日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「硝子の檻」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:ガラス、鍵、自動販売機】
本文は追記部分からどうぞ↓


 意識が戻った青年の視界に映ったのは、酷く浮世離れした光景だった。
 辺り一面の無色透明、ないしくすみ一つない白。
 どちらにしろ、この場所に温もりの類は感じられない。
 ただしんと無機質な白色めいた床が広がり、自分の倒れていた場所だけがぽつんと心許な
い照明を当てられている。──ざっと見渡す限り、青年を囲んでいた状況だった。
『お目覚めかね?』
 すると、何処からともなく声が聞こえた。
 やけに横柄な、芝居がかった野太い声だった。
 青年が文字通り“上”からの声に顔を上げた次の瞬間、バンッと一挙に周囲が光り明るく
なる──照明が点される。
 そこは、まるで檻だった。
 青年のへたり込んでいる場所は、同心円状に広がる床の中央。
 そしてその周り360度を、ぐるりと分厚いガラスの壁が覆っている。
「な、何? ここ何処……?」
「痛ぅ……。こいつあ、硝子? 俺達、閉じ込められてるのか……?」
「ちょっと何のつもりよ! 早くここから出しなさいよッ!」
 青年が目を見張る。
 その外側には、他にも老若男女様々な人達が硝子の壁を隔てて閉じ込められているのが分
かったからだ。
 何故? そんな当然な疑問やパニックによる悲鳴、諸々の彼らの感情がまるで照明が点け
られたのと期を同じくして爆発し始めている。
『ははは。落ち着きたまえ、諸君』
 再び声が聞こえた。
 青年ら硝子の中の面々が遥か上方を見上げてみると、そこにはガラス越しにこちらを見下
ろしている小太りの男がいた。
 遠目故はっきりとは確認できないが、向こう側はかなり豪勢な部屋になっているらしい。
 葉巻を加えつつ、左右に屈強なボディガードを従えてソファに腰掛けたままの格好。
 男は、警戒心を露わにする面々を舐め回すように見下ろすと、喉の奥で引き攣るような笑
い声を漏らすと言い放ってきた。
『先ずは今宵の遊戯(ゲェム)への参加おめでとう。これから君達には、存分に我々を愉し
ませる役割を演じて貰おう』
「ゲーム、だって?」
「何ふざけてんのよ。さっさと出しなさいよこのデブ!」
 勿論、青年達がそんなことを急に言われて納得する訳がない。
 遊戯(ゲェム)と彼は言った。
 するとこの見も知らぬ男の享楽の為に、自分達は無理やり連れて来られた──記憶の限り
では出先で拉致されたのか。そんな理不尽に憤る彼らの表情がありありと見える。
『君達に拒否権があると思うのかね? 既に遊戯(ゲェム)のお膳立ては整っている』
 オーナーを名乗る男は変わらず下品な、喉の奥を引き攣らせるような笑い声を漏らした。
 十中八九、閉じ込められた者達の抗うさますらも愉しんでいる。
 彼はにたりと笑い、ピッと閉じた高級扇子の先で一人の青年──先程の中央部分にいる彼
を指差して見せると話を続けた。
『ルールを説明しよう。そのフィールドの真ん中の者がプレイヤーだ。そうだ、君だ。さて
君の後ろに装置があるのが見えるだろう?』
 指定され促され、青年は背後を振り返った。
 するとそこには自動販売機を思わせる縦長の筐体が一台、見下ろすように鎮座している。
 そしてその傍には、籠に入ったコインの山。
 恐る恐る近づいて検め出す青年に、オーナーは言う。
『そこに300コインある。君にはこれから、一枚ずつその装置に投入し“鍵”を手に入れ
て貰うことになる』
 確かに、見てみれば筐体にはコインの投入口、取出口、そして選択ボタンがあった。
 目を凝らす。確かに自動販売機よろしく、収められている商品(?)は全て鍵だった。
 しかも外見は全く同じにしか見えない、無駄に数ばかりが多い鍵だったのだ。
『……そう簡単に“正解”を引き当てられるかと思ったかね? ご覧の通り、鍵は全て見た
目はそっくりに作ってある。だが君の周りにいる彼らをそちら側へ出してやるには、これら
鍵の“正解”を見つけ出さねばならない』
 青年はバラリとコインを籠の中に戻し、改めて周りの、自分と同じくここへ連行されたと
思われる人々を見た。
 不安げに眉をハの字にしているあどけない少女から、注意深く周囲を観察し続けている中
年男性、或いは既に苛立ちが頂点に達している負けん気の強そうな女性まで。
 ざっと見渡す限り──彼自分を含めて十三人。
『では、改めて整理しよう』
 オーナーはにんまりと、ソファの上に仰け反ると言った。
『この遊戯(ゲェム)で君がすべきことは装置から鍵を手に入れ、君以外のメンバーの錠を
解除することだ。鍵穴はそれぞれの足元にある。見えるな?』
「……あ。あった」
「でも。くっ……! 穴自体は向こう側か……」
