日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「Darling!」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:森、プロポーズ、風】


『──わ、私と、夫婦(めおと)にならないか!?』
 未だもって理由らしい理由は分からない。だけど何故かな、目の前の現実だ。僕は多分狐
にでも化かされているのだろう。

 彼女との出会いは、社会人としての第一歩を踏み出した矢先。要するに就職先のいち先輩
という形だった。綺麗な栗色の髪と真ん丸な瞳。そして何よりも、聞き及んだ年齢に対して
ギャップがあり過ぎるその容姿。
 何て云うんだっけ……? トランジスタグラマー?
 見た目はちんまくて可愛らしいんだけども、女性として出る所は出ている。それでいてコ
ロコロと表情の変わる、一緒に居て面白い人だったから、ついつい僕も引っ張られがちだっ
たように思う。事実同期や先輩の男性社員の中には、密かに狙っていた者もいたようだ。
『……ッ!? !?!?』
 何事も一生懸命で、例えるならば木漏れ日に注ぐ太陽のような人。
 ただ僕には、そんな彼女が何処か無理をしているようで──加えて初対面の際、随分こち
らの顔を見て驚いているようにも見えたのだけど。
 多分他ならぬ自分自身が、最初の内からそう、彼女の中に潜む危うさに勘付いていたから
なのかもしれない。結局は下心じゃないか──言われてしまえば、否定は出来ないけども。
 入社当初から、僕は彼女・澄花(すみか)さんによく面倒を見て貰っていた。同じ課に配
属されたというのも大きいのだろうけど、彼女自身が基本的にそういう性格なのだ。社会に
出てまだ右も左も分からなかった僕を、澄花さんは手取り足取り教えてくれた。言ったよう
に、僕の側も何となく彼女の危なっかしい感じに引っ掛かっていたから、気付けばよく一緒
にいるような関係性になっていた。周りからすれば弟分といった所か。
『倫太郎君は、ちょ~っとばかり真面目過ぎるんだよねえ。もっと軽く考えないと、すぐに
へばっちゃうよ?』
 気楽に構える(テイク・イージー)。それが澄花さんの口癖だった。
 実際、最初緊張しつつ苗字で呼んでいた僕を、早々に名前で呼び合うように言ってきたの
は彼女の方だ。他の人達にもそうだったし、確かに親しみを持てる。そこに容姿のことを絡
めると膨れっ面でご機嫌斜めになるけれど。
 だけど多分……僕が思うに、それは彼女自身の経験も強く影響しているのだろう。緊張し
てガチガチになっても、充分にパフォーマンスは発揮出来ない。試行錯誤、失敗の繰り返し
の中で至った“悟り”の境地のようなものだと僕は理解するようになった。その頃には、そ
うした確信を得る頃には、彼女のことが益々好きになっていた。
『そう、でしょうか……』
 一人の人間としてだ。先ずはともかく。
 尊敬できる相手だからこそ、こちらも力を尽くして支えようと思ったし、何度も自分も力
不足を痛感させられた。なのに澄花さんは、それでも僕を──僕らチームの仲間達をその明
るさで包んでくれたし、励まし続けてくれた。多分最初会った頃に抱いた、彼女自身も内心
では苦悩に苛まれているであろうとの想像が、間違っていなかったにも拘らず。
『そうだよ~。全部が全部、私達は自分の力では変えられない。でも、全く変えられない訳
じゃないんだから。私や倫太郎君、皆がそれぞれ持ってるものを使って、少しずつ動かして
ゆくの。大変だけどね? だけどそうやって進んでいかないと、未来に待っているのは緩や
かな死だから』
『……』
 それこそ、普段は本当にコロコロとよく笑い、よく動き回る僕らのチーフ。なのに時々そ
うやって、ふと仕事から一歩離れた先で妙に達観したことを言う。
 年の功、姉貴分というのもあるのだろうけど、僕には何だかそれだけでは説明がつかない
ような気がして。彼女が内側に抱えている闇と、少なからず関係があるんじゃないかと、下
手に勘繰ってばかりで。その度に、僕はずぶずぶと沼に嵌っていって。
『……そう、ですね』
 だけども正直、あまり悪い気はしなかった。仕事終わりに行きつけとなったバーでグラス
を傾けつつ、何度二人して束の間の一時を過ごしたのだろう?
 僕はじわりじわりと、そうやって関係を深めていった。最初はそれこそ、彼女からのお節
介に流されるがままに任せざるを得なかったのだけど。
 多分田舎にいた頃の、もっと気安い(気安過ぎる)人間関係が蘇っていたんだと思う。
 なのに僕は──寧ろそんな澄花さんと関係に、何故か“懐かしさ”すら感じていたんだ。

