日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)電子のウミに揺れて

【注】先日、物書きさん達との練習の場で自分が書いた三題噺です。
   <お題:パソコン、鍋、自動販売機>
   本文は追記部分からどうぞ↓


 紙幣を一枚入れて、自販機からおでん缶を大量に取り出していく。
 夜はすっかり深まり、外の空気はひんやりと寒く撫で擦るようにその刺激を実感させてき
て止まない。
「……まったく。何でいきなりこんな時に」
 僕はそう自販機の前で悪態をごちてみる。夜更け近くになったアパート近くの商店街は殆
どが店じまいをし、閉ざされたシャッターが物寂しく並んでいるだけだ。
 一人ブルーの犯罪避けの照明が点いた電灯の下、僕は引っ掛けてきた防寒着越しにおでん
缶を抱える。
 だけど、それでも──本音はちょっぴり嬉しかったりもするのだ。

 普段僕はしがないフリーターであり、副業に自分のブログでアフィリエイトをして何とか
その日その日の収入を得ている。
 基本的に、いつも一人だった。それも仕方ないと思っていた。
 正社員として会社に属することが多数派ではなくなっている昨今、こうして日銭を稼ぐの
が現実と化している僕ら若者は思っている以上に多い筈だ。
 そして……同時にそれだけ人数がいても、互いに連携することはそう多くない。
 派遣された職場に足を運び、その日の企業側の要望に応えて工場内をあくせくと動き回る
日々。そこに誰かを労わったり協力し合ったりするという優しさ──余裕はないと言っても
いいんじゃないかと、僕自身は思っていて。
 実際、チームワークを賛美するよりも、自分達のタスクの邪魔になる“役立たず”に陰日
向に悪態をつき、どんどんと狭く凝り固まったセカイに埋没することで自己防衛を果たそう
とする向きが多いのでは? そう経験上思う。
 それが現実、処世術だと淡白に捉えていれば何てことはなかったのかもしれない。
 ただ「仕事は金を得るためのツール」だと割り切り、私情を持ち込まずひたすらタスクを
こなして対価を得ていればいい。
 なのに……どうして、こんな場所ですらこいつらは醜い蹴落とし合いで団結することに情
熱を傾けているのだろう?
 要するに、僕はそんな“処世術”に与しなかったのだ。
 だから今も、現在進行形で職場ではハブられている。
 それでも仕事をしないとお金が手に入らない、イコール日々の生活が成り立たないという
理屈で以って何とか今日までしのいできた。

 しかし、世の中というのは薄情なもので……。
 ステルスマーケティングというものを貴方はご存知だろうか?
 略してステマ。ざっくり説明すると「業者が当事者だと名乗らずに行う宣伝行為」だ。
 このやり口が先日、ネット界隈を大炎上させた。
 詳細はここでは省略するが、某匿名掲示板での人々の雑多な意見を抽出して紹介するブロ
グ、いわゆるまとめブログの大手の一つが実は企業と裏で繋がっていた、というのがその発
端である。
 ただでさえ恣意的に自分達の言葉を抜き出され、彼らのアクセス誘引に使われたり、人が
多いという特性を以って宣伝の書き込みを行ってきたり、それまでもネットユーザーの不満
は少なからずあった。
 そこにブロガーと企業(要するに○○を宣伝してくれと頼みうる存在)の繋がりが発覚し
たことで人々の嫌悪感はついに爆発したのだ。──他人の褌で相撲を取る(利益を得る)、
ないし客観的な立場を装い、実は自分達に優位な情報を流そうとする倫理的な悪。そういっ
たものへの反発が今回の騒動を生んだ。
 ……長い話になってしまったが、要するにこの問題は僕にとっても対岸の火事では済まさ
れない問題になっている訳で。
 要するに、僕が気に入った商品をアフィとしてブログに貼り付けていても「業者乙」とか
「ステマだろ」と訪問者や外部から罵られ、こっちでの収入が減っているのだ。
 疑心暗鬼。
 一言で表現してしまえばそんな心理が今、ネット上に渦巻き始めている。
 いくらパソコン越しとはいえ、そこでやり取りを交わすのは人間一人一人だ。なまじ顔が
見えない(からこそ安易に繋がれるとも言えるのだけど)からこそ、個々の倫理と信頼感が
不可欠であるこの世界において、この問題はネット上での商売、ひいては種々の私的なやり
取りすらも疑心の眼で萎縮させてしまう。

