日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(書棚)感想:横溝正史『八つ墓村』

書名:八つ墓村
著者:横溝正史
出版:角川文庫(1971年)
分類:一般文藝/ホラー系ミステリー

きっと“狂気”は貴方のすぐ傍にある──。
知る人ぞ知る名作シリーズ第一弾。
再演される連続殺人に巻き込まれた青年の運命は……。


お久しぶりの読書感想ですね。
今回は少々古典?の名著を一冊読破してきました。
『金田一耕助』シリーズといえば、今の世代の方々も聞き覚えがあるかと思います。
(作品自体は出版項目の所にある通り、初版が昭和四六年。ですが横溝氏の小説はこれまで
何度も映像化されているので記憶に残っている方も多いのでは推測します。かくいう僕自身
も「犬神家の一族」「悪魔の手毬唄」などは実際に試聴した事のある身です。少々蛇足)

大まかな粗筋は、ざっと以下の通りです。
養父と母が亡くなって久しく天涯孤独に平凡なサラリーマン生活を送っていた辰弥。
しかしそんな彼の下に「実父の生家」を名乗る使いがやって来て、紆余曲折の末に彼を次な
る当主にしようと迎え入れようとします。
辰弥は自身の出生にも関わるこの話をなし崩し的に受け入れ、遠く片田舎に位置するその生
家のある村──“八つ墓村”に出向くことになるのですが、ちょうどその彼の出立に合わせ
るかのようにかつてかの村で起こった凄惨な殺人事件を髣髴とさせる連続殺人事件が始まっ
てしまい……あろう事か、その疑惑の矛先が自身に向けられるという状況に陥ってしまい、
辰弥は出るにも出れないこの“八つ墓村”の屋敷の中で悶々としながら、この狂気の事件に
向き合う格好となる──といったお話です。

全体の傾向としてはホラー色の強いミステリー小説といった所でしょうか。
しかし、ここで一筆書き加えておくべき事は、昨今のミステリ描写においてある意味鉄板で
ある『名探偵or名刑事の捜査の視点』では描かれていない、という点にあると思います。
基本的に全編を通して作中は主人公であり、事件に巻き込まれた中心人物である辰弥の視点
から語られています(態自体が、事件後の彼の回顧録という形で綴られていることもあり)
勿論、先述の通り探偵・金田一耕助も姿を見せることは見せるのですが、彼視点で物語が進
むという書き方はされていないのです(事実、彼が初登場するのは頁を捲って百を超えた頃
にようやっとなのですから……)
あくまで主人公──語り部は辰弥であり、のち名探偵として認識される金田一耕助すら、作
中ではこっそり警察の捜査に同行したり或いは辰弥の所へ世話話(という名の聞き込み)に
来たりといった、断片的な登場の仕方が大いに目立ちます。
故に、現在のミステリ描写にそこそこ慣れていた自分には、なるほど古いながら新しいなと
興味をそそられた訳です。
但し、作品自体が一昔前でありがっつりした大分量で(約五百頁)あるので、僕個人は読み
進めていく中で愉しめたハラハラしたとはいえ、昨今のライトな読者層にはキツイかもしれ
ませんね……。あと語彙の難しいものが散見されるので、辞書が傍にあると尚良しです。

ミステリー故に誰々が犯人だ!なんて無粋なネタバレはしませんが、この作品世界を通して
僕が思ったことは──個人という存在を形作るのは(経験も含めた)知識と何よりの良き倫
理なのだなぁと考えてしまったことです。
物語の主要な舞台となる八つ墓村は、遠い地方の小村であり、長く古き因習に囚われてきた
場所でもあります。
故に彼らの村人──勿論、辰弥の生家に出迎えた人々も含め──の持つ価値観は、しばしば
今日の我々の合理的・合目的性からはかけ離れている、ややもすれば己を狂気の沙汰に駆り
立ててしまうものであるかのように思えるのです。
村人達は、かつて一人の男の発狂によって多くの人命を失いました。
しかしその血筋である辰弥がやって来た事で、彼らの不安は徐々に膨れ上がってゆきます。
そしてそれは、他ならぬ彼らがかつて被り恐れた“狂気”ではなかったか。
実際、辰弥は物語終盤、この狂気が伝染したかのような彼ら村人達の猛攻によって絶体絶命
の危機に陥る事になります──が、その展開がどうなるかは実際に読んでみて下さい。

結論から大雑把に言うと、因縁自体は間接的でした。
しかし、それだけで彼らには充分過ぎたのです。

どれだけ知識を重ねようとも、そこに倫理が伴っていなければ狂気。
どれだけ倫理を抱えていても、そこに知ることが怠ればやはり狂気。
何処かで己の中の歯車がズレる──自分の中ただそれだけで完結してしまう事で、一体これ
ほどまでの狂おしい激情を人は秘めるものなのか。加えて実行できてしまうものなのか。
僕自身が田舎の生まれ──少なからず古びた因習や価値観の理不尽さ(別に街に行こうが何
処に行こうが人である以上付き纏うものとはいえ)を見聞き、経験しているが故に、どうに
もただのフィクションだけで笑って捨てる訳にはいかなく思えるのですよね。
せめて辰弥が最終的に「幸せ」を掴んでくれたことは、正直ホッとしたほどです。

横溝正史氏の名作ミステリー群の一冊。重厚なホラーミステリ。お勧めです。

<長月的評価>
文章:★★★★☆(大分量の物語。個人的には満足ですが、流石に人を選ぶか)
技巧:★★★☆☆(基本的に語り部視点なので、伏線が見え難いかなと←そりゃそうだろ)
物語:★★★★★(謎が謎を呼びやがて一気に収斂する様は実に面白い。……長いですが)

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  1. 2012/04/24(火) 17:30:00|
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Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

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