日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「ダウンフォール」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:天使、戦争、殺戮】


“My God, why you forsaken me?”
(神よ、どうして私を見捨てられたのですか?)

 そもそも彼らの凋落は必然だったのか、それとも必然だったのか。
 ともかく現実として、かつて栄華を誇っていた人類は滅亡の危機に陥っていた。天へと届
かんとしていたビル群は朽ち果て、黒く巨大な墓標のようでもある。文明がその恩恵を人々
に供給し続け、ことごとく失われてしまった今では、大地はさも吸い尽くされた後かのよう
に乾き切っていた。
「う……ああああぁぁぁぁーッ!!」
「怯むな! 撃て撃て、撃ちまくれッ!!」
「攻撃の隙を与えるなよ! 千式破界槍(ロンギヌス)、次弾準備!」
 それでもヒトは抗う。とうの昔に荒れ果てた足元で、尚も戦いを続けている。
 尤も、彼らがそこまで必死になっている原因は、必ずしも彼ら自身にあるとは限らない。
『──』
 通称“天使”。ある日突然、人類の前に現れた剥き出しの敵意。
 音もなく中空に浮かび、光の翼と無機質な鎧兜で構成されたそれは、繁栄を謳歌していた
当時の大都市圏を一斉に襲った。予兆など無かった、為す術も無かった。人々はただ一方的
に、この空から降って来た虐殺者達によって命を奪われ、以降出口の見えない戦いを強いら
れることになる。辛うじて逃げ延びた人々、国家や有志によって防衛の為の連合軍が組織こ
そされたが、その戦況は現在に至るまで厳しさを増す一方であった。
「っ! 敵左翼から攻撃、来るぞ!」
「全右翼、回避! 一旦飛び込めーッ!!」
 特に、その最大の要因と言えるのが“天使”達の持つ特殊な障壁である。まるで自分以外
の全てを拒絶するような、淡く金色に輝く盾のような力場が、こちら側の攻撃をほぼ無効化
してしまう。並の銃弾では一切これを傷付けることは出来ない。ただ数で弾幕を作り、文字
通り囮を演じるぐらいのことしか。
 兵達は命懸けで“天使”達の注意を引きつけ、反撃が来る度に布陣のすぐ足元にある塹壕
へと逃げ込んだ。壁際に背を預けて奥へと潜り、相手の光線(レーザー)が飛んでゆくのを
待つしかない。
 ゴリゴリッと猛烈な勢いで地面が削れ、白光が刹那辺りに満ちた。
 戦法としてはほぼ、このヒットアンドアウェイの繰り返しだが、やはり此処の塹壕もそう
長くは持たないだろうと思われる。
「千式破界槍(ロンギヌス)は!?」
「ブロック2Bが壊れましたが、配列は無事です! 次弾、発射可能です!」
 よし! 塹壕の中で前線の隊長格がそう報告を受けるや否や、残る部下達と共に再び頭上
へと登り戻った。対“天使”用の極太銃弾を補充しながら、こちらを探すこの憎き敵を銃口
と共に見上げ、別途背後の防壁越しに展開するもう一つの「戦力」に反撃を託す。
「煙幕!」
「千式破界槍(ロンギヌス)隊、第五から第八まで、撃てーッ!!」
 兵の何人かが煙の上がる手榴弾を投げつけ、こちらへの視界が定まらない内に、この防壁
内に隠した彼らの主砲が“天使”達に直撃する。
 射出されたのは──巨大な銛のような金属塊もとい刃。対“天使”用突破兵器、通称ロン
ギヌスだ。並大抵の威力ではびくともしない“天使”達の障壁を破壊する為、機動性などを
度外視して開発された固定砲台。原理的には投石機(カタパルト)の類である。当初は常時
展開される障壁にダメージすら与えられなかった人類だが、これらを量産・導入することに
より、ある程度こちらにも撃墜能力が備わってゆくようになった。
 とはいえ、その構造上使用には刃塊を一発一発込め直さなければならない他、予め襲来を
予測して布陣しておかなければろくに当たらない。一撃の威力に特化させたため、臨機応変
な小回りが利かないのだ。何より射出と射出の間には、どうしても大きな隙──タイムラグ
が出て来てしまう。
 そのため、基本的な立ち回りは先ず効かぬと分かっていても兵士達が銃弾を浴びせ、敵の
注意を引きつけて時間を稼ぐ。或いは煙幕や砲撃などで視界を塞ぎ、身を挺して囮になり続
けるしかないのだ。どのみち自分達では、傷一つ与えられないのだから。
「……二十機ずつ撃ち込んで、精々五・六体って所か。しょっぱいな」
「仕方ありませんよ。そもそもこれがなきゃあ、とっくに全滅してます」
「かと言って一度に全部撃ってしまえば、余計に隙だらけになりますしね……」
 意図的に集中砲火するように放たれた槍(ロンギヌス)は、数体の“天使”達の障壁を貫
き、その本体にも突き刺さっていた。ぐらりと体勢を崩して落下、光の粒子と共に瓦解して
ゆくさまを見れど、隊長格や副官達はあくまで冷静だった。
 空中にはまだまだ他の“天使”達が残っている。中空に漂ったまま、兵士らが撃ち続けて
いる銃弾の雨霰を、何処か鬱陶しそうに障壁で弾きながら見遣っている。
「次! 第九から第十二まで! 発射体勢!」
「第一から第四、次弾の装填を急げ!」
「攻撃を切らすな! 奴らは待ってくれないぞ! こちらのルーティンを維持しろ!」
 そうやって再三、槍(ロンギヌス)を撃ち込んでは時間を稼ぎ、少しずつでも確実に敵の
数を減らそうと奮闘する。基本ややゆっくりに飛ぶ“天使”達を狙い、兵士らはこれが少し
でも散開しないように注意を引きつける。引きつけようとして、しばしば光線(レーザー)
の牽制に遭い、粉微塵になる。
「くそっ……くそッ!!」
「こんなの無茶苦茶だ。いつまで俺達は、人柱になればいいんだ……?」
「喋れる余裕があるんなら、もっと時間を稼げ! 時間さえ稼げれば、槍(ロンギヌス)が
当たらなくても自滅してくれる!」
 当然の事ながら、兵士達は常に、そんな自分がいつ犠牲になるかの恐怖に怯えていた。対
“天使”用の分厚い銃を抱えながらも、一人一人は全く勝てる気がしない。
 例の如く恨み節を垂れる同胞らに、この別な兵士が言う。事実まだ救いなのは、どうやら
この鎧兜の破壊兵器達は、力を使い果たすと消滅してしまうという性質があることだった。
おそらく一連の戦いを仕掛けてきた敵の親玉も、端から“天使”達を使い捨ての駒として投
入していると思われる。
「……その一体がガス欠するまでに、どれだけの人間が死ぬってんだよ」
「今回の攻撃もそこそこ多いからな……。確か、最初の報告だと百ちょいだっけ?」
「千式破界槍(ロンギヌス)隊、第五から第八」
「撃てーッ!!」
 文字通りの人の壁、腐しつつも必死に引き金をひき続ける中、次の槍(ロンギヌス)が飛
んでゆく。“天使”達の障壁を何体かぶち抜いて、光が漏れ出すその機体を停止させる。
(──無駄だよ、こんなこと)
 だがしかし、今回もそう熾烈を極める戦線の一角で、とある若い兵士が一人内心で酷く震
えていた。恐怖を通り越した無力感に苛まれていた。
(俺は知ってるんだ。知っちまったんだ。あいつらは……あいつらは……)

