日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「ずっと」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:指輪、玩具、ツンデレ】


「ちーちゃん、これあげる!」
 それは二人がまだ、ずっと幼かった頃の出来事です。同じ保育園の教室で、千沙は一人の
男の子からある贈り物を差し出されていました。
 にぱっと、人懐っこく微笑(わら)って。
 それはプラスチック製の、小さな玩具の指輪でした。何処から持って来たのでしょうか?
少なくとも、周りでやいのやいのと動き回っている他の男の子達とはそぐわない、大よそお
飯事(ままごと)に使うような代物です。
「……」
 ムスッと、この女の子・千沙は不機嫌面を浮かべます。それでも尚、こちら側の好意が伝
わっている筈だと信じて止まない男の子の名前は、一貴(かずき)──彼女とは家が向かい
同士のいわゆる幼馴染です。
 何? 何? 程なくして他の子供達が、二人の様子に気付いて視線を向け始めました。或
いはわざわざ周りに集まって来て、良くも悪くも純朴に野次馬を決め込みます。
「……要らない。こんなの、ただの玩具じゃない」
 だからか、結局彼女が返した言葉は、そんなつっけんどんなものでした。
 元々素直じゃないというか、物事を後ろ向きに捉える癖があるというか。加えて周りの皆
が、からかい気味でこちらを見ているとなれば……素直になれる訳がなくって。
「そう……」
 流石に男の子・一貴も気持ちしょんぼりとし、両の掌に乗せたそれに暫く視線を落として
いました。ぱちくりと、何度か目を瞬いて。周りがいよいよもってからかってくる声も余所
に、何処となく考えの読めない思案を深めているようにも見えます。
「お~? 千沙、好きって言われた? 好きって言われた?」
「ひゅーひゅー!」
「えっと、何だっけ? おさなな、なじみ……?」
「あははは! フラれてやんの。だっせ~!」
「そうよ。もっと“でりかしー”がなくっちゃ。千沙ちゃんもはっきりと言い過ぎだけど」
『……』
 そうやって、周りから笑われたり窘められたり。二人は確かにこの時、皆の中心に立って
いた筈です。主人公であった筈です。
 しかしこの時、二人の見せた反応は全くもって違っていました。彼女は尚の事恥ずかしく
なってへそを曲げてしまいましたし、一方で彼の方は未だぼんやりと、自分が何をやらかし
たのか理解し切っていない様子だったのです──。

「ちーちゃん、お昼一緒に食べよう?」
「……話し掛けて来ないでよ。馬鹿なの? っていうか、いい加減その呼び方止めてよ」
 ただ、学校に上がってからも、凸凹な二人の関係性は辛うじて緩々と続いていました。と
いうより彼の方が、幼い頃のそれと変わらぬまま接していたからという部分が大きかったの
ですが。
 最早本人達も周りも見慣れたように、今日も今日とて彼は弁当包みを片手にニッコリと微
笑みかけてきます。席にやって来ます。ですが当の対する彼女は──幼い頃と変わらないと
いう意味ではやはり同じように、返す態度はつっけんどん。寧ろ険のある態度や物言いは、
以前よりずっと強くなっていましたし、何より思春期真っ盛りの少女にとってこの能天気な
幼馴染は、長らく目の上のたんこぶのような存在となっていたのです。
「あ、ごめん……。千沙」
「馴れ馴れしく呼ばないでよ。他の男子と食べてくればいいでしょ」
「うーん。でも、皆で食べた方が美味しいよ?」
 どっちなのさ? それでも彼の方は、そんな彼女からの毒舌にもめげず、この日も仲良く
過ごしたいと試みているようでした。教室の向こう、窓側の席でその他の男子達──彼の現
在の友人らがニヤニヤと一部始終を観察しています。
(いい加減、空気読みなさいよ……。私達、もう中二よ?)
