日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「黙闘」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:陰、残骸、燃える】


「言ってくれなきゃあ、分からないだろう?」
 男は遂に、苛立ちを爆発させた。露わにしていた。同胞達に聞かれないよう、人気の無い
奥の部屋へと呼び出し、半ば叱責のように訊ねる。
「……」
 だからか、一方の少年は大きな変化を見せなかった。簡素なテーブルを一枚挟み、じっと
抑揚のない眼差しでこちらを見返している。
(相変わらず、何を考えてるのか分からん奴だな……)
 故に男は、益々眉間の皺を深くする。前々から抱いていた印象ではあったが、今回あから
さまに自身の悪感情に乗っていることも手伝い、その認識はより大きくなっているらしい。
(無理だよ。言っても聞く気なんて無い癖に)
 一方で少年の方も、内心でそう思っていた。実際目の前では言葉と裏腹に、態度が自分を
断罪するフェイズに入っている。その時点で彼にとってはもう“駄目”だった。
 元々の切欠──不和の兆しは、この新入りたる少年の態度・性質によるものである。
 彼はさも頑ななまでに口数が少なく、自分の意思を伝えるのがとても苦手だった。ただそ
れと本心で求めているものが無いかというのは、また別の話である。
 彼はしばしば、蓄積に蓄積を重ねた末に、己の不安を言外に漏らしてきた。場の空気を何
となく険悪なものに変え、同胞達の気を揉ませてきた。
 だからこそ、面々の責任者でもあるこの男は、当初こそ彼と皆との仲を取り持とうとした
のだが……遂に自分も我慢の限界に来たという訳だ。
「自分が黙ってさえいれば、波風は立たない──お前はきっと、そんな風に考えてるんじゃ
あないか?」
 甘いんだよ。男は言った。ゆっくりと頭を振ってから、尚も真正面から目を合わせようと
もしない少年に、諭す。理解させようとする。
「俺達だって人間だ。好き嫌いもあろうさ。だがな、それをぐっと呑み込んで付き合おうっ
ていうのが“大人”ってモンなんじゃねえのかよ? 黙ってたって表情(かお)に出てるん
だよ。バレバレなんだよ。気に食わないんなら気に食わないで、一言こっそり伝えてくれれ
ば良かったんだ。そうすりゃあ、ここまで状況が拗れやしなかったんだぞ? 違うか?」
「……」
 しかし少年は答えない。ちらっと視線を男に向けはするが、反論の類はやはり喉の奥から
出て来はしない。只々キュッと結んだ口元が、据わった眼と目立たない不機嫌面が、彼本人
が語るでもなくその不服ぶりを表している。
(チッ。この期に及んでもだんまりかよ……。舐め腐りやがって。この糞ガキが)
 少年には、目の前の男がどんどん怒りに染まってゆくのが観えていた。理屈では一応、こ
れまでの自分の振る舞いが原因──溜まりに溜まって今爆発しようとしているとは把握して
いたものの、それでも口を開けない。心と体、本心と経験値がある意味で真逆の反応を示し
ていた。もうここで謝っても“駄目”なんだと、直感のようなもので理解していた。
(……また失敗した。どうして、僕はいつもこんな……)
 すぐに表明して(つたえて)みた所で、周りの大人達は軽くあしらう。大した事はないだ
とか、辛抱が足りないなどと逆に叱られて、いつも自分の感情は受け入れて貰えない。周り
にとって、自分という人間は大した価値なんて無いんだなと解釈してきた。
 でも……そんな事実と、他でもない自身の欲求は全く違う。正反対なのだと最近気付くよ
うになった。所長の言っているバレているっていうのは、多分そういうことなのだろう。
(でも、どうしろっていうのさ?)
