日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「折れる」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:本、アルバム、陰】


「ねえ、帯人~。これなぁに~?」
 夕暮れ時、部屋へ遊びに来ていた恋人がとある物を引っ張り出してきた。「うん……?」
ちょうどテレビをBGMに漫画を読んでいた彼は、ふいっとその俯きがちだった顔を上げて
彼女の方を見遣る。何処となく草臥れた──まるで大きな感情の起伏を、忘れてしまったか
のような面構えだった。
「ああ、それは……卒業アルバムかな。多分、高校の時の」
 悪戯っぽく笑う彼女とは対照的に、当の彼は淡泊だった。
 言われて差し出されたのは、青紺の表面が少し剥げ始めている分厚いファイル。元々薄い
というか、線の細い金刺繍で描かれた文字であるということもあったのだが、目を凝らして
みると表題には自らの母校の名がある。
「へえ~、帯人の高校時代かあ。どれどれ……?」
「勝手に見るなよ。大体何処からそんな物、引っ張り出して来たんだ」
「うん? 奥の金属みたいな棚の中~。開けてみたら色々入っててさ~」
 いくら勝手を知っているからといって、他人ん家(ち)の物を漁るんじゃないよ……。彼
は思わず眉を顰めたが、目の前の彼女はまるで聞いている様子はない。そうしている間にも
その場にアルバムを広げて座り込み、さも宝物でも探すかの如く口元に孤を浮かべている。
 違うクラスや部活、勿論その全てのページに映っている訳ではなかったが、若き日の彼が
収まっている写真は幾つか発見できた。彼女はその度に「あっ♪」と短い声を上げ、ニヤニ
ヤと覗き込んではこちらの顔と見比べながら笑う。
「あはは、若(わっか)~い! 昔の帯人って、結構可愛い系だったんだ」
「そりゃあもう、十年以上も前だぞ? 今と比べれば、子供に見えるのは当たり前だろ」
「違う違う。褒めてるんだって。この頃から何というか、肩肘張って生きてるような感じは
するけどね~」
 最初こそ、至らぬ少年期の姿を哂われたのかと思ったが……彼は一方で彼女がそんな責め
方をする人間ではないとも知っていた。なまじ交際を始めてそこそこの年数が経っている。
知り合った時期から遡れば、付き合いそれ自体はもっと前からだ。
 ニシシと笑い、一つまた一つとページを捲ってゆく彼女。
 彼は暫くそんな様子を眺めていたが、積極的に“昔話”をしようとも思わなかった。背後
で変わらず鳴り響いているワイドショーの笑い声が、妙に遠くに聞こえ且つ鬱陶しい。
「……とうに失くしたとばかり思ってたんだが、部屋の中にあったんだな。奥の棚ってこと
は、引っ越しの前に入れっ放しになっていたのか」
「多分ね~? というか、こんな思い出の品を放置って大概じゃん? まぁ帯人らしいと言
えばらしいんだけど」
「いや。それどういう──」
「この頃の帯人ってさ? どんな子だった? 写真で見る限りは、大分緊張してこっちを見
てるように思うけど」
 性格として社交的な方と、そうでない方と。別に今に始まった事ではなかったが、やはり
こういう時にも互いの差は出るものなんだなと彼は思った。過去の思い出、決して褒められ
た人間ばかりではなかっただろう当時を、彼女は実にナチュラルに訊ねてくる。
 つい言葉が詰まった。確かに写真で見るあの頃の自分も、随分と身構えた様子でレンズの
方を見つめているようだ。記憶は曖昧だが、それは大よそ記念撮影──人ごみの中に紛れね
ばならないストレスから来ていたようにも見えるが。
「……どんな、と言われてもなあ。特に目立つ訳でもない、地味な生徒だったと思うぞ? 
