日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「ロンリー・ワーニン」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:狼、馬鹿、激しい】


 俺は強くて、俺は正しい。少年は信じていた。
 私は大切にされるべきだ。少女は疑わなかった。
 往々にして、若き彼らは皆、自分がもっと認められていい筈だと思っている。

『はあ? 何言ってやがんだ。寝言は寝て言え』
『知るかよ。俺はお前のことなんざ、そもそも知らんぞ?』

 だがそれは……あくまで彼らの願望に他ならなかった。一方的な要求と取られても仕方な
かった。強請る相手と順番を履き違えていると、大人達は往々にして顔を顰める。

 何で? 何で? 何で?
 どうしてそんなこと言うの? 私は傷付くんだよ?
 しかし彼らの反応もまた、極端へと寄る。大人達がそうしたように、彼らもまた不快に顔
を歪めた。聞き入れられないという現実、何よりも先ずそこに刺さった痛みを感じ、寧ろ病
は拗れてゆくのだ。お互いに、プラスへ引き上げようとする力が働かないでいた。

 何処までも膨れてゆく。何処までも肥大化する。
 いや、症例自体は何もそう珍しい訳ではなかった筈だ。ただ“前進”するしかない、する
時間ばかりで占められてきた今までを、セカイの全てだと思い込んでしまう特有の万能感。
 きっと誰しもが、かつて通ってきた道だ。自己は、意識はどんどん四方八方へと膨らんで
ゆくのに、反面その境目は総じて脆い。内側がスカスカ──まだ詰め込むべき密度が追いつ
いていないのだから、当然と言えば当然なのだが……。

『止めなさい! そんな言い方、しちゃあいけません!』
『若造が……。もっと立場を弁えてから物を言え』
『全く、常識ねえのかよ……』

 それでも大人達、今の先達と呼ばれる者らは、そんな背景を忘れている。自分もかつて通
ってきた道だと、鷹揚に構えてこれを受け止めてやることをしない。自身が既に充分な余裕
を持っていないのだ。
 徒な肥大を押し留める体力も、彼らを諭し導いてやる論理も、今や時代の只中に横たわっ
てはいなかった。一方で彼らに顰めっ面を返すだけの反射──自らへの実害にはとんと敏感
なものだから、これを“叩きのめす”ことだけは今も尚、色濃く根強く生き残っている。

『○○って言ったら○○だろうが! 出直して来い!』
『ちょ、ちょっと待ちたまえよ。流石にそこまでするのはやり過ぎじゃあないか?』
『ああ? 何を温いこと言ってんだよ?』
『そうだそうだ! ああいう馬鹿にはな……口で言って聞かせても解んねえだよ』
『馬鹿って貴方ねえ……。それは単に、怯えさせてるだけでしょう?』
『だからどうした? 昔っから云うだろう? 出る杭は叩かれる──何も知らない癖に、態
度ばかりデカい奴なんざ、どのみち何処かで痛い目に遭うんだ。だったら今の内に、他人様
に迷惑を掛けない内に教わってた方が……まだ親切心ってモンだろ』
『最近の若ぇのは、本当無駄にプライドばかり高いからなあ』
『……プライド、か。そう単純に切り捨てられるのならば、どれだけ楽なことか……』

 尤もそれらが明確に幅を利かせていたのも、今は昔。
 老いも若きも、今はこれまで他人がどんな苦悩を抱えてきたか、知られずに葛藤してきた
かを知ることができる。知られることさえなかった真実が、白日の下に晒されて、それまで
の価値観を大きく揺るがしてきて久しかった。
 意識は──変遷する(うつろう)のだ。
 誰かが叩き捨てるものがあれば、誰かが拾い上げようとする。彼は、彼女は大事な存在だ
と、皆で共に守ろうと声を上げる試みがあった。繰り返されてきた。きっとそれらを後世の
人々は、開明と呼ぶのだろう。

 ○○……? 違う、●●だ。●●じゃないのか?
 何でそんなこと言うの? 何でそんなに私と違うの? 私は……間違ってるの?
 聞こえてはいた筈だ。耳を傾けようと思えばできなかった訳ではない筈だ。
 それでもやはり、彼らの少なからずは迷うだろう。相対した彼らの、大人達の意図した所
を、完璧に汲み取ることなど出来ないだろう。
 だってそうした力に、知識に欠けているからこそ、少年は怒らせてしまった。少女は暗澹
とした気持ちになった。足りない者にただ足りないと罵った所で、一体何の解決になるとい
うのだろう? そして尚も寄り添ってくれる誰かをも、彼らはやがて信じなくなってゆく。
皮肉にもしばしば大人達がそうであるように、現在(いま)在る価値を、自身のセカイの中
に取り入れることができない。より狭く、堅く閉じ籠もる……。

『ほら見ろ! だからこいつらは駄目なんだよ!』
『もう構うな、放っておけ! このままじゃあこっちも共倒れになっちまう!』
『彼らは未来の担い手でしょう!? 切り捨てていい筈がない!』
『だったら、手前で何とかすりゃあいいんだろう? 俺は知らん、俺は知らんぞ!』
『“役に立たない”のなら要らないと……? 貴方達がそうなっていた可能性だってあるの
に……』
『だから、そういう奴は淘汰されてきたんだろうが。今も昔も』
『甘ったれてんじゃねえよ!』

