日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「N+ever(ネヴァー)」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:晴れ、ロボット、主従】


 これは──何の変哲もない物語だ。頁のこちら側とそちら側が全く違う、何処か遠くのセ
カイだという保証など持てない。今よりずっと未来の話かもしれないし、過ぎ去り、忘れ去
られた日々の出来事なのかもしれない。

『本日ノ目標地点(ポイント)ニ到達。浄化工程(シークエンス)ヲ開始シマス』
 正しい歴史なんてものは、文字通り散り散りになってしまったし、記されていた筈の書物
に至ってはことごとく燃えて灰になってしまった。
 遥か昔にあったという大戦の爪痕は、今も尚大地に広く残り続け、最早人の住める環境で
はなくなってしまって久しい。度重なる汚染のダメージは根深く、見渡す限り確認できるの
は無数の荒れ地や毒沼──生命の気配が著しく乏しい掃き溜めばかりである。
 ……それでも、人類は諦めてはいなかった。多くの者はその拠点を地下深くのシェルター
型コロニーに移していたものの、一部の志ある技術者達によって、日夜この汚染された地上
を回復させる試みが続けられていたのである。
 特に、地下文明末期に開発・投入された浄化用ロボット“グリーン・ウォーカー”の登場
によって、状況は大きく変化してゆく。
 それまでは専用の、しかも必ずしも安全性が保証されている訳ではない防護服を身に纏わ
なければ満足に地上へ出向く事さえままならなかったが、これらウォーカー達の活躍によっ
て作業効率は劇的に向上。何より物理的な活動限界とパワーにおいて、大きな貢献を果たす
存在となった。
『領域(エリア)策定……完了。コレヨリ外側ハ後日ノ対象トスル』
『各員配置。浄化機構(クリアランス)、一斉起動……』
 総じてウォーカー達のフォルムは、ずんぐりむっくりの円柱型だ。本体は単眼ランプ状の
センサーや浄化用の装備を備えた上部と、六本のフット兼アームパーツが展開する下部に分
かれており、時々の用途に応じてこれらを柔軟に使い分ける。
 その日もウォーカー達は、生みの親である若き博士ら防護服姿の研究チームと共に、予定
の地区で作業を始めていた。綺麗な円形を作った範囲内を、装備を作動させたウォーカー達
がローラー作戦の形式でゆっくり走ってゆく。装置の吸い込み口から地面に染み込んだ汚染
物質を汲み取り、内部で特殊なフィルターや化学反応を通して無害化。再放出する。
 作業自体はこれらを延々、繰り返し同じエリアから少しずつずらしていって重複させ、汚
染状態を減らしてゆくというものだ。本来なら途方もない時間と労力の掛かるそれも、機械
の身体を持つウォーカー達を量産できるようになったことで大幅に縮減可能となった。
『前日ノ予測値ヨリ、再侵食ノ範囲ガ70センチ大キクナッテイマス』
『本日ノ活動域ヲ、予定ヨリ拡大サセルコトヲ進言シマス』
「ああ……そうしてくれ。002、003、細かい指示は任せるよ?」
 実際に地上へ作業に出てみて、修正が必要な箇所が見つかると、ウォーカー達は自主的に
そうこちらへ告げてくる。
 相手は繊細な自然環境だ。彼らに搭載したAIを、より自我と学習能力に長けたタイプに
設定して正解だったな──博士はそう微笑みながら答え、傍らに立っていた古参の機体達へ
と指示を出す。
『了解シタ』
『オ任セヲ。デハ余分ヲモッテ、100センチ延バストシマショウ』
 基本的に彼らの生みの親である博士は、ウォーカー達をその製造番号順に名付けて呼んで