「じゃあな、コウ。また明日」
「ああ。また明日」
 それは今から三日ほど前。その夜非番だった彼は、同期の兵士何人かと城砦内の歓楽区で
一杯引っ掛けて帰る所だった。ほろ酔い気分でにへらっと、同じく赤くなったこの友らと別
れて自身の所属する隊舎へと足を向ける。
(~♪ やっぱ、偶には羽を伸ばさねえとなあ。ただでさえ任務となりゃあ、いつ死ぬか分
からねえし……)
 かの大崩壊が起こった後、生き残った人類は現在の城砦型の都市を築いて“天使”達から
の侵攻に対抗していた。当然ながら、そこにかつてのような自由気ままな生活はなく、適齢
期の若者は強制的に軍へと入隊させられた。個人の尊厳よりも、人類の存亡云々という奴で
ある。配属先次第ではあるが、一応期限が経てば軍務からも解放される。当の“天使”達も
四六時中襲ってくる訳ではないため、市中の経済活動も回してくれというお上からの無理難
題なのだ。
(こうしてる分には、鎧の化け物とか滅亡とか、嘘みたいなんだけどなあ……)
 猥雑ながらも、確かにそこにある人々の息遣い。彼は暫く夜の路地裏を一区画二区画、土
地鑑でもって近道しながら進んでいた。普段から通い慣れたルートの筈だった。
 うん──? 異変が起きたのは、ちょうどそんな時である。ふと暗がりの向こう、通りす
がろうとした更に細い路の先に、何か見知らぬ人影を見た気がしたからだった。思わず半ば
反射的に足を止め、ほろ酔いの好奇心も手伝ってそろそろと覗き込んでみる。
「はっ、はっ、はっ……。も、もう駄目だ……。お終いなんだ……」
 だからこそ、彼は視界の先に広がっていた光景がすぐに只事ではないと理解していた。い
や、理解はしていても、身体の方はまだついて来れなかったのだ。本能的な恐怖とぐるぐる
回転し始める思考。馴染みのあるその人物の服装に目を奪われる。
 軍服だった。自分と同じ、下っ端ではありながら、間違いなく防衛軍に召集されている兵
士揃いのユニフォーム。上下淡茶色のそれは、本人が両膝を突いて項垂れようとしているか
らなのか、妙に皺くちゃで汚れているように見えた。更にその正面に、見知らぬ二人の不審
者が立って見下ろしている。
『──ふむ。一声掛けてやってこれか。どのみち採り頃だったか』
『EM指数出ました。172のマイナス66、傾斜8。十分でしょう』
 何なんだ、あいつらは……? 彼は暗がりと物陰から、遠巻きにこの一部始終を目撃して
いた。軍服の男性──おそらくは自分と同じ防衛隊の隊員は、先程からぶつぶつと“絶望”
を口にしている。まぁそれは無理もない。時代が時代、今やいつ自分もこの街も攻め滅ぼさ
さたっておかしくないような世の中だから。
 それにしたって、もう一方の二人組はあまりに変てこ過ぎる。
 闇に映える所か溶けるような、全身を隠すように覆うローブ姿。何よりも頭のフード部分
とぴったり繋がり、一切人相も判らない仮面……。
『ああ、少しギリギリかもしれんが。では早速済ませるとしよう』
 するとどうだろう。この二人組の内の一人が、おもむろに懐へ手を伸ばすと、一つの小さ
な“種”のようなものを取り出したのだった。浅黒く表面の突起が絡まり合い、何とも見て
いて心地の悪い代物。それをあろう事か、彼らはこの軍服男性の身体へと埋め込んだのだ。
「ガッ!? アッ、アアッ……アアアアッ?!?!」
「──」
 俺は、何か悪い夢でも見ているのか?
 嘘であってくれと彼は思った。されど目の前の現実は変わる筈もなく、寧ろ変わり果てて
ゆくのはこの軍服男性。文字通り、服越しに身体を貫かれて“種”を埋め込まれた彼は、直
後悶え苦しみながら幾度となく痙攣を繰り返し、瞬く間に自身から発せられる黒い靄に呑み
込まれてしまったのだ。
 更に程なくして、まるで繭のようになったその中から、今度は見覚えのある姿形が生まれ
落ちてくる。間違えるはずもない。光の翼と白い光沢を纏う鎧兜──“天使”。
(何なんだよ……。ま、まさか、あいつらの原料って……?)
 想像したくもなかった。考えたくもなかった。しかし今し方目の当たりにした映像、記憶
が、それをことごとく強制する。人類が戦うべき、本当の敵の正体も、今まさにあの裏路地
の中に潜んでいる。
『成功だな』
『ええ。これでまた一体、魂を確保しました』
 魂? 確保?
『頭数を揃えたら、すぐに作戦開始だ。彼らの絶望は、彼ら自身によって強化されなければ
ならない』
 彼にはこの時、知る由もなかった。
 この仮面ローブの二人こそ、現在の世界を創った“創星者”の一員であり、今回もまたそ
の荒廃を見て再処理(リセット)を図ろうとしていたことを。
 人類、この星を汚染させたn度目のバグ。
 彼らにとり、ヒトは全て消滅させる必要があった。回収した魂に、指向性を反転させた強
い思念を埋め込み、その敵意を人類(どうほう)そのものへと向けさせる。殺し、殺され、
或いは力を使い果たせば消滅──穢れたそのエネルギー塊ごと処分する。空いた枠はまた次
の世界において新しく精製・再注入すれば良い。
 だからこそ、彼ら人類にはもっともっと潰し合って貰う必要があった。
「ひっ──!」
 故にこの若き兵士、目撃者は、ようやく自身の恐怖に鞭打たれるようにして逃げ出した。
その際僅かに声が漏れ、足音も仮面ローブの二人に聞かれてしまっていたが、当の本人達は
さして慌てた様子もなかった。傍らで新たに生まれた“天使”を何処かへと転移させ、ちら
っと彼の逃げ去った方向を見遣ると言う。
『……覗かれていたようですね』
『ああ』
『宜しいのですか?』
『構わんさ。どのみち全個体を処分する。戦死も使徒化も、大差なかろう』

