日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「ブックマン」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:宇宙、本、荒ぶる】


 一度(ひとたび)物語を紡げば、それは一つの世界(コスモ)へと変わる。その内容の巧
みさや、誰が描いたか──名声や地位のある者か否かといったことは、本来あまり重要では
ないのだ。
 此処はそう……差し詰め【図書館】と呼ばれている。広々と、非常に大きな部屋が段々に
続いており、そのほぼ全てが大量の書物と本棚で埋め尽くされている。
「ほい。次」
「あいよ」
 この場所の役目は、保存。
 古今東西、ありとあらゆる人々が紡いだ物語を預かり、後世に繋ぐ。繋ぎ続けることを使
命としている。仮に受け取ったそれが複製であろうと、唯一無二の原本であろうと、何一つ
分け隔てなく蒐集される。収められている場所だ。
 そうして館内には、毎日のように各地から書物が届けられた。とにかくだだっ広い本棚の
山の中を、脚立片手に司書達は歩き回る。一人が上に乗り、整理する。収めるべき書物を、
もう一人が荷車(カート)から取り出しては手渡してゆく。
 小説だったり、専門書だったり。或いは日記や随筆(エッセー)といった、特段誰かに宛
てた類ではない物も少なくはなかった。
 それでも……彼ら司書達は構わずに手に取る。そしてその一冊一冊を丹念に検めることす
らも、基本はしない。
 単純に時間が足りない──キリがないからだ、という訳ではない。いや、彼ら個々人の中
にはそう割り切って(かんがえて)いる者もいるのかもしれないが、理由はひとえに職務に
忠実だからである。彼ら司書達は崇高な、ある意味現世とは隔絶されたルールの下で、日々
その保全活動に従事している。
 故に“今”にはさほど大きな価値はなく、いつか“未来”にて意味を見いだせればいい。
誰かがこの場所を知り、そして必要だと心から望んでこの一冊を手に取ってくれるその瞬間
さえ在れば良かった。
「……」
 だからこそ、司書達はとても自由で茫洋で、さりとて逸脱を好まない。
 書物は徒に広く読まれるよりも、より密な相手を吟味する──平時は寧ろ秘匿されるべき
だとさえ考えていた。故に維持管理を担う彼ら自身も、実際に紙面を捲ってみるのは僅かな
間だけだった。
 パラリと、数頁紙の擦れる音がして……中から多面体状の光が溢れる。
 でもそれだけだ。彼らはその眩しさに目を細めこそせど、そこから突っ込んで中身を見よ
うとはしない。蠢く命を瞳に捉えない。努めて踏み止まり、再びパタンと表紙を閉じる。
 読まれてこその物語──つまり言い換えれば、人の手に渡ってゆけばゆくほど、その元来
の輝きは消費されて(うしなわれて)しまうのではないか? 必ずしも綿密に、且つ頑丈に
編まれた世界ばかりではないのだから、その扱いには慎重にも慎重を期するのが彼ら共通の
美学なのである。
「──おいおいおい! ここかあ? 例の物(ブツ)があるって場所は?」
「ええ、そうよ。あの●●で××な、最低な代物を抱え込んでいる頑固者よ」
 だが彼ら司書達が、そこまで職務や美学に徹するには……もう一つ付け加えておくべき理
由があった。招かざる客である。しばしばこの【図書館】には、目当ての書物を力ずくでも
手に入れようとし──そして焼き払おうとする者らが後を絶たない。館内のあちこちで作業
をしていた司書達が、その無遠慮な大声に誰からともなく振り向いた。
「……何かご用件でしょうか?」
「おう。ここに▼▼って本があるだろ? 出しな。話は聞いてるぜ? しこたまと、あんな
趣味の悪いモンを置いてるってな」
「ああいった考えは、先ず可能性から根絶やしにしなくてはなりません。解りますわよね?
