日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「滅びの理由」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:機械、終末、歪み】


 その惑星(ほし)は長らく、緩やかな衰退の中に在った。豊かだった緑はとうの昔に色褪
せ、何処までも剥き出しの岩肌ばかりの大地が広がっている。
「陣形が崩れたぞ! 潰せーッ!!」
 ヒトはそれでも尚、互いに奪い合い、争い続けていて。
 荒れ放題の土地、かつての都市だった朽ちた石畳。
 そこでもまた、戦いの一つが起こっていた。辺り一帯に幾つもの銃声と怒号が響き渡った
かと思うと、人の命というものが次々と、実に呆気なく千切れてゆく。
「あっ、ガッ……!?」
「お、俺達は、まだ……」
 片方の勢力が、駄目押しの猛攻を受けて全滅した。再び静まり返った周辺を、もう一方の
側の生き残り達が踏み締めてゆく。薄汚れた野戦服やゴーグル。身に着けている格好がほぼ
似通っていることも手伝い、彼ら双方──敵味方を区別するのはそんな、倒れ伏し事切れた
者らに対する丁重さの差ぐらいでしかない。
「……やったか?」
「ああ。どうやら片付いたみたいだ」
「他の奴らが嗅ぎ付けてくる前に、さっさとずらかるぞ。獲れるモンだけ獲ったら、こんな
所とはおさらばだ」
 容赦はしない。何よりこれが、世界の現在(いま)の日常であった。
 元々辺りに散らかっていた残骸と、敵対勢力が遺していった物資。なるべく後者を選別し
て、彼らは得るべきものを得ようとする。ヒトの世はかくして荒廃の一途を辿っていた。
『ご主人様。保管庫らしき場所を発見しました』
 だがその原因は──必ずしも人々の争いに端を発しているとは限らない。
 暫く辺りを探索していた一行の下へ、ふと一人の女性が合流してきた。スラリとした長身
と銀髪、透き通るような白い肌をした美貌の人物である。
 事実この生き残った勢力の面々──総じて各種銃器で武装した男達は、この自分らに付き
従う彼女に対して、ニヤニヤとした笑みを浮かべていた。生き物としての性か、隠し切れな
い下心といったものが垣間見える。
「ああ。ありがとう。じゃあ早速、そこだけでも回収して帰ろう」
 何処となく浮世離れした、奇妙に反響するかのような澄んだ声色。
 そんな彼女に主と呼ばれていた、この一団に属する青年は、そうフッと微笑(わら)って
答えていた。自身の兄貴分でもある、面々のリーダー格に目配せをして許可を貰い、皆でし
てその見つかった保管庫とやらへと足を運ぶ。
「ははっ。やっぱり有能だなあ……うちの“女神”は」
「さっきの戦闘でも、敵の大方を減らしてくれたしな。本当、ご主人様呼ばわりされてるお
前が羨ましいぜ。このっこのっ」
「……物資を手に入れるまで、気を抜くなよ? 他にも隠れている奴らがいるかもしれん。
それが俺達と同じく、彼女のような“個体”を連れているとしたら、尚更……な」