『わ、私と、夫婦(めおと)にならないか!?』
 そんなこんなで、彼女からのまさかの逆プロポーズをされた頃の記憶に戻る。
 確かにあの当時にはもう、僕らはただの上司と部下、先輩と後輩という関係では収まらな
かった。しばしば「倫太郎君、遊びに行こう!」と休日なのに誘われて出掛けることもあっ
たし、仕事以外でも接点が多くなっていた。
 なのに突然そんなことを、しかも顔を真っ赤にされながら言われた原因は……うん。僕に
も悲しいかな、心当たりぐらいはある。
『……い、いきなり、そこまでステップアップしますか』
『ううっ! いきなりとは何だよ~!? 乙女の純潔を奪ったのは君じゃあないかー! 責
任取るって言っただろ~!?』
『うっ!? そ、それは……。言ったのは憶えてますけど……』
 ぶっちゃけ、寝た。いやまぁ、事の成り行きというか。これまでの付き合いが段々となし
崩しになってきた末のというのか。
 そう必死になって言い放ってくる澄花さんも可愛いなあ……とか思ったけれど、多分実際
に口に出してたらポカポカ叩かれてた。僕だって一応、気付いていない訳じゃなかった。お
よそ好意と呼べるものを寄せられていたことと、自身も寄せてはきたことは解っている心算
だったけれど、まだ迷いも強かった。本当にこのまま彼女を貰ってしまっていいのか? と
いう体裁諸々の疑問と、そもそも何故当初から、この人は僕に目を掛けてくれていたのだろ
う? という根本のそれと。
 ただまあ……どれだけぐるぐると頭の中で考えても、僕に拒み切る材料なんて見つからな
かった。実際本心じゃあ嬉しかったし、相手にここまで言わせてしまったら男が廃る。
『……そ、その。僕なんかで良いのなら……』
『!! ~♪』
 故に僕は、彼女からの申し出を受け取ることにした。凄くびっくりして幸せそうな顔をし
てくれて、直後僕は思いっ切り抱き付かれた。
 本来ならもっと──きちんと交際を始めてからゴールインへと、順番を踏んでいった方が
良かったんだろうけど。

『す、澄花さんと結婚んんんーッ?!』
『そっ、そりゃあお前、彼女とは仲の良い部類だったけどよう……』
『うわー! うわー! おめでとう、糸井君!』
『深森(みもり)さんのこと、大切にしてあげてね? あ、どっちも糸井になるのか』
 当然というかこれまでの経緯、義理立てもあって、婚約の報告は会社やチームの仲間達に
は速やかに。皆には凄く驚かれたり、祝福して貰えたり、ジェラシーを向けられもしたけれ
ど……全体的には好意的に受け止めて貰えた。そこからは本当にバタバタッと話が進んでい
って、新居やら今後の立ち位置の話になって──。
「へえ~、此処が倫太郎君のお部屋かあ。何と言うか、うん……狭いね」
「そりゃあ今まで一人暮らしだった訳ですから。他の人は知りませんけど、僕はあまり生活
に金はかけない方なので」
「謙虚だねえ。まぁでもこれからは、厭でも賑やかになるよ? 私と……未来の子供達と」
 結局澄花さんは、寿退社という格好で落ち着いた。夫婦になったことは既に周知の通りだ
ったし、贔屓目云々を踏まえて一度身を引くべきだとの判断が、会社と彼女自身の中であっ
たようだ。僕は別に構わなかった──今までも仲の良い同僚という関係でやってきたし、寧
ろ経済的にはしんどくなるのは目に見えていたのだけど、澄花さんに「そこは頑張って貰わ
なくちゃ、旦那様?」なんて言われた日には……言い返せない。まぁ惚気ているだけなんだ
ろうけども、その辺りもまた、夫婦になるっていうことで。
「そう、ですね。やっぱり色々すっとばしちゃったよなあ……。同棲とかもやってなかった
訳だし。色々居るものとか要らないものとか、その辺りの整理もしないと──」
 えいっ。なのに彼女は、あれこれと思案をする僕の頬を指先でぷにっと押す。
 何するの!? 思って顔を向けてみると──澄花さんは少し不機嫌そうだった。但しそれ
は本気で怒っている訳ではない。なまじ付き合いが長くなってきたから解る。
「敬語。もう先輩後輩って縛りは無いんだから、もうちょっと砕けて喋ってくれないと」
 テイク・イージー。それは当初から、彼女が口にしてきた言葉。何より彼女自身が、ずっ
と密かにもがきながら至った筈の境地だった。準備は万全、事細かに。だけど振る舞いは努
めておおらかに。顰めっ面の人間の下に、笑顔の仲間達は集まらない。
「……うん。そうだね。これからよろしく」
「うん! これからは私もついてるから。大丈夫大丈夫、何とかなるさー♪」
 だから改めて僕は、僕らは互いにハイタッチ。手を取り合って歩いてゆく。必要となるも
のを埋めてゆく。新たな大仕事(プロジェクト)が始まるんだ。
「それで澄花さん。さっきさらっと子作り宣言してた(ひとがふえてた)けど──?」