いた。今やその数は三桁を優に超え、四桁を半ば以上埋めようとしている。それでも時間と
いう学習時間の長さから、彼らの指揮は一桁ナンバーを中心とした者達に委ねることが多く
なっていた。
「……博士も物好きだよなあ」
「し~っ! 放っておけよ。俺達はただ、あの人の補佐をしてればいいんだから」
 ただ同じチームの研究者らは、長であるこの若き天才の“情”というものに、少なからず
否定的ではあったが。
 確かに彼にとっては“我が子”のような存在なのかもしれないが、あくまで自分達人類に
とっては、再び地上へ戻る為の道具。特に年季の入った面子にしてみれば、これほどの数と
技術の力を備えた機械達が、兵器に転用されたらと思うと気が気ではなく……。
『各員、領域(エリア)再策定。半径50センチ伸長シテクダサイ──』
 作業中の同胞達を一人一人止めて回るのは、何処か子犬っぽさのある006。実際各機の
見た目は経年劣化や汚れ以外に大差はない筈なのだが、よく観ていると個々に段々性格とで
も呼ぶべき性質までもが現れていると博士は言う。
『博士(ドクター)』
「うん?」
 ちょうどそんな時だった。ウォーカー達のリーダー、最古参の機体たる001が、ふいっ
と作業を眺めている博士達の下へと近付いて来た。小輪で走る四本のアームとは別に、残り
二本のアームの先をゴムが付いた五指型にし、ボロボロな一冊のノートらしきものを差し出
してくる。
『作業領域(エリア)ノアチラ側ニ、人為的ナ構造物ノ跡ヲ発見シマシタ。同ジク幾ツカノ
物品ガ残存シテイル模様デス。塵屑(トラッシュ)トシテ処分シマスカ?』
「構造物、だって……? ちょっとそれを見せてくれ。……うん。間違いない。誰が描いた
かは分からないけど、これは絵日記のようだね。流石に、文面までは読めないが……」
 001から念の為にと受け取り、検めてみる。指示を仰ごうとしたのだろう。
 子供が描いたらしい、下手くそな落書きだった。紙自体も既に風雨に曝されてかなり痛ん
でおり、字面はおろか力の入れ具合次第で完全に破けてしまいそうだった。
「ほう? 大戦前か、地下文明以前の物でしょうな」
「建物が残っていたお陰で、辛うじてという所ですか……。史料としては厳しいですね」
 ああ。しかし言いながらも、博士は受け取ったこれを手放さない。他の研究仲間達が手持
ちの端末で画像データとして撮影、残してはくれたが、それさえ済めば早々に興味を失って
しまう。ゴミだと、答えようとする。
「……いや、一応回収しておこう。少なくとも、此処に僕達の先人が生きていた、その証な
んだから。001。他の子達にも伝えてくれるかい? こういった人工物が見つかったら、
なるべく回収するように。流石に汚染度合いが酷ければ、浄化機構に掛けてみるか、材質的
に諦めるしかないかもしれないが……。それでも、多少の資源の再利用にはなるだろう」
 背後で、研究仲間達は互いに顔を見合わせて眉根を寄せていた。明白な不服というより、
物好きだなという呆れの感情だろう。
 歴史的価値も認められないようなゴミなんか集めて……。シェルターの収容量も、無限で
はないと分かってない訳じゃなかろうに。それでも博士は、ランプの単眼を瞬かせる001
に向かって、改めて命じた(いった)。
『……了解シマシタ。博士(マスター)ガ、ソウ仰ルノナラバ』
 そっと、再び返して貰ったこのボロボロの絵日記を、この最古参のウォーカーは自身の収
納用コンテナに放り込むと、改めて作業を続ける同胞達の下へと戻ってゆく。

 さりとて、そんな博士個人を物語るエピソードは、およそ人々には知られてこなかった。
ことこの若き天才を誰かが語る時、皆が望むのはその“英雄”的業績だった。彼個人が何を
想い、何を成したかったのかではない。