(──おかしいだろ。俺達が倒そうとしてるのは、元人間なんだぞ? どれだけ倒したから
って、追い出せたからって、結局俺達に“勝ち”は無いんじゃないか……)
 頭の中がまるでもって整理出来なかった。それでも現実は無情で、数日も経たずして奴ら
が再び攻めて来た。
 嗚呼、頭数ってそういう……。彼は改めて“絶望”に叩きのめされていたが、仮に話した
として誰が信じてくれるだろう? 自分は一介の下っ端兵士で、証拠だって目撃した以外に
無いのだ。何よりそこまでして告発することの意義を、彼自身見出せなかった。
「敵右翼から攻撃、来るぞ!」
「総員回避! 射線が斜めだ! まとめて吹き飛ばす気だぞ!」
「くっ、破界槍(ロンギヌス)隊が……!」
「一旦飛び込めーッ!! 防壁を西に切り替えろーッ!!」
 目の前の現実と、記憶の中の映像がごちゃ混ぜになる。中空で数体、にわかに突出・旋回
してきた“天使”達が、こちらに向けて光線(レーザー)を放ってきた。各隊の指揮官達が
咄嗟に叫んで塹壕に飛び込んでゆくが、砲台を含めて少なくない兵士達が巻き込まれた。断
末魔の言葉すらも掻き消され、白光が塗り潰してゆく視界の中、繰り広げられる惨劇に彼も
また絶句していた。銃を抱える手や全身がガタガタと震え、後悔の念ばかりに苛まれる。
(無理だよ、無理だよ無理だよ! あんな奴らに一体、どうやって勝てっていうんだよ!)
 いや──そもそもこれは、勝負ですらない。
                                      (了)

