日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「ファジー・イジー」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:水、未来、希薄】


「そういや聞いたか? この前、B組の金井も“ログアウト”したんだとよ」
 何時もの下校中、商店街のゲームセンターで道草を食っていた最中、友人はそうふと思い
出したように言った。延々と店内で鳴り続けているBGMやライトの明滅を背景に、平田は
何処か遠い場所の出来事のように錯覚して反応が数テンポ遅れる。
「……それ、本当か?」
「ああ。クラスの奴から聞いたんだ。最近、あいつの姿見かけなかっただろ?」
「言われてみれば……。いや、そうだっけ……?」
 静かに目を瞬いてから見開き、一度この友人の方を見遣る。彼も同じようにこちらを見て
いたが、お互いそれも数秒程度のことだった。次の瞬間には筐体に視線を戻し、対戦中の格
闘ゲームの操作に戻る。
 我ながら薄情だなと、平田は思う。元々本人とはそこまで付き合いがある訳ではなかった
とはいえ、これがもっと親しかったり身内だったりすれば違ったのかもしれないが。

 理由はほぼ間違いなく、慣れなのだろう。
 通称・ログアウト──半持続的なコールドスリープのサービスが世に出たのは、自分が物
心つくよりもずっと昔の出来事だ。かれこれ、三十年くらい前になる。
 提供元は、LB(リトルブレイン)社。最先端のバイオ科学を駆使して頭角を現した、新
興のベンチャー企業だ。ある時彼らは、その持てる技術の全てを費やし、人々を“全ての苦
しみから救う”為に動き出した。即ちサービスを希望する顧客を特製カプセルの中で眠りに
就かせ、延々それぞれが心地よい仮想現実(ゆめ)を見ながら余生を過ごして貰う──この
現世から“ログアウト”することを目的とした事業だ。
 当然ながら、サービス開始当初はそれこそもの凄い反発というか、抵抗運動が巻き起こっ
たらしい。実際うちの両親も、LB社の話題が出ると決まって不機嫌な顔をする。
 曰く『あんなのは所詮“逃げ”だ』とか『安楽死で金儲けをしてる奴ら』だとか。
 他にも『金を積んで死ぬなんて正気の沙汰じゃない』『後に残った者達のことをまるで考
えちゃいない』『どうして金持ちが引き籠る為に、俺達が必死こいて金を稼がなきゃいけな
いんだ』──等々。
 当時を知る、自分より一回り二回りほど上の世代の大人達は、決まってそう“迷惑”だと
の批判を隠そうともしない。事実“ログアウト”して社会の人口が減っていけば、それだけ
インフラの維持やら何やらの為に、個人の負担は増えてゆく訳だから。
 ただ……自分は一方で、それだけ世の中に嫌気が差していた人間もまた多かったんだなと
思っている。この世界に“イン”したままの側が怒っているという事実と同じく、そこから
逃げ出したいと強く願っていたある種の人間達──それこそニーズが、かねてより存在して
いたことも、また事実なのだから。どれだけ反対する者がいても、実際『技術的には可能』
を止められなかった。そもそもLB社自体が、実はこの事業の為だけに設立されたという話
さえ在る。
 尤もだからと言って、自分もそんな“いち抜けた”に賛同しているかというと……必ずし
もそうではない。親や祖父母世代は、怒れるほどの違和感を覚えることに疑いさえ無かった
のかもしれないが、こうも件のサービスが当たり前になり過ぎている中に生まれ育った身と
しては……そうした彼らの怒りが解らない。何となく「面倒臭いなあ」という印象だけは認
識の片隅にあっても、そこから反発して逆張りにこれを全肯定するほどの気力も持ち合わせ
ていないというか……。
 どうせ人口は減る一方だったそうだし、人間も多分、いつかは滅びるのだろう。
 ただ、それまでは何となく──生まれてきてしまった以上、そこそこには暮らしたい。こ
の先また考えが変わるかもしれないし、変わらないかもしれない。深く考えたくもない。
 大体、その辺に転がっているようないち高校生に、何が出来るっていうんだ……?

