日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「ガチャマン」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:人間、携帯、星】


 人生というのは、ある種の賭け事のようなものだと思っている。
 安定と呼ばれているものは、先に誰かが必死になって維持してくれているからこそ、成立
しているに過ぎない。

「──おい、ここの計算間違ってねえか? 誰だよ、これ作ったの?」
 その日、決して広いとも言えない何時ものオフィスで、上司が何時ものように自身のデス
クから難癖を付けてくる。周りの同僚達と同じように、卜部(うらべ)も彼の下品な喚きよ
うをちらっと見遣っていた。
 ただ……次の瞬間、卜部は言葉なく小さく顔を顰める。彼がバサバサと手にするその書類
に見覚えがあったからだ。同僚達の何人かが、こちらに視線を向けるのを理解しつつ、卜部
は仕方ないといった様子で席を立つ。
「え~っと……。多分俺です」
「お前か。分かり難いんだよ、この表。何処と何処を参照してるんだ? これは」
 此処と此処ですね──卜部は内心面倒臭いと思いつつも、上司のデスクまで出向いて説明
を強いられていた。表なのだから、マス目の縦横を辿ればいいだけのことなのだが……旧い
意識しかないこの中年男に求めるのは酷というものだ。書類の文面、マス目をざっと指で示
しつつ、卜部は電卓を差し出す。
「何だよ、合ってるのか。ややこしいなあ。もっと見易く整理出来ないモンなのか?」
「……直しておきます」
 すみません。本当に気持ち、申し訳程度に頭を下げて、卜部は再び自身のデスクに戻って
いった。同僚の何人かが同情だったり、或いは密かに哂うような眼差しを向けるが──今に
始まった事じゃない。一々気にしていては身がもたない。
 パソコンの画面に向かい、卜部はこの書類を手直しすることにした。

 実を言うと、確かにごちゃごちゃしているなとは思っていた。数字の処理なんてものは基
本的に複雑ではあるが、さりとて“気を利かせて”見易くし過ぎようとも思わない。
 そこまで頼まれていないからだ。こちらの機転を汲んでくれ、理解してくれるような上司
ならある程度頑張りもするが──現実はアレだ。先回りした所で、余計な事をするなとどや
されるのは目に見えている。先回りしなくても、自分に都合が悪ければその度に難癖をつけ
てくる。なら、百二十パーセントの仕事をするなんて馬鹿じゃないか──。
 卜部の考え方は、基本そんなシニカルな部類である。こちらがプラスアルファの善意を見
せた所で、それを次回以降“当たり前”としてハードルを上げられてしまうなら、始めから
そこそこに留めておけばよい。三十過ぎのいちしがないサラリーマンとしての、彼なりの処
世術であった。
 彼は基本的に、日々の生計に全力を注がない人物である。
 代わりに趣味と呼べるようなものは──隙間時間に弄っている、スマホゲームぐらいのも
のである。
(……そういや昨日から、復刻始まってたなあ。一応回しとくか……)
 無料部分以上のアドバンテージを得ようとすれば、都度の課金を要求される。
 所詮はゲーム、されどゲーム。だが現実の自分達の人生も、そう大きな違いはないのでは
ないか? それが卜部のぼんやりと抱いていた感慨だった。時短を金で買い、その分を元々
が強いレアキャラや、お気に入りのキャラの育成に充てる──寧ろ現実(リアル)の方は、
とかく時間自体を捧げさせられがちな分、よりクソゲーだなとさえ常々思っていた。
 重箱の隅を突くばかりの上司もそう。
 それとなく難題を押し付け、自分は楽をしようとする同僚や、幾つかの取引先もそう。
 即ち人生とは、ある意味で己の一生という最大のリソースを割いてまで、人間関係という
ガチャを回し続ける行為に似ている。星5(エスレア)の優良物件を引けるか、或いは基本
地雷にしかならない、星1(コモン)や星2(ノーマル)を引いてしまうか……。
 自分の能力が足りないというのもあるだろうが、やはり排出率が悪い。現実(リアル)も
ゲームも運、出会い次第だと言ってしまえばそれまでではあるが……如何せん理不尽だと感
じる瞬間が多過ぎる。
 一喜一憂。実際ゲームの方だって人間が作っている訳だから、嘆きを向けるのは門違いも
いい所なのだけど。
 それだって人生の方は、ゲームのように任意で始めることも、止めることも出来ない。尤
も後者、降りること自体は自由意思で行えなくもないが……多方面に“迷惑”を遺す。
 お偉いさんからすれば金を搾り取れる対象、パイが減るし、下々の者達にしてみればそん
な“いち抜け”は“ずるい”となる。日頃世間では命の尊さ云々と、その度にお題目を唱え
て後出し弁護に必死だが……どうせ本心では皆、同じように思っているのだから。
 役立たずは、要らない。
 足を引っ張るだけの奴は、自分の視界から居なくなったって構わない──。

