日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「禍保護」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:諺、虫、高校】


『子供達は、私達全員の宝だ! この国の未来そのものだ!』
『絶対に守ってみせる! もう二度と、こんな事件は繰り返させない!』
 人の命は地球より重いと、誰かが云いました。
 ですが言葉とは、ある意味で“逆張り”の産物でもあります。時に真っ直ぐな想いが他人
の心を打つ一方、誰かが口にしたその目指す先、現実には寧ろ“存在していない”場合が少
なくないのです。目に見えて明らかに存在するのであれば、わざわざ意図を含む音という形
で労を取る必要すら無いのですから。
 誰かが熱くなれば、それを冷めた眼差しで見つめる誰かがいます。その時どちらの側に立
つのかは、ヒトが有史以来向き合って来ざるを得なかった宿命だと言えるでしょう。より多
くの眼差しと、時流の味方。正義(せいかい)とは常に変動します。
 地球より重いとは云っても、どうやらそれは、全て等しく大切にされる訳ではないようで
した。もう何度目か、記憶と歴史はいつだって風化の中で上書きされ、長い目で見れば同じ
ことを繰り返しているようにもみえます。

 ある時、幼い女の子が無惨にも命を奪われるという事件が発生しました。悲報を知った世
の大人達は酷く嘆き、そして義憤(いか)りました。犯人は独り身の男性でしたが、それぞ
れに子を持つ親たる大人達は、彼を激しく邪悪だと断じます。女の子の両親に寄り添い、共
に悔しさに歯噛みすること以上に、他の多くの親達はいつか我が子が……と、恐れ焦ったか
らです。
 女の子が連れ去られた現場には、連日ように人々が花を供えに訪れました。じっと両手を
合わせて目を閉じ、祈りを捧げます。
 さぞ痛かったろう? 苦しかっただろう? 無念だったろう?
 祈れば祈るほど、想えば想うほど、実は自らを益々苛めてゆくと知っていた筈なのに。
『いいか? 知らないおじさんに、ついて行っちゃあ駄目だぞ?』
『なるべく一人で出歩かないようにするんだ。友達や先生と、連れ立って帰って来ること』
『知らない人が話し掛けて来たら……逃げるのよ? これ。危なくなったら、このブザーの
紐を引っ張るの』
『ほら、よく言うだろう? “他人を見たら泥棒だと思え”って──』
 ちょっと今の年齢(とし)じゃあ難しかったかな? 事件の後、何かしら事件がある度に
親達はそう我が子に教え込みます。時には記憶に残るワンフレーズを、極端に過ぎるかもし
れない心構えを伝えます。
 実際子供達は、その意図を半分も理解していないでしょう。まだ幼ければ幼いほど、大切
にされていればされているほど「??」と頭に疑問符を浮かべては小首を傾げます。仮に彼
らの想いを“心”で理解できた頃には、当の本人達はすっかり“大人”の仲間入りをして久
しくなっている筈です。

