日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「でも…」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:雨、諺、憂鬱】


『でもまあ、よく“雨降って地固まる”って云うじゃんか』
『う、うん……。そうなんだけど……』
 その日も、友人が必死に宥めようとしてくれていたのに、対する彼の声色は沈んだままで
した。面持ちも暗く、そこに“相手が取り繕ってくれている”という認識は在りません。或
いは自身を襲う不安や罪悪感で手一杯で、在ったとしても汲み取る余裕が無いのです。
『でも……』
 悲観主義者(ペシミスト)の類にとっては、寧ろ自分が幸いの中に在ることそのものが、
しばしば抑え難いストレスとなって襲い掛かります。ふとした切欠にそんな衝動に苛まれ、
されどある程度年季の入った者はそれが歪みだと知っている──いわゆる被害者面をするこ
とが間違っていると、経験的に判っているが故に、増々その思いは押し込めがちになってゆ
きます。
 ただ……度し難いかな、それでも一度鬱屈して溜まったエネルギーそのものを無かったこ
とには出来ません。爆弾だと、気取って言えば“闇”だとの自覚はありながらも、しばしば
己の中に抱え込みながら生きてゆくしかないのですから。
 ──とにかく前向きになれ。次へ進め。
 ──長い目で見れば、これも何かしらの糧になる。
 彼に相対する者達は大体の場合、そう慰めるように見えて、しばしば己の“説教”に酔っ
ていました。語り放つこととは、基本的に快感なのです。
 実際それは彼らの、彼を取り巻くセカイの一面を突く真理ではあったのでしょう。ただそ
れが必ずしも、全ての人間に当て嵌まるとは限らない。大なり小なり当て嵌まる──刺さる
部分はあるにせよ、その時期(タイミング)は同じく人によって違います。何より投げ掛け
られた相手自身、未だそうした境地にまで達していない可能性だって大きいのです。
(でも……)
 解らなくはない。解っている心算ではいる。
 しかしどうしても、彼は考えてしまうのでした。
 では君の云う其処へすら至れない自分は、やはり“レベルが低い”のだろうか……?

『だって、止まない雨はないんだから。そんなに気を落とさずに頑張って? ね?』
 結局不安を、弱みを曝け出した時点で、こちらは相手に見下されているとのだろうと彼は
考えてきました。どうしても歪み、拗れた己の認知で、目の前で披露されるそれに“素直”
になれずにいるのです。少なくとも体裁を──善いことを言っているであろう、言っている
筈のその言葉達が、階層(レイヤー)違いを起こしているかのように前から後ろへと流れて
ゆき、或いは手を伸ばしても掴み切れずにいます。
『……。はい』
 じゃあ、どんな言葉を返せばいいのだろう? 彼はいつも考えます。そして次の瞬間には
早々に後悔をし始めるのでした。
 訴えを紡いでしまった、自らの軽率さと、堪え性の無さ。経験則が知らせる、予想出来て
いた実際の応答に、結局内心聞く耳を持っていない自身への度し難さ。頑なさ。
 全てが巡り回って自分に返ってくるだけだと知っていたからです。なのに一時の衝動に負
けて、吐き出してしまった……。それは彼にとって、はたして悪性の類でした。推奨される
べきではない不徳でした。
 只々、聞いて欲しかっただけ? 同調して欲しかっただけ?
 自らの浅ましさに怒りさえ湧いてきます。その一方で、実際に紡ぎ返す言葉はか細く、相
手の“主張”に平身低頭してみせるしかない。暗にそれが求められている。多分、論じ返す
ことは可能なのだろうけど、少なくとも相手はそんなことを望んではいない。全員が全員で
はないのだろうけど、弱者の意見は“反抗”だから。慰めてくれてと頼んでおいて、その態
度は何だ──脳内で描く、文字と虚像のシミュレーションが、自分を今回もすんでの所で押
し留める。但し、己の中では大して解決はしていない……。
(今この瞬間の雨が、耐え切れないぐらい辛くて苦しいって言ってるんだよ……)
 本心は叫ばない。正直な話、卑怯だと思う。
 でも彼は今も尚、そのスタンスを変えられはしませんでした。いえ、変える気自体がそも
そも無いとでも言うべきなのでしょうか。
 黙っている。相談してきた癖に、全てを語らない。それじゃあ解らない。
 彼だって全く解っていない訳ではありませんでした。知らない筈はありませんでした。
 それでも敢えて、努めて耐え続けようと思ったのは──苦しんでいるのが自分だけではな
いと知っていたからです。せめて、そこまで傲慢に振る舞ってはならないと、己を罰し続け
てきたからです。不幸なのは何も、世界で自分一人だけじゃない──自らが主人公の器では
ないと、よくよく弁えていたからです。その心算だったからです。
『……ねえ? ちょっと、聞いてる……??』
 目の前でお節介を焼きながら、その実自分の満足の為に諭そうと試みる女性がこちらを覗
き込んでいます。聞き役から語り部に転職(ジョブチェンジ)し、いつの間にかその思いの
丈を改めてぶつけようとしてきます。彼が腰を入れて聞いていない、その現実に苛立ちが上
書きされ始める端緒でした。

