日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「足蹴する僕」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:前世、告白、廃人】


「はあっ、はあっ、はあっ……。や、やっと会えたわね」
 駅へ向かう途中で、悟史は突如そうこちに向かって語り掛けてくる女性に出くわした。高
校生の自分より一回りは年上であろう、妙に幸薄そうな女性(ひと)だった。
 顔を赤らめ、息を切らして。
 彼女はこちらへ一歩また一歩と、ゆっくり近付こうとして来る。
「だ……誰だよ、あんた?」
 しかし当の悟史は、この人物の事など全く知らない。
 最初の数秒こそこちら側のミス──向こうが憶えてくれているのに忘れてしまったのか?
と、必死に記憶の引き出しを漁りまくったのだが、やはり覚えがない。少なくとも初対面の
相手のようだった。
 フッと。そうして思わず衝いて出された彼の言葉に、彼女は何処か心優しくも哀しそうな
表情(かお)を浮かべている。
「……嗚呼、ごめんなさい。今の貴方が解る筈ないんだもんね」
「?? はあ……」
 実際、悟史はこの僅かなやり取りから、彼女のことを“前世の恋人を名乗るヤベー奴”程
度にしか認識していなかった。有り体に言うと警戒していた。
 肩に掛かって余るほど長い髪を、先で少し結んだまま垂らした姿と地味な服装。見た目か
らすれば如何にも人畜無害ではありそうだが、今まさに行く手を遮るように現れ、さも顔見
知りであるかのように声をかけてきたその言動を見れば……そんなステレオタイプな印象す
らも怪しく思えてくる。
(ったく。面倒臭えなあ……)
 心中彼は、外面のそれ増し増しの顰めっ面でもって考え込んでいた。色々面倒そうな奴に
絡まれてしまった。キャッチセールスか? 新手の宗教か? どちらにせよ、この手の連中
とは関わらないに限る。さっさと道を変えて立ち去ろう。
 特に今日は、人と待ち合わせをしている日なんだから──。
「おーい、トッシー! 何してんの~?」
 ちょうどそんな時だったのである。ふと進行方向先の道向かい、二人を側面から捉える事
の出来る位置取りから、そうこちらに向かって呼び掛けてくる声があった。
 悟史と同じ年頃と見える、快活で今風の女の子だ。
「!? 貴女は──」
「おう、紅葉(くれは)。悪ィ、待たせちまったか?」
「ううん。あたしも早めに来てたからね。驚かせようと思って……。ってか、このおばさん
誰? トッシーの知り合い?」
 左右の信号が赤になるのを待って、ぱたぱたとこちらに掛けてくる少女・紅葉。
 その姿に、悟史は目に見えてホッとしているようだった。同時にむず痒いというか、少し
頬を染めてばつが悪そうに振る舞う。実に親しそうな反応だ。
「いんや。さっき急に声掛けてきたんだよ。多分、初対面の筈なんだけど」
「……」
 だが一方の女性はと言えば、彼女の姿を見て心底驚いているように見えた。尤も当の二人
はそんなことには気付かず、合流して早々初々しくもイチャイチャしている。
 悟史の答えに案の定、紅葉の方もこの女性を訝しげに見つめ、並び立つ。
 やはり見た目の小綺麗さ、派手さに違わず勝気な性格であるらしい。「むっ……」と、ま
るで彼の分まで警戒心を示すように突っ掛かる。
「一体何なの? 真昼間から、他人の彼氏を奪おうだなんていい度胸してるじゃない。そん
な、地味が服を着てるようなナリしてさあ……。結構、性悪さん?」
「っ──!」
「お、おい……。紅葉ぁ……」
 幾ら何でも、流石に“初対面”の相手にその言い方はないだろうと思ったのだろう。最初
に声を掛けられた当の悟史は、そんな彼女の横であたふたとこれを宥めようとしていた。事
実目の前の女性は、にわかに相対してきたこの少女の剣幕に押されているように見える。
(そ、そんな……。これは一体、どういう事なの……??)
 しかし、同じ気圧されているにも理由が違ったのである。彼女は紅葉からの激しい対抗心
に驚いたのではなく、そもそもこの少女が今この場に出て来た、悟史と恋人関係だとぶちま
けた事実に対して困惑していたのだった。
(この頃のトシ君はまだ、彼女と交際してはいなかった筈。出会ったのは大学のサークルだ
って言っていたのに……。それとも、彼の記憶が間違っていた? こっちの裏付けが足りな
かった……?)
 女性の名は明美。そう遠くない未来、この少年・悟史の妻となる人物だった。二人は慎ま
しくも仲睦まじく暮らし、穏やかな日々を送っていたのだが……。
(ま、まさか……。もしかしてこれが、博士の言っていた“干渉の悪影響”? 私が過去に
飛んだから、こちら側の歴史が変わってしまったとでも言うの? 彼女との出会いが早まっ
てしまったの?)
 或いは本来意図していたものとは、多かれ少なかれ違った世界線。時は一直線に伸びてい
るようで、無数に枝分かれ──可能性の数だけ存在しているという考え方だ。明美自身、そ