「──気持ちは分からんでもないんだがなあ。こう、露骨に警戒されちゃあ……」
 しかし、親ではない大人達の中には、またしても強まる彼ら世の中の向きに戸惑っている
者も少なくありませんでした。尤も大よそ、それらをきちんと口にする機会は、これまでも
これからも巡って来ることはありません。
 例えば、迷子になった女の子を家まで送ってあげる。きっと両親も探している筈だから。
 例えば、転んで怪我をした男の子の手当てをしてあげる。その涙を放っておけないから。
 例えば、悪戯の過ぎる子供達を「コラッ!」と叱る。かつて自分もそうだったから。
 しかし……良かれと思った彼らの善意も、積み上げられた親達の警戒心には、等しく危険
な予兆として映りました。余計なお世話だと、寧ろ敵意を剥き出しにして我が子を取り返す
と、足早にそれぞれの砦(いえ)へ閉じ籠もります。
 親切に送ってあげた男性は、その母親からゴミを見るような目で見られました。危うく警
察に通報される一歩手前まで詰られましたが、幸い当の女の子が訥々と事情を話してくれた
おかげで、事なきを得たそうです。但し母親の目は終始、変わりませんでした。
 持ち合わせの絆創膏で手当てをしてあげた青年も、飛んで来た父親に烈火の如く怒鳴られ
ました。彼は青年が我が子を怪我させたと思い込んだのです。こちらの弁明にも聞く耳を持
たず、酷く蹴り飛ばされた末に男の子を抱えて立ち去られてしまいました。お互い名前も知
らないため、それ以来全く音沙汰がありません。
 妻に先立たれて久しい老人は、後日悪戯っ子らの母親達に包囲され、こっ酷く罵声を浴び
せられてしまいました。その騒々しさはやがて警官が駆け付けてくる程の騒ぎになり、結局
出過ぎた真似をしたと、彼女らや警官の前で謝らされる顛末になったといいます。
「──仕方ねえよ。今はそういうご時世だ」
 故にそんな事例(ケース)は、枚挙に事欠かず。
 昼下がりの寂れた公園で、休憩中のサラリーマン男性はそう静かにごちました。連れが買
って来てくれた、紙パックのジュースをちまちま吸いながら、対して冷ややかに笑っている
この友に若干不服顔をしています。
「いや、でも実際、ああ勘違いされると凹むぜ? この前だって何処かの町で、休憩してた
だけで通報されたって話があったじゃないか」
「あ~……あれな。だが、義憤(おこ)ったってしょうがねえだろ。運が悪かったと思って
近付かなきゃいいのさ。“他人を見たら泥棒だと思え”ってね。実際、面識がなかったから
そんなことになったんだろう? 俺達も、身なりは常に綺麗にしとかないとな?」
「……」
 ずずずっと、サラリーマン男性は空になったジュースを握り潰しました。じとっと横目を
遣りながら、この連れの薄ら笑いの奥を探ろうと試みます。
「そりゃあお前は、俺と違って妻子持ちだからなあ。見も知らない“不審者”より、子供の
安全の方が大事だろうよ」
「おいおい……。僻むなよ。別にそういう心算じゃねえって。実際問題そうだろって話だ。
ただでさえ、理不尽に人が死んだり怪我したりする事件が起こるんだ。何とか防ごう守ろう
ってなるのが人情じゃねえか。まあ、俺も正直やり過ぎな所はあるとは思うが……」
 二人して公園内に視線を移すと、周りには他に人の気配は無さそうでした。自分達のよう
な暇をしている大人はおろか、元気に駆け回る子供達すらいません。
 というよりも、敷地内はそんな環境さえ整っていませんでした。芝生はすっかり枯れて砂
地ばかりが一面に目立ち、昔は点々と在った遊具も、今は一つ残らず撤去されています。
「全員が全員、害のある大人じゃないんだけどな……」
 男性はついぼやきましたが、内心ではもう一人の自分がこれを哂っているのが解ります。
ヤバい奴ほどそう言うんだ──事実過剰なまでに警戒する親というのは、そんな風に見知ら
ぬ他人びとを視ているのだろうと。
「それを決めるのが、今は相手方ってことさ。寧ろ逆効果な気がするが……世の中がそう選
んだ結果だしな」
「……??」
 最初は一々反対意見だった、妻も子供もいる同僚。確か上の娘さんは、今度中学に上がる
とか言っていたか。彼はぼんやりとそう、この横顔を眺めながら記憶を引っ張り出します。
 幼稚園・保育園から始まり、小学校・中学校そして高校。仮に大学までいけば……肉体的
にはもう大人ではあるのでしょうが。
 彼は考えます。一介のしがない、未だ独り身のサラリーマンとして。世間的にはもうおじ
さん呼ばわりされ始める、気を抜けば声の大きい者達に抹殺されてしまう年代。正直そんな
括りに放り込まれることは心外──ショックなのですが、先日自身も危うく不審者扱いされ
かけた災難を切欠に、現実と向き合わざるを得なくなったのでした。
「今の子供達が可哀想だよ。今はそれこそ箱入り娘みたく守られてても、いつか自分が大人
になった時には、今の俺達みたいに腫物扱い。下手したらそのまま犯罪者コースだ。一体何
の為に大きくなったのか分からなくなるんじゃねえか? まぁ生きる意味云々なんざ、学者
先生辺りの仕事であって、俺達の領分じゃあねえがよ」
「……案外、色々考えてるんだな」
「案外は余計だ。案外は。そりゃあ、俺だって二児の父だぜ? 心配しないことはねえよ。
ただ、こうお互い信用も糞も無い街の中に暮らしてると、ガキの頃いた田舎のことが時々蘇
ってくるのさ。あの頃はもっと、隣近所の付き合いがあったように思うんだよなあ……」
「そういうモンか? お前さっき、今はそういうご時世だって言ってたじゃないか」
「あ~……。そういや、そっちは根っからの都会育ちだっけ? そうだな。多かれ少なかれ
美化されてるのかもしれん。昔みたいなコミュニティってのも、切り口一つ変えればしがら
みだらけだしな」
 ぐしゃり。この同僚は握り潰した紙パックを、コンビニのビニール袋に入れます。男性も
それを見て自身の分を渡し、一緒に処分して貰うことにしました。公園内は子供達も遊具も
ありませんが、ごみ箱もまた見当たりません。
「しがらみ、ねえ」
 愛する我が子を守る為、悪い虫は徹底的に潰す。仮に手の届く範囲に居なくとも、自分達
の方から潰すべき対象を見つけにゆく。彼はようやく、この友の言葉を理解し始めます。
 そうやって“敵”を作ってゆくことこそが、逆説的に“敵”を増やしてゆくことに繋がっ
ているのではないのか? “敵”として弾き出された者達にだって、それぞれ「その後」が
在るというのに……。
「まあだからって、本当に自棄っぱちになっちゃあ、そういう連中の思う壺だろ? お前も
いつぞやの事件みたいに、悪い意味で有名になってくれるなよな?」
 肩越しに、そう悪戯っぽく笑ってベンチから立ち上がる同僚。
 思わず彼は若干ぶすっとした表情を返し、この踵を返す友を追って歩き出しました。
                                      (了)

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  1. 2019/07/28(日) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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