日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「咎滅(とがめ)つ」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:黒、犬、卒業式】


 その少年は、高校卒業を間近に控えていた。他の同級生達と同様、最近は授業らしい授業
もなく、受験日程中心か或いは就職口確保に走り回る日々を送っている。
「──よう。いよいよ今日だな」
「まぁ殆ど消化試合みたいなモンだけどな」
「遂に此処ともおさらばか……。長かったような、短かったような……」
 そんな名実共に学び巣立つ当日の朝。一人登校した彼の前に、良くも悪くも馴染みのある
三人の同級生らが姿を現した。
 いや、悪い意味でしかあり得なかった。少なくともこの少年にとっては。
「お前に会えなくなるとなると、寂しいなあ」
「はは。まぁ大丈夫だって。お互い進路は分かってるんだしさ」
「だって“友達”だもんな? 俺達は」
「……」
 自分よりずっと体格も大きく、何よりその凶暴性を恥じようともしない三人。
 少年は彼らから口々にそう宣われ、肩に手を回されてポンポンと叩かれる。言ってしまえ
ば取り囲まれていた。何時ものように、今までずっとそうだったように、校舎裏手の一角に
ある人気の無いスペースで少年は逃げ場を失っていた。
 ──ふざけるな。
 心の中では何度となく思ってきたそんな言葉も、結局今日の今日まで放ち返す事は出来な
かった。自分は、決してこいつらとは友人などではない。こいつらも“対等”だとは微塵も
思っていない筈だ。苛められる側と苛める側と。この三年間、自分達の関係を端的に表現す
る言葉を挙げるなら、その一言以外にはあり得ない。恨みはあっても、親愛の情など欠片も
在りはしないのだから。
(……ふざけるな)
 それでも、こんな日々もやっと終わる。いや、ちゃんと終わらせないといけないんだ。
 少年はぎゅっと静かに唇を噛み締め、自分の弱い心と身体を改めて奮い立たせていた。今
日この日の為に、全部を終わらせる為に、どれだけ念入りに準備をしてきたか。この時の為
にどれだけ耐え忍んできたか。

『へえ。お前、●●大に行くの諦めたんだ?』
 最大にして最初の切欠は、自分が進学するという道を絶たれたこと。そしてそんないち個
人の家庭の事情を、よりにもよってこの三人に知られてしまったこと。
 一体、誰が漏らした……?
 その時の少年は、まさにこの世の全てに絶望し切った表情(かお)をしていた。そもそも
彼が強く進学を希望してきたのは、しがらみの多い故郷から遠い街で再出発をしようと考え
ていたからだ。他県へ出ず、地元で就職する予定だった三人と徹底的に縁を切る為に、先ず
は物理的な意味で接触が難しい環境が欲しかったのだ。
 なのに……そんな彼の希望を、実の両親が手酷く突っ撥ねたのである。大学に行かせるほ
ど金銭的な余裕はないし、何より更に四年間「遊んで」貰われても困る。どうせなら早々に
就職し、食うに助かる技術の一つでも収めておけ──彼は何度も説得を試みたが、両親の意
見は変わらなかった。今までの十八年間の人生において、これほど自らの気弱さを呪った事
はない。
『そりゃあいいや。なら、俺達と一緒だな』
『就職するのか? それとも、別の大学にするのか? 何処に行くのか教えろよ』
『嬉しいねえ……。てっきりお前とは、卒業したら別れちまうとばかり思ってたからよ?』
 あの時三人が見せた眼光を、彼は今でもトラウマになるぐらい憶えている。
 獣だ。恰好の標的(オモチャ)をこれからも手放さずに済むという、舌を舐めずり回して
悦ぶ鬼畜の笑みだった。がしりと首根っこを、改めて掴まれたような錯覚を抱いた。
 ──もう、お終いだ。
 少年はその時から、進路などはもうどうでも良くなった。諸々の環境が違ってくるにして
も、これから先もこいつらに虐げられ、暴力を片手に使いっ走りにされる日々が続くのかと
思うと絶望しかなかった。自分の人生とは何なんだ? こんな奴らに、ただ腕っぷしや良心
の欠けた奴らに、食い潰される為だけに生まれてきたのか?
 いや……違う。そこで彼は、いよいよ決意した。自分はもうどうなってもいい。だけどせ
めて、こいつらの支配から“卒業”しようと。
 復讐してやる。自分がグチャグチャにさせられるんなら、奴らもろとも。
 以来卒業を迎えるその日まで、少年は密かに準備を進めてきた。インターネットで爆弾の
作り方を勉強し、少しずつ材料なども揃えた。組み立てて小型化し、懐に忍ばせて至近距離
で爆発させることぐらいは可能になった。
 これは、けじめだ。自分自身の弱さを克服する為の儀式だ。
 何よりこんなクズどもを、また一人二人と社会に出してなるものか──。