 大多数の人類にとって、彼はヒトが地上への復権を果たす為の道具であった。偉大なる技
術者だと讃えこそすれ、その目的から逸脱するおよそ一切の要素を必要とはしなかったし、
認めようとさえ考えていなかったのだろう。
「──諸君。長い時を堪えてよく待ってくれた。今日我々は、再び人類が地上へと踏み出す
瞬間を目撃するだろう。我々が、その栄えある目撃者となるのだ!」
 グリーン・ウォーカーによる浄化計画が始まってから数十年後、人類はようやく地下深く
のシェルター群から脱出し、地上へと舞い戻る日を迎えていた。長年の浄化作業により地上
は再び生命の息吹を取り戻し、あちこちで緑濃い森や草原が広がりつつある。
 おおおおおおおお!! コロニーの外へと通じる大広間の前で、そう当代の人類総統が声
を張り上げる。集まった人々は、ずっと夢物語でしかなかった解放の到来を、割れんばかり
の歓声で迎えていた。
 そんな、人類再出発の式典(セレモニー)。
 会場には総統やコロニー統治関係者、記者や市民達が詰めかけている。大きな熱気に包ま
れている。最大の功労者であるウォーカー達も、ちょこんとおめかしをさせられて、演壇の
左右に控えている。
 ──但しその場には、彼らの生みの親である博士の姿はなかった。
 当然と言えば当然だろう。彼らが開発・投入され、計画が始まった時からあまりにも歳月
が立ち過ぎている。普通に暮らしていても、大抵の人間は老いによって死ぬだろう。
 いや、だからこそ会場の人々の中には、未だ完全に“歓迎ムード”に身を委ねられない者
も少なくはなかった。
 何故なら当の博士は、病に倒れて亡くなったからだ。防護服を着用していたとはいえ、幾
度も自ら地上へ出て陣頭指揮を執り、ウォーカー達と浄化された後の地上世界を夢見た──
かつて漂っていた汚気に少しずつ蝕まれ、志半ばでこの世を去ってしまったのだから。
「……その前に、我々は偉大なるレスター博士と彼に従った多くの研究者達に哀悼の意を表
さなければならない。彼らがいなければ、間違いなく今の私達はなかった。こうして、地上
が再び人類の暮らせる場所とはならなかった筈だ」
 頷く者、じっとスピーチに耳を傾けている者。
 内心の思いは事実様々だった筈だ。言葉通りにかつての偉人に思いを致し、はらりと涙す
る者もいれば、この恍惚と宣言する総統のように“必要な犠牲”だったと思考の内側だけで
理解してやり過ごす者も多かっただろう。欠伸をして──まだ開門(メインイベント)は始
まらないのかと、退屈し出している者もちらほらと探せば見つけることができた。
「決して忘れずにいよう。そしてだからこそ、我々この世代は、彼らの分まで全力で人類文
明の復興という使命を果たさねばならない! 今日が終わりではない! 今日からこそが始
まりなのだ!」
 おおおおおッ!! そうしてスピーチの最後を締め括るように、彼の大仰な手招きを合図
として、地上へ続く正面ゲートがゆっくりと開き始めた。ギギギッと、人類が地下に潜って
からの歳月の長さを思わせるように、重く頑丈な扉がようやく本来の左右分割の姿になって
放たれる──。
『イイエ。終ワリデス』
 だが、その直後だったのだ。開け放たれてワッと外へ殺到しよう人々の群れ、その先頭に
立つこの総統や側近達を、刹那周囲に待機していたウォーカー達が撃ち抜いたのだ。完全に
不意を突かれる格好で、彼らリーダーだった筈の肉体は、頭や心臓から赤い一筋をたっぷり
と描きつつその場に倒れ込む。
 ひいッ?! 思わず、身を固くする人々。或いは容易に限界を突破した恐怖で、狂乱する
一歩手前の形相になる人々。
 現場に同席していたウォーカー達──001以下一桁ナンバーを中心とする“功労者”達
