日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「兵どもが」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:兵士、生贄、城】


 平和とは──即ち抑圧である。

 少なくとも彼らはそう信じて止まなかった。信じて疑わなかった。渇き、彷徨い、徒党を
組んで。今日も今日とて、己らが見定めた“敵”への集団突撃を敢行する。
「や、奴らが来たぞぉぉぉぉーッ!!」
 物見櫓(やぐら)からその姿を確認した見張り番が、眼下の同胞達に警鐘を鳴らす。
 何処にでもありふれた、小さな集落(コミュニティ)の筈だった。家々の周囲を、石積み
の塀や堀で囲んである現状さえ、当代に生きる住人達にとってはおよそ関心事ではない。そ
れが当たり前の風景だとして、慎ましやかに日常を過ごしていただけの筈だったのだ。
「急いで、女と子供達を安全な所へ!」
「年寄り連中には知らせてるか? ぼさっとしてたら逃げ遅れるぞ!」
「戦える奴は西門へ集まれ! 何としても追い返すぞ!」
「くそっ! 何でこんな事に……??」
 そんな日々は瞬く間に、文字通り暴力的に非日常へと転がされて。
 体力や腕っぷしのある集落の男達は、それぞれに武器を持ってこれに立ち向かおうとして
いた。しかし元々戦い慣れなどしている訳でもなく、得物自体も粗末だ。本来は普段使いの
鍬や鉈、或いは急ごしらえに作った木の槍など、不安は拭えない。
「落とせ! 落とせッ!」
「抉じ開けろ! 一人残らず滅ぼせぇぇぇーッ!!」
 それでも相手、彼らは容赦しない。今までも今回も、このような素人相手の集団にさえ、
この血走った眼と完全武装で迫る軍勢は集落に押し寄せ、あっという間に閂(かんぬき)ご
と門をぶち破った。吹き飛ばされ、ボロボロになって転がる住人達を、彼らは次々と手に掛
けていった。
 一人また一人と刃で斬り伏せられる、貫かれる。或いは寄って集って滅多打ちにされ、血
みどろになって動かなくなる。赤黒く汚れたボロ雑巾となって、散乱してゆく。
「ガッ! アァッ……!」
「なん、で──」
 問いには答えない。ただ彼らは、ある種嬉々とした表情で──しかし根本的には絶対に充
たされない欲望のまま、足元に転がるこの住人達に止めを刺して回った。その後には集落の
奥へと避難していた女性や子供、老人をも。宣言通り、一人残らず滅ぼすまで、彼らの侵攻
が止む事はない。
「嫌ぁぁぁッ!! 止めて、止めて!!」
「何故じゃ? 何故儂らのような、無関係な者達を襲う!?」
「……無関係?」
「五月蠅いな」
「強いて言えば、そんな風に思っているから──だな」

