日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「Little tale」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:妖精、光、闇】


 幻種。
 物質世界(こちらがわ)とは全く別の法則を持つ、精神世界の住人達との接触が生まれた
のは、今からおよそ三百年ほど前の事だと云われている。現種(ヒト)こと霊長の王たる人
類は当初、少なからぬ混乱に見舞われたが、やがて紆余曲折を経て彼らと共存する道を歩み
始めた。
 尤もそれは、ヒトが彼らの異能に目を付け、彼らが実体というものに憧れたからであった
のだが……。

「すすっ、好きです! さ、佐野君、わ、私と付き合ってください!」
 夕暮れの校舎の一角で、その日悠馬はクラスメートから愛の告白を受けた。今まで全く経
験の無かった話だったものだから、最初たっぷり十数秒、彼は自分が何を言われたのかすぐ
には理解出来なかった。
「っ……」
 顔を真っ赤にして、その女の子は返事を待っている。
 ただ彼女が、いわゆる“普通”と違っていたのは──その身体が明らかに小さかったとい
うこと。まだ成長期であるとはいえ、大体そのサイズは掌に乗ってしまう程だ。
 いや……現種(ヒト)の常識に当て嵌めることさえ、今は不適切なのかもしれない。
 幻種の一種、妖精(ピクシー)。それが彼女・ティアの原典(モデル)だ。
 首筋当たりでふんわり切り揃えられた白亜の髪と、宝石のような真ん丸とした碧眼。背中
から生える二対の翅。悠馬と同じ制服姿ことしているが、その姿は紛れもなく“向こう側”
の出身であることを示す。
 暫く目を大きく見開いていたこの少年は、ややあって顔を真っ赤にし返していた。自分に
向けられた気持ちの意味を理解して、羞恥心と興奮で酷く混乱する。
「ぼ、ぼぼっ、僕が!? ほ、本当に僕でいいの……?」
「うん……」
 多分傍目から見ていたら、凄く不器用な二人に見えていたのだろう。或いは年頃の初心な
少年少女だなと、生温かい目で観られていたのか。
 自分でももうちょっと気の利いた第一声があったろうに……。それでも実際はテンパって
余裕なんてありはしない。わたわたと両手を動かしている悠馬に、ティアは消え入るような
声で首肯し、益々顔を赤くした。
(確かにルルコットさんとは、クラスが一緒になってから仲は良かったけど……)
 切欠自体は実に些細な事だったと記憶している。二年に進み、席が隣同士になった事で、
何かと助け・助けられる関係が出来上がっていったからだ。
 見ての通り、彼女はヒトに比べてとても身体が小さい。授業でノートを取るのも、荷物を
整理するのも一苦労だ。大抵は彼女の妖精(ピクシー)としての異能、風を操る力を応用し
て物を浮かせているのだが……それでも悠馬は何となく見ていられず、都度困った時には手
を貸すようになっていた。学校側も、通学する幻種らに合わせた諸々の対応を講じてはいる
が、必ずしも行き届ているとは言えない。
 そんなこんなで、二人は何時しか友人以上、恋人未満のような間柄になっていたのだ。
「……は、はい! ぼっ、僕なんかで宜しければっ!」
 故に、ぶんっと彼は大きく頭を下げて答えた。今までに経験がないくらい、心臓が激しく
脈打っているのが分かる。
 本当、嘘みたいだ。
 妖精(ピクシー)だとかそんなのは別に、普通に可愛いからな……ルルコットさん。
 素直な喜びと幾許かの下心。でもそういった気持ちはお互い同じで、全身全霊で応えてく
れた悠馬に、ティアもじーんと感激したように唇を結んでいた。真っ赤な顔に、ボロボロと
嬉し涙を零して、次の瞬間満面の笑みを浮かべる。
「ありがとう……嬉しい。その、宜しくね? 佐野君?」