 彼女らの起源は、そもそもよく判ってはいない。ただ気付いた時には、この惑星(ほし)
のあちこちにその姿が確認されていたというだけだ。
 此処では仮に、彼女らの名を“イヴ”を呼ぶことにしよう。一説によると、彼女らの大元
と思しき幾つかの個体達は、ヒトの文明がまだ衰退を始めるずっと以前から存在していたの
だという。
 曰くある時、空から降って来た隕石を追って山に分け入った男性が、そこで目撃してしま
ったのだと。出会ってしまったのだと。
『──な、何だあ? こりゃあ……??』
 辺りを焼き払い、熱を帯びた陥没の中に転がっていたのは、幾つかの大きな銀色の球体だ
った。見た目の材質からして金属のようだったが、何故かガッチリと固まっている訳ではな
く、ぷるぷるとゴムのように柔らかな半固体。実際その下半分は衝撃にやられていたのか、
若干溶け出すように広がりつつあったのだという。
『石の中に交ざってたのか? 何というか、若干弱ってる……?』
 金属の球。そう、彼やこの惑星(ほし)の人々の常識からすれば、本来それは生物ですら
なかった筈なのだ。
 なのに何故か、この時彼は……じわじわと球体を維持出来なくなってゆくこの銀色の塊の
ことを、憐れと感じてしまったらしい。それは後々思い返すに、当時彼自身が妻を亡くして
日が浅かったことに起因したのではないかと語られている。
『……』
 だからこそ、彼は意を決してこの球体を助けようと試みた。ちょうど柴刈りに来ていて籠
を背負っていたことから、もたれ掛かる先を無くしていたこの半固体の塊を中へと入れて持
ち帰ることにしたのだ。彼自身、特に学があるという訳でもなかったが、何にせよこんな山
奥に捨て置いたままでは治せるものも治せないと考えたのだろう。
『おい、お前。しっかりしろよ。家さ帰って、じっちゃん達に訊いてみるからよ?』
『──』
 はたしてその判断は、結果からして正しかったのか間違っていたのか。
 山の中から自身の住む集落へと帰って来た彼は、早速村の古老達にあれこれと聞いて回っ
たのだが……やはり誰もこの球体の治療法はおろか、正体すら知らなかった。ただ彼がこれ
を発見した経緯からして、きっと何処か遠い世界から落っこちて来たものなのだろう、そう
大よその推測・結論では一致していた。
 理由は今でも判らない。
 しかし間違いなく、事実として今も尚続いているのは、この銀色の球体達が以降彼のよう
な“男性”に好んで接触するようになったという点だ。事の発端となった彼がそうであった
と云われるように、異性を魅了する女性へとその姿を変え、自らを庇護してくれた人間をあ
らゆる手段でサポートする心強い存在・伴侶(パートナー)として、その地位を確立してい
ったからである。
 謎の金属生命体・通称“イヴ”──いつしか彼女らの存在は、人々の、特に世の男性達に
とって是が非でも手に入れたい「力」となっていった。一種のステータスとなっていた。
 何せ彼らを魅了するその容姿は勿論の事、元々金属であるという点を活かした変幻自体の
身体は、並大抵の武装などいとも容易く打ち砕くほどの高い戦闘力にも化ける。ヒトが従来
築いてきた軍事戦略は、彼女らを中心とした体制へと移り変わっていった。自分達の科学技
術では到底理解・再現できないこの存在を、どれだけ多く且つ効果的に用いるか? 当時の
各国列強間のパワーバランスは、かくして大きく様変わりせざるを得なかったのである。
『うっ、ぐっ……!』
『ふああ! ああ……ッ!!』
『えっと。大丈夫ですか? ご主人様?』
『あらあら。まだ始めたばかりですよ~? 頑張ってくださ~い』
 ただ──この惑星(ほし)の文明をここまで衰退させたのは、何も軍事的な均衡が崩れた
からとは言えない。それ以上に大きかったのは、彼女らが良くも悪くも“一途”過ぎたから
であった。
 詰まる所、彼女らは“女性”としても優秀過ぎたのだ。変幻自体に姿形を変え、主とした
男達の好みに合わせた性質をどんどん学習してゆく。
 その根っこには自身の生存戦略──単なる液体金属であるだけに留まらず、ヒトのように
活動力を維持する為には、相応のエネルギー源が必要だとの判断が在ったからにせよ、彼女
らは結果的にヒトの女性達を駆逐する未来を引き寄せてしまったのだった。男達がこぞって
彼女ら“イヴ”を手に入れようと躍起になる余り、種としてのヒトは、次第にその数を維持
出来なくなっていった。勿論、人間の女性が絶滅した訳ではないのだが……男女双方の母数
が減る一方となった社会に、最早復活の望みは薄い。人間達は他でもない、自分達の意思に
より、その文明を衰退へと追い遣ってしまったのである──。

