日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「告詩(つげうた)」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:メリーゴーランド、メトロノーム、綺麗】


 チカチカと、小さな眩しさが眼の中で繰り返されています。
 チクタクと、一定のリズムが延々と刻まれ続けています。

 左右に何度も感覚は揺れて。貴方の目の前には、それはそれは立派な回転木馬が動いてい
ました。闇を裂いた光の中、白く美しい装飾に彩られた木馬や馬車達が、ぐるぐると天蓋の
下で回っています。黙したままで貴方を見ています。
(……?)
 此処は何処だろう? 貴方は思いました。何故なら辺り一帯は、目の前の景色以外は明ら
かに薄暗く、何より“現実味”が無かったからです。
 だからこそ、抱いていた印象はややあってがらりと反転しました。
 その美麗さは却って──恐ろしく感じられ始めていたのです。
『ドウ……シテ?』
(っ!?)
 当然、そんな広がる不安の中に放り込まれたものだから、輪を掛けて聞こえて来た彼らの
声に貴方はビクついて。
 何処からか響いて来た声は、少なくとも複数人ありました。どれも性別の境目は曖昧で、
なのに一度耳にしただけで皆“子供”のそれだとだけは解って。
『ネエ、ドウシテ?』
『ドウシテ僕ラヲ……見捨テタノ?』
 最初貴方は、全く何の事か分かりませんでした。
 それでもただ、不思議と胸の奥がざわつく感じがします。この“子供”達の声を聞いてい
ると、妙に不安が幾重にも重なってゆく心地がします。大きくなってゆく気がします。
 ……いえ、本当にそうなのでしょうか?
 本当に自分は、この子達の事を覚えていないのでしょうか? 聞き覚えがない、初めて会
う人間なのでしょうか?
『待ッテタンダヨ?』
『私達、ズットズット……』
 はたして声の主は何処に居るのでしょう? 暗闇でしょうか、それとも目の前で尚も静か
に回り続けている木馬達でしょうか? 少なくとも言葉を発していると確信できる、唇を動
かしている誰かはいません。ましてや、何人もの人影など。
 それでも貴方には、ある種の直感がありました。理屈ではない何かで、解ってしまわざる
を得ない状況にありました。
 此処全てが彼らだ──それは告げています。一見して見覚えのない、明らかに現実的では
ないこの目の前の輝く光景自体が、自分自身に語り掛けている者達の正体なのだと。
(……)
 君達は。貴方は意を決して訊ねようとします。しかし何故か実際に言葉は発せられず、念
だけが自身の中に巣食っていることだけが分かります。喉の奥から確かに押し出そうとし、
押し出された筈なのに、直後形あるものとして耳に戻って来ないのです。
『ウウン、イインダ』
『思イ出シテクレタノナラ、マダ』
 相変わらず姿は見えません。ただそんな貴方を見て、対する“子供”達の声は何処か哀し
そうに聞こえました。
 ごめん──きっと言いたかったのは、そういった旨の言葉。だけどやはり貴方の思いだけ
は向こうに届かなくて、ただ現実味の無い光と天蓋、木馬達を見つめたまま立ち尽くすばか
りでした。手を伸ばせば、足を踏み出せばすぐ近くにある筈なのに、それすら叶わないかの
ようにままならなくて……。
『ウン。怖イノハ解ッテル』
『見捨テラレタコトハ、ヤッパリ許セナイケド』
 なのに“子供”達の声は赦してくれたり、くれなかったり。
 どうやら何人もいるからこそ、その意思は必ずしも統一されていないようでした。貴方に
強い恨み節をぶつけようとする者もいれば、いざこうして対面し、貴方の変わりように打ち
ひしがれたと言っても良いのでしょう。歳月は──往々にして残酷です。良くも悪くも、皆
へ平等に与えられる……。その筈だったのです。
『ネエ、覚エテル?』
 内“子供”達の一人から向けられた問いに、貴方は少しずつ思い出してきました。ぱらり
と頁が捲られてゆく感覚。幼い頃、無我夢中で広げた白紙の中に書き込んだ世界。
『貴方ハトテモ楽シソウダッタ。私達ヲ生ムコトヲ、トテモ幸セニ思ッテイタ』
『愛シテクレタ。タクサンタクサン、愛シテクレタ』
『上手イトカ下手トカ、関係ナイ』
 デモ……。次々に言葉を継ぎながら、されど“子供”達は言います。これまでの日々と待
ちぼうけになった記憶、焼き切れそうになってきた思いが、彼らを徐々に狂わせてゆくには
時間は掛からなくて。
『貴方ハ見捨テタ! 僕達ヲ! 自分ダケ一人デ、遠イ所ニ!』
『ドウシテ? ドウシテ? ドウシテ!? 私達ダッテ、貴方ヲ愛シテイタノニ! モット
遊ンデ欲シカッタノニ! 私達ナンテ、所詮ソノ程度ノモノダッタノ!?』
(……)
 違う。貴方は言いたかった。いえ、或いは弁明すら億劫だったかもしれません。
 何故ならもうずっと昔、幼い頃の物語。自分にとっての世界は狭く、知らず、だからこそ
無尽蔵に膨れ上がりました。時には自らの中に創り出し、ただそれだけで充たされていたの
です。たとえ紙の上に書き出すことをしなくても、慰みを得られました。一時の快楽に浸っ
ていれました。
 しかしながら──そんな日々も長くは続きません。
 大人になってゆくことは、失うこと。世界とは自分の中にではなく、その外側にこそ在る
のだと知ること。思い知らされて、従わざるを得ないことです。少なくとも貴方が“主人”
になれるのは、とかく限られてゆく一方でした。堪えることはあっても、大いに得て悦ぶと
いった場面は少なくなりがちです。
 ならば──もう「そんな」必要はなくって。何よりも暇がなくって。
 さて実際、貴方が彼らから背を向けるようになったのは、一体何時どの瞬間からだったの
でしょう? おそらくは最早はっきりとは憶えていない筈です。
 ですがこちらが踵を返しても、それを見ていた者達は憶えています。貴方が背を見せ、そ
のままずっと遠い場所へと往ってしまった時の光景を、彼らはずっと憶えています。忘れら
れなかったからこそ……愛は憎しみにさえ生まれ直すのですから。
『……分カッテタ。ズット一緒ニハ、居ラレナインダッテ』
『ダケド、見ナイヨウニシテイタンダ。貴方ガ遊ンデクレタ、ソノ時ハ間違イナク幸セダッ
タカラ』
『デモ……デモ、コンナノ耐エラレナイ! ドウシテ、ドウシテ見捨テタノ!?』
『答エテヨ! 戻ッテ来テヨ!』
『コンナ苦シイ思イヲスルノナラ……。イッソ始メカラ生マレルベキジャナカッタ!』
『返シテヨ! 終ワラセテヨ!』
『ドウシテ貴方ハ、僕達ヲ創ッタリナンカシタンダ!?』

