日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「meaning」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:見えない、大学、目的】


 記憶している限り、多分“暗中模索”的なことを書きたかったんだろうけど、実際の記録
には“お先真っ暗”と書いてあった。まだ子供だった頃の、卒業アルバムの話だ。
 ただ……今思えばあの寄せ書きも、僕が当時から未来に対して希望より、漠然とした不安
を強く抱えていた証なのだろう。

『今すぐこの本を買い占め、実行してください』
『良い成績を取り、良い大学に入り、大企業に就職することこそが、貴方が人生の勝者にな
る為の条件です』

 まさかあんな子供の頃に──確か中学辺りから、ゴリゴリの思想と出会うとは思いもしな
かった。押し付けられるとは思わなかった。
 でも……あの頃の僕は、結局子供で。誰からの、何かからの影響を撥ね退けられる程の力
は無くて。
 あの経験があったからというだけではないけど、気付いた時には僕は、学校の勉強に自分
の全てを費やしていた。自分がそもそもポンコツで、努力しなければ「普通」になることす
ら叶わないと何処かで知っていたから。癇癪を持つ変人だと、当時から周りに笑い者にされ
て生きてきたから。

 たった十年ちょっと。長い人生から見れば、大人達からすれば些細な時間。やり過ごせば
如何とでもなると宥めようとした。別の意味で哂われていた。
 違う。実際その言い草がどれだけ正しくても、今この時、今この瞬間に在ってしまった僕
にとっては現在(いま)が全てだった。認識可能な世界の全てだった。彼らの言うように、
未来を見て、愚かな過去だったと笑い飛ばせるとは……きっと信じちゃいなかった。
 実際“変わろう”とした僕を、鼻で哂う奴は結構いたんだ。ただ哂われるだけ、ヒソヒソ
と陰で呪詛を吐いているだけなら、大して今までと変わりはしなかったんだろうけど……中
には露骨に邪魔をしてくる奴らがいた。面と向かって嫌がらせを続け、こちらの精神が参る
のを楽しんでいるような糞野郎どもがいた。加えてそいつらの方が実際、頭が良かったモン
だから、余計に性質が悪い。

 僕の世界が大きく変わったのは、そこから一年ほどしてのこと。学校も学年も変わって、
自身がむしゃらだったという点もあったのだろう。
 その頃初めて、深く親しい友らが出来た。まあ当時は信じていて、実際あの頃救われはし
たのだけれど──それまでの現状を変えてくれうる、嬉しい変化がそこには在った。
 一つは、それまで僕が殆ど持ち得なかった趣味。昔から、一応本を読むぐらいはしていた
けれど、この営み・界隈それ自体にどっぷりと浸かったのはあの頃が最初だった。欲を言え
ば、もっと早くに知っておきたかったものの。
 もう一つは、さっきも言ったように救われたこと。いや、厳密には僕を参らせようとして
くる連中から距離を置く、その口実が自分の中で出来たことだった。彼らの方が直接僕にそ
うしてくれた訳では、必ずしもなかったけれど、どうも僕は“これしかない!”という思考
に陥りがちであるらしい。……それは今も、根本的には治っていないのだけど。

 救われた。これまでに何度かの出会いがあった。行く道(レール)を切り替える瞬間とい
うのが、きっと僕が気付かなかったものも含めてたくさんあったのだと思う。
 無数の可能性──。でも哀しいかな、時間はいつまでも待ってくれはしない。
 僕を拾い上げてくれた出会い、関係性は月日を経る中で変わり、僕らは卒業後の進路へと
それぞれ歩き出した。暫くは、時折再会する機会もあったのだけど……他でもない僕自身、
そういったものを維持する労力を厭ってきた面がある。迷惑じゃないか? 向こうにだって
都合があるだろうし……。そうやって思い留まって、言い訳をして、やがてはお互いに疎遠
になってしまった。楽な方へ楽な方へと、僕はきっと昔から「選ばないという選択」を続け
てきたんだと思う。当然の報いではあったのだ。

『将来ねえ……。同感だわ。俺も働きたくねえなあ……』

 何時の事だったか、僕は彼らと夜の散策に出掛けていた中でそんな会話をした事を憶えて
いる。まぁ今となっては随分昔の話だし、僕自身変な美化や思い違いをしている可能性も否
めないのだけど。

『××学部!? あんた一体、何考えてるの! そんな所行っても役に立たないでしょ!』
『言った通り、●●学部にしなさい。手に職つけてさえいれば、食いっぱぐれはしないから
って何度も言ってるでしょ!?』