「あ? 何だよ、お前」
 当然そんな彼の淀んだ決意など知る筈もなく、苛めてきた側の三人は怪訝な表情を浮かべ
始める。
 はっしと、肩を回していた当の本人がこちらの手を掴んできたのだ。ちょうど三人が三人
とも彼を取り囲み、密集していた格好のため、次の瞬間この標的(ともだち)が取り出した
物がすぐに視界に入ってきた。
「──」
『なっ?!』
 爆弾。或いは起爆用のスイッチ。
 彼は懐に箱型のそれを忍ばせ、本体から延びた細い円筒状の装置を握り締めて、既に親指
を掛けていた。半ば見た目のイメージと、何より彼のみせた強烈な敵意が故である。
 慌てて遠ざかろうとしたが、もう遅かった。元より捨て鉢になったこの少年に、まんまと
逃げられてしまうという選択肢は無い。力でも人数でも劣る自分が確実に目的を達成する為
には、一撃必殺の凶器を用意するしかなかったのだから。
「まっ、待て!」
「お、お前! 何をしてるか解って──!」
 そして叫ぼうとした刹那、スイッチは押された。
 爆発が起きた。他ならぬ少年の肉体を起点として、膨大な熱と音がぶちまけられる。

 ***

 卒業式当日の校舎を、突然の爆発が巻き込んだ。
 到底隠し切れないそのニュースは、否応なしに即日世間に知れ渡ることとなった。火元と
思われる裏手を中心として、建物の内の一つが半壊にまで追い込まれた。
 当初は何かしらの爆発事故、或いはテロ行為か? と思われたが……程なくして現場に複
数人の遺体が発見され、その身元が同校の生徒達だと判明したことで事態は大きく動く。
 一番損壊の激しかった──文字通り木っ端微塵に吹き飛んでいたのは、当日卒業を果たす
筈の少年だった。加えて更に三人、現場に居合わせた別の同級生達が巻き込まれた。当時の
証言により、彼らの姿が見えなかったことは確認された。彼らはしばしば一緒に行動を共に
しており、同級生や教師らもすぐに足りない面子として気付いたのだという。
 発表された死因は……自殺だった。爆発の原因となった小箱は明らかに人工的に作られた
物であり、事故とみるには難しい。他の三人は不運にも巻き込まれたのだろうと。
『傍迷惑な自殺だな』
『死ぬんなら、一人で死ねよ。よりによって卒業式当日だろ?』
 警察の発表があった初期の人々の声は、故に大よそこの“自殺”した生徒に対する、ある
種冷淡な自己責任論だった。或いは巻き込まれた三人の生徒達を悼み、この身勝手で影響甚
大な手段を用いたことに対する非難であった。
 しかし……状況はそれから程なくして“反転”する。自殺したとみられる少年が遺した、
自筆のメッセージがその自宅から見つかったためだ。
 そこに書かれていた内容は、入学以来ずっと、この被害者とされた三人の同級生達から受
け続けた苛めの数々。それらを幾度となく訴えながらも、臭いものに蓋をするようにして邪
険にされ続けた、少年の恨み節だった。
『いじめを苦にした自殺、か』
『それにしては随分とド派手な最期なんだが……』
『連中の身元割れたぜ! ここの菊池と米田、永野の三人だな(以下URL)』
 故に世間の人々にとって、叩かれるべき人物はぐるりと翻った。義憤に駆られたネット上
の有志らが、同校の生徒名簿を入手し、翌々月には苛め加害者三人の名前と顔写真をアップ
ロード──猛烈なバッシングが始まった。殴っていいとのお墨付きを与えられれば、ある種
の人間達は嬉々としてその潮流(ムーブメント)に乗る。
『▲▲市か。結構ガラの悪い奴多いって聞くよな』
『何年か前も、過労死を揉み消してた所があったんじゃなかったっけ?』
『寧ろ良かったんじゃね? 授業料は随分と高くついただろうけど』
『マジで糞だな。どんな育て方をしたら、こんなクズどもが生まれるんだか……』