 盛大に嘆息。彼女はわざとらしく不満を言外に表明し、尚且つ内心でそう、この変わり映
えのしない腐れ縁(おさななじみ)の言動を疎ましく感じていました。
 ……いえ、厳密には違いました。正直な所恥ずかしいのです。確かにもっと小さい頃は、
男子女子という垣根もなく遊ぶこともありましたが、今はお互いすっかり大きくなってしま
いました。大人、成人と呼ばれるにはまだまだ年齢は届かないけれど、なまじ年頃を迎えて
いる今、あの頃と同じようにはいかないのです。事実、さっきから男どもがニヤニヤとこち
らを見て愉しんでいました。この能天気男が鈍感なのをいい事に、今日も今日とて遠巻きで
からかう材料にして当て付けて。
「ズッキー。千沙も照れてるし、今日は大人しく退いてあげてよ」
「……? うん」
「だ~ッ!! 萌々も満理奈も黙ってて! だっ、誰が照れるのよっ!?」
「ふひひっ。もう、素直じゃないんだから……。まぁそこが弄ってて可愛いんだけど」
 加えてそうこうしていたら、こちら側の友人達にもからかわれ出す始末。
 すっかり顔見知りになった彼女達から、彼はそれとなくフォローされて小首を傾げていま
した。言うまでもなく、一貴からもじってのズッキー。ほわんと頭に小さく疑問符を浮かべ
ていましたが、彼はややあって窓側の席へと戻って行きました。迎えた友人に笑われながら
小突かれ、ひそひそと「どうだった?」と収穫の度合いまで訊かれています。
「……全く。子供の頃からまるで成長してないんだから」
「お? なになに? 惚気?」
「そういや千沙の方が、誕生日的にちょっとお姉さんなんだっけ?」
「っ、だからそういう話じゃなくて……。時と場所を考えろって事よ」
 いつまでも、言い合いにリソースを割いていたらキリがない。彼女は昼休みが終わらない
内に、さっさと弁当を広げながら愚痴っていました。同じく弁当箱、ないし購買で調達して
きた惣菜パンを取り出しながら、この友人達も気持ち身を乗り出して訊いてきます。
「私達だって、もう子供じゃないんだから。実際あんた達にも男子にも、事ある毎にからか
われてるし」
「あはは……。愛情表現だよー、愛情表現」
「うーん。でも実際問題、ズッキーって嫁力高くない? 調理実習でも下手したらあたしら
より美味しいし、服も繕えるじゃん? 彼氏にするならポイント高いっしょ」
「……嫁なのか彼氏なのかどっちかにしなさいよ。そりゃあまあ、得意だけどねえ。気付け
ば昔っから、そういうの得意だったし……」
 さらっと友人達に言われて、一体女子とは? と自問したりしなかったり。
 悔しいが認めるしかないという風に、彼女はちみちみと弁当のおかずを齧っていました。
学校に上がってから今までの人となりを、断片的に思い返します。
 今に始まった事ではありませんが、自分と彼の性格がちょうど逆だったらどんなに良かっ
ただろうか……と悔やむことはありました。とはいえ、がさつで負けん気が強いという自分
を、投げ棄てようとは思ってもこなかったのですが。
 あいつは、一貴は昔っから大人しくて、女々しいぐらいに気の優しい奴で。
 物心付いた頃にはもう、同い年の男の子達と一緒になって外で駆け回るより、一人部屋の
中で積み木遊びをしていた。本を読んでいる方が好きな奴だった。今の嫁──女子力から振
り返ってみれば、あの頃から繊細というか、手先が器用だったのかもしれない。
(だけど……)
 それと、自分に対してやけに馴れ馴れしいままなのは別問題だ。お互い、もう子供じゃあ
ないのだから。年頃なんだから。弁えてくれと、必死に思う。
「だったらさあ。いっそ、他の男と付き合ってみたら? そうすれば流石に鈍感なズッキー
