日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「メメ・ター」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:静か、先例、人工】


 目の前には、白紙なままの頁が広げられていた。一昔前ならば文字通り真っ新な紙であろ
うが、今は専らデジタル上の空っぽである。
「……」
 夜も更け、独り自室に籠った彼は、黙して筆を執っていた。……いや、実際にはペンを握
っている訳ではない。両手を、パソコンのキーボードの上に乗せたまま唸っている。
 カーテンを開けば暗闇というのも手伝ってか、周囲から聞こえてくる音は皆無だった。
 強いて言えば空調だろう。尤もその音さえも、彼は五月蠅いからと極力弱い設定で動かし
ている。要するに、無駄に神経質なのだ。
「……」
 書かなければと彼は思う。文章を物語を、自他が認めるほどの虚構(フィクション)を。
 とはいえ、現実は貧弱である。当初、志だけは海に宙(そら)にと膨らんでいたものの、
今やそれらは何処へ霧散していったのやら。自らの力量ないし分析眼──認められる為に必
要な努力から逃げ続け、その自尊心を繕うことばかり磨いて久しい。
「五月蠅いな。勝手に独白(モノローグ)を付けるんじゃねえ」
 言って、睨み付ける。真似をする。
 しかし根っからの小市民である彼に、他人一人を凄ませられるほどの眼光が宿っている筈
もない。仮に在るのなら、早々に自身の物語の中へと注ぐべきだ。己が没入できない程度の
物語で、はたして他人の心を揺さぶる事など出来ようものか。
「……チッ」
 描かんとするものは、いつだって虚構(フィクション)である。しかしだからこそ、彼や
その他多くの作家志望──自称・作家なる者達は日々苦しむ。産みの苦しみを大なり小なり
知っている筈なのに、そこから“いち抜け”しようとはしない。
 白い画面に視線を戻す。文字通り機械的な入力フォームは、小さな縦棒のカーソルを点滅
させたまま、その場から動かない。思いついて何度かキーを叩くも、途中でその指先の動き
は止まり、数拍の迷いの後に消去される。或いは頁の中に覚書として仮のストックに留まる
か、手元に広げたメモに延命処置(かきうつ)されるかといった具合だ。
 進む秒針、更けてゆく夜長。
 今で一体何行目? 全部で一体何文字になったのか?
 やたらに気になる時と、そうでない時がある。大よそ前者の場合は、彼の執筆が捗ってい
ない証拠だ。目標(ゴール)を意識し過ぎてしまえば、肝心の過程が疎かになる。かと言っ
て分量にメリハリを付けなければ、全体として不格好に膨れるのを許しただけの文章になる
だろう。
「……五月蠅いって言ってんだろ。邪魔すんなよ」
 文章とは難しい。物語とは、更に難しい。
 どちらも他人に読まれることを意識せざるを得ない──得なくなるという点では、似通っ
ている部分は多い営みだ。ただ何かしらの事実や意見を伝えるのと、虚構(フィクション)
を伝えるのでは大きな違いがある。加えてそこに自らの思い、いわゆるメッセージ性などを
含ませようとすれば、乗り越えるべき課題は幾らでも積み上がってゆく。
「……」
 元来、無なのである。題材となった現実の出来事、漠然としたイメージはあるが、それを
先ずは言語化せねばならない。言い換えるなら或いは、自らが抱いたそれを他でもない自ら
が把握し、形として定義する作業が必要となる。自分で判らぬものを、どうして他人が解っ
てくれるだろうか。
 その意味で……彼は迷走していた。長らく書く事それ自体が目的となってしまい、先ず動
機としてイメージ、創作意欲を掻き立てられる虚構(フィクション)が思いつかないでいた
のである。
 彼はある種の完璧主義者である。自己陶酔と卑下癖の間に揺れる人間である。今でこそ繰
り返し繰り返し“挫折”を経験する中で多少丸くはなったろうが、それでも尚しこりのよう
に残り続ける拘りは、決して彼を器用な人間にはしない。