 ***

 私は元々、人間ですらなかった。とある山奥の社に祀られた、森の守り神だった。
 尤もその役目を果たせていたのはずっと昔の話で、今ではすっかり寂れて久しい。地元の
人間達はとうに私の存在も、私を生み出した信仰それ自体も忘れ去り、只々無為に時間だけ
が流れていた。放置されて朽ち果てゆく社と同じように、私もそう遠くない将来消滅してし
まうだけの存在だった。
『──おねえちゃん、だぁれ?』
 でも、ある時そこに“希望”が現れた。その後の私の人生──文字通り“人としての生”
を決定付けた一つの出会いがあった。
 山の麓に広がる、まだ残っていた集落に住む男の子だった。この時はまだ幼く、何の疑問
も持たぬまま近隣を日々駆け回って遊んでいたのだと思う。
 神霊たる私の姿が視えていたのも、ひとえにその純粋な心根だったからなのだろう。最初
社に迷い込み、そして私に向かって話し掛けてきた時……その表情は哀しそうだった。まる
で私のこれまでの境遇、最早消滅するのを待つしかない身であること五感で察知していたか
のように。
『……あら、珍しいわね。こんな所に子供が来るなんて』
 最初はそう威厳いっぱいに返して、さっさと村に戻してやろうと思っていた。もし遭難で
もしてしまえば、ただでさえ数を減らしてゆく一方の村人達がこの山に立ち入らなくなるだ
ろう。それで今更私への信仰が戻ってくる訳でもないが……そんな悪影響になることだけは
避けたかった。その意味でこの時まだ、私は自らが消滅してしまう未来を恐れていたのかも
しれない。
 ……だというのに、この子は麓に送ってやった以降も頻繁に社を訪ねるようになった。そ
もそも子供の体力で登って来れるほど容易な場所ではない筈なのに、どうして?
 私は驚きもしたし、畏れもした。きっとこの子は森に歓迎されていたのだろう。邪心なく
この山に遊び、庭のように想っていたことで、精霊達もそれとなく道を譲ってくれていたら
しい。余計な事を……。私は思ったが、一方で段々と、彼が遊びに来るその時が楽しみにな
っていることに気付いた。山の外が今どうなっているのかは、私自身あまり聞き及ぶ機会が
なかったし、何よりこの子の屈託の無い笑顔に救われていたから。どれだけ……凍えていた
時間が温かさを取り戻しただろう。
『おねえちゃ~ん!』
『それでね、それでねっ?』
 彼は私の社を訪ねてくる度、下界の色々な事を話して聞かせてくれた。尤も彼自身その情
報源とやらは大人達の又聞きだったようだけれど。それでも十二分だった。他にも誰かが生
きる世界があると知れたから。確認できたから。
 この子に──倫太郎に、逢えたから。
『そっかそっか。街はそんなに栄えているんだねえ……。その内、この辺りも本当に人がい
なくなってしまうかもしれない』
『うん……。お父さんも言ってた。僕達がいなくなったら、学校もなくなるって』
 廃校か。ある日、珍しくしょんぼりと告げた彼の言葉に、私は静かに眉根を下げる他なか
った。どれだけ無邪気な魂が頑張っても、時代の流れまでは止められないのだ。いずれこの
子も大きくなり、他の者達と同様街へと出て行くのだろう。そうして次第に、私のことも忘
れ去ってゆく。
『だから、だからね?』
『? うん』
『おねえさんも一緒に行こうよ! 皆で、一緒に暮らそう?』
『──』
 実際の所、それはとても些細な一齣だったのかもしれない。幼い少年の希望というか、ま
だ人の世というものを知らない妄言の類であったろうし、だからこそ真っ直ぐにそう瞳を輝
かされて誘われても……辛いだけだった。悲しいだけだった。
 でも、と私はその時思ったのだ。仮にこの子の成長と共に傍に居続けることは難しいとし
ても、わざわざ自分がこのままずっと神霊でいる必要もないのではないか? 朽ちたこの社
と共に、消え去るのを待つしかない訳でもないのではないか?
 即ち……神格を捨てるということ。神霊ではなく、一人の人間として生きるということ。
 そんな考え、可能性が脳裏を過ぎった時、私は内心自嘲(わら)っていた。我が身可愛さ
故に、そこまで堕ちたかと。だけども一方で守り神だの何だと、とうに忘れ去られた存在と
してひっそり消え去るよりも、残りの人生を別の形で全うするのだって悪くない──そう思
えるようになってしまっていたのだった。
『そっか……。うん、そうだね。一緒に、暮らせればいいね』
 言って、彼の頭を撫でる。私に新しい在り方を示してくれたこの子は、くすぐったそうに
こそしていたものの、私を拒むようなことはなかった。受け入れてくれた。それがとても久
方ぶりだったのもあって、魂の芯から温かかった。……故に決めた。此処を出ようと。ただ
座して死を待つよりは、自分なりに抗ってみようと。