「ひゃっほー! 大漁だ、大漁ー!」
「こんなにあればかなり長い間、補給に困る事はなさそうだな!」
 リーダー格の男が、尚も慎重な言動を崩さない一方で、保管庫に辿り着いた仲間達は盛大
に喜んでいた。経年劣化についてはどうしようもないが、抉じ開けた内部には予想以上に多
くの物資が所狭しと並べられていた。これは有難い──面々は思わず興奮しながら、ぐるり
と今回の収穫の全容を把握しようと動き回る。
「……なるほどな。さっきの連中も必死になって此処を守っていた訳だ」
「これだけたんまりと溜め込んでいれば、拠点自体も簡単には移せなかったでしょうしね」
 水を差すのはもう何回目か。リーダー格の彼が若干嘆息と、一抹の諦めを呟いていたその
傍らで、同じく仲間の青年が苦笑いを零して頷いていた。先ほどの此処を見つけてくれた、
銀髪の“イヴ”の主である。
「ああ。そうなると今度は逆に、俺達もこいつらを運び出すのは難儀するってことだが……
手早く纏められる方法ってのはないかね?」
『? はい、大丈夫です。搬出を開始しますか?』
 ちょこんと小首を傾げて。にも拘わず当の本人は、そう答えながらも視線で許可を求める
先は、この主たる青年だけで。
 うん。お願い──故にコクリと頷いた彼を見て、彼女は早速動き出した。細くて綺麗な両
腕が、あっという間に室内全体をカバーできるほどの大きな液体金属の風呂敷に変化したか
と思うと、彼女は指示された通り、次の瞬間この目の前に積まれていた大量の物資を呑み込
んでしまう。「な、無くなった……」「相変わらず何でも出来るんだな……」他の仲間達が
改めて唖然としている中、再びリーダー格の男性が皆に向かって言う。
「よし。では撤収だ」
「帰りは来た道ではなく、別のルートを取って──」
 異変が起こったのは、ちょうどそんな時だった。彼がそう言葉を紡ぎ切る直前で、外から
大きな物音が響いてきたのである。
『いたぞ! 余所の連中だ!』
『横取りしようなんざいい度胸だ! ここでぶっ潰してやる!』
 彼らとは別の、先ほど倒した者達とはまた違った勢力が二つ。
 保管庫内の隙間から、一行はこのかち合い、交戦状態になだれ込んだ両陣営を息を殺して
覗き込んでいた。互いに小銃や拳銃、火炎瓶などを撃ち込み、投げ付け合っている。
『──』
 ただ何より問題だったのは、その片方の中に、金髪ミドルの女性──間違いなく“イヴ”
持ちの人間が交ざっていたということ。
「拙いな。あっちにもうちみたいなのがいるっぽいぜ」
「そりゃあ探せばいるだろうよ。俺達と同じく、一人いるだけで戦力が段違いだからな」
「どうします、リーダー? 彼女をぶつけますか? 気付かれずに逃げられるんならそれに
越した事はないですけど、今後またあいつらとやり合う可能性を考えると……」
 向こう側、金髪ミドルの“イヴ”は、この青年が連れている個体とはまた少し見た目も性
質も異なっているようだった。好戦的に笑って敵陣の中へと突っ込み、機関銃のように変化
させた腕でもって次々とこれを倒している。
「……いや。今は先ず、回収した物資を持ち帰る方が大事だ。それに彼女がこれを丸々持ち
運んでいる以上、戦って中身が駄目になってしまったら元も子もないだろ? 曲がりにも、
君は彼女の伴侶(パートナー)じゃないか」
 もう少しぐらい、大事にしてやれ──。青年に問われた、リーダー格の男はそう続けかけ
たものの、結局その言葉までは口に出さなかった。不意に自身が慕う兄貴分に、普段生真面
目な彼にそう言われたものだから、当の青年は一瞬驚いて且つ、思わず顔を赤くし始めたの
だが……次の瞬間にはコクリと頷き返した。ふるふると何度も首を横に振って邪念を振り払
っていた。
『ご主人様?』
「な、何でもないよ。了解です、リーダー。なら急いでここを出ちゃいましょう」
 対する彼女、銀髪の“イヴ”は頭に疑問符を浮かべながらこちらを見遣っていたが、彼が
素直に答えてくれる筈もなく。
 かくして一行は、当初の予定通りこの保管庫を後にすることにした。そろそろっと、皆で
して、件の別勢力二つから見え難い裏側から逃げ出そうとする。
「──うん? おい、あそこに誰かいるぞ!」
「奴らの伏兵か!? 俺達じゃねえぞ!」
「あんにゃろう……! 先客がいやがった……!!」
 やべっ?! だがそんな逃走も運悪く、ギリギリの所で双方の一部に見つかってしまう。
戸惑いと対象の正体、彼らが共に出し抜かれたと気付いた次の瞬間、撃ち合っていた両者の
矛先は一斉にこちらへと向き始めた。リーダー格の男や銀髪“イヴ”の主たる青年、他の仲
間達も思わず、この状況に表情を引き攣らせる。
「見つかった……! やべえぞ!」
「単純に相手は倍。加えて“イヴ”持ちか。このままじゃあこっちも、物資も全滅だぞ?」
「どうする、リーダー? こうなりゃあいっそ、二手に分かれて彼女を──」
「いや。向こうの目的は俺達と一緒で物資だろう。こいつが逃げている所を見られれば、も
う手に入れていることを悟られる可能性がある。全員で迎え撃ち、隙を作ってすぐ逃げる。
これが一番確実だ」
「戦力的にも、状況的にも、頼りになるのは彼女ですもんね……。厳しいけれど、やるしか
ありませんか!」
 パンッと頬を叩き、他の仲間達と共に覚悟を決める青年。彼やこのリーダー格の男の発言
を受けて、皆の後ろに立っていた銀髪の“イヴ”も臨戦態勢を取った。皆を守るように一対
の液体金属を防壁状に、更にもう一対のそれを巨大な鉈状に変化させて持ち上げる。
「!? 気を付けろ、奴らの中にも“イヴ”がいるぞ!」
「ぬう……。よりにもよって、もう一チーム……」
「他の奴らは一旦下がれ! こっちの損害が増える! パメラ、頼んだぞ!」
『ええ! よくってよ、主(あるじ)様!』
 対する金髪の“イヴ”も、片方のリーダー格である主の指示に従い、その機銃に変化させ
た腕先を向けていた。こちらの個体よりもその気質は荒々しくプライドも高いようで、応じ
る声色や顔立ちには明確な敵意といったものが透けて見える。
「……行くぞ!」
 かくして戦いは一時の休みどころか、再び新たなそれすらも連れて来る。
 命は減ってゆくのに、奪い合いは止まらない。愛し率いる者は往々にしてヒトではなく、
そもそも生き物ですらなかった。
 彼らは欲望に傾く。欲しいものだけを見る。
 やがてこの惑星(ほし)からヒトがいなくなるのは、ただそれだけの理由である。
                                      (了)