(すっかり遅くなっちまったな……。今日の分のデイリー、消化できるかね? これ……)
 上司に突き返された資料のリテイクから始まり、詰まっていた残りの仕事も片付けた頃に
は、辺りはすっかり暗くなっていた。残業するならもっと早く言え。余計に出さなきゃいけ
なくなるだろうが──その要因の一つを振ってきた張本人から、そうまた追加で小言を貰い
つつ、ようやく卜部は帰宅の途に就く。
 何時ものようにスマホを弄りつつ、駅のホームへ。頭の中では定時際の上司の、そんな露
骨な顰めっ面が未だ残っていたが、なるべく意識の中心には上らせないようにする。
 この手の嫌味を一々憶えていようものなら、間違いなく身が持たなくなる。心身を壊すの
は自分なのだ。だがいざ現実にそうなったとして、彼らは親身に心配してくれることはない
だろう。精々今まで振っていたタスクが戻ってきて痛い目をみるか、だったら別の人間を引
っ張ってくればいいとしか考えない。その手の思考が先ず過ぎるのは目に見えている。
(……次の仕事、探すかなあ)
 開いていたゲーム画面を視界の端に映しつつ、卜部はぼんやりと考えた。現実(リアル)
でもゲームでも、使えない駒(キャラ)は倉庫に放置されるものだ。タイトルによっては文
字通り“解雇”的な手段があったりするが、改めて笑えないなあと思う。
 現状が不満なら、新しい場所を探せ。スキルを磨け。
 何処に居たって変わりはしない。有言実行できるほどに突出した者は、その他大勢の中途
半端がいるからこそ輝ける。そんな無責任な自己責任論をドヤ顔をして宣(のたま)える。
 結局は、自分が“いち抜け”したからこその結果論じゃないか──。
 そうある種の憎しみ・嫉妬が先ずもって湧いて制御出来ていないからこそ、お前は駄目な
んだと、この手の連中からは反論されるのだろうが……だからこそ手前らとは相容れないん
だろうがよ! と、自分達は往々にして逆ギレするのだろう。寧ろ一層意固地になる確率の
方が高いのだろう。
 ゲーム的な言い方をすれば、所詮“進化”をしない低レアキャラは、いつまで経っても低
レアキャラのままだということだ。鳶が鷹を産みはしない。雑魚から這い上がらない限り、
雑魚の価値は雑魚のままだ。人間にだって現実、レアリティってものが在る。在って然るべ
きだとの了解があるからこそ、上に立つ者とそれに使われる者がいる。
(──うん?)
 ちょうど、そんな時だった。ぼんやりとホームを歩いていた卜部の視線の先に、何時もと
は違う様子の人だかりが見えたのだった。
 終電も近付いている駅だ。他人が集まっていること自体はそう不思議ではない。
 だが、面々の醸し出す雰囲気は……ただの疲労ではなかった。昨日今日一日の疲れを引き
摺りつつ、自宅へ戻ろうとする足取りとはどうにも違う。
 ざわざわと。彼らは電車ではなく、その先に在った何かを観ていたらしかった。駅員達が
急いで遠ざけようとし、それでも何人かの居合わせた人間は尚も、眼下の線路に被せられた
ブルーシートを撮影しようとしている。
(人身事故か……)
 不意に落ちたのか、飛び降りなのか、そこまでは判らない。ただ確実に言えることは、帰
宅時間がもっと遅れそうだという事実だ。見上げてみた電光掲示板にも、ダイヤの乱れを謝
る旨が確認出来る。人一人が死んだというのに、自分を含めて先ず気にするのは時間の方だ
った。不謹慎なんだろうけどな──ちらり思っても、イコール己の人生という最大のリソー
スの一部なのだ。社会的によりも動物的に、自分達は他者を切り捨てることに実はそれほど
罪悪感など感じないのかもしれない。
(……仕方ねぇな。別の便を探すか……)
 それでもふいっと、卜部は詮無いと自覚する思考を切り替えて歩き出す。踵を返し、一旦
今いるホームから離れることにした。後方では尚も事故後の対応・他人びとのざわめきは続
いており、中には予定が狂ってしまったと、駅員達にクレームをぶつける者の怒号まで耳に
届いて来ている。『編成(パーティー)』『任務(クエスト)』『登用(ガチャ)』──出
しっ放しにしていたスマホの画面、ゲーム内では、お気に入りのキャラクターが何一つ変わ
らぬ笑顔のまま、プレイヤーの指示を待っていた。

 嗚呼。今日は結局、一日引きが悪かったなあ。
 さっきの線路に落ちてた奴は──やっぱ自分で幕を引いた(おりた)んだろうか?
                                      (了)

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  1. 2019/10/14(月) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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