 かくして悠馬とティア、二人の交際は初々しくも人目を憚らず始まった。元より性別も種
族も越えて親しかった彼らの豹変ぶりは、程なくして周りのクラスメート達にも気付かれる
ようになる。
『──佐野君、お昼持ってきたよ~。一緒に食べよ?』
『──はい、ルルコットさん。これさっきのノート。なるべく小さめの字で書いた心算なん
だけど……どうかな?』
 明らかに自分用ではない人間サイズの弁当包みを、風で浮かせながらニッコニコのはにか
み顔で持ってくるティア。授業の度に、自分の取った授業の板書を見せ合いっこする悠馬。
 互いにも持ちつ持たれつ、二人は自分の得意なこと・出来ることで相手を懸命にフォロー
しようとしていた。尽くそうとしていたし、尽くすことが嬉しくて仕方がないといった様子
だった。ティアはふんわり家庭的な面と、地頭の良さ。悠馬は小柄な彼女に代わってあげら
れること全てと、心優しいその性根。二人を中心とした空間に、これまで以上の桃色掛かっ
た空気が流れる。
「畜生……。何であいつが、あんなにモテて……」
「くっそ、見せつけてくれるじゃねえか……。佐野の野郎がよお」
「でもルルコットさんは幻種だろ? 大丈夫かねえ? その、色々と違い過ぎるし……」
「はあ? 何言ってんのよ」
「愛があれば種族の差なんて……」
「そんなこと言ってるから、彼女の一人も出来ないんじゃない?」
 当然ながら、そんな二人のラブラブな雰囲気に、クラスメート達の眼差しは様々だ。多く
は現種・幻種を問わず男子らのやっかみではあったが、一方で生温かく見守ろうという女子
らの主張も根強い。見せつけられてこそいても、二人が特に害を及ぼしてくる訳でもない。
少しは自嘲しろ、面白くないかと言われれば嘘になるが──純粋に応援したいという気持ち
も同じく在る。何より今は現種(ヒト)と幻種のカップルというのも、珍しくはなくなって
きて久しいのだから。
「はい、佐野君。あ~ん♪」
「あ~ん……♪」
 彼らクラスメート、比較的若い世代の者達にとっては……その筈だった。

「──何も別れろとは言わないのよ? だけど……ねえ? せめて学校内ではもうちょっと
自重して貰えないかしら?」
 しかしそんな二人に水が差されたのは、付き合い始めて三ヶ月と経たないある日の事だっ
た。教室移動の時、悠馬は見知った現種(ヒト)の女性教諭に呼び止められ、放課後呼び出
しを食らった。クラスの担任を務める小日向先生である。薄フレームの丸眼鏡とウェーブの
掛かった栗色の髪。全体的に優しく、温和な雰囲気を醸し出す彼女だが、彼を人払いした指
導室に招き入れたその表情は浮かない。
「──俺達も、お前らが“健全な交際”をしてるのは知ってる。好き合ってるのは解ってる
心算だ。つーか、嫌でも他の生徒達の噂が耳に入ってくるモンでな……。だから、その、下
手に目立つような振る舞いは控えて欲しいんだよ。こっちとしてはな」
 加えてティアの方も、生徒指導担当の一人、猪頭の幻種・トロガン先生に呼び出されてい
たらしい。二人はその日同じ部屋で再会し、この二人の教諭から“お説教”を食らう羽目に
なっていた。尤も彼ら自身も、良心の呵責というか後ろめたさはあったようで……。
「うっ、噂になってるんですか!?」
「ま、まぁバレない訳はないよね……。でも先生、という事は誰か僕達にクレームを?」
「ああ。クレームっつーか何つーか、お前らみたいなのを快く思わない奴らってのはいるん
だよ。これだけ俺達幻種がこっち側に溢れるような世の中になってもな……。いや寧ろ、当
たり前になればなるほど、この手の話はややこしくなる」
『??』
 最初、悠馬もティアも自分達が何を言われているのかピンと来なかった。互いに、やはり
仲良く息ピッタリに顔を見合わせ、それが故にトロガンの複雑な表情も一層深くなる。小日
向も困ったように眉尻を下げながら、彼の横顔と続ける言葉を見ていた。
「……ぶっちゃけ訊くんだが、お前らこのまま結婚する気か?」
「けっ!?」
「け、結婚──?!」
「あー、皆まで言わんでいい。顔真っ赤だぞ? 分り易過ぎる。まぁ俺や、小日向先生個人
としては一向に構いやせんのさ。あと何年かすりゃあお前らも成人だ。お互いの親御さんも
あろうが、お前らが幸せならそれでいい」
「……でもね? 世の中にはまだ、現種(ヒト)と幻種のカップルを認めないっていう立場
の人達も多いの。貴方達も時々ニュースなどで見た事があるかもしれないけど……」
「……。反幻種派、ですか」
 顔から火が出るほどに頭が真っ白になり、一体何を言い出すのかと思いきや、次の瞬間彼
らの言わんとすることを二人はようやく理解し始めていた。悠馬が「えっ?」と戸惑い気味
に声を漏らし、ティアが静かに眉を顰めて問い返す。
「ああ。言って一部の極端な連中なんだろうがな。それでも現種(ヒト)の中には未だ、俺
達が伴侶とした相手を向こう側に連れ去ってしまう──こちら側を中からぶっ壊す存在なん
だと主張して憚らない奴らがいる」
「貴方達にこんなことを言っても仕方ないんだけどね……。でも先日、うち宛てにそういっ
た旨のメッセージが届いたのよ。脅迫、と言ってしまってもいいのかしらね。元々うちは、
現種(ヒト)も幻種も通える学校の一つではあるけれど」
『……』
 要するに、圧力が掛けられたという話だ。悠馬とティアはどちらからともなく押し黙って
いた。事実申し訳ないと、小日向とトロガンも学校側を代表して伏し目がちになる。まだ表
沙汰にこそなっていないが、水面下でそういった動きがあったようだ。
 理由は幾つかある。幻種は従来のヒト──現種とは明らかに違い過ぎた。その姿形は勿論
の事、生まれ持った身体能力や異能、当たり前としてきた文化・価値観さえ時には全く理解
の及ばないそれであったりもする。
 言ってしまえば恐れだ。或いは嫉妬(ジェラシー)の類だ。
 自分達ヒトは、気付けばこちら側に流れ込むようになった彼・彼女らの異能をもってすれ
ば簡単に命を奪われてしまうし、何より人ならざる魅力に取り憑かれ、伴侶としての異性を
“横取り”されてゆく。ヒト同士でさえ争いが無くなった試しがないのに、全く別世界の住
人など受け入れられるものか。
 尤もそれは、彼ら自身──本来生身の肉体を持たない幻種達が、その存在を維持する為の
霊力を、ヒトが多く蓄えられるからであって。心と体。二重の意味で、彼らもまた今やヒト
の手助けなしにはこちら側に居続けられないからなのだが……。
「実際、俺達の世界とこちら側の世界が繋がってから、現種(ヒト)の人口は減ってるらし
いしなあ。お互い合わせりゃあ、数自体は寧ろ増えてるんだがよ……」
「今はもう、彼らの協力で発明された“霊力エンジン”無しには世の中が成り立たなくなっ
ているけれど、それがこの手の人達にとっては尚の事面白くないのよ。本来はもっとおっき
な、政治の話なんだけど……貴方達もその振る舞い次第では、目を付けられかねないのよ」
 ごめんなさいね? 解って、くれるかしら?
 小日向とトロガン、二人の教師にそう代わる代わる告げられて、悠馬とティアは酷く困っ
た表情をしていた。互いにちらっと顔を見合わせて、すぐには心の底から頷く事など出来る
筈もなかった。
 要は、自分達に恋人同士としてのそれを自重しろとの警告であった。個別具体的な、こち
らの非の無さは認めているけれど、学校側としては知らせておかざるを得ない。こと場合に
よってはナイーブな問題に関わるが故に、この先自分達の関係が大きな“火種”になりかね
ないのだと。
(……そんなこと、言われても)
 悠馬と、そしてティアは内心酷く戸惑った。表情(かお)にもその素直な感想は隠し切れ
ずに現れている。
 僕達の、私達の交際は、あくまで個人的な“小さなこと”じゃないか。
 なのにいきなり、そんな“大きなこと”に結び付けられたって……。
                                      (了)