否とは言わせませんわ。通してくださいませんこと?」
 どうやら相手は、随分と頭に血が上って──己の正しさに酔い痴れているようだ。
 応対した司書がゆっくりと、館内の仲間達に振り返る。まだ年若さのある青年だったが、
その表情から読み取れる感情は数少ない。何人かがトントンと、延ばした脚立の上から降り
てこちらに向かって来ていた。
「……ご要望の数量と、利用目的をお答えください」
「あん? 焼き払うに決まってるだろうが」
「私達が真面目にあんなものを読むとでも……? 馬鹿馬鹿しい! 死んでも読みたくない
のに……汚らわしい」
「責任者を出せ!」
「庇い立てする気か!?」
「お前らも私達の“敵”なのか!?」
 ガヤガヤと、客らの背後には連れらしき者達が大勢いた。訴えてくる内容はどうやら皆同
じで、目の敵にしている書物──が記すものを何としてでも抹殺したいらしい。最初の司書
などが尚も目を瞬き、沈黙したまま仲間達を待っていると、他の先輩らしき彼らが一つ二つ
周りに何か合図を送りながら近付いて来る。
「……館内ではお静かに願います」
「“敵”という表現については理解しかねますが……お預かりした書物は、いずれも平等な
保全を旨をとしています」
「もし破損を目的としておられるというならば……残念ですが、貸出も閲覧も許可する訳に
はいきません」
 ケッ! すると次の瞬間──いや、端からその心算で、訪れた彼らはこの司書達に害意を
剥き出しにした。与しないのならば即ち敵だと、玄関ホールで制止する面々を押し退けてで
も、書架の並ぶ館内中心部へと立ち入ろうとする。
「……仕方ありませんね」
 あくまで淡々と、されどとうに規定(マニュアル)化された段階を踏まえた上で、司書達
は動き出した。リーダー格と思しき老年の司書がパチンと指を鳴らし、他の部下達が手近に
在った壁際の収納(ギミック)へ次々に手を伸ばす。ガチャコンと中から種々の長物──先
端が鉄球状になった鈍器や、握り手の操作で締め上げられる刺叉などが取り出される。
『キエエ! キエエー!』
『警告、警告ゥ!』
『コレヨリ、第三級警戒態勢! 警戒態勢ー!』
 更に幾十列にも渡る書架の間を潜りながら、こちらへ飛んで来る異形達の姿。
 青黒い体色と蝙蝠翼、尻尾に、司書達の持つ物よりも一層殺傷力に溢れた──返しの刃が
びっしり付けられた槍や突棒などを装備しているが、如何せんデフォルメされて可愛らしい
その見た目のせいで威厳は台無しである。
「な、何だ……!?」
 だがそんな見た目などはあくまで表面的な記号に過ぎず、即ちこの外側からの客達に対し
ては実際、大いに油断と対応の遅れを誘った。
 玄関ホールまで飛び込んて来たこれらを見上げ、目を丸くする彼ら。
 すると面々は直後、一斉にこの書魔(キーパー)達に襲い掛かられ、次から次へと叩き伏
せられてしまった。或いはもろに刃で貫かれ、文字通りそのマナーの悪さを自身の身体で償
う羽目になった。
「野郎! そっちもその気だってんなら……!」
「おい、火ぃ出せ! 火!」
「こうなりゃ全部、纏めて燃やしてやらあ!」
 狂人達(クレーマー)。いや、元よりこうする事が目的で押しかけて来たのだから。
 衝動に駆られた、口実が出来たと、彼らはなだれ込むように反撃に出始める。尤も司書や
書魔(キーパー)達も解り切っていた分、そうはさせじと攻撃の手は緩めない。こういった
荒事は【図書館】において割合日常的でこそあったものの、対応の本分は館に使役されてい
る後者なのだから。ザクザクと、火イコール書物の“敵”との連想も手伝って、この招かざ
る客達は次々に刺し貫かれては力を失ってゆく。
「っ、あんた達……!」
「おいてめぇら! 一体何様のつもりだ!? あんなモンを匿ってたら、いずれ他の奴らが
ここを燃やしに来るぞ!?」
「……貴方達こそ、何様ですか」
「此処には“何も”無い。そして其処に属する私達も……」
「ただ過去から受け継がれてきた、規則(ルール)があるだけです」
『キエーッ! キエエーッ!』
 激昂する“戦士”達からの問いに、司書らは答える。貴方達のように一ヶ所に留まった目
を持つことも、心を傾けることも、自分達には許されていないのだと。
 保守(まも)るべきは価値観ではなく──選択肢。
 一つだけではいけない。一つだけではないことにのみ意味があり、故に尚且つ、それらの
いずれかに肩入れしてしまった時点で、その者は【図書館】の司書として失格である──。
「どうぞ、お引き取りください」
 かくして司書達は、貫いた長物ごと狂人(クレーマー)らを館外に放り捨てた。どうっと
血飛沫が、薄靄漂う地面に飛び散ったが……肝心の書物達が汚れさえしなければ、割合どう
でもよかった。
 現世(そと)がどうなっているかは知らない。自ら見に行こうとも思わない。
 たとえ再び収容スペースが足りなくなって、増改築を繰り返しても。これまでもこれから
も、彼らはずっと此処に居る。
                                      (了)

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  1. 2019/07/21(日) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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