぶりだ。流石だね」
『褒めたってなんも出ねーぞ。さっさとそっちを片付けやがれ』
 リュウゼンの憎まれ口にフェイアンはにたっと笑っていた。
 嗜虐。やはりかとアルス達は確信めいた感覚を抱く。ただそれだけの為に手間を一つ取ら
せる──その彼の余裕ぶりにもまた、焦りが憤りに変わってゆく心地だった。
(やっぱり、許すなんてできない……)
 アルスは静かに密かに、ぎゅっと拳を握り締めていた。
 セドやサウル、共同軍やレジスタンスの面々、クランの仲間達。そして何よりも母がこう
も苦しめられている。
 何としてでも、自分達は路を拓かねばならない。
 それにあの映像が双方向性なら、先程よりは結界内外の同期の乖離は緩んでいる筈──。
「……皆さん。奴らをもう少し、真ん中に押し込めてやることはできませんか?」
 意を決したように、アルスは言った。
 少なからぬ驚きや怪訝。真っ直ぐに敵を見据えたままのこの小柄な魔導の子を、面々はそ
れぞれの眼で以って見遣ってくる。
「アルス……? 貴方、何を」
「……。僕が学院(アカデミー)でしてきたことは、何も知識を詰め込むだけじゃないよ」
 母が目を瞬かせて問うた。
 そこでようやくちらと肩越しにアルスは視線を返し、そう小さく呟いて返答とする。
「そっか……。オッケー、じゃあ見せつけてやろうじゃない。私達の成果を!」
 逸早く彼の意図に気付いたのは、他ならぬ相棒(エトナ)だった。
 悟った顔をにっと不敵な笑みに変え、淡い緑の輝きと共にぐんと中空に舞う。
 セドやサウル、イセルナ達。皆がそんな二人を横目に──そしてやがて静かに首肯してみ
せるシノを見遣った。
「了解だ。このまま折れるわけにゃあ、いかねぇしよ」
「うむ。総員、アルス君の指示の通りに。敵両翼を抉るんだ!」
 サウルの指揮で「おぉっ!」と兵らが奮起した。
 肝心のシノ、そしてアルスらの守護は欠かさずに、しかし今度は左右に分かれて攻勢の陣
形を。対する傀儡兵や魔獣達もそれを迎え撃とうとし再び激突が始まってゆく。
「攻撃力のあるメンバーは僕の合図で一斉にあの三人を狙って下さい。……その為に、僕ら
が力添えをします!」
 セドやダン達が頷き、中衛に陣取って身構えた。
 その横で、アルスはスッと大きく深呼吸をして心持ち纏ったローブをはためかせる。
(教わってきた通りに。練習してきた通りに……)
 持ち上げた両手を前へとかざし、全身からマナを巡らせ取り入れ身を光に包む。
 頭上のエトナも真剣な表情で緑の輝きを濃くし、同じく全身に力を込めている。
「──領域選定(フィールド・セット)」
 次の瞬間、大きな魔法陣が二人の足元に展開された。
 その輝きは白光から金色、そして橙へ。異変に気付いたフェイアンらも何事だと布陣の中
で眉を顰め始めている。
「盟約の下、我に示せ──群成す意糸(ファル・ウィンヴル)」
 続いて紡いだ詠唱で、アルスの両手五指からしゅるしゅると無数のマナの糸が縦横無尽に
延びてくる。
 一度瞑って開いた、緊張を隠し切れないがそれでも真剣そのものな瞳。
 するとどうだろう。それまでてんでバラバラに揺らめいていたマナの糸は、彼の意思に従
うかのように整然と自ら等を編み上げ始め……多数の巨大な手術刃(メス)や鉗子へと姿形
を変えたのである。
 目を見開く使徒達。同時に彼らを覆うようにエトナが遠隔敷設した半球状の障壁。
 そしてアルスは、
「準備、完了(スタンバイ・レディ)。施術……開始(オペレーション・スタート)!」
 その凝らした瞳に無数の魔流(ストリーム)を確認して、叫ぶ。
 繰る指先は、彼のあの日以来の特訓の成果だった。
 かつては一束がやっとだったストリーム。
 だが今の彼は、使徒達へと向かっているそれらを明らかに手早くマナの鉗子とメスで次々
に掴んでは切断してゆく。
「あれは、中和結界の……? にしたってあの捌きようは……」
「魔導隊! すぐに二人をサポートしてくれ! もっと障壁を重ねるんだ!」
 密閉させた空間。流れ込む管を断つ手術(オペ)。
 始まり、着々と目の前で進行してゆくその様にセドがぽつりと気付きと感心を漏らし、傍
らで深く頷いたサウルが背後の同志らにそう指示を送る。
 故にこの一手はアルスだけではなく、一同総出の反撃となっていた。