 少年は内心戸惑い続けていた。いや寧ろ、そんな段階を通り越して“怒り”さえ湧いてい
たのかもしれない。
 求めれば与えられる。話せば、耳を傾けて貰える。
 そうした一方的な利益ではなく、自身もまた微力ながらでも与えられる存在になれば、与
えることを惜しまなくなれば、徐々に周りからの評価も変わってきた筈なのだろうが……如
何せん遅過ぎた。“与えられなかった”経験ばかりが先行し、自身の中で蓄積していた彼に
とって、最早この男のような目上の人物からの言葉を“素直”に受け取ることは“敗け”に
等しかったのだ。静かに、しかし確実に捻じ曲がり続けたその性根は、今や本人でさえ制御
不能なほど膨れ上がっていた。要求ばかりが背中を押していた。鬱屈した思いが自身の外側
に漏れ、周囲の他人びとに伝染する。
 そこでも尚、自分が間違っているとは中々認められないから──。
「違(ちが)……」
「ああ? 何が違うんだ? ごめんなさいだろ? お前も何か思う所はあったんだろうが、
伝えなくちゃあ伝わらないんだよ。僕の気持ちを察してください、さもなくば不機嫌を当た
り散らします──子供か? まだギリギリ未成年でも、こうやってうちみたいな所に来てる
時点で、働いてることには変わりないだろうが。……もう少し、成長しろって言ってんだ。
癖やら欠点は他の奴らにもある。だがそこも含めて、向上心もなくただ漫然と過ごしてるよ
うでは、伸びねえぞ?」
「……」
 男はまだ辛うじて言葉を選んでくれているようだった。他人に、人生に疎い少年にもぼん
やりとそんなことぐらいは解った。尤もそれと、自分が実践出来るかは別問題だったが。
 少年は黙り込んでいた。文字通り殴られたかのように、ぐわんぐわんと静かに頭が揺れな
がら混濁する。真っ白になりかけた色が、灰色を帯びて形を留めない。この場において正し
いであろう「何か」が、一向に視えてこない。
 伸びねえぞ。
 つまり自分は役立たずということだ。良くならない、彼が求める基準にまで辿り着けない
でいるものだから、もう待っていられないんだと。
 にも拘らず、自分は今もこうして聞き入れられない。求められていると理解しても、そこ
まで辿り着ける気がしない。……仮に焦ってみた所で、一足飛びに昇れる気がしないから。
いや第一、自分に問うてみても焦ってすらいない。自身のペース、自身のやりたいこと。や
りたくないこと。気持は常日頃そこへ軸足が往っている。
「……」
 少年は黙っていた。この場で最適な返答が見つからなかったから。仮に何かしらを答えた
として、彼の反応が怖かった。
 もう“駄目”だ。どうせまた怒られる。
 メキメキッと、自分の中の人形(ヒトガタ)が握り潰され、へしゃげてゆくようなイメー
ジを持った。残っているのはそんな自分と、散々になり果てた此処という居場所──。
「そうかいそうかい……。解ったよ」
 だからこそ、男は言った。暫く彼の言葉を待ったが、結局何も返って来なかった。これだ
け自分が心を砕き、感情的になるのを抑えて打ち明けた心算だったが、それでもこの少年か
らは前向きな態度を引き出せなかった。そうして、自分が“損”するだけならまだしも……
実際彼を切欠にトラブルが起きた。すっかり空気感って奴が悪くなった。
 ぼちぼち、線を引いてしまうべきだろう。そう判断した。
「悪いがもうこれ以上、お前を置いておく訳にはいかねえな」
「出て行ってくれ」
「──っ」
 だからこそ、少年は静かに目を丸くした。もう“駄目”だとは直感していたけれど、やは
り面と向かって言われてしまえば傷付く。だがそんなことを口にしようものなら、更に彼の
導火線に火を付けてしまうだろう。順序というか、筋が違う──逆だというのは何となく分
かっている。分かっていても、改められない。
(……やっぱり、言ったって仕方ないじゃないか)
 だからこそ、一周回って少年は思った。結局昨日今日の付け焼刃じゃあ、この悪循環から
は抜け出せない。目の前に立っていた所長は踵を返し、いよいよ『もう知らんぞ』と、こち
らを突き放す構えだ。要するに我が儘だ──察しろってのが無理なんだよ。寄り添おうと試
みたものの、男のそれははたして失敗に終わった。やはり挫折したと、再び心を閉ざし始め
る少年をちらっと見遣り、彼は肩越しに小さく呟く。
(……これでもまだ、詫びの一つもねえってか)
                                      (了)

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  1. 2019/11/17(日) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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