「──っ! ?!?!」
 かくして“子供”達の叫びと共に、世界は暗転します。直前に目の前の白く美しい光景が
弾け、灼けるように眩い光を撒き散らして貴方の意識を吹き飛ばします。
 貴方は目を覚ましました。夜闇が未だ深い、自身の寝室で、一人汗だくのベットから跳ね
起きていたのでした。弾かれるように上半身を起こしていたのです。
 見覚えのある、馴染んだ光景だけが広がっていました。夜の静寂の中に“現実”溢れる生
活感が横たわっており、カチコチと壁掛けの時計だけが相変わらず秒針を刻んでいます。
「……」
 くしゃりと、震える自身の掌を暫く見つめてから、貴方はそのまま手で額を掴みました。
大きな、声すら出ない嘆息を口の中で吐き出し、ここ最近では珍しいくらいに悪い夢見をじ
っと耐えていました。じんわりと、厭な汗が湧く心地がします。
 白く美しい回転木馬、天蓋は、やはりと言うべきか何処にも見当たりませんでした。代わ
り在るのは、背中を中心として纏わりつく、重く気だるい何時もの感覚。夜目も手伝ってい
るのか、その思考も深くまで届かない状態であると認めざるを得ません。昼夜を問わず、そ
れは同じく何時もの症状でもありました。
「……」
 倦怠感と絶望感。
 只々目の前に広がっているのは、そんなとうに見飽きた貴方の現在(いま)です。
                                      (了)

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  1. 2020/02/09(日) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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