 刃を振り下ろす。
 彼らの多くは、行き場を失った“荒くれ”達であったが、一方でその中には如何にもとい
うような男達以外のメンバーも含まれている。それは大の男にも負けぬ胆力と武力、時には
旗振り役さえもこなす女傑達であったし、或いはかつて名士だったが、紆余曲折を経て転落
に転落を重ねた者──憎悪の化身と呼んで差し支えない存在であったりする。
 “どうして?”
 彼らが襲う集落の住人達は、往々にしてそう疑問を抱く。
 だが彼らからしてみれば、そんな無辜の思い──自分達に何ら落ち度が無いと疑いもしな
いその姿こそ、憎き在りようであった。叩き潰すべき攻撃の対象であった。
「嗚呼……。お前らはいつもそうだ」
「お前らの言う“平和”なんてモンは、俺達にとっちゃあ糞くらえなんだよ。自分達さえ何
ともなきゃあ、皆笑って暮らせると思ってやがる。皆同じように考えて、同じように生きて
ゆけると疑いもしねえ……」
 罪を犯したから。出自や人生の選択において“邪道”であったから。
 いや、彼らの多くはもっとそんな理由よりも、根本的な部分で周囲と折り合えなかった。
折り合えずに、自分の方が間違っているという回答(こたえ)に行き着けなかった者達だ。
 曰く、世が呼ぶ所の平和とは抑圧である。いわゆる“普通”の下で存在しない(いない)
ものとされてきた者達。信仰。それらと抱いたまま順応し切れなかった者らの集まりが、彼
らという軍勢の起源であるとされる。狂気と共に進撃を繰り返す理由であるという。
「だから、私達は戦うの。私達の信じるものを示す為に。それらが当たり前になった、理想
の世界を創る為に」
 故に彼らは、各地を転々としながら戦いを仕掛け続ける。集落(コミュニティ)に生きる
者達にとっても、まさか一生をその内側で全て完結出来る訳ではなかろう。多少なりとも外
へと出向き、交易せねばいずれ枯れゆく。荒々しい大地を海を、空の下を渡ってゆかざるを
得ないのだ。
 そんな恐る恐ると行き来を試み、拡げようとしていた者達を、当初彼らは狙い澄ましたよ
うに襲ってきたのだった。
「お、お前らには……人の心ってものはないのか!?」
「まっ、待て! 話せば! 話せば分かるッ!」
「五月蠅い。黙れ」
 こちらの意図を知り、歯向かってきた者には当然ながら、逆に対話を試みようとした者に
も彼らは容赦しなかった。先ず指弾する。そして殴り付ける。
 元より彼らにとって、現状という名の平穏に浸かりきった人間は“敵”なのだ。譲歩する
などという発想は無いし、仮に相手と論を交わしたとしても、その信仰が揺らぐようなこと
は在ってはならないのだから。寧ろ己が理想を穢した者として、積極的に攻撃対象へと変貌
するであろう。事実彼らはそうやって“敵”を増やしてきた。身内の中に生まれた裏切り者
に対してさえ、容赦すべきではなかった。
「──やれ」
 刃を振り下ろす。或いは攻略の口火を切る。
 彼らは個々に遠因(バックボーン)を持つようで、殊更それを示さない曖昧な集団だとも
言える。いや、厳密には共に戦ってゆく中で、この世の平穏とやらに対する怒りを共有して
ゆく中で、次第に忘れてゆくのだ。只々個として全として、濃縮された恨みだけが残る。何
よりそれらを中和してくれる「否」や、自分達に従わない者らを取り込む余白こそが消え失
せて久しくなる。拒絶されれば当然“敵”であるし、響き合うのは同胞同士のみ。……それ
でも大抵、彼らの向いている先は味方というよりも、今倒すべき共通の“敵”である場合が
多いのだが。
「落とせ! 落とせッ!」
「抉じ開けろ! 一人残らず滅ぼせぇぇぇーッ!!」
 従わぬ集落(コミュニティ)をまた一つ、討ち滅ぼす。自分達の信仰にとって許せない、
在ってはならぬ者達を片っ端から見つけ出しては、焼き払う。
 泣き叫び、或いは憤怒して抗議する住人達。多くは成す術なく逃げ惑う前者であり、果敢
にも戦おうとする者は稀だ。ないしはかつて戦ったものの、その詮無い結末から“降りて”
しまった者も含まれているのかもしれない。
 ただ、当の彼らにしてみれば、そのような相手側の内情などさして重要ではなかった。今
此処、この集落(コミュニティ)が抱く信仰は“敵”だ。その合意が皆の間で共有されてさ
えいれば、何も怖くはない。迷う理由にはなり得ない。
「く、くそぉぉぉ!! 俺達の、俺達の町が……!!」
「落ち着け! もう仕掛けるな!」
「……目を付けられたのが運の尽きだったんだよ。逃げれば、私達が生き残りさえすれば、
またやり直すことは出来る」
 彼らは各地の、狙いを定めた集落(コミュニティー)を牙城と呼んだ。そこに“敵”達は
壁を築いて閉じ籠もり、許されない信仰を濃くしてるのだと。
 一方で、当の住人らにそのような自覚は無かった。自分達の擁く信仰が必ずしも多数派で
はないと聞き及びつつも、かといって棄て去ろうという気は起きなかった。外側の人々に迷
惑さえ掛けなければ、客人らが訪れる時には自重さえすれば、お互いそれなりに歩み寄れる
だろう──希望的観測の下で生きてきたのだから。 
 それでもこと、彼らはそんな甘い考えを許さない。燃え盛り、大よそ壊滅と呼んでいいほ
ど討ち払われた場に立ち、彼らは一様に勝鬨を上げている。やはり自分達は正しかったのだ
と、また一歩近付いたのだと、熱狂の中に酔う。
『おおおおおおおおッ!!』
 ただ、その熱量の大半を占めるのは──他ならぬ執念の類と呼んで差し支えない。

「嗚呼。この前の遠征は良い戦いだった」
「そうね。もっともっと奴らに、今の世界の異常を知らしめてやらなくっちゃ」
 牙城(コミュニティ)を、一つ潰して束の間の。
 他者を踏み台にすることで始めて得られる充実感と、征服欲。彼らは荒れ果てた大地の片
隅で、逞しくも野営を続けていた。夜闇に火を熾し、食事を取って英気を養う。それぞれの
武勇伝を肴に飲み交わし、抑圧されてきたと主張するその心を大いに慰める。
「──諸君! 次なる標的を見つけたぞ!」
 されどそんな休息は、傍迷惑な旅路は、そう長く一所に留まることを許さなかった。何人
かいる、彼らのリーダー格の一人が台に上り、注目してきた皆へと高らかに告げた。それま
で気安く和気藹々としていた空気が、ピンッ……とにわかに張り詰める。得物を狙う狩人の
目へと変わる。
「次は南だ。青い池の向こう側に、あろうことか例の邪教を擁護する集団がいるらしい」
「何だって!?」
「そいつは……放ってはおけないな。是非とも俺達で“掃除”しなければ」
「どうするの、団長? すぐに行く? それとも夜が明けて、準備を整えてから?」
 口々に放たれる仲間達の声に、このリーダー格の人物はニヤリと笑った。愚問だと、皆の
覚悟を確認するように答える。向けられた当の彼らもまた、その応えに迷いが無い。
「勿論──速やかにだ」
 全ては抑圧からの解放を。自由を。理想の世界を。
 尤もそんな新世界の土台となる筈の大地(いま)を、他でもない彼ら自身は破壊して回っ
ているのだが。
                                      (了)

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  1. 2019/11/24(日) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

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