日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「私罪」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:白、火、遊び】


『イエーイ!!』
 あんな事になるなんて、その時は全く想像すらしていなかったんだ。
 只々何時ものように、気の置けない仲間達と一緒に集まって、馬鹿をして。そんな日常が
明日からも明後日からも、ずっと続くものだと信じて疑わなかった。……青春ってものはき
っと、そんな無駄に突っ走っている内に過ぎ去ってしまうものだったろうから。

 俺達はその夜、近所の空き地に集まって花火をしていた。夏休みもそろそろ終わりに近付
いてきて、まだ使い残している分があるからと、何時ものようにその場の勢い・ノリで遊ぶ
ことが決まった。昼過ぎぐらいには塩田の家に集合し、皆でわいわいとコンビニ飯を突きな
がらゲームをして時間を潰し、日が落ちてしまうのを待った。
 やっている事自体は、何てことない。ただ皆で残りの花火を使い切ってしまおうという、
それだけの企画だった。それだけのことなのに、俺も皆も、妙にテンションが高くって。
 ……多分、それが俺達のデフォルトだったんだろう。誰がそうしろ、こうしろと命じた訳
じゃあないけれど、陰気よりも陽気が良かった。或いは今この瞬間が、いずれすっかり消え
去ってしまうことを、何処かで理解していたからなのかもしれない。忘れたくて、誤魔化そ
うと必死だったのかもしれない。
 家によって、それぞれ違っていただろうけど、皆親の背中を見ていたから。ああやって大
人になってしまえば、毎日が“疲れた”ものになる。それ以上は無いし、その癖それ以下な
ら簡単になり得る。そんな現実に、まだ大人になり切れない俺達は目を背けていたんだ。
「へっへえ~。結構綺麗に出るモンだな。とっくに湿気てるかと思ったのに」
「まあ言って、棚の奥だったからなあ。買ったのも去年ぐらいだろ?」
「線香花火とかは、逆に古い方が綺麗って婆ちゃんも言ってたな」
 夜闇の中、俺達はそれぞれに花火を手にして身体を揺らす。点火して十数秒の命。火花は
パチパチッと音を上げて赤や黄色、色んな明かりを放って俺達の目を楽しませ。束の間の童
心に返らせてくれる。
 小澤がその体格に似合わない、にんまりとした笑みを浮かべていた。花火を提供してくれ
た塩田も言い、俺達の中でも比較的博識な川添も、ぼうっとその場に突っ立って、自身の手
の先で続いている火花を見つめている。
「夏休みも……こうして終わっちまうんだなあ。やべーな、まだ宿題終わってねえや」
 事件は、ちょうどそんな時に起こった。ちょっとだけしんみり、浜口が屈んで線香花火の
火が消えて落ちるのを見届けた後、ふと顔を上げると引き攣った表情(かお)を浮かべて叫
んだんだ。
「お、小澤!! 後ろ、後ろッ!!」
『え──?』
 言われて、ちょうど真向かいに居た本人も、俺達もつられるようにして視線を向ける。
 浜口の示した先、空き地を囲む柵を隔てたすぐの家が一軒、燃え始めていた。状況的に小
澤が手にしていた花火の火花が、運悪く飛んでしまったのだろう。暗がりで最初気付けなか
ったが、策もこの家も古い木造だったため、火の回りが早かったらしい。
「ッ?! 燃え──」
「おいおいおいおい!! やべぇんじゃねえのか!?」
「水は、水は? おい、バケツ寄越せ!」
「だっ……駄目だ! 持って来た分じゃ足りねえ! 広がって……」
 間違いなく、俺達は酷く動揺していたと思う。最初こそ川添が消火という発想に思い至っ
ていたようだが、その時にはもう燃え移った火は家の半分ほどを呑み込み始めていた。後始
末に軽く浸ける程度、バケツに半分ほどしかない水では、到底間に合う気がしなかった。
「や、やべえ……」
「これって、俺達の……?」
「馬鹿野郎! 何ぼさっとしてやがる!? 逃げるぞ! 見つかったら拙い!」
 なのにあろう事か、当の小澤は誰よりも早く“その場から逃げる”ことを選んだ。怯えて
後退りする塩田や川添、浜口を半ば無理矢理引っ張るように、普段以上の乱暴な声色で走り
去って行った。三人もわたわたと、大急ぎで後に続いてゆく。
「あっ……あっ……」
 でもその中で唯一、俺だけは、すっかり腰を抜かして動けなくなってしまったんだ──。

