日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「冒超」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:兵士、風船、新しい】


 僕らは皆、ふわふわと浮かんでいる。足が着く地面も見当たりはせず、只々一面の仄暗さ
の中に漂っているのだと気付かされてきた。
『……』
 いや、実際気付いている者は一体どれだけいるのだろう? 只々漂っている──他の誰か
が当たり前にいるということすら、人によっては解っていないのかもしれない。茫洋とした
不安と見通せない現実が、それぞれの余力を奪い去って久しくても、何ら不思議な事ではな
いのだから。
(俺は……誰なんだ? どうして此処にいるんだ?)
(ねえ、お願い……。教えて? 誰か私の……手を取って!)
 判らないから、不安なんだ。
 視えないから、恐ろしいんだ。
 僕らは皆、叫んでいる。声になってもならなくても、今此処にいることを伝えたいから。
その意味を教えて欲しいから。
 ただ──中にはもっと苛烈な手段でもって、その目的を果たそうとする者もいる。その営
為に、自分達の価値を見出そうとする者達も少なくはない。良くも悪くも、届かないからこ
そ人はがむしゃらに抗うのだろう。……そうでなければ、あまりにも理不尽だ。
(何処に……?)
 手を伸ばす。その意識を可能な限り遠くへ。物質としての自身を越えてゆく。
 判らないからこそ、視えないからこそ、僕らはどこまでも大きくなれる。どこまでも逆説
的に膨れ上がってゆくことすらできる。
 己の存在の核、ちっぽけな塊。じっとしていては、いずれ仄暗さの中に消え去ってしまい
そうなそれを、崩れぬように押し留める。代わりにどんどん外側へと外側へと、己の意識、
感覚の大部分を移してゆく。
 ちょうど自分の周りを、大きな膜で覆ってゆくイメージだ。その中身はぼんやりと、濁り
がちな白で詰められていて、震える感触が辛うじて自身が此処にいると確認させてくれる。
ずっと遠くに、一番外側の膜が揺らめいている。
『──何だよ? お前?』
 嗚呼、でもそれがきっと、僕らの悲劇の始まりだったんだ。どうしようもない哀しみと、
時々幸運な接触の前提条件でもあって。
 僕らは判らなかった。自分以外の誰かが此処にいるなんて、確証を得られなかった。
 僕らは視えなかった。あまりに自分がちっぽけなものだから、届きすらせずにいて。
 だけど……一旦それが叶ってしまったらどうなるだろう? 自分以外の誰かに、只々この
一面の仄暗さと湿り気、冷たさに包まれていると知って、一体どれだけの者がその事実に安
堵したのだろう? 肯定的に捉えたのだろう?
『てめえこそ何モンだよ? 突っ掛かってくんじゃねえ』
 悲しいかな、僕らはそこまで利口じゃない。只々好意的に受け容れて、共に泳ぐことに不
安を持たない者は寧ろ、理想よりもずっと少数派だった。
『そりゃあこっちの台詞だ。何を勝手に、俺の傍まで近付いて来てやがる?』
『こっちに来ないで! 私に……それ以上近付かないで!』
 何故なら僕らは、それぞれに、大きな膜で覆われていたから。自分のちっぽけな核を存在
を、周りに膨らませたその意識の領域(テリトリ)で補っていたから。
 そこへ突然、全く知らなかった誰かが無遠慮に入って来たら……不快に思う。いや、或い
はイコール自分自身への攻撃だと見做す者が出ていても何らおかしくはない。
『邪魔なんだよ! 退け! 此処は俺のモンだ!』
『何でてめぇの言う通りになんか……! 退くんならそっちが退けよ!』
 事実、結果として彼らはお互いを攻撃し始めた。自らが安心して漂っていられる空間を守
る為にも、相手のそれは邪魔でしかなかったんだ。意識の視界にチラつき、浮かんでは膨ら
む“遊び”を遮る、他者の領域(テリトリ)。
 尖らせた切っ先で、彼らは突き立てる。僕らは剥き出しにしたその刃で、相手の外側──
膨らんでいた意識を割ってしまう。
 こうなれば最早「戦争」だ。どっちが先でどっちが後か? そんな過去の事実なんてもの
はどうでもよくて、只々自らの視界に映るこの邪魔者達を排除しなければ気が済まない。心
穏やかにこの場所で存在することは出来ない。
『いけぇぇぇーッ!! 奴らを許すな! 一人残らず叩き潰せ!』