スポンサーサイト



  1. 2020/05/31(日) 00:00:00|
  2. 週刊三題
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<(企画)週刊三題「処理犯」 | ホーム | (企画)週刊三題「後顧」>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://higurasisouann.blog27.fc2.com/tb.php/1231-85d8f09b
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

訪問者累計

最新記事

最新発言

検索窓

月別履歴

06 | 2020/07 | 08
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -

分類/索引

【案内板】 (2)
【小説:短編】 (20)
本の蟲 (1)
硝子野不動産店 (1)
夏の日の幻影 (1)
四番線の彼女 (1)
夢視の宿 (1)
線を曳く町 (1)
炬燵の神様 (1)
三者三盗噺 (1)
色眼鏡 (1)
奴らは攻城戦師 (1)
詰め替える (1)
同じ籠の狢 (1)
二十年後の遺言 (1)
轍の先 (1)
水に流せば (1)
真夜中の御二柱 (1)
いつか見た夢 (1)
神様達の初詣 (1)
白い花束 (1)
丸の代償 (1)
【小説:長編】 (205)
Amethyst League (6)
アンティーク・ノート (3)
ユウキのヒカリ (5)
NIGHT GUNNERS (5)
レディ・ルーン-Bonds of RU'MEL- (6)
ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- (116)
死に損いのデッドレス (5)
Dear SORCERY (4)
サハラ・セレクタブル (55)
【企画処】 (507)
週刊三題 (497)
その他参加物 (10)
【資料庫】 (2)
【落書帳】 (2)
【詩歌帳】 (9)
【雑記帳】 (418)
【読書棚】 (32)
【遊戯倉】 (25)
path. (4)
decide: (3)
ユー録FW(凍結中) (17)

記事録

交友関係

このブログをリンクに追加する

(RSSリンク)

(QRコード)

QR

Tweets by long_month