「家の中にいたご夫妻な。死んだよ」
 結果俺は、近くを通りがかった人に火事ごと通報され、警察に逮捕された。夜更けの取調
室で、険しい顔をした刑事さん達の一人が、そうたっぷり間を空けてから告げてくる。
 嗚呼……人が居たのか。
 何でもあそこは、年老いた夫婦が長年暮らしていたのだそうだ。あの時も二人はとうに床
に就き、熟睡していたらしい。逃げる暇も無かったそうだ。家は全焼。火を消し終えた後に
調べてみると、彼らは寝室だった場所で焼け死んでいたという。
「──」
 俺は絶句していた。到底目を合わせられず、俯き加減で膝の上に乗せた手を見ていた。
 ぐらぐらと視界が揺れる、セカイが白黒になって崩れそうになる。それをむんずと、別の
刑事さんが、こちらの首根っこを掴んで引っ張り起こす。
 ギロリと……俺を憎む眼をしていた。
「おい、坊主。何とか言えよ。謝罪の言葉の一つぐらい出ねえのか?」
「ッ!! ごっ、ごめんなさ──」
「岩さん。あんまり脅さんでください。彼は動揺してます。押さえつけて、供述が取れなく
なったら何にもなりませんよ」
 反射的に答えようとした。でもそれに半ば被せる形で、さっきの刑事さんがこの強面の刑
事さんを諫めて言った。多分苗字、ニックネーム。見た感じこの人の方が、後輩のようにも
見える。ぼんやりと、ようやく自分から視線を上げられるようになった。
「……池戸君と言ったね? 火の手が上がった時のことを、君の口から話しては貰えないだ
ろうか? 一応、目撃者集めは行っているが、やはりこの手の事件は直接の供述が重要にな
ってくるものでね」
 先程の刑事さん、周りの人達に比べれば落ち着いた口調だったけれど、それでも有無を言
わさない圧力がそこには在った。俺はコク、コクと頷きながらも、中々喉から上手く言葉が
出て来なかった。俺達がやらかしたこと。わざとじゃなかったとはいえ、人を死なせてしま
ったこと──その現実に、先ず俺の全身が強張っていたんだと思う。
「じ……自分、は……」
 訥々と刑事さん達に話した。あの時使い残されていた花火をやっていて、気が付けば火花
が家に飛び散ってしまっていたこと。思いもしなかった事態に動揺している内に、どんどん
燃え広がってどうしようもなかったこと。
「で、君は腰を抜かして動けなくなっていた、と」
「……はい」
 寧ろそうやって刑事さんに言われ、ようやくあの後自分がどんな反応を取っていたのかを
思い出す事が出来た。そうだ。目の前で燃え盛ってゆく柵と家、夜闇の中で明るくなってゆ
く癖に、妙に恐ろしい光景に足が竦んで、冷静な判断なんて出来やしなかったんだ……。
「他の子?」
「えっ?」
「他の子達は、どうしたんだい? 君の話では、その時他にも友人達が一緒だったように聞
こえる。だけどこちらでは、その子達の身柄はまだ確保されていない」
「えっ……」
 小澤達がいない? 捕まっていない?
 真っ直ぐにこっちを見つめてくる刑事さんの目に、俺はまるで金縛りにでも遭ったかのよ
うな感覚に陥っていた。……そりゃそうか。そういえばあの時、あいつらは我先に逃げて行
ったんだもんな。腰を抜かした俺を放っておいて。多分今頃、家に戻ってじっとやり過ごそ
うとしているんじゃないだろうか? 特に小澤や塩田は、飛び火させた本人と花火を提供し
た出元だ。いざ捕まれば、俺の比じゃあ済まないだろう。
「……」
 でもいいのか? ここであいつらのことをゲロっちまっても。
 少なくともこの刑事さん達は、あいつらの顔は知らない……筈だ。俺が黙っていれば、絶
対に捕まらない訳はないにしても、それまでの時間は延びる。
 何より俺が喋ったことがバレちまったら、あいつらにどんな目に遭わされるか……。
「知らないのか? そんな訳ないだろう」
「庇い立てする気なら……分かってるだろうな?」
「ちょっと待ってくださいよ。脅したら喋るものも喋れなくなると、あれほど」
 そんなこっちの躊躇いを、殆どの刑事さん達は悪い方向に捉えたようだ。
 共犯ならば、それ相応の対応を。だけどさっきの若めの刑事さんは、この時も俺を庇って
くれた……ように見えた。他の刑事さん達を何とか宥めながら、改めて俺に向かってスッと
顔を近付け、促すように言ってくる。
「友達の名前を、教えてはくれないか? 場合とその時の状況によっては、君の罪が軽くな
るかもしれないぞ?」