一応友達と呼べる連れは何人かいたけど、今はすっかり散り散りになっちまってるし……」
「連絡を取り合ったりはしてないんだ?」
「ああ。そこまで必要に駆られる事がなかったからな。進学だの就職だので、忙しくなって
自然にって感じだし。そもそも今も、番号が生きてるか分からないし……。女はともかく、
男は大体そんなモンだろ?」
 うーん……。なのに対する彼女は、少なからず不満そうだ。自分が思い描いたような会話
の花が咲かなかったせいだろう。折角アルバムを見つけて引っ張り出し、昔話の一つでもし
ようと持ち掛けたのに、といった所か。
「それでも、繋がってる努力ぐらいはしないと。気付いた時にはどんどん、皆遠い人になっ
ちゃうんだからね? 帯人は昔っから、そういう所が大雑把なんだよねえ……」
「……」
 ぐうの音も出ない。彼は声もなくぱちくりと目を瞬いていたが、さりとて返された言葉に
思う所が無い訳ではなかった。
 そんなこと──反発ないし反論。いや、自分にはそもそも、そんな感情すらまともに湧い
て来ないように思う。彼女が指摘する通り、色々な事に対して無頓着なのだろう。旧友らの
近況もそうだし、こうして出来た恋人も、未だ女友達の延長上のままずるずると現在に至っ
ている。全く興味が無い訳ではない筈なのだが……ここでもまた、一歩前に関係を進めるこ
とに対して、臆病を通り越して怠惰ですらあるのだ。
(ごめん)
 口に出して謝ろうと思ったが、結局それすらも出来なかった。直前でどうせ言葉にしたっ
て、彼女との問答が堂々巡りするだけだと思えたからだ。気まずくなるだけだ。彼女だって
そこまで、本気で問い詰めようといった感じでもない。まぁそうやって繰り返し厚意に甘え
ているから、何も変わりはしないのだろうが。
「? どしたの?」
「……。何でもない」
 大体もって、何でこいつは俺のことを好いてくれたんだろうなあ……。彼は目の前で頭に
疑問符を浮かべる彼女に対し、今度はそんなことを考えてしまう。先ほども述べたように、
互いの馴れ初めは知人レベルの友人関係だった。そこから色々付き合いが増え、次第に向こ
うがこっちの面倒を見てくれるようになって……現在に至る。
 あまり昔の事を掘り返されたくないと判断したのだろう。彼女はややあってアルバムを閉
じ、近くのテーブルの上にこれを置くと立ち上がった。部屋を訪ねてきた際、入口に置いて
おいた食材の入った袋を手に取ると、肩越しに彼へと呼び掛けて流しへと向かう。
「まぁいいや。じゃあ台所借りるね~? どうせまた、ろくに食べてないんでしょ?」
「……ああ。助かる」
 彼は如何せん、罪の意識を感じながらも、そう答えるしかなかった。正直当時の話題を引
っ張り続けられても、笑顔でいられる自信はなかった。
 実際、あまり良い思い出ばかりではなかったからだ。歳月の内に改変され、ぼやっとした
印象しか残っていない面もあろうが、誇れる少年時代とは言い難かった。
 今もその意味ではあまり変わってはいないが──あの頃から自分は、地味な人間だった。
既にある“秩序”の中に緩々と浮かび、突出したことはしない。人付き合いも能動的とは言
い難く、広く浅くよりも深く狭く。当時の連れは、皆共通の趣味嗜好があった者達ばかりだ
った。自分がそこまで優秀で、特別な人間ではないと早々に諦めていたからこそ、流される
がままに学校(あそこ)で吹かれていた。陰気な奴だと哂われていた……。
「~♪」
 硝子戸の向こう、流しの前で彼女が鼻歌を歌いながら料理を始めていた。お湯を沸かして
いる音が聞こえてくるのと、袋の中を見せて貰った時のラインナップで、どうやら今日はパ
スタらしい。簡単であっても良い。足を運んでくれる、誰かがああして一緒に居てくれるこ
とにこそ感謝しなければ。
「……」
 彼は少し手持無沙汰になっていた。ちらっとテーブルの上に置かれた卒業アルバム、その
閉じた青紺の表紙をぼんやりと眺めつつ、何の気なしにスマホの画面を触り始める。BGM
代わりのテレビがそろそろ邪魔になってきたが……別にいいだろう。些細な切欠、ふと思い