れらを細かく検証するだけの時間も頭脳もないが、少なくとも状況は当初の予定から大きく
ブレ始めていることだけは判った。
 ……彼を、夫を救いたかった。未来、元々の歴史では、彼は学生時代に交際していたこの
紅葉に強請られ続けたことにより、苦悩の果てに自ら命を絶ってしまっていた。妻である彼
女がそんな事実を知ったのは、先立たれて暫く経ってからのことだった。
 だったら、あの女とそもそも出会わなければ良い。
 最初はそれこそ空想の産物に過ぎなかった“解決策”だったが、ある時タイムトラベルを
研究している博士の存在を知り、藁にも縋る思いで全てを打ち明けた。博士も当初は躊躇い
を見せたが、回り回って自身の研究成果が証明出来ると踏んだのだろう。敢えて言葉を着飾
れば、知的好奇心には勝てなかったという訳だ。
 そこからはこの博士のレクチャーを受け、現在──彼女にとっては過去であるこの時代へ
と飛んで来て今に至る。まだ紅葉と出会う前、高校生の頃の夫に接触し、たとえ信じて貰え
なくても悲劇を回避する為に。
「す、すみません……。お、お二人は、お付き合いなされていると?」
「そう。まだ二ヶ月ぐらいだけどね~? ラブラブだよ?」
 とはいえ、全ての事情を事細かに伝える訳にもいかない。特に自分が未来の妻だという情
報が、彼の今後の運命を大きく変えてしまう可能性があったからだ。
 なるべく核心に迫るようなインパクトは与えず、それでいて彼から彼女を引き離す。
 だが最大の誤算は、既に歴史が変わり始めていたことだ。まさかもうこの時点で二人が出
会ってしまっていたとは……。
 ねー? 十中八九見せつける為だろう。紅葉は言いながら、ぐいっと若き日の悟史を抱き
寄せ、彼に同意を求めた。対する悟史の方も交際したての彼女から密着され、年頃の少年ら
しく顔を赤くして慌てている。
(……。いいなあ)
 明美は思った。
 確かに自分は全体的に胸もお尻もお肉でぷにぷにだし、地味だし。それに比べて目の前の
彼女は、お互いの時間が違っている点を考慮しても、スレンダーで出ている所は出ている。
美人と呼んでも、まるで差し支えも無い──。
「えっと……。す、すいませんね? こいつがいきなり、喧嘩腰でくるモンだから……」
「はあ? 何謝ってんのよ。他人の彼氏横取りしようとした方が悪いでしょうが。それにあ
んたもあんたで、下手に出てるんじゃないわよ。被害者でしょ? それとも何? まさか実
は人妻属性でもあんの?」
「違っ……! っていうか、属性って何……??」
 やいのやいの。悟史は何とか場を丸く収めてさっさと立ち去ろうと気を揉んだが、生憎負
けん気の強い紅葉には伝わらなかったようだ。明美(ふしんしゃ)に声を掛けられた当人よ
りも、その彼女もとい保護者の方がカンカンに怒っている。
「……あ、あのっ」
 それでも明美は、この頃から攻撃的な性格だったんだなと感じつつ、それでも当初の目的
だけは何とか果たそうと試みる。二人に声を掛ける。
 さあ一体どうしたものか?
 先ずはとにかく、一番厄介である彼女を彼から引き離して一対一の状況に持ってゆくこと
が重要だ。或いは流石に今日は諦めるか……?
「あっ、お巡りさんこっちですー! 他人の彼氏にちょっかい出す、痴女で不審者な女の人
が此処にいまーす!」
『ちょっ──!?』
 しかし結局、内心躊躇い続ける明美の試みは敵わなかった。迷っている間に紅葉が、運悪
く近くを通りがかっていた警官を大声で呼び止め、周りの通行人達をも巻き込んでこちらを
とっ捕まえようとしたのである。悟史も、当の明美も思わず驚いて後退る。
「ち、違うんです! 私はただ……!」
「はいはい。とにかく署まで来ていただけますかねえ? お嬢さん達もあんまり、事を大き
くしたくはないでしょう?」
 はっ、離して……! 明美は非力ながらも抵抗しようとしたが、そう逃れようとすればす
るほど、駆け付けた警官の掴む手には力が籠った。周りの目もある。呼び立てた紅葉は勿論
の事、悟史も流石に見ず知らずの女性をそれ以上庇い立てするメリットは無かった。彼らに
見送られ──見捨てられながら、明美は為す術なく連行されてゆく。
「おっ、お願い! 離して! 彼と……彼と話をさせて!」
 未来からやってきた妻は、さりとて若かりし頃の夫を救えない。
 何故ならそもそも、少なからずエゴだからか? 伸ばそうとした手、やっと見つけた彼か
ら、彼女はまたもや引き離される。
                                      (了)


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  1. 2020/06/30(火) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

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