日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「ロールプレイ」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:地獄、戦争、伝説】


 その世界は有史以来、魔物という脅威と戦い続けてきました。
 文明の発展からの破壊、そして気の遠くなるような復興。際限なく繰り返されてきたヒト
の営みは、今も昔も変わることはありません。
「──っ! はあっ! はあっ、はあッ!!」
 そんな運命の中に在り、翻弄され始めた人間がまた一人。
 彼の名はロレンツ。その日突如として現れた魔物の群れに故郷の村を襲撃され、今まさに
絶望に淵に立たされようとしている少年です。
 幼い頃より見慣れていた筈の風景は、この日を境に失われてしまいました。
 燃え盛る幾つもの火の手の中、同じく見知った村の人々が力尽き、倒れてゆきます。或い
は荒ぶる魔物達に追われ、食い殺されてゆきます。それは生まれてこの方、殆ど外の世界を
知らなかった少年にとって、まさしく地獄絵図と呼ぶに相応しいものでした。
「何をしてる!? ロレンツ、逃げるんだ! 逃げろォォーッ!!」
 ですがそれ以上に、彼という人間をその魂から痛めつける切欠が在りました。彼と物心つ
居た頃から共に過ごしてきた、良き兄貴分にして無二の親友・グレンです。剣の心得があっ
た彼は、自警団の一人として果敢にも魔物達に立ち向かい、ロレンツら他の村人達を必死に
逃がそうとしていました。守ろうとしていました。
「で、でも……」
「行け! お前だけでも、生き延びるんだッ!!」
 これは後になって判った事ですが、彼らの村に魔物達の群れが押し寄せたのは、遠く西方
の遠征軍がこれを討ち漏らし、その一部が逃れてきた先に位置していた──ただそれだけの
理由だったのです。各国が定期的に行う“掃除”により、大きく消耗したこの残党達が、自
らの飢えと回復を兼ねて目に付いた人間を狙ったのです。
 しかし、当の彼らにとってみれば些末な事でした。直接恨むべきは、確かに討ち漏らした
件の軍勢かもしれませんが、大元を辿れば魔物という存在──只々その一点に尽きます。
 必死の抵抗も甲斐なく、村はやがて壊滅しました。
 グレンら村の自警団の面々も多勢に無勢、素人より多少戦える程度では追い払うことも叶
わず、朝日が昇る頃には全てが終わっていました。焼け落ち、血と灰の臭いでむせ返るかつ
て故郷だった場所の一角で、ロレンツは親友(とも)を抱きかかえていました。瀕死の重傷
を負い、今にもその命は消え失せようとしています。
「ごめんな……ごめんな……? 俺達が足を、引っ張っちまって……」
「……何を、言って、やがる。お前らを守るのが、俺達の、使命だったんじゃねえか……」
 酷く赤黒い汚れ。それでも最期まで、グレンは彼を励ますことを忘れませんでした。フッ
と力なく、ボロボロに泣いているこの親友(とも)を、それ以上にボロボロの姿になりなが
ら見上げて。
「お前が生きてて、良かった。後の事は、頼──」
「グレン……? グレン!!」

 生き残った村人は、ロレンツを含めて僅かでした。しかし失ったものは大きく、彼らの故
郷は文字通り灰になって消えたのです。
 自らの腕の中で事切れた親友(とも)を前に、ロレンツは大粒の涙を流し続けながら泣き
叫んでいました。それは生き残った他の村人達でさえ、その先の狂気を予感させるほどに、
深く大きな迫力を伴って。
「お、おい……」
「何処に行くの、ロレンツ?」
「待てよ! 近くの街に行ったって、誰も俺達を助けてくれやしないんだぞ!」
「……」
 そうして彼が泣くのを止めたのは、何時からだったでしょう? 村を建て直すにしても、
何もかもが足りなかった生き残りの面々の下から程なくして、彼は行方を眩ませてしまった
のです。ふらふらと、まさに失意のままに、その背中は言い知れぬほど巨大な哀しみと怒り
に満ちていたといいます。
 ──助けてくれ? そんな生易しいものじゃない。
 この時からロレンツに宿っていた感情は、他の面々とは明らかに違っていました。
 悲嘆ではなく、憤怒。自らが無力であることを知り、しかし諦めることをしなかった者だ
けが進むことの出来る道。即ち家族や仲間達、親友(グレン)の仇を取ることでした。
 俺は弱い。だから強くならなければ。もっともっと強くなって、皆を殺した魔物どもに復
讐する。この世から一匹残らず、駆逐してやる。
 その後数十年の彼の足跡は、明確な記録が残っている訳ではありません。ただ最初は、亡
き友が師事していた剣士を訪ね、自身も剣術を学んだといいます。更にそれだけでは飽き足
らず、以降無謀とも呼べる修行の数々に身を投じていきました。

