日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「Fの断片」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:脇役、子供、箱】


 平等なんてものを考えついた奴は、そもそも綺麗事で言い出したんじゃない。
 本当は、現実は、それと丸っきり逆だから欲しがったんだ。要する僻みの類なのだと俺は
考えている。
「──よしっ、次!」
 専用の馬鹿デカいグラウンドに、クラスの皆が集められている。俺も運動着姿でその中に
混じっていた。短くホイッスルを吹いて、ジャージ姿の先公が気を張って指示している。
「ういッス」
 言われて、気だるげなクラスメートが一人、前に出て行った。ボサボサの髪をしたもやし
野郎だが、全体的に顔の作りが良いせいで案外女子にはモテてている。
「風圧を……集中させて……」
 ぬんッ!! やっている事それ自体は、ただのソフトボール投げ。体力測定で昔っからよ
くある種目の一つだ。
 ただ一つ大きく違っているのは──そこに生徒個々人の“異能”を加えて良いとされてい
ること。寧ろ如何にして工夫し、成績を伸ばせるか? 俺達が受けているこの「能力開発」
の授業は、そもそもその辺りに力点が置かれているからだ。
 例えば今さっき投げたこいつ、天橋の能力は流体操作。ざっくり言うと周りの風を自由自
在に操ることができる。手にしたボールがあんな遥か遠くまで飛んで行ったのも、掌との間
に風を集め、一気に撃ち出したからだ。
『記録──七九〇.六五メートル!』
 ざわわっ! 他の連中が目を見張ってざめわくのが聞こえた。ええと、これで暫定何位に
なるんだっけか? ぶっちゃけ興味が無いから、今までの奴らの記録もぼ~っと聞き流しち
まってたけど……。
「うむ、良い使い方だ。どんな能力も、その応用次第では大きく化ける。それぞれ、創意工
夫を怠らぬように!」
『はいッ!』
 ……俺達の暮らすこの社会に、いわゆる異能力が溢れるようになったのは一体何時の頃か
らだったのだろう。
 少なくとも、俺達の世代が物心ついた頃には、もうこの手の力はすっかりありふれたもの
になっていたと思う。国の制度として、こうして専用のカリキュラムが組まれているぐらい
には一般に認知されて久しい。寧ろ積極的に活用しないと、あっという間に追い抜かれる。
 ボール投げに始まり、五十メートル走や持久走、反復横跳びに上体起こし。
 それぞれの種目で向き不向きもあるが、クラスの皆は自分が覚醒させた能力でどんどん記
録を作っていった。さっきの天橋みたいに汎用性が高い能力もあれば、一瞬でゴールまで行
ける瞬間移動系、空を飛んだり、筋肉ムキムキになる純粋なパワー系の能力もある。中には
姿形まで“変身”させてしまうタイプも珍しくはない。
「次、平岡!」
「……はい」
 なのに、俺が必死こいて獲得した異能は──地味で役立たずで。
 目盛りのついた柱の横に立ち、俺は先公に呼ばれて前に出た。種目は垂直飛び。一回の跳
躍でどれだけ高くまで手が届くかで測る。
(大体あの辺とあの辺、もう一個ぐらいあの辺まで行けるか……?)