スポンサーサイト



  1. 2020/04/05(日) 00:00:00|
  2. 週刊三題
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<(雑記)べきじゃないと言ってるのに | ホーム | (企画)週刊三題「小文業(しょうぶんごう)」>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://higurasisouann.blog27.fc2.com/tb.php/1215-6335c20f
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

訪問者累計

最新記事

最新発言

検索窓

月別履歴

05 | 2020/06 | 07
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 - - - -

分類/索引

【案内板】 (2)
【小説:短編】 (20)
本の蟲 (1)
硝子野不動産店 (1)
夏の日の幻影 (1)
四番線の彼女 (1)
夢視の宿 (1)
線を曳く町 (1)
炬燵の神様 (1)
三者三盗噺 (1)
色眼鏡 (1)
奴らは攻城戦師 (1)
詰め替える (1)
同じ籠の狢 (1)
二十年後の遺言 (1)
轍の先 (1)
水に流せば (1)
真夜中の御二柱 (1)
いつか見た夢 (1)
神様達の初詣 (1)
白い花束 (1)
丸の代償 (1)
【小説:長編】 (204)
Amethyst League (6)
アンティーク・ノート (3)
ユウキのヒカリ (5)
NIGHT GUNNERS (5)
レディ・ルーン-Bonds of RU'MEL- (6)
ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- (116)
死に損いのデッドレス (5)
Dear SORCERY (4)
サハラ・セレクタブル (54)
【企画処】 (501)
週刊三題 (491)
その他参加物 (10)
【資料庫】 (2)
【落書帳】 (2)
【詩歌帳】 (9)
【雑記帳】 (416)
【読書棚】 (32)
【遊戯倉】 (25)
path. (4)
decide: (3)
ユー録FW(凍結中) (17)

記事録

交友関係

このブログをリンクに追加する

(RSSリンク)

(QRコード)

QR

Tweets by long_month