日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「後顧」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:卒業式、過去、光】


 時は未来に向かって進む。誰が決めたとかじゃなくて、そういうものだ。ただその未来と
やらが、僕達にとって、必ずしも“希望”と紐付けされている訳じゃないというだけで。
「──」
 薄っすらとした灰の地面を歩く。ザクザク、と足の重みに負けてゆく感触が、いつからだ
ったか随分大きくなって久しいなと思う。
 進めば進むほど、過去は堆積してゆくものだから。
 一歩踏み出した次の瞬間には、もう置き去りになり始めるそれらが在る。前を向いて歩こ
うとすればするほど、そこに歳月という埃が積もってゆくからだ。
 もし振り向いたら足が止まってしまいそうで、今じゃあすっかり耳を傾けないように必死
だった。否定し返す理由を探すのに躍起であり続けた。
『ねえ。待ってよ~!』
『おいおい、何をそんな急ぐことがあんだよ? もうちょっとゆっくりしていけよ』
 なのに……あいつらは、いつもそうやって引き留めたがる。こっちが過去(あのころ)か
らいち抜けしようとすることを、何が何でも止めたがる。許せないと思っている。
「──」
 聞き慣れた声だった。いつか僕達が通ってきた筈の道だった。
 やけに気さくで……でもその実妬ましそうで。進むこちらの歩みを阻もうとする。自分達
が置き去りにされるのだと、解っているからこそ義憤(いか)っている。
『待って──待てよォ!!』
『おいこら。自分(ひと)の話を聞けっつってんだよ! 無視すんじゃねえよ、ゴラァ!』
 ああ、解っているさ。だって僕自身なんだもの。化けの皮なんてものはすぐに剥がれる。
努めて答えず、背を向けたまま遠ざかろうとする僕の姿に、あいつらは感情的で。

 ……ずっと昔、僕らはまだ子供だった。肉体的にもそうだけど、何より精神的に。
 思春期特有のもの、若気の至りと言ってしまえばそれまでなんだろうけど、あの頃はまだ
自分が何でも出来ると思っていた。何にでも成れると信じていた。肥大化した自尊心──形
容してやればたったそれだけの一言なのに、僕自身がそうだと気付き、受け入れるには随分
と時間が掛かってしまった気がする。事実もう大方、巻き返しが効かないぐらいには。
『そんなことはない!』
『諦めなければ、きっと叶う!』
 もし誰かがそんな風に説教を垂れるのならば、きっとその人はまだまだ抜け出せていない
んだと僕は思う。僕達が言っているのは、届くか届かないかじゃなくて、そもそも僕達全員
にその為の才能とか能力とか、そういう土台の部分が備わっているとは限らないって話なん
だから。
 確かに“努力”を続ければ、いつか届く日も来るのだろう。
 でもそうしている間にも、元々土台の備わっていた誰かがもっと先に行っている。自分よ
りも先にこちらが求めていたものを手にしている筈で。
 だったら……どのみち無駄じゃないか。僕らが必死に頑張って、仮にスタート時点での差
を埋めて追い越せたとしても、時間だけは平等に過ぎてゆく。その間に彼らはもう充分だと
思えていて、次の何かに意識を向けてさえいる。平等なんかじゃない。同じ時間を、同じリ
ソースを注ぎ込んでも、得られる成果は平等じゃないから。だったらいっそ、始めからそれ
ぞれが、相性の良い分野に集中した方がいい。
 それでも──やっぱり元々持っている誰かには、敵わないのだけど。