 じっと目標ラインの高さを決め、空間を見つめる。ゆっくりと手を伸ばして意識を集中さ
せ、身体の中から蜜みたいなエネルギーがだばだば流れてゆくイメージ。
「っ!」
 キィィンッと空中に三つほど、半透明な琥珀色の立方体が生成された。これらを足場代わ
りにして、俺はまずジャンプ。更に二個目から三個目へと飛び移ろうとする。
「もうちょ──だあっ?!」
 でも結果は散々、そこまでだった。身体を動かそうとする分集中力が薄くなり、最初に出
した一個目がスゥッと形を失って消え去ってゆく。当然ながら二個目三個目へと飛び移るな
んてことはままならず、俺は地面に叩き付けられた。「……記録、三メートル十五センチ」
機械判定を使うまでもなく先公が目測で目盛りを読み、周りの連中からクスクスと笑い声が
漏れていた。

(──あ~、痛え。結局あの後も大して記録は伸びなかったし……)
 琥珀の匣(キューブ)。俺に発言した能力につけられた名前だ。その内容は視認できる距
離に、硬く頑丈な半透明の立方体を作り出すというもの。実際第三者からの物理的な攻撃で
は、傷一つ付けることはできない。
 ただそんな、言葉に起こしてみる限りでは凄そうな力も……実際の所あんまり役に立って
いるとは言い難い。他でもない使い手である俺自身が、そこまで優秀ではないからだ。
 昼間の体力テストでも明らかなように、たとえ外部から壊すのが困難でも、一個作り出し
て維持するだけでもかなりの集中力と消耗を伴う。もし──例えば誰かを守る、人一人を包
めるほどの大きさのものを作り出そうとなれば尚更だ。要するに能力自体のポテンシャルに
対して、使う人間のレベルが圧倒的に足りていない。宝の持ち腐れって奴だ。
(……仕方ねえ。さっさと忘れてゲーセンも行こう……)
 もっと努力すれば、使い方を考えれば、他の奴らと渡り合える能力者になれるのかもしれ
ない。だが俺自身、そんな夢物語はもうとっくに諦めていた。必ずしもこの力で何かしなく
ちゃいけない訳じゃないし、また違った能力を覚醒させればいいし……。落ち込む度に色々
と理由を付け、そうやって万年底辺な自分を正当化してきた。能力開発の他、今日の授業も
一通り終わって、独りとぼとぼと大通りの隅を歩いてゆく。
「……」
 いや、本当の所は誤魔化せてやなんかしない。ずっとモヤモヤした気持ちは自分の中で燻
り続けているのに、わざと見て見ぬふりをして、蓋をしようと必死になっているだけなんだ
から。
 俺達の世代からもうずっと、何代も前。ヒトは様々な実験と薬物投与を繰り返し、人間と
いう存在をそれまでの枠組みから超えさせた。今や世界の人口のほぼ八割が何かしらの異能
を発現するようになり、スポーツやエンタメ、政治経済に至るまで、ありとあらゆる場面で
その道に応じた能力者達が活躍している。中には“英雄(ヒーロー)”なんて大層な括りで
呼ばれる、押しも押されぬ有名人も存在しているぐらいだ。
 実際こうして歩いている下校途中の道にも、頭上にデカデカとその一人の看板が掲げられ
ている。大仰に装飾され、コスチュームに身を包んだポージング姿が。
(……クソッタレが)
 でも俺は──そんな今の世の中を、皆が熱を上げるそんな現状を、割合冷めた目で見てい
る。懐疑的なままで眺めてきた。まぁ役立たずの能力しか得られなかった、敗北者の妬みと
言ってしまえばそれまでなんだけども。
 だってそうだろう? 異能っていう呼び方は、それが大多数にとって“当たり前”じゃな
かったからこそ成立していた訳で。なのに今みたいにありふれ、普通になってしまったこの
世の中においては、能力を持っていること自体はもう何のアドバンテージにもならない。寧
ろ持っていることが当たり前、大前提になり、問題はそこから如何に強い能力か? 使い方
が出来るかが問われる。ヒーロー活動をしようって者は勿論、何処かしかの企業に勤めて業
績を挙げる為にも。結局異能だなんて大層な名前がついたとしても、俺達の間に「格差」が
生まれ続けることに変わりはしないんだから。
 だったらいっそ、早々にそんな激烈な競争からは降りて、能力も絡めない分相応の勤め人
に落ち着いた方が……。
(うん?)
