日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)白いメッセージ

【注】先日、物書きさん達との練習の場で自分が書いた三題噺です。
   <お題:花婿、猫、大雪>
   本文は追記部分からどうぞ↓


 表は深々と雪が降っている。
 こんな調子では明日はきっともっさりと辺り一面が白化粧になっていることだろう。
 私は居間の炬燵の中でぼうっとしながらゆっくりと、しかし気の塞ぐ夜を迎えていた。
(……まるで今の私みたい)
 部屋の照明が照らす外の白。それらが黙々と降り注ぎ体積を増すのを見て、私は自分自身
の現在とを重ね合わせた。
 ──先月、恋人が死んでしまった。
 無謀な若者による信号無視の犠牲になったのだ。
『う~ん……。何でって言われてもなぁ』
 温厚で知的で、ズボラな私には勿体無いくらい出来た人だった。
 付き合い始めた頃、同棲していた頃、私はよく疑心暗鬼になってそれとなく彼に訊ねてい
たのだが、決まって彼はのんびりとしつつも、
『やっぱり、桐乃を見てるとつい助けたくなっちゃうっていうか……。放っておけなくて』
 そう逆に私が真っ赤になってしまうほど純朴そうに、だけどきっと当の本人は嘘偽りなく
答えるばかりで。
 でも……だからって、プロポーズまでしてくるなんて思わなかった。
 嬉しくないと言えば嘘になる。だけど私はあまり素直に喜べなかった。
 だって、実家(うち)は寿司屋で。
 その癖子供は私と妹の二人、女だけ。
 父さんがステレオタイプな頑固親父なこともあって、余所の若い職人さんがお弟子さんに
なって働いていても、暫くすれば音を上げて辞めてしまうような、そんな状況で。
『はん! おめぇみたいななよなよした男に娘なんぞやれるか!』
 案の定、私が彼を連れて挨拶に帰ってくれば、父は反骨精神たっぷりにそう言ってのけた
ものだ。
 それでも、そこは彼の人柄だったのか、それとも何だかんだいって妻として長く父を上手
く丸め込んできた母の口車のおかげだったのか、結局私達の結婚は許されることになった。
 但し、条件としての婿養子。
 流石に今から某商社勤務のサラリーマンに寿司職人になれというのは無理な話で、後継者
については今後話し合いつつという形になったけれど、不思議と私はその点に関しては不安
はなかった。……そもそも、今の家業を続けなきゃいけないっていう意識が薄かっただけな
のかもしれないけど。
「……いきなりいなくなるな、馬鹿」
 なのに。あいつは逝ってしまった。
 婚約も勿論ご破算。代わりに彼の家族とやる羽目になったのは彼のお葬式。
 そのゴタゴタもようやく終わり、今こうして私は炬燵テーブルの上に突っ伏したまま、も
ういない彼に静かな悪態をついてみたりしている。
「んにゃぁ?」
「……ハァ、あんたは気楽よねぇ。ご主人様が死んだんだぞ?」
 そんな私の防寒着の懐に、もぞもぞと入ってじゃれてくるのが我が家のニャンコ。
 名前はモモ。雑種の雌猫で──ちなみに妹(桃子)と語感が似ている──彼が私と付き合
うより前から飼っていた子だ。今となっては忘れ形見にもなっている。
 私はぷくっとふくれっ面で突付いてみたが、モモは全然動じていない。
 むしろ構って貰ったと思ったのか余計にゴロゴロと喉を鳴らして擦り寄ってくる。
「変わり者だよねぇ、あんたも。ご主人様と一緒でさ……」
 この子のおかげで寂しさが紛れている面もあるが、同時にこの自分への人懐っこさは時折
彼を思い出させてしまう。
 私は流れっ放しのままのテレビのリモコンに手を伸ばすと、バンと手荒にオフにした。
 画面の向こうでは雛壇に座ったチャラ男・チャラ女どもが互いをバッシングし、客席から
その度に小汚い笑い声が重なっている。
 ……何でそんなに笑ってんだよ、こん畜生。
 自分が哂われているようで、苛々した。
 駄目だ。炬燵に潜り過ぎた。一度冷たいものでも飲んで落ち着こう……。
 そう思って、私がもそりと炬燵から出た、そんな時だった。
「にゃーご」
 モモがふと何かに気付いたように飛び出すと、ガリガリと一心不乱にベランダに続く窓を
掻き始めたのだ。
 私は最初眉根を上げこそしたが、すぐに冷蔵庫の前に立って中身を物色すると、小さめの
缶ビールを一本、ぷしゅりと開けて煽った。
 こういう時は酔いで忘れさせてしまえ。そんな気分。
 なのに──モモはまだガリガリとやっていた。
「……どうしたのよ? さっきから」
 あまりにしこつかったので、ようやく私はモモの傍へと歩いていった。
 缶ビールをテーブルの上に置いて、持ち上げる。
 それでもモモはジタバタともがいていた。……まるで何かがそこにあるかのように。
「もう。さっきから何な──」
 そこで、私は言葉が止まっていた。呼吸が、止められたような気がした。
『……』
 彼が、いた。
 雪の上から立ち上る冷気──いやまるで“霊気”に乗って、彼は居たのだ。
「幸……彦?」
 もやりと漠然とした霧のような中にいたけれど、彼は確かに私の眼に映っていたのだ。
 でも、彼は死んだ筈で。
 亡骸を火葬し、墓に埋葬する場面にもしっかり同席していた筈で。
 なのに……どうして今更?
 私は慌てて窓を開けた。でも、誰もそこにはいなかった。いる訳などないんだ。
「……」
 幻影を見たのか。馬鹿馬鹿しい。
 私は大きく息をついて落胆していた。そんな私を哂うように入り込んできた外気が身体を
刺してくる。
「馬鹿みたい」
 モモを抱えたまま、私は踵を返そうとした。だけど。
「もう、あいつは何処にも──」
 背を向けようとしながらふと落とした視線の先で、固まっていた。

 ──我慢しなくていいんだよ 僕はずっと、君を見守ってゆくから

「……ッ!?」
 真っ白に降り積もった雪の上。
 そこに書かれていたのは、間違いなく彼の筆跡。丸い丸い、柔らかい字体。
 がくりとその場に私はかがみ込んでいた。
 モモがそんな私の顔をぺろぺろと舐めてくる。
「あの、馬鹿……」
 こんな時まで臭い台詞吐くんじゃないっての……。
 
 ぎゅっと温かな感触を抱き締めて。
 私の視界は暫くの間、ずっと濡れて霞んでいた。
                                      (了)

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  1. 2012/03/13(火) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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