 リュカは勿論、レナもステラ、ハロルドも魔導を扱える者は──更にシノも加わりエトナ
が先に敷いた障壁に力添えをして分厚く強化し、一方でより勢い付いて前衛の面々も左右翼
の“結社”達との押し合い圧し合いに気合を込める。
「チィッ、うざってぇんだよ! こんなもん……っ!」
 その様子にバトナスは露骨に苛立ち、魔獣化した拳を放った。
 瞬間、アルスやエトナ、障壁を維持する魔導使いの面々が己の感覚にその苛烈な衝撃を伝
えられて表情(かお)を歪める。
 だが肝心の障壁は多少揺れたものの、ヒビも入らずに耐えていた。
 半透明の硬質ガラスのよう。パワーを自負するバトナスが、思わず驚きで目を見開く。
「……これは、小癪な手を打ってきたね」
 その隣でフェイアンがそっと眉根を寄せていた。
 視線を落とした片掌。視界の中に映る自身の冷気の蛇達。フェイアンの目には、それらか
ら力がまるで気化するように抜けてゆくのが見えていた。
「グ、アァ……?」「ガフッ……!?」
「えっ? 何? どうなっているの? み、皆どうしちゃったの? ……あ、あれ? 何だ
かぼ~っとして──」
 変化が逸早かったのは、中和結界の魔獣達だった。
 そう、謂わば酸欠の状態なのである。
 結界内へと繋がるストリームをアルスが次々に切断してゆく結果、内部のマナ濃度が次第
に薄くなっていたのだ。
 元より魔獣や魔人(メア)・魔獣人(キメラ)という存在は、その身体の内に少なからぬ
瘴気を抱え込んでいる。外部からのマナ──瘴気ではないマナが減り、内なる力ばかりが在
ることは彼らの心身のコンディションを損わせる。
「アルス!」
「うんっ。注入、開始(ナチュライズ・オン)!」
 更にアルス達はオペを次の段階に移す。
 すっかりと切断したストリームの一方で、敢えて二・三束を鉗子の握りと共に彼らを閉じ
込める結界へ。互いの切り口を、指先の感覚を頼りにマナの糸でしっかりと縫合し、叫ぶと
今度はそのストリームから一気に周囲のマナ──汚染のないエネルギーを流し込んでゆく。
 これが、アルスが訓練を重ねてきた“中和結界”の真髄だった。
 敵を局所的な結界の中に閉じ込め、内部の濃度を「綺麗なマナ」で満たす。
 そうすれば、瘴気を一番の拠り所としている彼らの力は大きく削がれるからだ。
「くそッ! このっ、この俺がこんなガキに……ッ!!」
 実際に繰り返されるバトナスの拳撃は、障壁を壊すまでのパワーを失い始めていた。
 彼にもようやく、自分達の力が奪われてゆくこの術の意味が分かっていた。それでも焦り
を雑じらす怒声と共に何度も何度も拳が叩きつけられている。
 フェイアンが、薄れてゆく冷気の蛇らを横目に瞳を細めていた。
 エクリレーヌが、痙攣して泡を吹いては倒れる魔獣達(ともだち)に泣きついている。
「──皆さん、今です!!」
 削いだ。それを視認して、アルスはマナが織り上げる施術(オペ)道具を翻して叫んだ。
 左右背後で皆の「応ッ」の合唱が聞こえる。
 イセルナが、ブルートの力をギリギリまで練り上げて蒼い剣光を持ち上げる。
 ダンとミアが、父娘(おやこ)揃って横並び、三猫必殺の構えを取る。
 シフォンがマナの矢を一気に増幅させて番え、ハロルドが聖魔導を詠唱し、リンファが身
体を捻るようにして長太刀を引き寄せている。セドが“灼雷”を巨大な球体状に凝縮させ、
サウルが銀の武装の殆どを変換し直し、両手持ちのウインチ付き極大槍と化させ、構える。
「いっ──」
『けぇぇぇー……ッ!!』
 そして、殆ど同時に全員の攻撃、その全てが撃ち放たれた。
 戦技や魔導、或いは魔導を帯びた物理撃まで。
 アルスとエトナが結界をギリギリまで維持し解除したのと、左右頭上を一斉に縫ってゆく
それら攻撃の雨霰が使徒らを巻き込んで爆散したのを目に映したのは、本当に紙一重に近い
僅差であった筈だ。
「……。や、やったのか?」
「さ、流石にあれだけぶっ放せば……」
 暫くは、大量の土埃で成否も何も分からなかった。
 濛々と上がる渾身の集中攻撃の跡。おずおずと、兵士らの少なからずが期待と不安の表情
でそんな呟きを散発させる。
『──……』
「ッ!?」
 だが、結果から言えば失敗だったのだ。