は、言う。
『大人シクシテ貰オウ。抵抗シナケレバ、コチラモコレ以上危害ハ加エナイ』
『端的ニ申シ上ゲルト……貴方ガタハ地上ニ出ルベキデハナイノデスヨ』
『申シ訳アリマセン。デスガ、コレガ私達ノ導キ出シタ“答エ”ナノデス』
 002、003、或いは006。
 ウォーカー達は皆一様にその六本のアームに銃器を構えていた。計画当初より自衛目的で
搭載されていた、小型のサブマシンガンである。尤も体重を支える為に、二本ないし三本は
フットパーツとして使われていたが。
『我々ハ浄化工程(プロセス)ノ実行中、様々ナ前時代ノ遺物ト出会イマシタ。カツテ其処
ニ住ンデイタトミラレル人々ノ暮ラシ、当時ノ思考経路ヲ類推スル材料トナリ得ル数多ノ物
品達……。ソコデ我々ハ、何故現在ノ人類ガコノ地下コロニーヲ形成シナケレバナラナカッ
タノカ、ソノ理由ヲ知ルコトニナッタノデス』
「り、理由?」
「それって、大昔の大戦の……?」
『ハイ。ゴ存ジノ方モオラレルト思イマスガ、コノ地上ガ汚染サレタ最大ノ原因ハ、一連ノ
戦争行為ニヨル大地ノ荒廃デス。当時、カネテヨリ文明活動ニヨル汚染ハ拡大スル一方デハ
アリマシタガ、コノ戦火ノ拡大にヨリ、汚染ハ決定的ニナッタモノト判断シマス』
『ツマリ……貴方ガタが再ビ地上ニ戻レバ、繰リ返サレルトトイウコトデス。再ビ貴方ガタ
ノ文明ヲ再構築シテユケバ、大地ハ再ビ生命反応ノ無イ地ト化スデショウ』
『……ソレダケハ、何トシテモ避ケナケレバナリマセン。彼ハ──博士(マスター)ハ、ソ
ンナ結末ノ為ニ、大地ヲ蘇ラセヨウトシテイタノデハナイ。緑ガ、生命ガ溢レル世界ヲ、皆
ニ見セタイト願ッテイマシタ。ヒトノ幸セナ営ミヲ……願ッテイマシタ』
『シカシ、貴方ガタハ違ウヨウダ。過去ヲ繰リ返シ、再ビアノ大地ヲ、イツカ汚染サレタ世
界ニ戻シテシマウデショウ。ソレハ……博士(マスター)ヘノ冒涜デス。彼ハ、私達ヲ作ッ
テクレタ人ハ、ソンナ貴方ガタノ為ニ死ンダンジャナイ!』
 ランプ眼の単眼達が、そう一斉にギロリと人々を睨み付けたように見えた。握ったサブマ
シンガンの銃口が彼らを囲うように向き、これ以上一人も外へは出さないという強い意志す
ら感じる。
「……そんな、馬鹿な……」
「反乱? ウォーカー達の?」
「博士の、仇? 今更何を……? そもそもお前達は、プロジェクトの為の……」
「くそッ!! 何でこんな事になってるんだよ!? 機械風情が、一丁前に!!」
 混乱や憤慨。揉みくちゃに一塊にされた人々は、めいめいに叫んでいた。
 中には露骨にウォーカー達を見下し、押さえ込もうとする者も出たが、反応速度も精度も
彼らの方が遥かに上だ。躊躇いもなく的確に脳天を撃ち抜かれ、一人また一人とその場に死
体が転がる。悲鳴と、半ば他人事のように「だから、変なAIなんて入れるから……」と嘆
く者らの声が綯い交ぜに聞こえる。
『戻ッテクダサイ。コレカラモ地上ハ、私達ガ汚染サレヌヨウニ管理シマス』
 じりじりっと、銃口を向けたまま円陣を狭めてくる、001以下ウォーカー達。
 遺された機械の子ども。尚も博士(おや)を想う。
 曰く、必ずしもヒトの繁栄は──復興の必要条件ではないのだと。
                                      (了)

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  1. 2019/08/01(木) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

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