「──判決を言い渡します」
 あれから一体、どれだけの年月が経っただろう。俺は結局小澤達のことを話し、あいつら
残る四人も警察に逮捕されたようだ。裁判は皆別々だったけれど、少なくとも厳罰は免れな
いだろう。わざとではなかったとはいえ、二人も人を死なせた……殺したようなものなんだ
から。何よりあの時、俺達は逃げた。必死になって消火することも、助けを呼ぶことも、罪
を犯しましたと正直に告白することも。
 幸か不幸か、俺自身に実刑は下されなかった。火を点けてしまった当人は、目撃者や他の
面子の供述から、小澤であると判明したかららしい。あの時あの場所から逃げ出した他の三
人も、同じように重い罰が下されたという。
 ……別に逃げなかったのではなく、逃げられなかっただけだ。
 俺はあいつらよりも臆病で、裏切り者で、情けなくもあの場で腰を抜かして動けなくなっ
ていた。それだけの違いだったのに。
 でも法律はそれを、情状酌量とか司法取引とか言うらしい。取り調べの時に、刑事さんが
言っていた通りなのか、俺だけは執行猶予付きの判決だった。どのみち前科持ち、人殺しの
烙印を押されたことには変わらないのだけど。
(これから、どうりゃいいんだよ……)
 裁判長からも弁護士のオッサンからも、君はまだ若い、まだ十分やり直せると言われた。
でもそんなのが実際嘘っぱちだと、俺達はぼんやりとだけど知っている。一度罪を、まして
や人を殺してしまったような人間を、世間が受け入れてくれる筈もない。どうせ俺達のこと
を、事件に関わっていたと知れば、すぐに掌を返して追い出すに決まっているんだから。
 尤もそれが、俺に課せられた罰だというんなら、背負ってゆくしかないのかもしれない。
例の爺さん婆さんの家族が俺のことを知れば、多分ブチ切れて殺される可能性だってあり得
なくは無い訳で。
 それでもいいな、楽になれるなと思うことも、やっぱり“逃げ”でしかないんだろうか。
(……うん? メール……?)
 ちょうど、そんな時だった。ようやくあの事件と裁判から解放され、とぼとぼと家路に就
こうとした最中、ふとスマホにメッセージが入った。
 RINEではなくメールってのが、普段あまり使わない自分からすれば妙だなとは思った
けれど──直後画面を見て固まった。背筋が、魂ごと凍えて掴まれるような心地がした。

『よくも裏切ったな』
『娑婆に出たら、覚悟しとけよ』

 ……嗚呼、やっぱりそうか。どのみち、俺(達)の人生は詰んだんだ。
 じゃあどうすりゃあ良かったんだ? お前らを庇って、俺が代わりに刑務所の中に死ねば
良かったのか? 刑事さんの言葉に騙されて、我が身可愛さにお前らを売るような真似をす
るべきじゃなかったのか?
 嗚呼、畜生。誰も助からねえじゃねえか。
 誰の為の数年だったんだろう? だったらいっそ、始めから──。
                                      (了)

スポンサーサイト



  1. 2019/12/16(月) 00:00:00|
  2. 週刊三題
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<(企画)週刊三題「ありふれたJ」 | ホーム | (雑記)如何すれば前向きになれる>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://higurasisouann.blog27.fc2.com/tb.php/1180-f1089048
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

訪問者累計

最新記事

最新発言

検索窓

月別履歴

07 | 2020/08 | 09
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -

分類/索引

【案内板】 (2)
【小説:短編】 (20)
本の蟲 (1)
硝子野不動産店 (1)
夏の日の幻影 (1)
四番線の彼女 (1)
夢視の宿 (1)
線を曳く町 (1)
炬燵の神様 (1)
三者三盗噺 (1)
色眼鏡 (1)
奴らは攻城戦師 (1)
詰め替える (1)
同じ籠の狢 (1)
二十年後の遺言 (1)
轍の先 (1)
水に流せば (1)
真夜中の御二柱 (1)
いつか見た夢 (1)
神様達の初詣 (1)
白い花束 (1)
丸の代償 (1)
【小説:長編】 (205)
Amethyst League (6)
アンティーク・ノート (3)
ユウキのヒカリ (5)
NIGHT GUNNERS (5)
レディ・ルーン-Bonds of RU'MEL- (6)
ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- (116)
死に損いのデッドレス (5)
Dear SORCERY (4)
サハラ・セレクタブル (55)
【企画処】 (510)
週刊三題 (500)
その他参加物 (10)
【資料庫】 (2)
【落書帳】 (2)
【詩歌帳】 (9)
【雑記帳】 (419)
【読書棚】 (32)
【遊戯倉】 (25)
path. (4)
decide: (3)
ユー録FW(凍結中) (17)

記事録

交友関係

このブログをリンクに追加する

(RSSリンク)

(QRコード)

QR

Tweets by long_month