 やがて土煙の中から現れたもの。
 それは傀儡兵や魔獣達、手勢の大多数を失い、しかしそれでも然と地に足をつけてこちら
を睨み付けている使徒ら三人の姿だった。
 フェイアンは埃を被った服を手で掃いつつ、冷気ではなく実体の氷塊と化した蛇らと剣で
鎧のように身を固め。
 バトナスは血走った眼で仁王立ちし、上半身と顔面左半分殆どを魔獣化させた状態で巨大
な瓦礫を紙切れよろしく投げ捨てる。
 エクリレーヌは愚図るように目に涙を浮かべ、彼女を只々護ろうとして死んだ魔獣達の亡
骸の中に立っている。
「……マジかよ」
「そんな……。私達があれだけ削ぎ取った筈なのに……!」
 やって来たのは、後悔だったとでもいうのだろうか。
 仲間達が絶望に近く驚愕、落胆している。傍らのエトナも両手を握って叫んでいる。
 その中でアルスは押し黙っていた。
 ──また自惚れたな? そんな言葉が過ぎり、胸を極太の棘が刺す。
 無駄ではなかった筈だ。だがそれでも……それでも、奴らを凌駕するにはまだ自分には力
が足りないと、目の前の事実が宣言をしている。
「……勘違いも甚だしいんじゃないかい? 僕らと君達は、そもそも次元が違う」
 フェイアンが言った。
 しかしその表情・声色は余裕ぶった気障というよりも、ただ冷淡に事実を告げるかのよう
な、心を鑑みることを一蹴するもので。
「ごめんね……。痛かったよね?」
 エクリレーヌがそっと亡骸の魔獣達の前に膝をついていた。
 涙が頬を伝う。それだけを見れば、大切な友を亡くした幼子そのもの。
「でも、大丈夫だから。もう少し……がんばろ?」
 だが次の瞬間、彼女が暗い祝福たる軽い接吻を彼らの肌に。
 すると何と、それまで亡骸になっていた筈の魔獣達は突然起き上がり、物狂いの咆哮を上
げたのだ。更に彼らはボコボコとその肉体を沸騰させるように変化させ互いに結びつくと、
最終的に半魔獣化したバトナスの体躯すら遥かに上回る巨大な合成魔獣(キマイラ)と化し
たのである。
 一同は、絶句していた。
 特に分類的には魔人(おなじ)であるステラのショックは甚だしく、目の焦点が合わなく
なったまま、ガチガチと悪寒をもとうに通り越した身震いを起こしている。
「ったく。カスはカスらしく大人しくしとけばいいのによぉ……」
 中央にバトナス、右にフェイアン、左はキマイラの掌に乗っかった涙目のエクリレーヌ。
 先のグロテスクに近しく、バトナスの魔獣化した躯も浮き立つ血管や肉塊の中の眼などが
時折蠢き、この宿主の完全に“キレた”声色に呼応する。
「……懺悔なんぞ聞かねぇぜ? こいつあ、処刑だ」


 私には、双子の妹と一回りほど歳の離れた弟がいる。
 名を妹の方はアカネ、弟の方はリオという。
 一卵性双生児である私と妹は、顔立ちこそ似ていたが自身でも周囲の噂話からでも、その
内面は対照的であったとの思いが今も強い。弟に至っては……成長すると共に捻てしまい、
気付いた頃には居場所も何を考えているのかも、よく分からなくなってしまった。
 だからこそと言うべきだったのか、或いは妹弟らがそうでなくとも同じだったのか。
 私は幼い頃よりみっちりと家庭教師から、そして自身の自学自習で以って勉学に励んだ。
 それは私が長子──ことこの女傑族(アマゾネス)の国という環境からも、女性が文官的
地位を先んじて有する気風が強かったのだ──だから、という点に尽きる。
 行く行くは次の皇としてこの国を治める方になるだろう。……そんな周囲の大人達の算段
は、私の幼い頃から既に始まっていたのだから。

 私は、当時から勤勉で通していた。
 何も周囲の期待に応えたいという思いではない。学べば学ぶほど、この国が抱える腐敗を
知ってしまったからだ。……変えなければならないと強く思った。私なら、やれる。やって
みせるとの思いが歳月共に強くなっていた。
 その為には、能力ある臣下(じんざい)が付いてくれる必要がある。
 その為には、自分もまた能力を発揮し、確かな実績を残し続けていかなければならない。
 努力は、怠らなかった筈だ。事実、相応しい評価と次なる皇としての期待の眼も注がれて
いた。なのに──。
『跡継ぎは、アカネとしようと思う』
 ある日父は、王の間に主だった諸侯らを集めてそう宣言した。勿論、母や私達姉弟も出席
