日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「ダーティ・フロウ」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:月、墓場、時流】


 それは遥か遠い未来、或いはもっと別の異なった可能性。
「オーライ! オーラーイ!」
「ストップ、ストーップ!」
 ずっとずっと暗い宇宙(そら)の向こうから、黒く頑丈なケーブルを伝って積み荷がやっ
て来る。徐々にスピードを落として止まるこれらを、防護服姿の彼らは引き寄せた。
 此処は人工衛星・D3-Ⅳ。人類が宇宙空間に造った、史上四番目の入植地(コロニー)
である。
 本星から延び、繋がれた特製のケーブルを介して、太陽光で発電したエネルギーを地上へ
と送る為の巨大基地。或いは日々の生活に必要な物資をこれに載せて射出し、人類の新たな
生活圏として確立せんと試みた一大プロジェクト。
 事実そうして、これら入植地(コロニー)は幾つも造られた。地上の人々の暮らしを支え
るインフラは、長らく安泰の中にあったという。後には増え続ける人口を支える為、居住可
能な惑星を探す為の移民船団が次々に銀河の外へと旅立つことになる。
 尤も、当初あった目的は、すっかり時の彼方に霧散してしまったが……。
「……はあ。今日もゴミだらけかあ。いいよなあ、向こうの人間は。こっちの苦労も知らな
いで、自分達は恩恵だけ受けてれば良いんだからよ」
「愚痴ってる暇があるなら、手を動かせ。向こうも人が増えてるからな。俺達に回せる物資
も限られるんだろう」
「まあ……。そりゃあなあ……」
「だからって、ゴミばかり送ってくるのは正直堪えるんだっつーの。あいつらの暮らしを支
えてるのは、他でもない俺達入植地(コロニー)の側じゃねえか」
 輝かしい希望に満ち溢れていたのは今も昔。現在は延々と地上に電力を送り続け、代わり
に彼らが日々の生活で出す廃棄物を引き取るというサイクルが続いていた。作業員達からも
嘆きの一つぐらいは出る。
 それでも芸は身を助ける──腐っても発展を突き詰めた科学技術である。既存の太陽光に
よる発電に加え、この人工衛星に一旦届けられた無数のゴミは、新たに建造された特殊な焼
却炉によって処分・更なる発電の燃料として使われているのだ。いわば本星、地上の人々の
暮らしから出た“残り滓”を再利用(リサイクル)して、繁栄の環に戻すといった役割まで
担うようになって久しい。
「だったら、もっと自分の取り分が取れるようしっかり働くこった。うだうだ言ってても、
お偉いさんは俺達の為には動いてくれんぞ?」
 当然、そこに作業員らの不満は少なからずあった。パイ自体は増えている筈なのに、縁の
下の力持ちである自分達にはそれほど還元されているようには思えない。
 同じく防護服姿の、一団のリーダー格らしき男性は言った。周りの部下・同僚達とは若干
の距離を置きつつ、自身は黙々と積み荷の搬入を続けている。ガラガラと、ケーブルないし
レールに繋がれた幾つものコンテナが、機械仕掛けの施設内へと吸い込まれてゆく。
「はいはい。だからこそ今以上に“成果”を挙げたって、こっちは損しっ放しだって言って
るんですけどねえ……」
「お偉いさん達は何も解っちゃいないんッスよ。万一自分達がストでもやりゃあ、あっちも
あっちで直ぐ立ち行かなくなるんスよ?」
 あはははは! にも拘わず、一方で彼らは即座に言い返した。真面目一徹に働くこのリー
ダー格が防護服の下で、言葉もなく口元を歪めていたことなど構いもせずに、皮肉や脅しと
も取れるような発言を次から次へと重ねる。自分達は決して“下”ではないのだと、互いに
確かめ合っていた。
「……ふん」
 愚痴の一つや二つ。
 それらも含め、彼らにとっては日常だった。少なからず振れ幅のある負荷と気持ちの移ろ
いも、全て合わせて日々の刺激なのだと、信じて疑わなかったから──。

「うん……? 何だあ? 今回は随分とデカいな……」
 異変が起こり始めたのは、それから暫く経ってからのこと。いつも通り地上から送られて
来たコンテナ群──廃棄物の中に、大量の瓦礫らしきものが詰められていた。防護服姿の作
業員達も、これには思わず首を傾げざるを得ない。
「ゴミっつーか、もろに家とかの残骸だな。これだけ一遍に送られてくるのは珍しいな」
「おーい、誰かー! 詳しい話を聞いてはないかー?」
「ああ。この前連邦(ほんぶ)から連絡が来たんだと。何でも向こうでどでかい水害があっ
たらしくてな、大分たくさんの家が流されちまったらしい」
「なるほど。そういう事か……」
「どれだけ文明が進んでも、自然災害(これ)だけは中々なあ」
「どのみち使い物にはならないから、そっちで処分してくれって話だ。燃やす分には燃やせ
るだろう? ってさ」
「ああ。まあ、デカいだけで出来なくはねえけども……」
「正直手間なんだよなあ。この手の大型ゴミって」
「気持ちは分かるがな……。うだうだ言ってねえでやるぞ? この瓦礫の山を捌かず放って
おいたら、また主任(タノさん)にどやされちまう」