 一体全体、僕は何処へ向かいたかったのだろう? 母は母なりに、我が子の未来をそう心
配し、一度は半ば強制する形で方向性を示したけれど……あの時僕はもっと抗うべきだった
のだろうか? 結局大学に入っても、そういった明確な成果を挙げられる訳でもなく、只々
漫然と時間や資金だけを無駄にして帰って来たのだから。
 ……そもそも“学ぶ理由”が曖昧なままで、門を潜るべきじゃなかったんだ。同じ世代、
同じキャンバスに集まった同窓生達の姿が、僕は最初の頃から眩しかった。何となく自分の
理由、見つけることを目的にしてやって来た時点で、掛け違っていた。先延ばし──やはり
昔からの「選ばないという選択」をこの時もしたがために、僕はその報いを以降も受ける事
になる。今もずっと、これからもずっと。

「──お世話に、なりました」
 卒業を間近に控えたあの頃も、僕はずっと一人で焦燥に蝕まれていた。迷いながらもギリ
ギリで収まったゼミの仲間達が、それぞれの夢を抱いて明確に進路を決めてゆく中、僕だけ
は最後の最後まで決められなかった。とにかく卒業に必要な単位だけは何とか取り切って、
逃げるように研究室から去ったことを憶えている。教授とも殆ど積極的な交流が無いまま別
れた。これから君はどうするんだね? そんな言葉を掛けられるのが怖くて。
 あれからもう……何年も経つ。
 選べなくて時間だけが過ぎていって、何にもなれない期間の方がずっと長い。バイトや伝
手を頼っての職場を何度か転々とはしてきたが、どれも長続きはしなかった。深く関われば
関わるほど──いや、そもそも是非欲しいと言われるような人材でもない僕は、最初の接触
時点で弾かれることもざらにあった。自分の代わりなんて幾らでも居るんだからと、尚も自
己主張の激しい自尊心(プライド)をその度ぶちのめし、発揮してはならないと言い聞かせ
て生きてきた。地べたに這い蹲るぐらいがちょうど良いんだと貶めてきた。
 卑屈になっても、彼らからの評価が変わる訳ではないのに。
 求められているのは価値だ。存在する意味だ。己のそれを磨いて来なかった僕に、現状を
変える力は絶望的に残されていない。仮に“何か”に当たりを付けたとしても、既にとうに
先を往っている他人達には、到底敵わない。猛烈に努力をしたとしても……その費やした時
間の分だけ、彼らもまた成長してゆく。埋まる保証なんて無い。何より、自分にとってのや
り直しは増々利かなくなる……。
「おう。達者でな」
 感慨も糞も無い生返事で、今回の上司もすぐに視線を自身の作業机に戻していった。僕も
あんまり立ち尽くしたままでは格好が悪いからと、無言で小さく頭を下げると、そのまま事
務所の外へと歩いてゆく。
「……」
 街は今日も忙しなかった。中途半端に乱立した雑居ビルが、お互い窮屈そうに身を寄せ合
ってバランスを取っているように見える。その足元では僕を含めた行き交う人々が、ざわめ
きの中で右に左に。何処かへと近付いては遠退いてゆく。夏の日差し。ぼうっとした思考と
漠然とした不安が、僕をまたもや混ぜっ返す。

 あの人達は、彼は彼女は、一体今何を思っているのだろう? 僕とは違って、毎日が充実
しているのだろうか? それとも忙しかったり心配事があったりで、決して心穏やかとは言
えない状態だったりするのだろうか?
 皆、巧く生きているように見える──勿論実際そんなことは無い訳で、誰もがギリギリの
所を滑りながら、何とか生存(げんじょう)維持をしていることは知っているのだけど。僕
だけがこの世界で不幸なんだ、爪弾きにされているだなんていう考えは、それこそ未熟な精
神であるとだけは学んだ心算で。

(次の仕事……探さないとなあ)
 可能な限り吐く息を押し殺して、絞り出す。嘆きを嘆きとして紡がないように意識する。
呪わないように戒める。半ば惰性と繰り返しの経験則のまま、僕は歩き出していた。
 良い成績も挙げられず、学校も頓挫し、大企業なんて安定物件も夢のまた夢──いや、そ
もそも、あの頃自分に突き付けられた価値観だって、歳月の末に錆び付いてしまった。今と
なっては古臭い過去の遺物であり、嘲笑の対象でしかない。
 変わるのなら、何でそこまで自信が持てるのだろう? 何で皆必死になって、その“今”
でしか通用しない価値を纏えるよう、頑張れるのだろう? 欲しいと思えるのだろう?
                                      (了)

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  1. 2020/06/22(月) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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