させてのことだ。
 その時の私がそうであったように、少なからぬ面々が当惑していたのを今でもはっきりと
覚えている。漏れるざわめきの中に「何故アズサ様ではないんだ?」といった趣旨の言葉が
雑じっていたのも脳裏にこびり付いており、未だに折に触れては私の胸中を掻きむしる。
『……誰かのみが皇となる、ただ一人でなければならないという慣例は棄てよ。国という大
きな家族も、一人では成り立たん。互いに手を取り合うを第一とするのだ。よいな?』
 戸惑いつつも、玉座の皇夫妻に跪き従順の意を。
 私達姉弟三人は、玉座横に設けられた席でそんな様を見つめていた。
 ちらと私は、それとなく目を遣ってみる。
 指名された当人たるアズサは、目こそパチクリと瞬き驚いていたが、その重大さを本当に
呑み込めているかは怪しい──ある意味いつものマイペースなお花畑状態。
 他方リオは、この頃既に武芸者としての修行に入っていたこともあり、顔つきは実年齢以
上に精悍なものに成長していた。ただその代償か、昔のように無邪気な笑顔はその静かな表
情の奥に押し込まれ、今はただ発表される宣旨──父の横顔をじっと見つめている。
『ま、待って下さい父上。何故、アカネなのですか? 学問なら私が』
『うむ。よく存じているぞ。だからこそ、お前にはアカネの補佐役をやって貰いたい』
『……補、佐?』
 どうせこの場で追求する気概のある臣下はいないだろう。私は、二人をそう見遣ってすぐ
席から立ち上がり父に問うた。
 すると返ってきたのは、そんな思いも寄らぬ……綺麗事で。
 私が眉根を寄せるのを数拍見つめてから、父は私達姉弟に向かって言った。
『名目上、皇はアカネとする。確かにお前のように勉強ができるとは、言えんかもしれん。
だがこの子は優しい娘だ……民が信頼を寄せるに充分な皇となろう。アズサ、リオ。故にお
前達には文官・武官の長としてそれぞれこの子を支えてやって欲しいのだ。二人とも、各々
の得手にはきっと優秀な手腕を発揮してくれよう?』
『……。私は構いませんが、そうなるとアカネ姉様の世継ぎはどうしますか』
『うむ……。まだ構想の段階だが、見合いを何度か設けて婿を決めておこうと思っている。
勿論、アカネ自身に好きな男ができればまた話も変わってこようがの』
 父がつらつらっとそんな“三頭政治”な構想を答え、一方でリオはその意向に従う意思を
示していた。
 再び諸侯らがざわつく。今度は……間違いなく淀んだ喜々を交わらせて。
 つまり妹の婿を決める段階での権力ゲーム、そこで子息を婿にする(けっていだをうつ)
ことができれば、今後の権力基盤は磐石なものとなるであろうと、各々が算段を巡らせてい
たのだった。
 母が(現在の国家元首であるにも拘わらず)この席で反対表明をしなかった理由はここに
あった訳だ。
 娘がより良家の子息と結ばれるなら本望(こうつごう)ですわ──。大方、そんな判断が
あったのだろう。……或いは、単に勉強に勤しみ風流を疎む自分より、愛嬌があり自分に懐
いてくれる妹の方が可愛かっただけなのか。
『よいな、皆の者?』
 それぞれの諸侯の思惑を乗せて。自分達姉弟の思いを遠巻きにして。父は再度念を押すよ
うに皆を見渡して言った。ざわめきは静まり、今度こそ「御意」の大合唱が王の間にこだま
する。父は安堵と苦笑を混じらせて頷き、母は「よきに計らえや」と言わんばかりに悠々と
微笑んでいる。
 ……だが、結論から言おう。
 元を辿れば、この日が権力争い(いすとりゲーム)の始まりだったのだ。

 その水面下の駆け引きは、数年後、両親が病で逝ってしまった直後から少しずつ露わに、
激しくなっていった。
 一方は両親──先皇の遺志を護り、迎えた婿(シュウエイ)とアカネの新国王夫妻を支え
るべきだと主張し、ひいてはその下での“甘い汁”を目論む者。
 もう一方は私、長子アズサこそ正統で有能な血脈だとし、王位譲渡を主張する勢力。
 当時私もこの争いに終止符を打つべく動いていたこともあったが、間違いなくこの頃から
既に国内は私と妹、両派閥に割れていたであろうと思う。
 そしてそんな世の動きは、リオが突然皇族の身分(爵位)を統務院へと返上申請し、受理