『ああ、もう! さっきから聞いてりゃあ、でもとかだけどとかばっかり……。うだうだ言
ってんじゃねえ! 俺はお前のお袋でも何でもねえぞ? 手前の機嫌は手前で取りやがれっ
てんだ! ……馬鹿に、してやがる』
 いっそ、向こうからご破算にしてくれれば良いのかな? とさえ彼は考えます。しばしば
そんな後ろ向きの思考に囚われます。
 実際、これまでそうした──不用意な返答と食い下がりでもって、彼は少なからぬ関係を
失ってきました。二進も三進もいかぬと、彼の改めなさに皆嫌気が差して、距離を置いてし
まったのです。
『……すみません』
 嗚呼、またやってしまった。彼は落胆する一方、少し安堵すらしていました。何故ならこ
れで自分は、再び不幸になれるからです。幸運だと思われていた場所も、他人も何もかも、
最終的に“自身の思い違い”だったと片付けてしまえるからです。
 完璧な人などいない。近付けば近付くほど、化けの皮が剥がれる──内情が良く視える。
根底で疼く悲観主義者(ペシミスト)な大前提が、この時もう一度補強されるのですから。
『雨が降ろうが槍が降ろうが、やるんだよ! そうやって何かある度に凹んでたら、何処行
っても通じねえぞ? 腹括って立ち向かえ、それでも男か!?』
『……すみません』
 一応、間違ってはいない。この世の中で生きてゆくには、いずれにしろ何処かで腰を落ち
着ける必要がきっと出てくるのだから。初志貫徹、己が意志を貫くこと。人生は有限で、し
かし何もしなければ余ってしまうものだから、死ぬまでの暇潰しに自分なりの大仕事って奴
を見つけるのが最善手で。
 ただ……この時彼は、少なくともそれが此処ではないと思ったのでした。この人の傍では
ないと思い直したのでした。
 言わんとする所は解っていました。遅かれ早かれ露呈しても、先に苛立たせたのはこちら
側です。相手も譲らず、こちらも本心で譲る気持ちが起きないのなら──もう別れて進むの
が次善の策でした。少なくとも今は、それが彼にとっての限界でした。
『チッ、今度はその繰り返しかよ……。いいよ、出てけ! 俺の気が変わらない内に、俺の
視界から消え失せろ! もう二度と顔見せるんじゃねえぞ!?』
『……』
 機嫌を取れないのはどちらだ? しかし彼はもうそれ以上、反抗的な言葉は口にせず、す
っくと立ち上がると部屋を後にしました。
 ぺこりとお辞儀、ただ深々と一回。
 それだけを最後に向けて、槍のように刺さる痛みを抱えて、彼は心の中で後悔します。或
いは怒りに苛まれている自分を自覚しつつも、一方でそんな衝動をどうしようもなく持て余
しながら悪手(ちんもく)を守るのです。
                                      (了)

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  1. 2020/07/02(木) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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