 オリジナリティが欲しかった。他人はともかく、自分がちゃんと頷ける物語をこの手で創
り上げたかった。既に巷で出回っている作品達と似通った、幾らでも代替の利くようなもの
では駄目だと思っていた。ただでさえ書き手が、物語の数がごまんと在るというのに、すぐ
に埋もれて打ち切りになるだけだ。尤も、今でさえその点はさして変わらないが。
「ほっとけ」
 彼自身、幾度となく自覚している。自分の創る作品は、どうやっても“何処かで見たこと
のある”物語ばかりだと。古今東西、創作のアイデアとは大昔に先人達が出し切ってしまっ
ている──皆誰もが偉大なる彼らの後追い人とはしばしば云われるものの、それでも何とか
抗ってみたいと渇望するのが人間というものだ。即ち、彼ら創作人の業(ごう)とも言える
側面であろう。
 凡人の思いつきなど、実際問題高が知れている。
 第一、仮に何かしら“高尚”なテーマを掘り起こして挑んだとしても……分不相応に説教
臭くなるだけではないか? 大半の他人(どくしゃ)はそんなものを求めてはいない筈だ。
「……」
 行き詰まる度に煩悶、自問自答し、時間だけが非情にも平等に過ぎてゆく。自らの求める
何かしらの理想形に行き着くことが出来ぬまま、今回もまた“時間切れ”を迎えるのだ。
 妥協の産物、奇を衒ってみた実験作。言い方次第でどうにも繕えてはしまうが、要するに
彼の書く文章ないし物語達は、根本として過去自らが手掛けたパターンの繰り返しに過ぎな
いのである。
「うだうだと……。それでどうにかなるんなら、世話ねえよ」
 彼は言う。とりあえずはこれで間に合わせよう。現状これが自分の限界だ、今の“次善”
なのだと、誰に頼まれた訳でもないのに弁明を綴る。折につけ、綴らずにはいられない。
「チッ……」
 そうして彼は、結果少なくない時間をそんなパターンの繰り返しに費やしてきた。新しい
物語を、次なるセカイを創造したいという欲求──創造しなければという焦燥感はあれど、
身体がついてゆかない。物理的にも気力的にも、万全と呼べる状態は間違いなく日々の中で
限定的になって来ている。
 もうすっかり、感性のアンテナが錆び付いているのか──そう自虐で以って嘆く一方、彼
は理解していた。おそらく物語の題材、肥やしとなるものは日常の中で幾らでも転がってい
るのだろうと。見上げるのではなく見ろして、足元に埋もれたそれを掘り起こす。厳密な意
味での感性のアンテナ、創作人的な感受性とやらは、寧ろそちらに向いて付いている。日常
に埋没しがちな中で、転がっているそれらに気付くこと。自分なりの視点を以って気付ける
か否か? クリエイティブとは、先ずそんな地道な作業から始まってゆく筈なのだろうと。
「……」
 彼の自問自答は、いつだって自己完結的だ。それは彼の創作活動自体にも似ている。
 要するに“他人の為に”という意識が足りないと思われる。少々乱暴な言い方をすれば、
プロ意識という奴なのだろう。どれだけ弾数を作っても、企画を練ろうと空想の一時に沈も
うとも、物語を誰かの為でなく先ず自分の為に用いてしまう。それが一概に悪癖だとは言え
ないのかもしれないが、ことエンターティナーという側面では不適正と言える。
 どれだけ小難しい理屈、ないし作中に造り上げた世界観を引っ提げようとも、それを娯楽
と──消費物として価値が乏しいと人々に判断されれば、容易に投げ捨てられるのが現実だ
った。事実ぺいっと、己のそれを捨て他の誰かのそれに群がる人々を、彼自身多かれ少なか
れ観測してきたのだから。
 当初あった(それこそ無知が故の尊大な)志は、はたして彼自身今や過去のものとして処
理してしまった感がある。カタカタと、未だ日課のようにキーボードを叩く営みは止めない
ながらも、そこで生計として闘うことに意義を見出せなくなってしまった。有り体に言うと
夢を諦めてしまったからだ。
「おい」
 そこまで熱量はない。自分が食らい付いてゆけるとは思えない。
 だからこそ、彼はある意味開き直ることにした。少なくとも真っ直ぐプロに憧れ、目指す