「ひっ?! な、何だあ!?」
「に、人間……?」
 或いはそれよりも更に後日。コンテナの中に詰め込まれていたのは、総じてボロ布を着た
ような、薄汚れた人間達の遺体だった。
 流石に作業員達も、蓋を開けた直後に悲鳴を上げて飛び退いた。ごろりと一人二人、骸の
山から転がってくるこれらに、動揺と怪訝の眼差しを向けざるを得ない。
「……本当に送り付けて来おったか。連邦(ほんぶ)から、貧民区の住人達を“処分”する
よう通達があった。コミュニティ内で大規模感染が起こり、大勢死んだらしい」
 皆の声、様子を聞いて現れた主任──リーダー格の作業員が、そう努めて淡々とした口調
で言う。
「感染って……流行り病か? 今時そんなの……」
「いや、あり得る。あり得ないなんてことはねえだろ。俺も長いこと地上(むこう)には帰
ってねえが、あっちはあっちで格差が酷くなってく一方らしいからな。体よく見捨てられた
んだろう。ただでさえ前々から、土地に対して人が多過ぎるって言われてきたしな」
「でも、だからって……。いいんスか? 俺達でこの人達燃やしちまって? 流石にきちん
と弔ってやるべきだと思うんですが……」
「埋める土地が無い、だそうだ。それに彼らは皆、身寄りらしい身寄りもいない者達だと聞
いている。引き取ってくれる者もおらんし、彼らがきちんと埋葬してくれるかも怪しい」
「だから、俺達が……?」
「いいのかよ。そんなモンで作った電力を、あいつらは使うってのか……?」
「……上からの命令だ。実際問題、皆行き場を失っている。ならばせめて、最期に役に立っ
て貰えば一石二鳥というのが本音なのだろう」
 作業員達の表情(かお)は浮かない。
 だがこのリーダー格の男は、やはり防護服の下に素顔を隠したまま答えた。そろりと本星
の持てる者達の意図を、推し量りながら促す。

「主任(タノさん)! 主任ー(タノさーん)ッ!」
「連中、マジでやりがった! 今度はボロ布の人間じゃねえ! どう見たってそこら辺に居
た筈の人間だよ!」
 正直な話、嫌な予感はしていた。今に始まった事ではないとはいえ、人類がその飽和の解
決を宇宙に求めようとした時から、どうしようもない軋みは芽吹いていたのだから。
 その日も同じように、ケーブルに繋がった本星からのコンテナが届く。だが防護服姿の作
業員達は、そこに詰め込まれていたものを見て驚愕した。まだ俺達には“心”があると激怒
して、良くも悪くも信頼を置くこのリーダー格の作業員へと報告に走る。
「……始まったか」
 送り付けられて来たのは、市民だった。つい先日まで地上で繁栄を謳歌していた筈の、地
上の人間達の亡骸だった。服装こそ元々ボロ布という訳ではなかったにせよ、明らかに何者
かの攻撃に遭った痕跡がある。黒焦げて肉体ごと吹き飛び、血だらけとなっている者も少な
くない。
「連邦(ほんぶ)が詳しい説明を拒んでいる。俺にも実際どうなっているかは分からん。た
だ地上ではどうやら、戦争が始まったらしい。貧民も市民も関係なく、色んなものが壊され
ている。色んなものが死んでいる」
「せんっ──?!」
「何で、何でだよ!? 俺達が今まで毎日ゴミも処分してきたし、作った電力だってずっと
送ってきたじゃないか!」
「なのにどうして、自分で自分の首を絞めるようなこと……」
 リーダー格の男は詰め寄る仲間達に、されど明確に答えるようなことはしなかった。自身
もこちら側と隔絶された状況で、正しい情報が把握出来ないという理由もある。ふるふると
静かに首を振り、何時からかの“諦め”でもって皆に諭した。おそらくは彼らも全員、既に
解っているのだろう。
「……もうお終いなんだ。俺達人類は、直に滅ぶ」
 人工衛星・D3-Ⅳ。史上四番目に造られた、宇宙空間の入植地(コロニー)。
 逆に言えばこうとも取れる。それだけ幾つも建て増さなければ、ヒトという種や文明を、
そもそも維持することすらも叶わなかった。限界はとうに……訪れていたのだと。
                                      (了)

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  1. 2020/02/17(月) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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