「何よぉ! 私が何したってのよ!!」
 周りの面々が殆ど一斉に自身の囲われている硝子の檻、その青年のいる中央に向いた部分
の下を確かめていた。
 見てみると確かにそこには鍵穴らしき立方体の金属が付けられている。
 だが中年男性が呟くように、鍵穴自体は全て青年側に向いており、この遊戯(ゲェム)の
ルールの上で彼が正解の鍵を手に入れ開けてくれるのを待つしかないらしい。
「ちょ、ちょっと待てよ。僕は、僕はどうなるんだ? 出口は何処に……?」
『そう焦るな。彼らを助け出すことは、ひいては君自身を助けることになるのだよ。彼らの
スペースにそれぞれ小箱がある。開けてみたまえ』
 彼らの焦りと青年の問い。
 それでもオーナーは不敵に笑い、次にそう指示をした。
 再び周囲の面々が振り向いてみると、今度は鍵穴と逆方向の隅に、プラスチック製の小箱
が置かれているのが見えた。既に気付いていたらしい中年男性を筆頭に、面々はそっとその
箱を手に取る。
 こちらに鍵はかかっていなかった。
 代わりに中から出てきたのは、金色をした、これも見た目がそっくりな“鍵”で。
『その鍵のどれか一つが、君にとっての脱出口──装置の裏手にある扉を開けるための鍵と
なっている。この遊戯(ゲェム)の目的は、君が脱出できるかどうかが先ず一点なのだよ』
「……先ずって、どういう」
 青年は不信の眼をいっぱいに向けながらも、オーナーの語るこの茶番の意味を図りかねて
いるように見えた。
 当然だろう。今までの説明の通りなら、これは究極“単純作業”だ。
 三百分の一の確率で周囲の誰かを解放でき、更に自分(と助け出した者達と)が脱出でき
る確率はそこから十二分の一。
 全てのパターンを網羅さえすれば、数さえこなせれば、いずれ脱出の鍵は手に入る。
『言っただろう? これは遊戯(ゲェム)だと』
 その瞬間だった。
 パチンと頭上ガラス越しのオーナーが指を鳴らしみせると、グゴゴッと彼ら十三人のいる
スペースの天井が揃って下がりかけたのである。
 悲鳴が、上がった。怒号が重なった。
 頭の回転が速ければこれで分かっただろう。
 彼(オーナー)は、そんな総当たりの余裕など与える気は毛頭ないのだと。
『今のはちょっと動かしてみただけだ。だが遊戯(ゲェム)が始まれば、時間の経過と共に
天井は少しずつ下がってゆき、やがては彼らを押し潰すだろう』
 オーナーは再び笑っていた。
 にぃっと無駄に白い歯を見せ、引き攣った表情の青年達の有り様をこれぞ愉悦だと言わん
ばかりに舐め回し眺めている。
『私も含め、今宵は多くの客(ゲスト)達が君達の奮闘を心待ちにしている。君が脱出する
のが先か、それとも失敗し全滅するのが先か? 脱出できたとして、君は一体何人の同胞を
切り捨てることができるか? それらを仔細に賭ける(ベッドする)のだよ!』
 更に、高らかに笑った。
 遊戯(ゲェム)。それは彼の酔狂が用意させた、人命を弄ぶ闇の賭博。
「この野郎……狂ってやがる……!」
「馬鹿じゃないの!? そんな事、許されると思って──」
『さて! 前座はここまでだ。ゲストの皆さんも既にベッドを済ませておられる。さぁ選ば
れし者達よ、我々に命のやり取りを見せてくれ!』
 十三人は叫んでいた。
 だが無情にもオーナーは遮るようにそう宣言する。
 同時に、先程と同じくガコンッと音を立ててからゆっくりと天井が下がり始めた。
「くっ!?」
「嫌よぉ! 私こんな所で死ぬなんて嫌ぁ……ッ!」
「おい、急げ! こんなこと馬鹿馬鹿しいが、このままじゃあ皆挽肉にされちまう。早い所
鍵を見つけてくれ!」
「わ、分かりました……」
 死が物理的に目に見えて迫ってくる。
 狼狽する者、恐怖でその場に崩れ落ちる者。
 そんな中で青年は、分厚い硝子越しに男性からせがまれ、慌てて籠の中のコインに手を伸
ばし始めていた。

 岡目八目。結論から言えば、この時点で彼らの命運はある程度決まってしまっていたと考
えていいように思う。
 要は冷静な判断をどれだけ下せるかということ。この一点に尽きる。
 脱出する為には、鍵を二段階式に探し当てなければならない。
 その“作業”だけならばそれこそ総当たり、虱潰しに事にあたればいずれ行き着く。
「ちょっと、何もたもたしてんのよ! 早く開けなさいよ! 早く、早くッ!」
 だが状況はそれぞれの生命の危機が掛かっている。
 故に、多かれ少なかれこの悪趣味なゲームに巻き込まれた十三人は各々保身という思いに
駆られることになる。
 硝子の檻では、大役を担わされた青年に方々から我先にと急かす声が叫ばれていた。
 これもまた、冷静さを失わされる要因だったのだろう。
 映像から見る限り、この青年はあまり気の強い性格ではなさそうだった。
 だからこそ……彼は自身意図せず、より大きな声を張り上げる者──ゲーム開始以前から