『許さない。許さない、許さない、許さない……ッ!!』
『お前だけあっちに行って、上手くいくもんか! お前は、絶対に報われない!』
 背中の向こうであいつらは語る。僕達でもあるあいつらは詰る。
 もし気付いてしまった時、僕らが採り得る選択肢は大きく分けて二つだ。一つはこれまで
の歩みを、費やして来てしまった日々の方が正しかったんだと理屈を捏ね回す──記憶ごと
過去を“美化”する。もう一つは逆に、これらを全部、選択や引き際を間違っていたと切り
捨てて諦める──此処から抜け出すことだ。だからこそ、あいつらは豹変するほど僕にキレ
散らかす。
(解ってるよ。だから……応える訳にはいかないんじゃないか)
 あれは僕ら自身だ。予め知っていても、それでもやはり辛いものは辛い。改めてギュッと
唇と歯を噛み締めて、僕らは進む。背を向けたまま一切振り向かないようにと努め、只々あ
の日々から己を切り離すことが出来ればと願った。
 多分他人は、後者を選ぶ僕らを“敗北者”と呼ぶのだろう。それとも口には出さず、これ
で競争相手(ライバル)が一人減ってしめしめと思っているのか。
 否定はしない。かつて僕らが抱いていた夢は、万能感は、歳月と共に崩れ落ちた。お行儀
よく“諦め”を覚えたんだと嘯いても、何かを為せた訳でも、何かに成れた訳でもないこと
には変わらないから。その意味じゃあ今は、間違いなく逃走中なんだろうと思う。
『許さない、許さない、許さない……』
『俺達を裏切るんだな!? 本当にそれで良いんだな!?』
「──」
 それでも実際、どちらの方が僕らは幸せだったんだろう? あの頃は正しかったんだと、
上手く行っていたんだと、もう戻らない日々の記憶を拠り所にしていた方が良かったんだろ
うか? それらを一通り捨ててしまっても、新しい日々に賭ける価値はあるんだろうか?
 ……どちらにせよ、記憶というのは変質してゆくんだ。美化されてゆく。都合の悪い部分
は、自分でも自覚がない内に消えていって、楽しかった部分だけが残る。それらを何度も何
度も再生し直して、過去を生きる。今じゃなく、自ら望んで、そこに留まりがちだから。
 堆積する歳月はどんどん大きくなる。薄っすらと白ばむ灰色を見上げれば、如何に今の自
分が小さいかを認めざるを得ない。それは同時に誇りでもあったし、重荷でもあった。そこ
に留まれば留まるほど、僕らはきっと抜け出せなくなる。僕らと僕らだったものとの境界線
が曖昧になり、また不相応な万能感に呑まれるんだ。
『……間違ってるぞ。俺達がいなきゃあ、今のお前は存在しなかった。それをお前が気に食
わないって理由だけで、否定なんか出来るモンか』
 うん。だからそれが重荷なんだと、僕なんかは思う訳で……。
 頼んでもいないのに、引き継ぐように強いられる。連綿と続いてきたものなのだから、お
前一人の身勝手で途絶えさせるなど許されない───手段と目的が全くもってグチャグチャ
になっているじゃないか。お前達が過去にいたことと、お前達自身の価値云々は、本来全く
別の話なのに。
 何も為せなかった、何者にも成れなかった。
 只々事実とは正反対の“自信”だけが巣食っては邪魔をし、認められずにいた。何よりそ
のことで、僕達それぞれの歳月という、決して替えの利かない資源(リソース)だけが使い
潰されてきた。……いや、きっと気付いてはいたんだ。でも不相応な自尊心を、確信のなさ
を自信のように繕って、認める事を避けていた。認めてはそれらと真正面からぶつかってし
まって、全ての前提が崩れてしまうから。
『違う! 違う! 違う! 違うッ!!』
「──」
 或いはそうやって“自覚”しないことを、改めない在り様を罪だと呼ぶこと、それ自体が
僕らこちら側に向かい始めた者達の思い上がりなのかもしれない。
 だって全員が全員、そこへ至れる訳じゃないんだから。心の弱さ、美化した過去を縋るし
かない状況。今の僕は、やがて歪められるそれを好かなくって、あくまでもう終わったこと
だとして切り離してゆくべきだと考えるけど……他の誰かはまだそうだとは限らない。それ
こそスタート時点で違うんだから、誰かに構ってやる義理なんて無いのかもしれないし。
 “自覚”しない奴を、縁(よすが)のあった過去から抜け出せない誰かを「愚かだ」と哂
った所で、何にもなりゃしない。懇々と叱りつけた所で、寧ろ相手がそこへ閉じ籠もってし
まう逆効果だって十分にあり得る。
 放っておけ。
 あいつはもう、度し難い。
 結局そうどれだけ周りが決め込んだ所で、最終的に僕ら一人一人を救えるのは、他でもな
い僕ら自身しかないと解ったから──。
(ごめんな。でも、僕はもう行くよ)
 過去の叫びには耳を傾けなかった。終始努めて背中を向けたままで、僕は降り積もる灰色
の地面を歩いて行った。
 もしかしたら、間違っているのは僕の方なのかもしれない。結果を振り返った時、今まで
の方がずっと幸せだったと思うかもしれない。ただ、そんな時には既に、今もまた過去にな
っていることは間違いない。降り積もって、視えなくなって、きっと美化されている。
「──」
 前へ。目を凝らせば不意に開けたその空間が、妙に白く眩く光って見える。ゆっくりと手
を伸ばす。だけどそれは必ずしも、僕達にとっての“希望”を意味しない。思わず目を細め
たのは、決してそんな好感からではなくて、ただ満足に見通すことも出来ない、おっかなび
っくりな眩しさの所為だったから。
                                      (了)

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  1. 2020/05/25(月) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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