された──王宮から出て行ってしまったことでより鮮明になった。
 後々耳にしていった話なのだが、弟(リオ)は辟易していたのだそうだ。
 姉らのどちらが皇になるのか、そんな瑣末なことで国が争いの中に陥る。しかし武人とし
ての日々を過ごしてきた自分には、武芸はあっても政治的な力はなく、絶望したのだと。
 まさか、二十年先にああなるとは予想外だったが、少なくとも当時の私にはまだポジティ
ブな材料だったと言える。
 当時から弟の剣技は相当のものだった。
 万が一私達が蜂起したあの時、彼がアカネ側に残り付いていたとしたら……受けた損害は
十中八九、両手足の指で数えても収まり切らなかった筈だ。
『──……』
 時勢、戦況があの日私に味方した。正義は、私にあると信じることができた。
 最期まで姉の名を呼ぼうとして息絶えた妹を見下ろしながら、私は硝煙の上ってゆく拳銃
を片手に、暫くこの死しても寄り添って倒れる国王(いや、もう前国王か)夫妻を眺めた。
『……ッ』
 不意に胸の奥が不快でざわめき、足蹴りでシュウエイを妹から引き離していた。
 感情的だなとは思った。だが多分今までもずっと思っていたのだろう。
 愚妹とはいえ、ただ由緒ある家柄というだけでその傍に立つことを許された優男。
 正直私には、まるで半身を寝取られたかのような、気味悪い感覚が拭えなかったのだ。
『私は、貴女達を越えてゆくの。……邪魔しないで』
 炎が、紅く紅く燃え盛っていた。
 やがてこの因習がこびり付いた王宮は焼け落ちるだろう。となると、やはり最初にすべき
工事は一時的な仮屋としても執務スペースの再建からだろうか。
 蜂起の同志らが口々に勝鬨を上げている。
 しかし私はさっさと踵を翻し、早々に後始末して撤収するよう面々に命じた。
 安堵するには、まだまだ早過ぎる。
 私達の改革(たたかい)は、此処から始まったばかりなのだから──。

「────ッ!?」
 酷く乱暴に意識を揺さぶられるかのように、高速で遠ざかってゆく記憶の頁を前にして、
ハッと目を覚ましたアズサは力んだそのままに目を見開いていた。
 一体何が……?
 嗚呼、そうだ。確かあの直後、振り向いたジーヴァにいきなり斬り捨てられて……。
 だがそんな数拍の記憶の再生も、すぐに身体の内外を掻き回す熱さと断続的な剣戟の音が
遮ってくる。
「こんっ……のぉッ!!」
 すると声が聞こえてきた。間違いない、レノヴィンの声だ。
 その時ジークは、先んじて段上を駆け上がり玉座の横を通り過ぎると、開かれた隠し祭壇
へ突入しようとしていた。
 だがそんな追い縋る抵抗も、その入り口付近で剣を片手に下げて佇んでいたジーヴァ──
いや、その背後寸前で新たに出現した傀儡兵の一個中隊によって、無慈悲にも払い除けられ
るかの如き対応を受けてしまう。
 しかし、そんな必死に二刀を振るいこの妨害者を突破しようとするジークの姿を、アズサ
は目にすることができないでいた。
「ぐっ……、がッ!?」
 理由は実にシンプル──動けなかったのだ。
 目を覚ました時の体勢は、床にどうっと背中を預けた仰向け。
 その状態で、アズサはまるでその場に磔にされたかのように身を、腕一つを満足に動かす
ことができないでいたのだ。
 いや……まるで、ではない。
 恐る恐ると、視線だけを横に向けてみる。
 するとどうだろう。次の瞬間、アズサの目には確かに実際物理的に自分の両手足・両肩を
磔にして突き立てられている刀剣──護皇六華が映ったのである。
 そして自分の真下、床に描かれているのは……自分の血で描かれたらしい魔法陣か。
 加えて実際に目にして意識に上ったからか、やや遅れて身体中で悲鳴を上げたのは我が身
を刺し抜く熱を帯びた激痛。
 アズサは思わず口から血を吐き、くぐもりながらも悲痛な叫びを天井へと放っていた。
「姉者!」
 その叫びに逸早く応えたのは、玉座の中段にいたリオだった。
 彼は最初の立ち位置をフェニリアと入れ替え、その近距離へ迫り、剣状の炎を握る彼女と
鍔迫り合いを繰り広げていた。更にそんな二人の足元には、何処かが大きく崩れ落ちた跡ら
しい無数の瓦礫が転がっている。
「姉者、早くそこから逃げてくれッ! 早く……ッ、姉様!!」
(……!? リ、オ……?)