ついた今この瞬間に任せ、彼はブラウザ上からかつての旧友達の名前を検索してみていた。
(へえ。やってみるモンだな)
 そうしてヒットしたのは……思いの外数件。同姓同名という可能性もあるが、どうやら各
種SNS上に、彼らが発信した痕跡が見当たる。特にフェイスノート──登録制のそれには
今も現役で“活躍”している者達の投稿が確認できた。座り込んだまま、画面をスクロール
し、流れる情報をざっくりと目で追う。
 当たり前ではあるが、そもそもこうしたサービスを利用していない旧友は、その近況を探
ることも出来ない。或いは登録こそしていても、実質の利用が途絶えたユーザー自体も多く
存在する。そんな中で尚も、且つ継続的に発信し続けている人間というのは、現在進行形で
何かしらの熱量に身を投じているとも言えるだろう。要するにその何かに関し、ネジがぶっ
飛んでいがちだ。
 彼が見てしまったのは……そんなコミュニティの住民と化したかつての友人・知人達の現
在であった。
 ある者は仕事に結婚、育児。現在進行形で人生を謳歌して随分と社交的になっている者も
いたし、またある者は対極に世間への恨み節を日々吐き出していたりもする。それらが極端
かつ無駄に行動力を伴ってしまえば、いわゆる社会運動家──批評家を気取る弁士と成る。
当時はまだお互い子供で、そんな思想のシの字もなかった彼らが豹変したさまを、彼は正直
少なからぬショックを受けつつも目の当たりにしていたのだった。
「……」
 歳月は残酷なんだな。彼は改めてそう、自分に言い聞かせるように胸の内でごちていた。
この旧友達の中には、片っ端から相手に噛み付いて連投し続けている者もいる。最初は本名
でもなく、同一人物かも怪しいケースも多々あったが……他の投稿や公開している情報、こ
ちらが知り得る近況などを併せれば、ある程度解ってしまうものである。伊達に一時は共に
学び、同じ地域に住んでいた子供同士ではない。
 彼はぼんやりと画面を見つめたまま、大きく嘆息をついた。お互い色々な経験がある。知
らぬ間に変わってゆくことは必然だろうし、責めるべきでもないが。
 競うように、自身の“充実”をアピールする。
 競うように、自分とは違った価値観・世界観の人間を嘲笑(こうげき)する。
 或いは、己が直接的・能動的にそれらをしようとしなくても、大よその陣営の中に紛れて
過ごす。傍観者として取り囲んでいる。そうして気が向いたのなら、熱量を向ける矛先が見
つかったのなら、群衆の一人として石を投げる──。
「うん? どしたの? また随分と難しい顔しちゃってるけど……」
 彼女が戻って来たのは、ちょうどそんな時だった。硝子の引き戸を開け、両手には二人分
のカルボナーラ。こちらがスマホの画面と睨めっこしているさまを横から見下ろし、怪訝な
様子で声を掛けてきている。
「まあ、とりあえず食べなよ? お腹一杯食べて寝て、頭の中をリセットさえすれば、大抵
の悩み事は消えて無くなってるモンだよ」
「……そうだな。有り難くいただくよ」
 テーブルの上の物を大雑把に横へと移して、二人は簡素ながらも食卓を囲んだ。気付けば
調理している間に日は沈み、夜が来ていたようだ。電球の下、部屋の明かりの中から外を数
拍眺め、彼は彼女と共にその手料理を食すことにした。出来立てホカホカ、美味しそうだ。
お茶や副菜も引っ張り出し、二人はそうしてどちらからともなく言った。ポンと手を合わせ
て、延びる現実を繋ぎ、或いは忘れようとする。
「いただきま~す!」「……いただきます」
                                      (了)

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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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