 剣を修めるには先ず身体作りからと、師でさえ恐れ、幾度となく止めるほどの鍛錬を。
 人を守る剣ではなく、魔物を殺す為の剣を──その追及の末、遂にはこの師とさえ対立し
て殺害し。
 西に高名な魔術師が住むと聞けば訪ね、剣以外の力を求め、東に悪名高き盗賊達の根城が
あると聞けば、単身攻め込んでこれを一人残らず殺し尽くしました。当時近隣の集落に住ん
でいた者らの証言によると、帰ってきたその身はおびただしいほどの返り血に染まっていた
といいます。
 またある時は、遺跡に巣食う魔物らを斬っては捨て、その奥に眠る曰くつきの魔剣を我が
者に──生涯の愛刀として振るったとの逸話も残されています。

『ロレンツ? ああ……。例のトチ狂った剣士か』
『止めとけ止めとけ。あいつと関わったら、命が幾つあっても足りやしねえよ』
『彼は凄いんだから! この前も、伯爵領を襲った魔物をばっさばっさと倒したし……』
『英雄よ! 彼こそ、私達を魔物達から守ってくれる最強の戦士なのよ!』

 人の噂・評価というものは常に流動するものです。少なくとも彼は、血の滲むような努力
を何十年もの間続け、魔物を狩る為に諸国を転々とする傭兵となっていました。事実として
記録に残っているのは、そうした戦場での活躍です。
 かつての悲劇──魔物達により、大切な人々を奪われた憎しみが彼に与えたものは、他で
もなく力でした。この世界に跋扈する魔物という存在への恨み。その感情が、かつて一介の
村人でしかなかった少年をここまで衝き動かしてきたのです。