 特にこの膨らんだ意識の拡がりが、個人だけのものではなくなっている場合、事態は更に
ややこしくなる。きっと始まりは、ちっぽけな誰か一人の核だった筈なのに、大人数で共有
するものだから執着は激しくなる。戦いは苛烈さを増す。中心となっている者がそうやって
一声を上げれば、たちまち同じ領域(テリトリ)の内に縋る者達が束となって襲い掛かるか
らだ。
(……嗚呼、また始まった)
 僕だけの話じゃあない。きっと貴方も、同じように漂いながら観ていることだろう。
 お互いにその大きく膨らんだ膜を破壊し合う。切っ先を突き立て、骨抜きにし、中身を引
き摺り出して萎ませるまで攻撃は止まない。いやまあ、骨ではなく大量の水分と言った方が
良いのだろうけど。
 視界に映ってきたのが悪い。自分達の膨らみを邪魔するのが悪い。
 理由なんて何時もシンプルだ。ただ気に入らないだけだ。自分達の営為とは全く関係のな
い、貢献すらしない他者(なにか)が存在することそれ自体が末恐ろしい。
 理屈なんて後付けだった。大抵の者にとって感情は理性を打ち負かす。理性が感情に克つ
のはあくまで極めて個人的な達成感であって、相対する他人にはまるで関係ない。そもそも
理解してくれるのなら、こんな惨事(こと)にはならない。
『迎え撃つぞ! 一歩でも退いたらそこから崩される!』
『ああ、もうっ! 飽きずに何度も何度も……!』
 ただ穏やかに漂っていたくても、それは中々難しいのだろう。言ったように、切っ先を向
けられるはこちら側には無い。彼らが勝手にこちらを知って見出すからだ。尤も当の本人達
は、死んでもその逆説的事実を認めはしないのだろうが……。
 パツン。ふわふわと漂い、膨らんできた誰かが、また何処か認識の一角で割れる。届けと
欲して伸ばしたそれが、皮肉にも自らの寿命を縮める結末を生みながら。
『──』
 何とも、救われない話じゃないか。僕らはこうやって、ぶつかっては消滅し、また一から
やり直さないといけないのか? 急速に、或いはじわじわと萎まされていった距離感である
ことすらもやがて忘れて、また新しく求め直す。ちっぽけな存在だと、物質未満の自分を独
り静かに抱えて痛感しながら。
(誰なんだ? どうして此処にいるんだ……?)
(お願い……。誰か、私の手を取って……)
 やはり仄暗くて見通せない場所で、もう何度目になるかも分からない工程を繰り返す。或
いは本当に、初めての経験という者もいるのかもしれないけど。
 ……いいや、些細なことだ。何時から始まって、何処を進んでいて、もしくは戻っている
のかなんて、重要ではないのだから。皆必死になってその核を──ちっぽけな自分という塊
を抱き締めて、遠くへ遠くへと感覚を拡げてゆく。ぶよぶよと不揃いな膜を作ってゆく。そ
うした過程でまた、他の誰かのそれとかち合う悲劇(かのうせい)に向かって。
『ちょっと貴方! 近付いて来ないでよ!』
『そこに居ちゃあ邪魔なんだよ! とっとと失せな!』
『……』
 何処に?
 また誰かが言った、お前が目障りだと。別の誰かも言った、自分に触ってくれるなと。
 もっと僕らが器用になれれば、いいんだろうか? もっと必要に応じて、スッと伸ばした
その意識の一部──膜を凹ませるなんて芸当が出来れば。それとも皆が皆して、膨れようと
するからいけないんだろうか? ちっぽけなまま、その物質未満な塊状になって縮こまって
いれば良いと?
(厭だなあ……)
 何処かで怒号が聞こえる。また誰かと誰か、膨れ上がった膜と膜の住民達が、互いのそれ
を割り始めたようだ。なだれ込むように、歪な人型の膜達が、幾つも遠く向こうの暗がりを
流れ去ってゆく。
 僕は迷った。僕らは迷った。
 膨れ上がって壊されるのなら、巧く何処かで止まってしまえれば。
                                      (了)

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  1. 2020/07/19(日) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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