 それからの試行錯誤は、正直言って必ずしも上手くいったとは言い切れない。
 第一私達が神格を捨てるということは、ほぼ死に等しいようなものだ。場合によってはそ
のまま直接消滅へと突き進む危険性だって高い。
 だけども私は……人間になることを選んだ。まだ残っていた霊力を振り絞って、自身が受
肉を果たせるよう、入念な準備を重ねた。……その間に、当の倫太郎はすっかり成長して私
や森のことなど忘れてしまったようだったけれど。
 幸い、そうして受肉には成功した。少なくとも人間として現世に留まれる点については確
定した訳だ。ただそれは一方で、物理的に“食っていかなければ死ぬ”という事でもある。
 要するに──働かなければならなかった。
 ただでさえ、現代の人間のことはよく分かっていなかったというのに、そんな彼らの波に
揉まれつつ、その営みに加わろうと四苦八苦する日々。
 最初はそれこそ失敗続きで、どやされてばかりだった。常識が無い、態度がなっとらん、
お前それで本当に○○歳か──? かつて“神”として祀られてた過去が、まだ残っていた
幾許かの自尊心が悲鳴を上げる。それでも私は、もうそれらを全部捨ててきたのだと、心を
鬼にして“働き”続けた。人として生きるのはどういうことかと、一から学びながら歳月を
重ねてきた。
 幸い戸籍やら何やらを誤魔化すぐらいの力、下準備は済ませてある。
 尤も受肉を始めとし、それらへ至るまでに霊力を使い果たしたせいか、随分とちんまりと
した見てくれになってしまったのだが……。
『ほ、本日付けで配属となりました! 糸井倫太郎です!』
 だから──本当に本当に、報われたような気がした。忘れる筈もない。あの時私が身を寄
せていた人間の会社へ、あの集落の子がやって来た。まだ真新しいスーツ姿のまま、ガチガ
チに緊張して、私や同僚達の前でそう自己紹介をしてきて。
(ああああああああ!? 倫太郎!? 倫太郎だ! また……また会えた……!!)
 正直な話、驚きと嬉しさと焦りでぐちゃぐちゃになって、声が出ないように抑えるので必
死だった。流石にもう、向こうは私のことを憶えてはいなかったし、そもそも私が受肉まで
して先に街(こっち)へと出て来ていたなんて知る由も無いのだけれど。
 ……嬉しかった。あの頃に比べてずっと背丈も伸び、当時の面影は殆ど探せなくなってい
たものの。何より無邪気さが失われて、随分と長考する(むずかしい)性格になってしまっ
ていたものの。
 バレないように、探られないように。
 私は先ずあくまで先輩として、彼の面倒を見る事にした。というより、傍に居たかった。
あの頃の疎遠から今日までの歳月を埋めるべく、何よりその間に彼に一体何があったのか?
どんな歴史を刻んできたのか?
 就職までのこと、仕事のこと。これからのこと。
 どうやら彼は、やはり廃校後も集落に居続けられず、両親と他の土地へと移り住んだのだ
という。そこから高校・大学と進学し、そのまま就職をしてうちへ。右も左も分からないま
ま、不安と闘いながら社会人として一歩を踏み出し始めたばかりだった。
 ……同(おんな)じだ。私は内心凄くシンパシーを感じていた。まさか私の正体を思い出
すでもなく、精々先輩として似たような道を歩んできたのだろう程度に捉えられて、だけど
も私達は次第に打ち解けていった。色んなことを相談し、励まし合う仲になっていった。彼
