日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「人の屑」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:廃人、竜、屋内】


 ある時その惑星(ほし)は、蒼い毒に包まれた。
 天を地を、海を。淀んだ大気に耐え切れず、多くの生き物達が死んでいった。或いはその
一部が、更なる災いとして生まれ変わった。秩序の崩壊と、終わりの始まりである。
 ただ人類(かれら)は──尚も滅んではいなかったのだ。

「次。四〇三五番を投入しろ」
 天井も足元も、一切無機質の壁。
 広々とした文字通りの密室で、彼らは努めて淡々と“実験”を繰り返している。眼鏡とマ
スクで表情が見えない、白衣を引っ掛けた男達だった。何重にも隔てられた壁の向こう、巨
大なガラス越しの室内に、新たな“被験体”が放り込まれる。
『お、おい! 何だここは!? 出しやがれ! 誰か、誰か居ねえのか!?』
 一人の、みすぼらしい風体の男だった。年格好は中年ぐらいだろう。不気味なほど清潔に
整えられた白衣の面々とは対照的に、その服装はボロ布同然で、肌や髪も汚れている。元々
そういった造りにしてあるのだろう。どうやら彼はこちら側の様子が見えていないらしい。
「注入を開始。ゲート前の係員達は直ちに避難を」
 そんな中、面々の一人が、ぼそっと無線越しに指示を出す。彼らが私語もなくじっと見守
る中、ガラス向こうの室内に、作業用のアームが一本降りてきた。『何だあ……?』ボロ布
姿の男性はすぐにこれに気付き、怪訝な様子で見上げていたが……直後アームは彼の片腕を
掴み、その先端に取り付けられていた注射針を器用に挿入。何やら青黒い靄状の薬品を、彼
の体内へと送り込む。
『ガッ……!? ガッアア、アァァァ……ッ?!?!』
 するとどうだろう。この男性は瞬く間に苦しみ始めた。
 何もそれは、針(いぶつ)を挿入された痛みからだけではない。靄状の青黒が血管を通し
て全身に巡ってゆくにつれ、明らかに内部から盛り上がってくる“何か”が在る。
 変貌を始めていた。被験体とされたこの男性は、全身から蒼い鱗のようなものに覆われつ
つ、次の瞬間には人の形すら保てなくなった。頭を抱えて何度も巨体を揺らし、異形と化し
た自らに呑まれて獣のような咆哮を上げる。
 形容するのなら、その姿はまさしく“二足歩行するトカゲの化け物”であった。
「──ふむ。これも失敗か」
「不適応と判断。処分してくれ」
 にも拘らず、分厚いガラス越しにこれを観ていた白衣の面々は、驚く様子も見せない。ま
るで散々見飽きたかのように、延々と繰り返してきた日課のように、次へと掛かる。彼らの
合図でこの元ボロ布男性だった怪物は、足元からせり上がる円柱によって頭上へと送り出さ
れていった。しんと数拍、室内には、無音と飛び散った鱗の破片や青い血汚れだけが転がっ
ている。ややあって彼らと同じく白衣姿の係員らが、これを手早く慣れた様子で回収・清掃
し始める。
「次の被験体の準備は?」
「あと三百秒かかります。お待ちください」
 何度かこうした“実験”を繰り返し、一定周期でスペース内を清掃する。日に何十何百と
これを続け、只管記録を取る。立ちっ放しの肉体疲労は勿論の事ながら、正視し続けるには
己の精神を殺して臨む他ない。尤も彼らは、とうにそんな思考さえもなく、疑問にすら感じ
てすらいなかったのだが。
「……成功率が、上がりませんね」
「ええ。相変わらず十人に一人といった所でしょうか」
「十パーセントか……せめて倍にはしたいんだがな」
「それでも実用段階には耐えませんよ。こちら側を減らす訳にはいかないでしょう?」
「だが、上はもっと数字を要求してくるものさ。私達は只々技術的に可能か? を突き詰め
る他ないんだよ」
 二百年ほど前、この惑星(ほし)が突如として蒼い毒に包まれて以降、人類は大きく二つ
に分かれた。毒に汚染された地上に残った者達と、彼らのように地下深くへと逃れ、シェル
ター型の都市を形成していった者達である。そしてこの現状を打破すべく、彼らは毒の研究
を始めた。即ち正体の解明と、対抗出来うる手段の確率である。
「試薬の濃度を今より下げれば、或いは?」
「どうだろうな。成功率だけを上げても、肝心の“耐性”が十分でなければ元も子もない」
 長年、次代そのまた次代へと引き継がれていった研究の末、解ったことがある。それは件
の毒が地上の生き物達に変異を促し、全く別のそれに変えてしまうということだった。
 ならば自分達の取れうる手段は二つ──何らかの方法で毒そのものを浄化する道と、人類
自らが毒の効かない生物に生まれ変わる道だ。
 少なくとも前者は、あまりにも干渉すべき範囲が広過ぎた。何より浄化方法を発見出来た
として、全て完了させるまでにどれだけの歳月が必要となるか。ならばいっそ……先ず自分
達の側が適応出来た方が話は早い。どちらにせよ、浄化を果たすまでの時間は稼げる。その
間に完了させれば良いし、或いは別の惑星(ほし)に移住するという選択肢も考えられた。
 被験体(サンプル)なら、地上に幾らでも転がっている。
 あれから二百年。もうどうせ互いに交わることのない者達だ。汚染を連れて内部に入り込
まれるぐらいなら、せめて何かしらの役に立って死んでくれればいい──厳重に隔絶させた
壁の向こうで、かつての文明を占有していた側の人類が採った、傲慢な切り捨て策だった。
どうせ無価値なのだから、何をしようと構わないという考えが根底にある。
「それはそうなんですがね……。あまり地上(そと)に廃棄する数が増えてゆけば、今まで
のように被験体(サンプル)を採ってくるのも難しくなりますよ?」
「何、心配は無い。向こうの様子は、常時制御室(コントロールルーム)が監視している。
ただでさえ明日の衣食住にも事欠く連中だ。怪物化した者達の活動域から避難させてやろう
と言えば、ホイホイ従ってくれる。仮に突っ撥ねようとも、奴ら自身が耐性化した人類にな
るかどうかの、生きた試金石になる」
「怪物達自体も、どうやら毒を主食としている節がありますしね」
 若手のメンバーの問いに、年長組らが答える。近年の研究で判明したこの事実は、彼らに
とってかなりの朗報でもあった。つまりこちらが“実験”に失敗しても、とりあえず地上に
逃がしておいてやれば、蔓延している汚染を少しずつでも減らせるという訳だ。逆に密室な
どを用意し、汚染物質さえ断っておけば、奴らは勝手に死ぬ。
「だからこその、この専用の隔壁な訳だ」
 地下への移住当初は随分と苦難し、少なからぬ犠牲者も出たというが……今となっては昔
の話となりつつある。例の毒が“無生物”を透過出来ないと判った後、現行の隔離策・実験
は急ピッチで進んだ。何千と採ってきたデータのお陰で、どれぐらいの濃度と肉体の強度が
あれば、耐性を持つ人間へと移行できるか? 成果は徐々に出始めている。
「さてと……。そろそろ実験を再開しようか。次、四〇三六番。投入してくれ」