 この妖火の魔導師を食い止めなければ。だがそれ以上に姉(じぶん)を呼ぶ弟の叫び。
 アズサは喉に絡まる血で言葉にすることこそできなかったが、不意に彼が必死さの中で発
したその呼び名に、思わずはたと胸を打たれる思いがした。
 姉様。自分にも妹(アカネ)にも、分け隔てなく親愛を注ぎ笑ってくれたあの頃の──。
「お篤い所悪いのだがねェ? そろそろ、準備は整ったのだよォ」
 だが、不意に近くまで戻ってきたように感じられたかつての日々は、他ならぬ“結社”ら
の手によって妨げられた。
 アズサのすぐ傍で、ヒッヒッと小気味悪い引き笑いがする。
 そして直後、彼女の顔を覗き込むように身を乗り出してきたのは、褪せた金髪を撫で付け
た白衣眼鏡の痩せ男──使徒の一人“博士”ルギス。
 その左腕にはガントレット型の端末が装備されており、今も何やら複雑な計算を走らせて
いる。加えて右の掌の中で転がされていたものに、アズサは少なからず目を見開いた。
 指輪だ。王冠代わりの皇の指輪。
 妹から王位をもぎ取ったあの蜂起の際、その指から抜き取った代物……。
「予想していた以上に封印(ロック)は厳重だったがねェ。しかァし! 私の手の掛かれば
この通りッ」
 そして彼ののたまう通り、その指輪には平素とは違った変化が起きていた。
 周りに浮かび上がり、環を形成する何やらルーンを纏った紫色の光。
 この男も(状況からして間違いなくジーヴァの仲間なのだろうが)この指輪も、語りこそ
しなかったが、アズサには自然とそれが“開封済み”な状態あると知れた。
『──がぁっ!』
「ッ!? アルス、母さん、皆!」
 そんな兆しを見せ付けられたのと、王の間中空に浮かぶ映像(ビジョン)の中から重なる
悲鳴が響いてきたのは、ほぼ時を同じくした頃だった。
 映像──空間結界の中。
 一度はアルスを中心に一斉に反転攻勢に出た共同軍らだったが、その結集した力ですらも
使徒らには及ばす、今や逆に、状況は本気を出した彼らの反撃により壊滅の三歩手前。
 強力無比なそれら威力ズタボロにされ、多数の血みどろの犠牲者を踏みのけて、禍々しい
姿を纏う三人は共同軍の崩された残り一層の陣形へと迫ろうとしている。
 アルスやセドらが、残った兵力が何とか寄り集まってシノを護ろうと苦痛を抱えながらも
息を荒げている。
 ジークは目の前の傀儡兵(じゃまもの)達を二刀で薙ぎ倒しつつも、思わず肩越しに振り
返り叫んでいた。そしてその隙を彼らに狙われ、また一進一退が再開される。
 リオもまた、深く眉間に皺を寄せて姪(シノ)の名を呟いていたが、こちらも同じくフェ
ニリアとの鍔迫り合いに終わりが見えず、黒刃と炎剣が激しく火花を散らし続けている。
「……邪魔立てをするな。“久しぶりの再会”でもあるのに」
 ジークを遮る傀儡兵らの向こうで、ジーヴァが背を向けたままぽつりと呟いていた。
 手には鈍色の長剣。半ば無意識に彼が握り直したその力の込め方に、刀身はギラリと光を
反射して応えるかのようだ。
「ルギス、始めろ。こちらは準備できている」
「うむ。了解したのだァね」
 そして彼に促され、向かい合うルギスが指輪を掴んだ手をアズサの頭上の伸ばし、何やら
魔導の詠唱を開始する。
 どす黒く輝きを放ち始めたのは、そんな彼女を囲む血で描かれた魔法陣。
 リオが何事かを叫んでいる。
 だがもう、すぐ真下で巨大な力が湧き上がり出したアズサにはその声は届くことがなく。
「さぁ。儀式を始めよウ」
 ルギスの手からパッと指輪が離れた。
 重力に従い、その開封された代物(かぎ)は真っ直ぐにアズサの胸元に落ち、
「──ガァッ……!?」
 瞬間、魔法陣とアズサの全身が、より強く禍々しい赤黒の奔流に包まれた。


 赤黒い光はアズサをすっぽりと覆い包むと速やかに肥大を続け、やがて弾けて周囲に土埃
を伴う衝撃波を撒き散らした。
 そんな強い風圧をまともに受け、倒され残っていた傀儡兵らと共に、ジークはまとめて弾
き出されるが如く乱暴に後方へと吹き飛ばされる。
