日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「だから庇を」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:屋内、雨、可能性】


 何時ものようにゆっくりとティータイムを楽しもうとしたものの、今日は生憎の空模様だ
った。それでもまぁ、こんな日もあるさと、私は何時ものように馴染みの店先に座る。偶に
は雨音をBGMにするのも良いだろう。元々軒が深めな造りのため、こんな日和でもテラス
席の大半は問題なく使用出来る。
「──くっそ! 急に降るなんて聞いてねえぞ!」
 昼下がりから夕暮れへ、少しずつ強まってゆく雨脚。
 温かめにして貰った紅茶をちびちびと口にしていると、目の前の大通りをそう悪態を吐き
ながら駆け抜けてゆく男性がいる。
 草臥れたスーツ姿が、降られたせいで濡れ始めていた。本来の色よりも濃く、おそらく今
後染みとして生地の表面に残るであろう、やや楕円の点々を。
 革のビジネス鞄を傘代わりに頭に乗せながら、誰にという訳でもない彼の叫びが、私や周
囲にいた人々の耳に届く。光景自体はさして特別なものとは言えなかったが、それでも幾人
かが眉間に皺を寄せていただろう。
(……)
 強いて表現するならば、この世界と自らを取り巻く日常に。
 彼を含めた少なからぬ人間達が、何か好ましくないことを切欠として感情を爆発させる。
以前より溜め込んでいた鬱憤を衝動的に吐き出してしまう。
「五月蠅いなあ」
「折りたたみぐらい、持ち歩いとけばいいじゃんよ」
 別の方向から、チッとそんな若い男女の呟きが耳に届く。私は半ば無意識の内にその反応
を横目に見ていた。カップに口を付けてはいたものの、あまり美味に貢献してくれるとは思
えない。
 それまで──普段はさほど気に留めることはなかったが、ふと余分に周囲の者達の顔色が
気になってしまった。或いはこのような天気も手伝って、自身も何処かで陰鬱に呑まれてい
たのかもしれない。
 バシャリと、雨水の溜まる道路を走り去ってゆく車。上がる飛沫の音と、運悪く巻き込ま
れたらしい通行人の悲鳴。
 最初の彼のように、強く降り出した空模様に悪態を吐きながら家路を急ぐ人々や、一旦諦
めて近くの軒下で雨宿りを始める若い女性の一団。どちらにしても傍からに騒がしく、ゆっ
くりと一時を楽しみたいというこちらの思いとはそぐわない。
 加えて暫くすると、何処からか「はははは!!」と一人の初老男性が、この雨脚の中傘も
差さずに高笑いをして現れる。私を含め、雨宿りなどで道向かいを眺めていた他人びとの多
くが、この光景に面食らっていた。「……何なの、あれ?」「みっ、見ちゃいけません!」
唖然として女性の一団は立ち尽くし、幼い我が子を連れていた母親は必死にこれを見せない
よう、その両目を背後から覆い隠す。
(……ふむ?)
 今日はどうにもおかしな日だ。私は思った。
 確かにわざと雨に濡れることも、個人の自由と言えば自由なのかもしれないが……。
 誰かが通報したのだろう。ややあってこの男性は、駆け付けた警察官達によって取り押さ
えられた。何やら意味不明のことを連呼していたようだが、雨音もあってこちらからはよく
聞き取れない。ずるずると、まるで舞台袖へ押し込められるように連れ去られてゆく。
 何ともおかしな日だ。折角温めて貰った紅茶が、すっかり冷めてしまった。
 店員を呼んで、おかわりを注文する。ついでに茶請けも追加で。今度はもっと甘い奴を頼
むとしよう。一見すると、対応してくれた若い女性店員は、先ほどの騒動で同じく動揺を抱
えていたらしい。勤務中という事もあって、本人は努めて小さな苦笑いだけに留めようとし
ていたようであったが。
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
 ぺこりと丁寧なお辞儀。メモを胸元に抱き、彼女が店内へと戻ってゆく。
 私は、この上品な雰囲気漂う店が好きだった。経営者の意向だと思われるが、スタッフ達
も総じて教育が行き届いている。勿論、味も申し分ない──常連となるだけの理由がある。
 それでも……雨の日の来店だけは、暫く自粛しようかと私は思い始めていた。この店に罪
がある訳ではないが、やはり昼下がりのティータイムはもっと落ち着いて、救われた気持で
臨みたいと思う。
「何だと!?」「ああ?、やんのか!?」
 かなり遠巻きだが、通りの向こうにある別の店の軒先で、どうやら客同士がトラブルを起
こし始めたようだ。お互いにやんちゃそうな、血気盛んな感じの男性二人。声が耳に届いて
ようやく認識した程度だから、そもそもの切欠は分からない。それでも当の本人達は、今に
も取っ組み合いの喧嘩を始めそうである。
「よ、止しなよ!」
「おっ……お客様、困ります……!」
 通りがかった勝気な女性と、一方で対照的な女性店員がおっかなびっくりに、この二人の
いがみ合いを止めようとしている。しかし双方一旦感情の火が点いてしまったのか、或いは
プライドが故に引っ込みがつかなくなったのか、彼女らの制止に寧ろ怒りは増幅されてしま
っているように見える。
 にゃろう!!
 遂に一方の男が、もう片方の男の顔を殴り付けてしまった。