 なのに、ああもう! 現実って奴は俺達の前からしつこくへばり付いてくるようだ。この
日も、何だかんだで悶々と帰宅の途に就いていた最中、進行方向のずっと向こうに何やら人
ごみが出来ているのが見えた。随分と騒がしい。それにあの異形……。
「──近付くんじゃねえ! 何見てるんだ!? 見世物じゃあねえぞッ!?」
 如何にも柄の悪そうな男が喚き散らしていた。おそらくは何処かで摘発されかけた能力者
くずれなのだろう。野次馬の如く集まって来た通行人達にやたら当たり散らし、全身の肌と
いう肌から浮き上がる鋭い刃先を向けて叫んでいる。……鉄分か何かの操作系だろう。
 ただ問題はそいつ自身よりも、この男が抱えている小さな女の子にあった。要するに、人
質だ。
「どけ! どけぇ!!」
「ひっぐ……!」
 俺の居る遠巻きの位置からでも、その様子は充分確認できた。状況としては多分、逃げ延
びて来たこの犯人が通りがかりの彼女に目を付けて羽交い締め──自身の刃物化能力で脅し
つつ、追ってくる当局の連中から逃れられる保険にすること。大方そんな魂胆。
 事実、少しでも距離を詰めようとすれば、この女の子が奴の腕の中で串刺しの蜂の巣にな
りかねかった。追って来たヒーローらしきコスプレ野郎も、警察官達も、周りの野次馬連中
も下手に近付けずに躊躇っている。
「くそっ! 人質とは卑怯な……!」
「応援の面子は?」
「駄目だ。まだ時間が掛かる。それにこっちは、全員近接型の能力ばかりだ。奴から彼女を
引っ張り出すにはリスクが高過ぎる」
 それぞれに自分をアピールする衣装に身を纏った、自称・英雄(ヒーロー)達。
 ただどうも膠着状態が続いている所を見るに、彼らは皆この刃物化の能力者とは相性の悪
い面子ばかりらしい。ガタイの良い奴はおそらくパワー系。さっきから携帯を弄っている奴
は伝達(テレパス)系か。溶接ゴーグルみたい装備を被っている奴もいるが、おそらくは迂
闊に攻撃できないのだろう。あれだけ刃物化した肌でガチガチに固められてしまっている以
上、ピンポイントで犯人をよろめかせ且つ救出──というのは難しい。
(まったく……こんな大通りでいい迷惑してるぜ。その内、この辺も封鎖されかねねぇかも
なあ。どうすんだよ? 暇潰しに遊ぶことも出来やしねえ……)
 だからこそ、俺は心の中で盛大に悪態をついた。というより、実際舌打ちの一つや二つは
出ていたと思う。
 順当に考えても、このままこっそり回れ右をするのが賢い選択だった。あのヒーロー連中
は仕事であの子を助けようとしているが、自分にはその義務は無い。周りの焚き付けるだけ
焚き付けてざわついている野次馬どもと大して変わりやしない。
「……」
 だけど、何でだろうな?
 何でまた俺は、この時変に気が変わっちまったのか。余計な事をしようとしたのか。
(ああ、クソが……)
 多分犯人に捕らえられて、泣いている女の子を正直見ていられなかったからなのだろう。
或いは白昼堂々、というか実際には夕方近かったが、天下の往来で人様に迷惑を掛けている
この能力者が“許せなかった”からなのか。
 ──おい、てめえ。何を余計な事をしてやがる?