でも、自分の立ち位置ってものが解るんじゃない?」
「えっ──」
 故に、彼女は次の瞬間、自分でも驚くほどに動揺していることに気付いてしまいました。
くっ付けあった席の向かいでは、そう何の気なしに提案し、笑っている友人達が昼食を頬張
っています。
「あ~、それは一つ手かもねえ……。物理的に距離を作っちゃえば、今の状況もちょっとは
大人しくなるかなってことでしょ?」
「うんうん。千沙は気こそ強いけど、見た目のスペックは悪くないんだから」
「……」
 気こそとは何だ、失礼なと突っ込みを入れたくなるいつもの調子とは別に、この時彼女は
内心酷く動揺していたのでした。私が……付き合う? 他の男子と? そして同時にその投
げ掛けられたフレーズに、何の疑問もなく『一貴以外の』が上書きされたのを自覚し、顔が
どんどん真っ赤になってゆきます。眩暈がしそうなほどに熱を帯び始めます。
「? どったの、千沙?」
「顔赤いよ? もしかしなくても、経験するの怖かったりする?」
「……うっさいな」
 とてもではありませんが、友人達(かのじょら)の顔は見れませんでした。
 ザク、ザクッと、弁当箱の中に添えられたサラダをフォークで突き刺しつつ、彼女はぶす
りと頬を膨らませます。内心の熱病が過ぎ去ってくれるのを待とうとします。

「──留学? フランス……?」
 だからこそ、数年後その彼から旅立ちを聞かされた時、彼女は酷く動揺していました。眩
暈に襲われました。いつぞやの、友人達にからかわれた日々の比ではありません。
「うん。暫く修行に出ようと思うんだ。こっちで専門学校は出たけど、ちゃんと仕事として
成立する為には、まだまだ実績も技術も足りないからね」
 学生時代、冬のある日。
 高校を卒業した後、それぞれ別の進路を取った二人は、それでも何だかんだと緩い付き合
いを続けていました。主に彼の方からの、幼馴染としての「また連絡してね?」といった、
大よそ善意の類と呼んでいい申し出を始まりとして。
 しかし息も白く冷え込むその日、他でもない彼から呼び出して告げられたのは、自らが程
なくして海外留学するというもの。歩み出した夢──宝石加工職人としてのレベルアップを
目指す、修行の旅に出発するというもの。
 彼女は、最初一体何を言っているのか解りませんでした。かねてより、何かしら手に職を
付ける系の学校に入ったことは耳に挟んでいましたが、ここまで本格的で自発的な彼を知ら
なかったのです。
 留学……修行……。
 彼女は只々街の一角、寒空の下でそう、ぶつぶつと壊れた機械のように彼の言葉を繰り返
すしかありませんでした。なのに、驚愕──呆然としている彼女に、当の本人はあの頃と何
ら変わらないニコニコとした微笑みを絶やさずに。
「出国しちゃったら、中々気軽に話も出来ないだろうから……。ごめんね? 時間を取らせ
ちゃって。後でまた、おじさんとおばさんにも顔を出して同じ話を──」
 なのに……いえ、だからこそ、彼女は次の瞬間彼の頬を素早く張っていました。パシンッ
と小気味良い音が辺りに響きます。寒空に試算していくその音と二人の様子を、往来の人々
が一人また一人と一瞥しては歩き去って行きます。
「……勝手に行けば? そんな、大事な話ギリギリに……」
 自分が泣き出しかけていることには、とうに気付いていました。ただ実際に口から衝いて
出たのは、相変わらずの強情で、思わぬ反撃に文字通り面を食らっている彼を尻目に、彼女
は次の拍子には歩き出していました。踵を返して気持ち駆け出していました。
(何で? 何で? 何で!? そんな大事な話、出発する間際になって……!!)