ぎゃあぎゃあと喚いていた女性の檻を開錠する事に、多くの労力を費やされる格好となる。
「ちょ!? 何? また天井が──」
 それが、この状況では面々に大きな悪影響を落とした。
 彼女を閉じ込める鍵穴に挿し込まれては“ハズレ”と分かる、その繰り返し。そして装置
から選び取り出してきた鍵のストックが切れると、青年は再び装置の方へ向かおうとする。
『ああ……。そういえば言い忘れていた事があったなあ』
 明らかに恣意的。
 青年達の見上げる先──いや、この喚く彼女の、明らかに他に比べて大きく下がっている
天井。このゲームの主催者であるブタ野郎は、そんな状況すら愉しみながら笑っている。
『鍵穴へ“ハズレ”の鍵を挿す度に、その対象者に落ちてくる天井の速さは、一段階ずつ上
がってゆくのだよ』
「なっ……!? このブタ、何そんな大事なこと今になっ」
 それが彼女の最後の言葉だった。
 叫ぶ声を強制的に断ち切るように、大重量がガコンッと再三の音を立てて彼女を血塗れの
肉塊に押し潰していた(こしらえていた)。
 何度となく自分だけにと青年に急かした結果、彼女は自ら死期を早めたのだ。
「あ……。うぅっ!」
「ッ!? お、おい。爺さん!」
 それが引き金だった。
 先ずその目の前で起きた硝子越しの鮮血模様に、すぐ隣のスペースに閉じ込められていた
老人が胸元を押さえて倒れこみ……そのまま二度と動かなくなった。強烈なショックによる
心臓発作、といった所か。
 そしてこの二名の犠牲が、更に残り十一人を混乱に突き落とす。
 ある者は死にたくないと一層に泣き叫び、ある者は目の前の惨状に言葉も出せない。
 またある者はその間も少しずつ落ちてくる天井を忌々しげに見上げ、当の鍵穴を挿し込み
続けた中央の青年は、その罪悪感から茫然自失の有り様。
(──……ったく、悪趣味にも程がある。何処まで人間ってのはひん曲がれるんだよ……)
 元より早い段階でと思っていたが、潮時だと俺の理性が告げていた。
 周囲では、あの硝子の檻を無数の角度から捉えたカメラ映像が舞台中央のディスプレイに
並列表示されている。これまでの悲鳴も全部、音声もしっかり拾われているご丁寧さで。
「……」
 どうしようもない胸糞悪さ。
 俺はもういいだろうと、小脇に抱えたショルダーバックを引っ掛けたままその場で踵を返
していた。
 薄暗い室内。点在している豪奢なテーブル。
 そこで酒を酌み交わしながらこの外道の娯楽(かけごと)を愉しんでいる“悪人”ども。
 皆一見すると礼服に身を包んでいるが、肝心の顔は仮装用の仮面で覆われているのだから
その性根は分かったものじゃない。少なくとも、こんな場にのうのうと出席しているという
だけで、その歪みっぷりは折り紙つきだろう。
 そっとこの狂気の場を、気配を殺して立ち去る。
 幸い誰にも怪しまれてはいないようだ。ホールの出口で同じく仮面をつけた係員にどうし
ましたかと呼び止められたが、一言「煙草を吸いたいんだ」と返しておいた。
 狂った愉悦の声達が遠くなる。
 俺はしんと薄暗く静まり返った廊下を急いだ。
 肩に引っ掛けたこの鞄──隠しカメラを忍ばせた鞄を、早い所外に持ち出さなくては。
 そして何よりも。
 俺は周りに誰もいない事を念入りに確認すると、胸元からインカムを取り出し、耳に付け
て指定の周波数で仲間達にサインを送った。
「──捜査本部各位。こちら長谷川。証拠映像・物証の確保を終了した。早急に突入を決行
されたし。急いでくれ、始まって早々に死人が出始めてる」
 無線の向こうで、ざわっとドタバタと物音が返ってきた。
 すぐに脱出し合流するようにとの指示が下された。
 言われなくとも分かっている。こんな悪趣味極まれりな所、今すぐにでも出たくて仕方な
かったのだ。潜入捜査(しごと)でもなけりゃ、二度と御免だと心底思っていた。

 できる事ならこの手ですぐにでも連中もゲームもぶち壊したかったが、そうもいかないと
いうのが大人の事情って奴で。正直、歯痒い限りではあった。
 それでも……こんな外道賭博もやっと、ようやく年貢の納め時が来たのだ。
 遠慮なんざ要らねぇ。一人残らずシメてやんな。
 大昔っから、檻(ぶたばこ)に放り込まれるのは“悪人”だけなんだと、そうであるべき
なんだと、相場が決まってるんだからよ──。
                                      (了)

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  1. 2012/05/02(水) 22:00:00|
  2. 週刊三題
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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