 ***

 当事者でない者達とは幸福だ。何故なら一先ず他人事でいられるからだ。状況が許せば、
自らの守備範囲に触れればすいっと首を突っ込めるし、気楽に石を投げられる。
 だがそんな外野ではない──当の内側に立っていた者達は、勿論の事ながらそうはいかな
かった。事件に直接関わり合いになった双方の遺族や学校関係者、或いは同校の生徒達は、
否応なしに批判の渦中にあった。見も知らぬ有象無象から、人だとさえ思われずにバッシン
グされ続けた。
『自殺って言っても、実質爆弾テロだろうが。人殺しだぞ』
『お前らの息子だろ? 腹切って謝罪しろよ』
『そもそも、こいつら三人組がアホな真似をしてなきゃあ、大惨事は無かったんだぞ?』
『少年君の心情も解らんではないがなあ……。実際問題、こういう体育会系とかウェイ系の
ノリが社会人になっても持ち込まれるから、パワハラとかで病む人間が消えない訳で……』
 結果、他でもない苛められていた少年の遺族、苛めていた三人の遺族の双方が、それまで
の日常を遅れなくなってしまっていた。
 少年の両親は、息子を失った悲しみと度重なる自己責任の口撃に曝され続けて。
 三人の両親は、今回の惨事を招いた遠因だと人々から“敵”視され続けて。
 彼らは故郷(ちいき)に居られなくなってしまった。或いは厄介払いよろしく、それまで
の職場から追い出されてしまった。失ったものは最初に在ったのに、社会(ひと)は更に多
くを、自分達に失わせようと迫ってくる……。

「──本日は遠い所をご足労いただき、誠にありがとうございます」
「事前にお知らせした通り、本日は日村ご夫妻による提訴につきまして、皆様に詳細をお伝
えしたく存じます」
 故に彼らは事件から一年以上が経ち始めた頃、動き出した。少年の両親はこれまでに寄せ
られた数々の誹謗中傷の中から、身元を把握出来る限りの人間達を相手取り、弁護士を通じ
て損害賠償の裁判を起こした。事件自体が次第に人々の記憶から風化してゆく中、このまま
ではやられ損だと、意を決しての反撃だった。
「──な、何で今更……? 大体あいつは、従弟だぞ? 俺には関係ない。寧ろ色々とばっ
ちりを受けて来てるんだ。俺達だって被害者だ」
「五月蠅い! そもそもお前ん所の糞ガキが、ド派手にやらかしたのが始まりだろうが!」
 或いは元同級生三人の親族に当たる一人の男が、これとほぼ同時期に凶行に走っていた。
彼ら三人の血縁であるというだけで忌み嫌われ、仕事に私生活にと散々に迫害された。その
恨みを、ようやくの思いで見つけ出した少年の遺族の一人に、今まさしくぶつけようとして
いたのである。
「被害者だあ? 身内がやらかしといて、いけしゃあしゃあと……」
 身なりは汚れていて、両の瞳は暗く淀んでいる。
 血走った眼差しと殺気で、彼は一本のサバイバルナイフを握りしめていた。
「苛めだか何だか知らねえが、大人しくしてりゃあ良かったんだよ。所詮はガキ同士のぶっ
たぶたれただろう? 下手に欲を掻くからいけねぇんだ。そんなモンで一々病んじまうよう
じゃあ、どのみち世の中に出てもろくに使えやしなかったさ」
 貴様──! 狙われた少年遺族の一人に、男は言った。眼差しは血走って殺気を帯び、自
分がこれから行おうとしている事も理解しているのかいないのか、ヘッと露骨なまでに吐き
捨てる。
「だってそうだろう? 俺は綺麗事ってのが大嫌いでね。実際苛めみたいなモンは、子供だ
ろうが大人だろうが世の中に溢れてる。てめぇん所のガキが始めから強く出てりゃあ、ここ
まで大事(おおごと)になんざならなかったんだよ。俺もお前も、家族や仕事を失わずに済
んだんだ。そうだろう?」
 けじめつけろやァァァーッ!! 次の瞬間地面を蹴り、男はこの相手側の遺族へと襲い掛
かった。街角で付け回し、人気の無い路地裏に追い詰められての犯行である。逃れる術など
は無かった。「ガッ!?」厚みも刃渡りもあるナイフが突き刺さり、彼は自身の胸から次々
と染み出す血の赤を、大きく膝をつきながら見張っていた。

『これは、けじめだ。自分自身の弱さを克服する為の儀式だ』
『何よりこんなクズどもを、また一人二人と社会に出してなるものか』

 かつて少年が、その命を捧げてまで叶えようとした歪な願いは、はたして叶わない。自ら
を最後として断ち切ろうとした行為も、同じく達成されることはない。
                                      (了)

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  1. 2019/10/20(日) 00:00:00|
  2. 週刊三題
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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