 その性格から、内心の動揺が怒りに変わるにはそう時間は掛かりませんでした。実際彼の
そんな人生の一大事と言ってもいい決断を、彼女は直前まで気付かなかったのです。知る由
もなかったのです。
 ……それが、彼女の中で密かに残っていた幼馴染としての自負を、殆ど不意打ちのように
傷付ける結果になっても。

 彼とはそれ以来、全く連絡を取れないままでした。取る訳にはいかなかったし、新しい連
絡先も結局自らぶち壊して往ったことで、聞きそびれてしまったからです。
 嗚呼、あいつは私のこと、その程度にしか思ってなかったんだな……。
 込み上げた怒りは、しかして後悔に変わるのに時間は掛かりませんでした。即ち自分はず
っと昔から、彼のことが好きだったんだと。
 どうして……あんな言い方をしたのだろう? もっと素直になれなかったんだろう?
 向こうも向こうで気まずかったのか、出国前に再びコンタクトを取ってくることはありま
せんでした。一応、彼女の両親に詫びの電話が入ったそうですが、当の本人がそれを聞いた
のはずっと後の事です。何もかも遅過ぎたと、以来彼女は半ば自棄になったように仕事に打
ち込むようになりました。
 宝石加工職人──そんな特殊で煌びやかなものでは決してない。しがない普通のOLへと
落ち着きました。幼い頃に比べ、多少生来の負けん気の強さなどはTPOを弁えることを覚
えましたが、それでも心の中には常にぽっかりと大きな穴が空いていました。焦るように功
を求め、貪欲になりました。事実それでそれなりの成果は上がりました。
 だけど……本当に求めていたものは、彼女自身もう解っていたのです。社会に出てキャリ
アを積んで、折に触れては何人かの男性とも付き合おうとしました。スペック的にも申し分
ない勝ち組もいたのですが、それでもお互い核心的なまでに深い仲にまでは進展しません。
解っていたのです。求めている相手は、違うんだと。
 何度も何度も、泣きました。酒の勢いを借りては一人これを密かに処理し、努めて気を張
っては翌日の出社に備えるというパターンが繰り返されます。
 ですが……人間はそこまで無敵な生き物ではありません。やがて彼女は、少しずつ体調を
壊してゆきました。今までの頑張り過ぎが祟ったのだと、周囲はあさっての方向で心配と理
解を示してこそくれましたが。
『──千沙? 話聞いたわよ? 大分参ってるみたいじゃない。本当、昔っから強情な所は
変わらないんだから……』
 しかしある時、大きな変化が訪れました。かつての友人からふと、そんな心配と叱咤の入
り混じった電話が届きます。
「満理奈……?? どうして、私の番号を……」
『いいから! それより早く行きなさい。ズッキーが──水守君が帰って来てるのよ!』
「?!」
 期せずして伝えられた、遠く海外に旅立った幼馴染の帰国。
 留学は終わったのだろうか? 修行だと本人は言っていた筈だが……。教えて貰った情報
と実家への問い合わせを済ませ、彼女は転がるようにしてかつての想い人の下へと急ぐ。
「ちーちゃ──いや、千沙。びっくりしたあ……。さっきおばさんから連絡があった所だっ
たものだから」
 顔はもうくしゃくしゃになっていました。彼女は間に合わせの余所行き服で件の場所、街
の片隅にある宝石店を訪れました。彼の名前を出すと、老紳士な店長はすぐに店の奥に併設
されている工房へと通してくれ、そこでようやく数年ぶりに幼馴染と再会したのでした。
「えっと……ごめんね? ちょうど作業していたから、あちこち散らかってるけど……」
 研磨の粉が飛んでも大丈夫なように、厚手のエプロンとゴーグル姿。
 専用の機材を前に振り向いた彼の笑顔は、あの頃からちっとも変っていませんでした。た
だ、留学して修行を重ねていた日々の影響か、その両手は随分と酷使されてしまったように
見えましたが。
 店長の計らいで、彼女は一旦店の裏口から路地裏の庭へと場所を移しました。暫く待って
いると、そんな老紳士──好々爺に背中をせっつかれつつ、何やら小箱を手にした彼が遅れ
て出て来てはにかむ笑顔。照れ笑い。
「お、お待たせ。はは……参ったなあ。本当はもっと、準備万端になってからの心算だった