 はたして、閉じ籠もっているのはどちらなのだろう? 若き彼らだったのか、今や旧び始
めた大人達なのか? 或いは実際、両方なのか?
 皆、余裕を無くして久しかった。誰かを思い、誰かの為に与えることに意味を見出せなく
なっていた。自らを盛り立て、維持するだけで精一杯だった。そこから一歩抜け出し、拘る
ことを捨てられずにいた。
 何故なら即ちそれは……“損”であるから。捧げたことで自身の取り分が減っても、彼ら
が感謝してくれるとは限らない。報いてくれるとは限らない。巡り回って帳消しになるほど
の“得”が戻って来るには時間が掛かり過ぎた。その間に抜け出さず、より自らの方へ引き
寄せ続けた者ばかりが肥えていったのだ。総取りに近い形が続いた。誰も、そんな馬鹿をみ
るのは嫌だった……。

 俺は強くて、俺は正しい。少年は信じていたかった。
 私は大切にされるべきだ。少女は疑うことを恐れていた。

 自分がもっと認められてもいい筈だ──それは裏を返せば、彼らのこれまでの人生が、充
分に満たされてこなかったことを意味する。無理もないのかもしれない。だからこそ、或い
は彼らのそんな“罪”の大元は、他ならぬ大人達にあった。自らの汲々とし、与えることを
してこなかったが故に、充たされぬ「子供たち」が生み出された。充たされなければ、進め
なかった。
 彼らはただ、欲しかっただけ……なのかもしれない。
 もしかしたら、或いはきっと、足りぬことは誰よりも解っていたのではないか? 上手く
識(し)り得ないとしても、何処かでこれが“違う”と経験していた。解らずとも、記憶の
中に怒鳴ってきた相手がいた。罵ってきた相手がいた。別たれてしまった相手がいた。
 ただ彼は、彼女は、そんな現実を上手く認識できなかった。原因の正体にまで辿り着けな
かった──反発するしかなかったのだ。
 他人(そと)に攻撃するか、自身(うち)を攻撃するか。
 認めることは何よりも辛くて、傷付く。それだけは何としても避けたかった。元凶は他に
ある筈だと思いたかった。誰もちゃんと教えてくれなかったから、解らなかった。解らない
という自分を、認めてくれなかった。目の前に立ち塞がる壁はいつだって堅いけれど、越え
られないものだったから。
 助けを求めるよりも、憎む気持ちが増えた。諦めることが増えた。
 自分さえ我慢していれば、なるべく迷惑を掛けないようにひっそりと生きていれば、少な
くともやたらめったらには怒られない……。

『だ~か~らぁ~! 一体、何度言ったら解るんだよ!?』
『文句があるんなら、何か言ったらどうなの? 黙ってちゃ何も判らないでしょ!?』
『……なあ。これでもう何回目だ? 覚えてるか? あんまりこうも繰り返されると、こっ
ちもいい加減庇い切れなくなるんだよ。そこん所、解ってる?』

 尤も明確に苛立ってくれる大人達は、まだマシなのだろう。まだそれだけ、感情を彼らに
向けようとする意思があると言えるからだ。それぞれの、その時その場の立場というものが
あったのかもしれないが、言葉にして放たれてはいた。叱咤と罵声と──最後通牒。たとえ
それが、本当に切り捨てられる瀬戸際の出来事だとしても、彼ら当人にしてみれば怒られて
いることには変わらないとしても……少なくとも目に見える反応だったからだ。

 もし本当に切り捨てるのなら、本当にどうでもいい、自分にとって“害”にしかならない
誰かだと決め終わった後であるのなら──そもそも“何も言わない”。何も言わずに大抵の
他人(にんげん)は、彼らの前から立ち去ってゆく。貴方を早々に見限ってゆく。

『……』

 孤高と孤独は、似ているようで違っている。仮に憧れ、目指した先が違っていたのなら、
それは結局の所“理想に溺れて死ぬこと”に等しい。美しさとはおよそ、万人向けとは言い
難いのだから。
 それでも彼は、彼女は尚、信じ続けるのだろうか? どちらを、何を選ぶのだろう?
 警告は為されている。或いは既に、為された後なのかもしれない。
                                      (了)

スポンサーサイト



  1. 2019/12/29(日) 00:00:00|
  2. 週刊三題
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<(企画)週刊三題「握る手」 | ホーム | (雑記)厭世家を気取るような散文>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://higurasisouann.blog27.fc2.com/tb.php/1184-b12908dd
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

訪問者累計

最新記事

最新発言

検索窓

月別履歴

07 | 2020/08 | 09
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -

分類/索引

【案内板】 (2)
【小説:短編】 (20)
本の蟲 (1)
硝子野不動産店 (1)
夏の日の幻影 (1)
四番線の彼女 (1)
夢視の宿 (1)
線を曳く町 (1)
炬燵の神様 (1)
三者三盗噺 (1)
色眼鏡 (1)
奴らは攻城戦師 (1)
詰め替える (1)
同じ籠の狢 (1)
二十年後の遺言 (1)
轍の先 (1)
水に流せば (1)
真夜中の御二柱 (1)
いつか見た夢 (1)
神様達の初詣 (1)
白い花束 (1)
丸の代償 (1)
【小説:長編】 (205)
Amethyst League (6)
アンティーク・ノート (3)
ユウキのヒカリ (5)
NIGHT GUNNERS (5)
レディ・ルーン-Bonds of RU'MEL- (6)
ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- (116)
死に損いのデッドレス (5)
Dear SORCERY (4)
サハラ・セレクタブル (55)
【企画処】 (510)
週刊三題 (500)
その他参加物 (10)
【資料庫】 (2)
【落書帳】 (2)
【詩歌帳】 (9)
【雑記帳】 (419)
【読書棚】 (32)
【遊戯倉】 (25)
path. (4)
decide: (3)
ユー録FW(凍結中) (17)

記事録

交友関係

このブログをリンクに追加する

(RSSリンク)

(QRコード)

QR

Tweets by long_month