はそこで、周りの子達の掘った腫れたものあったようだけど……私を異性として意識するよ
うになったみたい。嬉しかったけれど、焦るのも憚られた。思い出されたら色々とややこし
くなる、というのは結構建前で、その実はまた彼に去られてしまうのが怖かっただけなのか
もしれない。
『わ、私と、夫婦(めおと)にならないか!?』
 だから──色々彼の言うように“過程”をすっ飛ばしたのは確かにアレだったかもしれな
いけれど、そうして悶々と膠着が続いたある時、ひょんなことから一線を超えた事を切欠と
して、私は意を決して求愛を試みた。現代風に云うとプロポーズって奴かな? 本来は男か
ら女にするものだそうだけど。
 当然ながら、最初倫太郎は酷く戸惑っているようだった。打ち明けられた想いよりも、事
実として私とその……ゴニョゴニョしてしまった“落ち度”を自罰していたんだと思う。
 別に悪いことなんて無いんだけどなあ。あの夜は、一応私もその心算で成り行きに乗っか
った面もあるんだし。
『ううっ! いきなりとは何だよ~!? 乙女の純潔を奪ったのは君じゃあないかー! 責
任取るって言っただろ~!?』
 だから追い打ちをかけてみた。いやまあ、八割方は素だったと思うけど。
 今ここで決めちゃわなきゃ、また距離が空いてしまうと思った。それは──完全に私の我
が儘だったんだけど、絶対に嫌だった。こっちは一体、どれだけの歳月を君の為に待ったと
思ってるんだい?
『……そ、その。僕なんかで良いのなら……』
(来たぁぁぁぁぁぁーッ!!)
 だから彼がOKをくれた次の瞬間、私はその身体に跳び付いていたっけ。
 あの頃から比べると、すっかり逞しくなった。性格は随分固くなったようだけど、それで
も根っこの優しさは変わらないんだと判った。私としては、それだけで満足。充分過ぎるほ
どに充分。
 結婚。男と女が契りを交わし、同じ所帯として生きる関係。
 愛し合う二人が共に手を携えて、過去に埋(うず)もれるのではなく、未来を作る為に歩
んでゆく為の儀式──。

『だから、だからね?』
『おねえさんも一緒に行こうよ! 皆で、一緒に暮らそう?』

 嗚呼、随分と掛かってしまったなあ。でも私としては結果オーライ、大団円。
 悲観に沈んで滅びを待つのでは、何も光は見えない。それを教えてくれたのは、他でもな
い倫太郎。君なんだよ。
 やっと受肉を果たし、人間として生きながら、ようやく君にまた逢えた。
 安くて狭いアパートでも、何とかなるさ。テイク・イージー。諦観と、一方で前へ進む事
を恐れない精神。必要に応じて、人も物も変わってゆけばいい。明日へ紡いでゆけばいい。
それが君達ヒトの、神々(わたしたち)が終ぞ持てなかった可能性って奴なんだから。
「──頑張ろうね? 旦那様?」
 はにかんで、頬をほんのり赤く染めている、君の何て愛おしいことか。
 何度でも言うよ。ありがとう。大好きだよ……倫太郎。
                                      (了)

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  1. 2019/12/08(日) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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