んだけど……」
 彼には珍しく、妙に戸惑った表情。それでも二人は暫くの間、訥々と昔話に花を咲かせて
時間を過ごしました。店長は早々に退出し、店の中へ引っ込んでいます。曰く、海外での修
行から帰って来たのはつい先日のことで、今は留学中に知り合った先輩職人──先の店長に
雇われる形で仕事を始めたばかりだとのこと。
「その……私、謝りたくて……。満理奈から帰って来てるって聞いて、もう居ても立っても
いられなくて……」
 生来の性質は中々直りはしない。すっかり捻じ曲がってしまって久しい自身に、何とか鞭
を打ってあの日の後悔と天秤に掛けながら、彼女は少しずつ口を開き始めました。あの日、
急に留学の話を持ち出されて動揺したこと。ギリギリまで知らせてくれなかったが故に感情
を爆発させてしまったこと……。
「ああ、あれかあ。そりゃあ確かに驚いたけど、僕も僕で勝手だったからねえ」
「……怒って、ないの?」
「千沙にど突かれるなんていつもの事じゃないか。さっきも言ったけど、僕の方だって非は
あったからね」
「……」
 物凄く意外でした。
 てっきり酷い女だと、出国した勢いのまま見限っていたと思っていたのに。理不尽な態度
を取って、恨まれても仕方ないと思っていたのに。
「はあ……。何か、今までうじうじ悩んでたのが馬鹿みたいじゃない」
「え? 悩んでたの?」
「そういう事をさらっと言うから……。っ、まぁいいわ。それで? さっき準備だの、心積
もりだのと言ってたけど……?」
 良くも悪くもお互いに抜けていて、根っこの部分は変わっていなくて。
 彼女の、やや照れ隠しのように振り直した問いに、彼は同じく苦笑いを浮かべて答えたの
でした。スッと、それまで小脇に抱えていた小箱を彼女の前に差し出し、蓋を開いて──。
「どうぞ、千沙。これを君に」
「──」
 小さな指輪でした。目立った派手な装飾こそ少ないものの、本体の宝石やリング、素材が
持つ美しさを丹念に削り取って磨き上げた、芸術的とも思える一品です。彼女は思わず、そ
の輝きに呆然と目を奪われていました。
 何よりその姿は、幼いあの日に差し出され、受け取り損ねた玩具の指輪そっくりで……。
「一貴。あんた、まさか……」
「あ、分かってくれた? そうだよ。むか~し、千沙に指輪をあげようとして突っ撥ねられ
たじゃない? 所詮玩具だって。偽物だって。じゃあ本物って、どれぐらい凄いのかなって
考えるようになって……気付いたら宝石職人の道に進んでた。自分で作りたくなったんだ」
「……」
 驚愕と嘆息と。色んな感情が綯い交ぜになった吐息が、彼女の肺の中から噴き出していま
した。それはきっと、切欠となったあの日から今日までの時間全部。自分はすっかり忘れて
いたけれど、彼はずっと覚えていたのでした。もう一度受け取って貰えるぐらい、凄い指輪
を作り出してみたいと。
「……本当、馬鹿みたい」
 口ではそう言いながらも、目には既に涙が浮かび始めていて。
 そんな彼女に、彼は改めて向き合っていました。曰く自分はまだまだ職人としては発展途
上で未完成で、いざ渡すべきシチュエーションも、脳裏に描いてきたものとは随分と違って
しまったけれど。
「受け取って……くれる?」
 決して小綺麗とは呼べない、街の裏路地。猥雑の領域。季節はとうに幾度となく巡り、今
や初夏の気配すら漂っています。
 彼からの言葉に、彼女は小さくコクリと頷きました。二人っきりで向かい合って、差し出
されたその指輪(おもい)を、今度こそそっと大事に抱え込むように受け取ります。
                                      (了)

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  1. 2019/08/11(日) 00:00:00|
  2. 週刊三題
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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