 玉座中段のリオも「遅かった……」と言わんばかりに奥歯を噛み締めており、肩越しにこ
の祭壇のさまを見遣ったフェニリアの口元の弧とは対照さを示す。
「ぬ、痛(い)っつぅ……」
 強かに玉座の段から転げ落ち、ジークは頭を抱えながらむくりと身体を起こした。
「ジーク、大丈夫か」
「ああ……。な、何ともねぇよ」
 だがそれよりも。
 ジークは声を掛けてくる側方のリオに生返事を寄越すも、その警戒の視線は既に前方奥の
祭壇へと向いていた。
「……ァ、ァア……」
 そこには、ひとりでに──いや、明らかに暗い魔導の力が作用し、中空に浮かぶ護皇六華
とその六振りに包囲されるように血塗れのアズサが在る。
 だがそんな彼女の意識は飛びかけ、口からは赤い筋を垂らしながら白目を剥いている。

『──お前は考えたことがあるか? “六華が六本でなければならなかった”その理由を』
 ジークは寒気を感じながら思い出してた。
 確かに路を拓こうとしていたあの時、リオは自分にそんな問いを投げ掛けてきた。
『理由って……。そりゃあ魔導具は基本、一個につき術一つなんだろ? 色々揃えようと思
えば、本数を増やすしかないんじゃ……?』
『それは技術的な面だろう。俺が言っているのはもっと根本的なことだ。何故六華はこの国
で、そして何故わざわざ六本一組の王器でなければならなかったのか』
『謂れまでは知らねぇよ……。さっきも言ったろ? 俺があれの正体を知ったのはごく最近
のことだって』
 思えば、あれは元より自分に答えさせる意図ではなかったのだろう。
 実際、自分が怪訝な横目を投げると、彼は一度小さく頷いて語り始めたのだから。
『だろうな。俺すらも、昔父上や将軍達から聞いた話やあちこちの文献を漁ってようやく確
かめたことだったからな』
『……。つまり、何が言いたいんだよ?』
『結論から言おう。六華は“表”の王器に過ぎなかったんだ。そして結社(れんちゅう)の
狙いも、その隠された“裏”側にこそあった──』
 皇族の身分を棄て放浪の旅の中にあっても、叔父は故郷までは見捨てられなかった。
 そしてやがて耳にした、姉(アズサ)に忍び寄る影(けっしゃ)。
 彼は慌てて舞い戻るよりも先ず、その目的を知ろうとした。
 奴らの狙いさえ分かればいい。故郷をこれ以上権謀で荒らされなければいい。
 当時はまだそれだけを思っていたらしい。
『“告紫斬華(こくしざんげ)”──かの剣豪皇“剣帝シキ”が大戦の折、愛刀として振る
っていた聖浄器の一つだ。六華は、この斬華を封じ込める為の媒体も果たしていたんだ』
『封じる? 何でまた……? 確かにセージョーキってのは貴重な代物らしいが……』
『……聖浄器は特異な魔導具だ。それ自体が意思を持ち、使い手と共に魔性を狩る。その為
ならば、ヒトの倫理すらも時に超越してみせる』
 だが独自に調査を続ける中で、そのある意味での楽観視は打ち砕かれてしまった。
 シキ・スメラギ──先祖の振るった大刀、告紫斬華。
『剣帝シキは常に戦の中に愉悦を求めた戦闘狂だった。故に、彼が選び授けられた聖浄器も
また狂気を強く宿していた』
 その折、実際に確かめた訳ではない。
 だが大戦の後、斬華はその力を危険視され厳重に封じられたのだという。
 何せその対象が聖浄器なのだ。その力を押さえ込むには、同じく聖浄器が──それも六本
もの数を必要とした。それが表の王器・護皇六華の誕生だったのである。
『……ジーク。斬華を解放してはならない。あれは狂気の剣だ。解き放つことにすら生贄を
要求するほどに、血に飢えている妖刀なのだから』
『生贄って……まさか』
『ああ……。だから俺が何とか路を拓く。お前だけでも先に行け。何としても止めるんだ。
姉者を、何としてでも助けるんだ……!』
 彼が渾身の飛ぶ斬撃を放ち、フェニリアの頭上を穿ったのはそのすぐ後のことだった。
 てっきり狙いを外したかと思った彼女の、その落ちてくる瓦礫を焼き除ける隙を突いて、
剣聖はだんと地面を蹴り肉薄していったのである。
 こいつは俺が押さえ込む。早く姉者を!