(……まったく、どいつもこいつも自分ばっかり味をしめようとするから)
 ポケットに突っ込んでいたビニール袋におでん缶を詰め、手に提げる。
 アパートの自室まではそう遠くない。だけどこの寒さの中ではじきにこの熱々の具材達も
冷え切ってしまうだろう。
「ただいま~……」
 足早に部屋に戻って鍵を開け、誰もいない僕の城へと帰還する。
 そんな中唯一、迎えてくれるのは愛用のデスクトップパソコン(自作組みの相棒)だ。
 電子の海とこの部屋を繋ぎ、家にいながら多くの繋がりを作ってくれる現代の魔法の箱。
 僕はそのディスプレイに流れているチャットログを暫し椅子越しに確認してから、小さな
台所におでん缶を置いた。
 足元の棚を開いて粗末な小さい土鍋を取り出す。
 一人暮らしだとコンビニ弁当ばかりになりがちだが、たまには料理ぐらいはする訳だ。
 コンロの上にミニ土鍋を置き、買い置きしてあったインスタントのだし汁をたっぷり注ぐ
と点火のつまみを回す。ボウッという音と共に青い炎が生まれ、だし汁を温めてゆく。次い
でその中に先程の、少々外気に触れて冷たくなったおでん缶を投入して、煮込みを開始。
 換気扇の紐をひっぱり勢いよく捻じれの四枚羽が回る中、暫くしてぐつぐつとだし汁が具
材に染み込んで小刻みに揺れ始める。
 料理というには少々難があるけれど、これくらいの手間はあってもいい。
 だし汁をお玉ですくって少し味見。うん、これならイケそうだ。
 僕はお椀にほかほかとした具材を移し変え、箸と缶チューハイもスタンバイ。
『おーい、皆。準備できたかー?』
 するとタイミングを図ったように声──パソコンのディスプレイから声が聞こえてきた。
 僕はいそいそとお碗に盛ったおでんと缶チューハイを手にテーブルに着くと、画面を見な
がら取り付けたウェブカメラを弄り直す。
『よう、こんばんは。Ryouさん』
「こんばんはです」
『こんばんはー寒ぃなぁ、今日は』
『全くだ。こんな時だからこそ温いものを食わねぇと』
 画面に分割して映し出されていたのは、ウェブを通じて知り合った仲間達。仕事場でも、
アフィでもない。奇妙な縁で知り合うことのできた仲間達。
 今宵は、突発的に企画されたウェブ友同士の鍋パーティ。
 自分はおでんだが、画面には自分でしっかり用意した鍋を映してくれる人もいる。
『よーし、それじゃあ揃ったみたいだしそろそろ始めようか』
『おーっ!』
 画面越しに皆の、僕の声が重なった。
 カポッと開けた酒を画面の前で皆で乾杯のポーズ。夜半の宴がこうして始まって。
「ん……。美味し」
 確かに工場に出勤すればギスギスしているし、ネット全体だって必ずしも理想郷ってわけ
じゃないけれど。
 それでも、こうして繋がれた人達がいる。縁がある。
 色々嫌なことはじっとこちらを物陰から覗いているけれど。
 せめてこうした時間だけは、心から愉しもう。
 体が食事を欲するように、心もまた栄養が必要なのだから。
                                      (了)

スポンサーサイト
  1. 2012/01/25(水) 17:30:00|
  2. その他参加物
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅱ〔16〕 | ホーム | (雑記)自由に首輪をつけるのは>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://higurasisouann.blog27.fc2.com/tb.php/119-aa35adb5
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
します。

訪問者累計

最新記事

最新発言

検索窓

月別履歴

10 | 2017/11 | 12
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 - -

分類/索引

【案内板】 (2)
【小説:短編】 (20)
本の蟲 (1)
硝子野不動産店 (1)
夏の日の幻影 (1)
四番線の彼女 (1)
夢視の宿 (1)
線を曳く町 (1)
炬燵の神様 (1)
三者三盗噺 (1)
色眼鏡 (1)
奴らは攻城戦師 (1)
詰め替える (1)
同じ籠の狢 (1)
二十年後の遺言 (1)
轍の先 (1)
水に流せば (1)
真夜中の御二柱 (1)
いつか見た夢 (1)
神様達の初詣 (1)
白い花束 (1)
丸の代償 (1)
【小説:長編】 (151)
Amethyst League (6)
アンティーク・ノート (3)
ユウキのヒカリ (5)
NIGHT GUNNERS (5)
レディ・ルーン-Bonds of RU'MEL- (6)
ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- (89)
死に損いのデッドレス (5)
Dear SORCERY (4)
サハラ・セレクタブル (28)
【企画処】 (349)
週刊三題 (339)
その他参加物 (10)
【資料庫】 (15)
【落書帳】 (6)
【詩歌帳】 (6)
【雑記帳】 (326)
【読書棚】 (30)
【遊戯倉】 (24)
path. (4)
decide: (3)
ユー録FW (16)

記事録

交友関係

このブログをリンクに追加する

(RSSリンク)

(QRコード)

QR

@long_month からのツイート