 それからは、双方互いに殴り殴られの応酬である。彼女らと、騒ぎを目の当たりにして店
内から出て来た客や店員が何人かで取り囲み、必死に押さえ込もうとしたが、逆に当の二人
は益々ヒートアップ。彼らを押し退けてでも、一発でも多くこの憎き“敵”に拳を打ち込も
うと躍起になっている。
(……駄目だな)
 私は漠然とそう思った。道向かい、遠くの出来事だとはいえ、予告もなく目の当たりにさ
せられて良い気分でいられる訳がない。注文した手前、再び戻ってきた先の若い店員から茶
と菓子を受け取ったが、はてさて全部食し切れるだろうか。
『皆さん、こんにちは! ●●の会です! この社会は、今まさに危機を迎えており──』
 更に文字通り横から割って入ってくる者達が現れた。私と向こう、目の前の大通りを遮る
ように曲がってきた、何処かの団体の街宣車だ。雨音と、キンキンと甲高い雑音が入り混じ
ってよく聞き取れないが、どうやら何かしらの主義主張を車内から再生しているらしい。
『──』
 有り体に言って、最悪のタイミングである。ただでさえトラブル続きでピリピリとしてい
た周囲の人々が、まるで堪忍袋の緒が切れたかのように一斉に睥睨。事情も知らなかったで
あろうこの街宣車に向かって、幾人かの者達が怒涛の勢いで噛み付いたのだった。
「五月蠅え!」
「黙ってろ、このクソどもが!」
「ずかずか入ってくんな! 邪魔なんだよ!」
 驚いたのは街宣車の──おそらく雇われでコースを巡回していただけであろう、車内の運
転手や補助スタッフ達だ。
 突如として牙を剥かれ、車を囲んで襲い掛かってくる彼らに、面々は酷く混乱していたよ
うだ。その間にも車体は止められ、窓ガラスを叩き破られてドアが開き、無理矢理引っ張り
出されて雨に濡れたアスファルトの上に放り出される。
「クソッタレが! 何で、何でこんな……!」
「お前ら何処の馬の骨だよ!? 俺達の街で、何やらかす気だ!?」
 はっきり言って、狂気の沙汰でしかない。一体どちらが? 敢えて言及する必要などない
だろう。私は何時ものテラス席の一角で、呆然とこの一部始終を目撃して(みて)いる。道
向かいの奥、徒党を組んで襲い掛かる彼らは、手近にあった角材やモップなどでこの街宣車
の面々を滅多打ちにしていた。多勢に無勢、なし崩しの状況もあって、ろくな抵抗すら出来
ていない。
「おい、何をしてる!?」
「止めなさい!!」
 するとこちら側の奥の方から、数人の警察官達が駆け付けて来た。もしかしたらさっきの
初老男性を連行して行った面々かもしれない。一日に何度も不憫な……。私は思い、あくま
で“傍観者”的にこの一部始終も眺めていたが、騒ぎ自体はどんどん大きくなってゆく一方
だった。というよりも、周りが「何事?」と惹かれるように顔を出し、伝染してゆくと表現
する方が正確だったのかもしれないが。
「離せ!」
 最早、誰が最初喧嘩を始めた人物かもよく判らなくなっていた。視界に映している私自身
が現場から道向かい──距離的に遠い場所に居るというのも、要因ではあったのだろうが。
 すっかり三者が揉みくちゃになり、それでも一人また一人と警察官らに、関わった人間達
が取り押さえられる。雨脚が弱まる気配がないまま、無線で応援を呼んでいるらしい姿が見
えた。流石にたった数人では、こうも混ざり濁った衝動達は止められないか。
『……』
 そんな時だ。道向かいの彼らの幾人かが、他でもない私を見つめた……ような気がした。
少なくともこちら側の存在の気付いて、睨むように視線を寄越してきたとみえる。或いは急
に暴行を受けた、街宣車の面々が縋るように私の眼を──。
「……」
 冗談じゃない。おそらく私が第一に浮かべた思考はそれだったのだろう。保身、そう詰ら
れても仕方がない。否定は出来ない。
 だけど、どうしようもないじゃないか。
 私に一体、何をしろと言うのか? 自分と彼らと、どちらが正しいのか、判断して表明し
てくれとでも言うのだろうか?
 冗談じゃない。
 私は彼らに、そんな義務も責任もない。大体白か黒かを口に出してしまえば、どちらにせ
よ、あの者達から無駄に恨まれるだけではないか……。
「すまない」
 故に私はすぐ、カップと菓子を手に、店の中へと避難することにした。店員らも道向かい
の騒ぎは観ていたようで、私の意図をすぐに汲んでくれ、迎え入れてくれる。「今日は災難
でしたね……」何かフォローしなければならないと思ってくれたのか、内何人かが空いた席
に案内してくれながら、そう力なく苦笑(わら)う。
「ああ。まったくとんだティータイムだよ」
 帽子を脱いで胸元へ。同じく私もその所作に応えた。
 暫く雨の日の外出は気が進まなくなりそうだ。だからこんな時の為に、私達にはしっかり
と屋根のある空間が必要なのだろう。
                                      (了)

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  1. 2019/09/01(日) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

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