「──ふぅむ? 中々に粘りますね」
 一方その頃。この惑星(ほし)の遥か頭上、黒い宙(そら)にて。楕円形をした巨大な金
属製と思しき船が、静かに地上を見下ろしていた。地表の大部分を蒼い靄が覆っているとい
うのに、未だそこに住まう“原住種”達は滅びる様子がない。先刻からモニターで経過を観
察していた乗組員(クルー)の一人に、別の仲間が話し掛ける。
「どうやら一部が、より地下に潜って抵抗を続けているらしい。最初は仲間達を見捨てたの
かとも思ったが……どうやら必ずしもそうではないようだ。少しずつ、我々の“平準作業”
にも気付き始めているとみえる」
 ハッと驚いたように、この乗組員(クルー)が顔を上げる。その姿形は──眼下の人類と
は明らかに異質であった。
 形容するのなら、全身に蒼い鱗を持つトカゲ人。その上から彼らなりの宇宙服と思われる
革のような防護服を身に着けており、時折内蔵された機器のランプが明滅する。
 同じく鱗と厚みのある尻尾を揺らし、彼らはチロチロと先端の分かれた舌を出している。
瞬く両目はやや淡い金色で、瞳の部分も同系統にやや濃く縦に長い。
「……驚きましたね。まさかそこまでの知能が彼らにあるとは」
「ああ。侮ってはいけないということさ。この広い宇宙、まだ我々の知らぬ種族がどれほど
居るやもしれぬ。目を付けた土地が、必ずしも易々と掌握出来るとは限らん」
 しかし……。この、面々の隊長格たるトカゲ人は、それでも数拍難しい表情(かお)をせ
ざるを得なかった。こちらを見上げる部下達を眺めつつ、内心板挟みになる。とはいえ、徒
に弱音を漏らしていては全体の士気に関わってくるだろう。
「陛下は痺れを切らしておいでだ。こんな辺境の猿どもにいつまで時間を掛けている? 新
たな土地を待つ民はまだ大勢おるのだぞ──と」
 嗚呼……。すると部下達は、誰からともなくそんな嘆息を漏らした。我らが隊長が、上の
者達に催促されてしまったらしい。仕方ないと言えば仕方ないが、どうして自分達のような
開拓者は、他の隊と比べられてしまうことが多い。
「す、すみません。隊長」
「もう少し、散布濃度を上げてみますか?」
「いや、それだけでは足りぬだろう。少なくとも地下に潜った者達は、我々の大気が自らを
侵すと気付いている。余計に籠って届かなくなるだけだ」
 制御パネルに手を伸ばしている部下達に、彼は言った。なるべく手っ取り早く、自分達の
母星(こきょう)と同じ環境を整備しようとしているのに、彼らがそこから逃れられれば余
計な手間が増えてしまうだけだ。最初の内は比較的上手くいっていたのだが……完全に手中
に収めるには詰めが甘かったらしい。
「……少なくとも、我々が降下して活動する分には支障のないレベルになっている。総員、
武装準備を。残る原住種達は、我々が直接叩き、掌握するものとする」
 故にこのトカゲ人の隊長格は、意を決したように告げた。細めた目が、彼個人としてはあ
まり気が進まないといった本心を物語っているようにも見える。『──了解(ラジャ)!』
十中八九、彼本人よりも上からの圧力が理由なのであろう。部下達もにわかに神妙な面持ち
になり、声を揃えて応えた。無機質な、機材だらけの船内に、暗く煙のような殺気が昇る。
                                      (了)

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  1. 2019/12/02(月) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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