「──退け、退けぇぇぇ!!」
 そんな中で事件は起こりました。ある年、大陸でも屈指の規模を持つ都を魔物達の大群が
襲い、甚大な被害をもたらしたのです。人々はその報せに戦慄しました。
 しかし、真に衝撃だったのはただ単に襲撃を受けた、その点ではなく……。
「お終いだ。お終いだあ。もう俺達は、勝てないんだあ……」
 魔人。一見すると人の姿をした最位の魔物。そんな魔人達の王が、配下の魔人・魔物達を
率いて人類に戦いを挑んで来たのでした。最初こそやられっ放しでは済ませないと、各国は
兵を募ってこれに立ち向かいましたが、彼らの力は強大でした。従来は散発的な“群れ”で
しかなかった魔物達が、明らかに“軍隊”として統率され、何倍にも高められた純粋な力を
前にヒトはあまりにも無力でした。戦いに加わった兵士達が、歴戦の猛者達が、次々に敗れ
ては死に、或いは我先にと逃げ出し始めます。
 反撃すべしと臨んだ決戦は、まさに人類の大敗として終わろうとしていました。
「──邪魔だ。失せろ」
 ですが、そこに居たのはロレンツです。彼もまたこの戦いに参加した傭兵の一人として、
大地を埋め尽くさんばかりの魔物達を狩っていたのです。
 すっかり怖気づいてしまった友軍兵を押し退け、一人相棒の魔剣を担いで進む姿。
 その横顔と体躯に、かつて弱々しかった少年の面影はありません。数多の戦いと鍛錬を積
み重ね、傷だらけになった筋骨隆々の肉体。動きを邪魔しないよう最低限の部分だけを覆っ
た防具は、この戦いにおいて最早ボロボロになるまで痛んでいました。
「未だこんなにいやがったとはな。上等だ。最後の一匹になるまで、細切れにしてやるから
よお!!」
 カッと見開いた狂気、鬼気の眼。直後彼は霞むような速さで地面を蹴り、共鳴して輝く魔
剣を引っ下げて、この魔物達の群れに飛び込んでゆきます。
 怒りというよりは、寧ろ喜んでさえいるように仲間達には見えました。少なくとも自らの
恨みをぶつけられる相手、人類の敵を殺すことが目的と化しているように。
「ギャッ!?」「ぐぅっ……!!」
 図体や数だけの雑魚魔物達は言わずもがな、高位の存在である魔人の将達も含めて。
 彼は敵の黒波に呑まれるのも厭わず、斬り続けました。とうに常人の動き、領域など超越
して、襲い掛かる魔人達にさえ苦戦をさせながら。
「──迸れ。我が闇よ」
 しかし次の瞬間、そんな彼にさえ受け切れぬほどの攻撃が飛んで来ました。濃縮された紫
の炎が渦を巻いて奔り、単身攻め込み続ける彼を押し戻します。
 顔を歪めたのは一瞬。ロレンスは吹き飛ばされながら受け身を取り、バック宙の要領で着
地しました。ズザザッと大きく距離を取り、この魔術を放った主を睨みます。
「ほう? 我が魔道さえ耐えるか。流石は人類の希望の星、ロレンス・ディッカーか」
 彼は思わず目を見張りました。人型の魔物──魔人には違いありませんが、他の者達とは
明らかに雰囲気が違います。
 青白い肌に尖り耳。オールバックの灰髪と人間の王族ような衣装・振る舞い。
 強者の余裕──ロレンスは直観的に理解します。こいつこそが、魔物達の親玉だと。
「……お前は?」
「名か。名乗るべき名ならとうに忘れた。今は部下達に、王などと呼ばれているが……」
「そうかよ。まぁいい。俺が斬る相手だってことには変わらん」
「良い目だな。酷く濁って、且つ酔っている。それでこそ私が睨んだ、次代の王に相応しい
逸材であろうよ」
「何……?」
 敵だ。ならば斬る。終わらせる。
 にも拘らず当の本人は、何故か悠々とそう語り、悦びさえ見出していました。魔剣を握り
直していたロレンスは、つい眉間に皺を寄せて、怪訝の表情を浮かべます。
「言葉の通りさ。人類を脅かす脅威を見事排除した英雄は、晴れて人々に王として認められ
るだろう。誰も敵わぬ、どんな政敵(てき)さえも撥ね退けられる、統一の象徴としてな。
我々はその為に遣わされた存在だ。お前達が一致団結する為には、共通の“敵”が必要だろ
う? 尤も、統一された後の治世がどれだけ続くかまでは保証出来んがね」
 何を言っているのか解らない。ロレンスは目を見開いたまま、剣を構えた体勢で固まって
いました。
 お前達魔物は、何の理由もなく理不尽に、俺達を蹂躙するだけの災いではなかったのか?
故郷の皆や親友(とも)の命を奪った、只々それだけの“悪”以上でも以下でもない化け物
ではなかったのか……?
(俺が、王?)
 さあ! 言ってこの魔人の王は、自ら両腕を広げてみせました。素早く隙を突けば、その
まま致命的な一撃を入れることが出来るでしょう。そうすればめでたく長きに渡った戦いは
終結し、ハッピーエンド。皆が幸せに、安心して暮らせる世の中になる──筈でした。
(俺を……王?)
 にわかに寒気がして、彼は振り返ました。遥か遠く背後の友軍、取り残されたボロボロの
兵士や傭兵らが、こちらに向かって地鳴りのような歓声を上げています。自分達のやり取り
は聞こえていないようでした。魔人の王が取るそのポーズも相まって、彼らはこの“英雄”
が勝利を収める瞬間を確信しているようでした。
「さあ、斬りたまえ。これが君の……望んでいたことだろう?」
『──』
 悠然とした王。或いはつい先程まで命のやり取りをしていた、配下の魔人や魔物達。
 ロレンスは頭が真っ白になっていました。血塗れの彼らに囲まれ、見つめられ、これまで
の人生を捧げてきた目的が、今まさに果たされる寸前になって。
                                      (了)

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  1. 2019/09/29(日) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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