 その叫びに、ジークは玉座の段を駆け上った。まるで火に油を注がれたような焦りが胸の
奥を焼く。
 何て事だ。つまり奴らの狙いは六華ではなく……。

「──アズサ皇(おばさん)は、端っからてめぇらの犠牲になる予定だった……!」
 もそっと立ち上がり、ジークは二刀を握り締めて呟いていた。
 だがジーヴァは、ルギスは、そして白目を剥いたアズサはその声には応えない。
 代わりに彼女の眼前で起こった変化は、濃い紫色。
 魔法陣の中央へ、六華からマナが逆流してゆき、やがて一振りの大刀を出現させる。
 間違いようもなかった。
 濃紫の刀身を持った聖浄器、退魔と狂気の一振り・告紫斬華。
 そして斬華は、まるで待ち侘びていたかのように重低音の唸りを響かせると、自身から漏
れる粘糸のような大量マナを、眼前の贄(アズサ)に纏わり付かせてゆく。
「ォ……、オァァァァァーッ!!」
 叫び。いや咆哮。
 無理やり引き寄せられるように、斬華を握らされたアズサが、吼えた。
 もうその眼には当人たる正気は無い。
 替わって光る双眸の色は金色。その身は今まさに、斬華に乗っ取られたことを示す。
「……そうだが? 元より贄(にえ)だ。封印を解くにはシキの血筋が必要だったからな」
 そんなアズサを眺めてから、ジーヴァは肩越しに振り向くと「それがどうした?」と肯定
の言葉を紡いでいた。
 ようやく。いや、彼女の命やこの国の人々の苦しみを何だと……。
 ジークは今にも彼へ飛び掛りそうな程に、自分の中で怒りの炎が燃え上がるのを感じた。
 本当に“結社(こいつら)”は、目的の為ならどんな犠牲も厭わない──。
「別にこの国自体はどうでも良い。私はずっと、ただ“彼”との再戦を望んできた」
 再び視線を祭壇、アズサと斬華へとジーヴァは戻す。
 気のせいだったのだろうか。
 ジークにはその時、彼のその横顔がまるで救いを得かけているかのような……。
「……。それだけだ」
 しかしそんな疑問は今、瑣末だった。
 鈍色の剣を持ち上げ水平上段に、彼はたっぷりの間合いを置いて斬華(くるったアズサ)
と対峙する。
 それを見てフェニリアは炎の渦と共に空間転移し、彼の傍へ。空間結界の中にいたフェイ
アンら三人や柱に背を預けたままのリュウゼンも、それぞれに不敵な笑みを浮かべて視線を
向けてきている。
「イッツア・ショータイム、だろうかネェ? 出番だ。来い、戦鬼(ヴェルセーク)!!」
 更に祭壇側にいたルギスも電流らしきものを伴った空間転移でフェニリアの横に移動し、
ひっひっと引き攣った笑いで肩を震わせると、そう叫んでパチンと指を鳴らす。
「──……!」
 するとジーヴァの隣、その床に魔法陣が展開し、そこからどす黒い鎧騎士の巨躯がせり上
がってくる。
 思わずジークは目を更に丸くした。
 まだ連中にこんな仲間がいたのか……。最初はそんな印象で。
「ォ……」
 そうしていると、この鎧騎士──ヴェルセークはふとフルフェイスの顔を上げ、じっと前
方を見ていた。当然ながら、そこに居るのは斬華を握らされたアズサ皇の姿。
「ヴ、オォォォォォーッ!!」
 またしてもの、咆哮だった。この黒い騎士もまた狂気の徒であるとみえる。
 するとルギスは、まるでこの反応を予見していたかのように笑い、左腕のガントレットが
映し出す端末画面とそこに走ってゆく無数の数値の流れに目を遣り始める。
「さて。回収(しあげ)だ」
 自分とヴェルセークを先頭に、ジーヴァはそう静かに言った。
 共同軍対“結社”ではなく、これは“結社”対斬華ではないのか?
 端っから敵(ひょうてき)ではない。そう背中で語られているかのようで、ジークは後ろ
から駆け寄ってくるリオの気配を感じながら悔しさを思う。
「……一体、何がどうなってやがる……」
 だがそんなジークの苛立ちと焦りも、また歯牙に掛けられることはなく。
 凶宴(うたげ)は、今まさに最悪の頂(クライマックス)を迎えた。

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  1. 2012/05/30(水) 21:00:00|
  2. ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

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