スポンサーサイト



  1. 2019/11/11(月) 00:00:00|
  2. 週刊三題
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<(企画)週刊三題「黙闘」 | ホーム | (雑記)霜月からの嵐に備え>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://higurasisouann.blog27.fc2.com/tb.php/1170-b9ce7ea9
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

訪問者累計

最新記事

最新発言

検索窓

月別履歴

11 | 2019/12 | 01
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -

分類/索引

【案内板】 (2)
【小説:短編】 (20)
本の蟲 (1)
硝子野不動産店 (1)
夏の日の幻影 (1)
四番線の彼女 (1)
夢視の宿 (1)
線を曳く町 (1)
炬燵の神様 (1)
三者三盗噺 (1)
色眼鏡 (1)
奴らは攻城戦師 (1)
詰め替える (1)
同じ籠の狢 (1)
二十年後の遺言 (1)
轍の先 (1)
水に流せば (1)
真夜中の御二柱 (1)
いつか見た夢 (1)
神様達の初詣 (1)
白い花束 (1)
丸の代償 (1)
【小説:長編】 (194)
Amethyst League (6)
アンティーク・ノート (3)
ユウキのヒカリ (5)
NIGHT GUNNERS (5)
レディ・ルーン-Bonds of RU'MEL- (6)
ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- (111)
死に損いのデッドレス (5)
Dear SORCERY (4)
サハラ・セレクタブル (49)
【企画処】 (472)
週刊三題 (462)
その他参加物 (10)
【資料庫】 (2)
【落書帳】 (2)
【詩歌帳】 (8)
【雑記帳】 (403)
【読書棚】 (32)
【遊戯倉】 (25)
path. (4)
decide: (3)
ユー録FW(凍結中) (17)

記事録

交友関係

このブログをリンクに追加する

(RSSリンク)

(QRコード)

QR

Tweets by long_month