列に加わらなければ、自らが傷付くことはない。好きで書いているからと、他人の読まれる
努力もある程度免罪符のようにのらりくらりとかわす事も出来る。尤も中にはそれでも尚、
自己満足の域を出ない同士を厳しく指弾して回る者も散見されるのだが。
「……」
 頁は変わらず、基本的に真っ白だ。書いては消し、書いては消してを繰り返す。これが原
稿用紙を都度くしゃくしゃに丸めて捨てる、という行為でないのは……時代の流れか。良く
も悪くも、彼や多くの書き手達は“失敗”を残さない。己の中の奇妙な美学なるものが、な
らばいっそ始めからなかったことにしたがるからだ。
 だからせめて、今掛かっているものだけは──ちゃんと終わらせたい。
 加えて、結果としてやはり、それらは大よそ現状維持の方便に費やされる。長々と、過去
積み上げてきた自分の作品、未だ嵌ってくれたパターンを捨てる勇気を持ち切れずに。
「お前……」
 構想だったら、凄いのがあるから! 絶対に超大作になるから!
 故に彼は、そのような言動を強く自制している。
「えっ」
 それはひとえに、己の力量を弁えているという以上に、恥だと認識しているからだ。実現
してもいない成果を引き合いに出し、自分が優れていると吹聴する。そんな前のめりの自尊
心が故に痛い目に遭った者達や、実行しようとして心折れ、やがて筆まで折ってしまって姿
を消してしまった同士らを幾人か知ってきたからだ。
「……」
 確かに、そうして自ら声を上げて他人びとに作品を、存在を知って貰おうとする活動は、
今やプロ意識に準じる創り手にとって必須の技能となっている側面がある。寧ろ版元、芳し
くない自らの成果によっては、そのほぼ全てが自分に投げ渡されているようなケースさえ珍
しくはなくなってしまった。
 それでも──彼はやはり、そこまで積極的にはなれないな、と思う。
 作品を書く。それは好きだ。苦しい事も多いけれど、今や切り離せないライフワークと化
して久しい。だけども個人としてのそれと、対外的にアピールするそれは全く違う。薄情か
もしれないけれど、そこまで自分の作品達について“確信”がある訳ではないからだ。先ず
手に取って貰えたら僥倖、楽しんで貰えたなら万々歳──自分の物語を読み、何を思うかま
では、事細かにしゃしゃり出るのは無粋ではないか? と考えてしまうからだ。
 一応自分なりに込めたメッセージなり何なりはあっても、それを声高に宣伝するのは如何
なものか? ならばそもそも、物語という形に落とし込む必要性が薄れる。或いは全く意味
が無くなる。感情や意欲を徒に強いられることは、少なからぬタイプの人間にとっては不愉
快なものである筈で。
 そういった事に心を砕く暇があるのなら、もっと自分の文章を磨きたい。
 そんな“昔気質”の欲望を、他人に読まれる(えいぎょう)努力と天秤にかけてさっさと
重く扱ってしまうのは──そこまで責め立てられて当然なのだろうか?
「……。うだうだと」
 彼が広げている頁は、結局本原稿にはならなかったようだ。ぽつぽつと、箇条書きにされ
た構想の断片が、縦棒のカーソルと一緒に貼り付けられている。音もなく点滅するそれが視
界に入っているからか、ふと気を抜けばこの断片達も一緒に零れ落ちそうな心地さえした。
 ……やっぱりだ。
「あ?」
 捗らない。結局間に合わない。
「ちょっ!? ちょっ、おま──!」
 粗削りだが、これで白紙を埋める事は出来たようだ。
 如何せん当座の文章となって申し訳ないが、この辺りで頁を〆ることとしよう。
                                      (了)

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  1. 2019/08/25(日) 00:00:00|
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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