 お前みたいな馬鹿をしでかす奴がいるから、俺達みたいな半端な能力者の肩身が狭くなる
んだろうが。
(奴にはまだ気付かれていない。今此処からなら、俺の位置からなら、或いは……)
 要するにあの悪目立ち野郎をぶちのめして、無関係だった筈のあの女の子を救い出せれば
いい。ヒーローどももそれは重々承知しているが、能力の相性的に直接懐へ飛び込むには危
険過ぎる。彼女を、取り返しがつかないほどに負傷させてしまう可能性がある。
 しかし俺の異能力、琥珀の匣(キューブ)を使えば……。
「──」
 相手の姿、こちらとの位置関係はしっかり視認出来ている。後は正確に奴の身体だけを俺
の能力で吹き飛ばし、隙を作ればいいだけだ。二人の間を隔てる“援護攻撃”さえ命中すれ
ば、後は正面で相対しているヒーローどもがその専門家の勘で確保に動ける。
 大丈夫だ、集中しろ。何の因果か、今この時に俺が居合わせたのが奴の運の尽きだ。
 奴があの子を捉えている腕。その内側から琥珀の匣(キューブ)を形成、一気にせり出た
せる。そうすれば勢いで拘束している体勢は崩せるだろう。あの子が逃げ出す隙を作ること
だってできる。
 “どんな能力も、その応用次第では大きく化ける”だったか。
 あんたの教えに従うって訳でもねえが、思いついちまったんだから仕方ないじゃないか。
悪いが刃物野郎、餌食になって貰うぜ?
 大体何なんだよ? お前らは。
 ろくに自分の能力を“役に立たせ”られなかった一人の癖して、何で一丁前に目立とうと
してやがる? 俺の日常に土足で入って来やがる? 鬱陶しんだよ。煩いんだよ。
 俺とてめぇの、何が違う……?
「ガァッ──?!」
 だから俺自身、次の瞬間何が起きたのかよく分からなかった。ただ直前まで自分の中にあ
ったのは、グツグツと煮え滾る“怒り”の類で。遠巻きの目の前で、琥珀色の角柱達に内側
から貫かれたこの犯人の姿で。
「な、何だあ!?」
「いきなり身体ん中から柱が出て来たぞ!」
「死んだ……のか?」
「とにかく確保だ、確保ォー!」
「人質の保護を最優先に! 急げ!!」
「……」
 間違いない。俺の琥珀の匣(キューブ)だ。俺の能力が作った立方体達が、あいつの身体
を中から盛大にぶち破って行動不能にしていた。目の前のヒーローども、野次馬達が一瞬で
血みどろになったこの犯人の男を見て、引き攣った表情をする。それでも即座に女の子を保
護に走り出す辺りは流石プロといった所か。
「即死、だな。こいつは酷い」
「体内から攻撃を加えたみたいだ。誰だ? 一体誰がこんな……援護を?」
 道の向こうでざわめきが、一層確実な悲鳴となって響いている。俺は思わず、自分の掌に
ゆっくりと視線を落とし、再び現場の方を見つめた。背筋が、全身の血の気が、引いて震え
ているのが解る。どうしてこうなった? 何であんなに強い出力になった? いつもは拳大
の琥珀の匣(キューブ)を作るのにも、ごっそり集中力が要るのに。消耗するのに。
 あんなに馬鹿デカいのを、それも何個も作れた試しなんてなかった。大体狙った箇所が全
然違う。奴があの子を捉えていた、腕の内側じゃなく、更にもっと内側──身体の中に座標
がズレていた。
 ……失敗した(やっちまった)のか?
 俺が不相応な欲を掻いて、ヒーローの真似事をやろうとしたから? これなら役に立てる
と思ったから? それともあいつ自身が──憎かったから?
(俺は、人を……?)
 殺したんだ。この手で。この能力で。
 通りの向こうでは女の子が無事“本物”のヒーロー達に保護されていた。彼らに抱えられ
て泣きじゃくっていたのは、ただ犯人に捕まっていたからだけではないのだろう。
 只々俺は、その場に立ち尽くしていた。女の子の服や辺りの道路に、大量の血が飛び散っ
ていた。俺自身がその能力で肉塊に変えた、ついさっきまで犯人だったものが、駆け付けた
救急隊員に担架とブルーシートで覆われてゆく。運ばれてゆく──。
                                      (了)

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  1. 2020/02/23(日) 00:00:00|
  2. 週刊三題
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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