「──あ、お前! 壁ハメは汚ねぇぞ!」
「正式なコンボなんだから、不正はないね。そっちが飛び道具ばっか撃ってるのが悪い」
 ガチャガチャと、レバーとボタンを忙しなく連打して。
 横並びの筐体に座ったまま、平田は友人とそう何度か対戦を続けていた。画面上で自身の
操る巨漢系キャラクターが、友人の操る黒マントの怪人系キャラクターを立て続けの攻撃で
追い詰めている。
 ぐぬぬう……っ! 結局このラウンドは、平田が削り切って勝利した。これで一勝一敗。
決着は三ラウンド目に持ち越された。今度は初手から近接・中距離戦法に切り替え、友人は
言う。
「気付けばうちの学校の奴も、ちらほら“ログアウト”する奴増えてきたよなあ。先公は相
変わらず説教垂れて、ちゃんと勉強して社会に出ろっていうけどさあ」
「……」
 プレイに集中しつつも脳裏の一角には、彼の言葉と件のサービスについてのあれこれが自
己主張を繰り返している。……言わんとすることは分かる。ただまあ、息抜きに遊んでいる
最中の話題ではないだろう、と。
 これも親世代からの又聞きでしかないが、現在(いま)は中高年やら老人だけではなく、
自分のような若い年代の“いち抜け”も増えているらしい。それだけ今も昔も、この世の中
が辛くってしょうがない──大袈裟な眠りだと分かっていても、縋りたい人間は後を絶たな
いのだろう。なのに利用する個々人ばかりを責めて、世の中の方をもっと生き易くする努力
を棚に上げて憚らないのは何様か。
「まあ、殆ど自殺みたいなモンだからなあ……。安楽死、だっけ?」
「どうなんだろな? 難しいことはよく分かんね」
 振っといて……。相手の隙を見つけ、前ラウンドと同系列のコンボを打ち込む。流石にこ
の友も学習はしているのか、最初数回のダメージの後何とか離れ、距離を取り直した。また
飛び道具(ビーム)を出してきたので、下段からの滑り込みでツッコミを入れる。
 最近はめっきり減ってきたが、一昔前はそれこそ、このLB社の施設へ物理的に乗り込む
といった強硬な輩も度々現れたらしい。
 当然やっていることは紛れもない建造物侵入と破壊だし、何より無理矢理カプセルを引き
剥がしてもユーザーが安全に目を覚ます──寧ろ文字通り永眠させかねないことから、次第
にこの手の連中は鳴りを潜めざるを得なくなったらしいが……。これも個人の“自由”だと
言い張られたらどうしようもない。何せ本人達は正式に対価を払い、望んだサービスを受け
ている訳だから。
 結局三ラウンド目も、平田の勝利に終わった。友人はがっくりと筐体の上に顔を突っ伏し
て凹んでいる。次こそは自分が取れると思っていたらしい。
(そういや、あまり意識したことはなかったけど……)
 何となくぼやっと店内を見遣る。やや照明を落としてゲーム画面がよく見えるようにして
あるフロア内は、いつものように幾つもタイトルの筐体や景品系のゲーム、両替機などがめ
いめいに並んで効果音を打ち鳴らしている。
 ただ、そこにはあまり他人はいないように思える。いつものことだが、平日の夕方に道草
を食って遊んでいられるような人間が、現在(いま)は決して多くはないのだ。学生自体も
そうだし、街ごとにその人数が分散しているという面もあるとはいえ。
「ん? どうしたー?」
「……いや。何でも」
 ぺたんと筐体の冷たい感触に顔を付けたまま、友人がそう呑気に話し掛けてくる。
 BGMは相変わらず喧しいぐらいに、色々なゲームのそれが交ざり合って聞こえていた。
ただ持ち出された話題が話題だけに、今日は妙に虚しい音色のように錯覚してしまう。

「ふいー。今日も遊んだ遊んだあ~」
 対戦もひとしきり終わって、平田は友人と共にゲームセンターを後にした。夕暮れの商店
街は、彼らにとって見慣れた下校と道草の順路だったが、改めて観ていると確かに人通りと
いうものは少ないと感じる。
 何せ“ログアウト”を望む人間が年々増え、実行して往ってしまう者も今や決して少数派
ではなくなったのだ。平田達若い世代にとっては幼い頃から見慣れた、当たり前の光景では
あっても、現実として生身の人間が街を行き交う姿はとんと見られなくなってしまった。代
わりに規則正しく動き回っているのは、清掃や警備を担当する自走式のロボット達である。
「……」
 現世、人間社会を回す構成員(にんげん)が減ってゆけば、残された者達の負担が増えて
ゆく一方なのは当然だろう。故にかねてから、各国政府が事業介入とも取られかねないほど
の規制を強めているが──LB社のそれを何処よりも多く利用しているのが、他ならぬこの
国の人間達だという皮肉。
 それだけ皆、眠りたいのだろう。ずっとずっと、人生と社会と、他人びとへの疲れでクタ
クタになってきたのだろう。
 ……なら何故だ?
 だったらどうして、自分達のような新しい世代が、生まれてきている? 生まれて、この
緩やかに衰えてゆくだけの世界の維持に当たらなければならない? 残された側の大人達の
都合で、また増やそうというのか。無責任に“後”へと繋げるのか。
 少なくとも、先に往った者達は──『もういい』と言っているのに。

「じゃあな~。また明日~!」
 友人と最寄りの交差点で分かれて、平田は自宅に戻って来た。いつものように両親はまだ
帰って来ていない。今日も遅くまで仕事のようだ。台所には夕食についてのメモと、ラップ
を掛けて保存された料理が置かれている。まだ食べなくてもいいや……。ちらっとこれを見
遣った彼は、一旦冷蔵庫の中に入れ直すと、自分の部屋に入って制服を脱ぎ捨てた。シャツ
とパンツだけの身軽な姿になって、どうっとベッドの上に寝転がる。
(……ちょっと、寝よう)
 さもそれが自然であるかのように、彼はうとうとと眠り出した。日も暮れた辺りはしんと
していて、その眠りを妨げるような騒音も、マンションの一室に位置する此処には聞こえて
来ない。届きはしない。
『──』
 かくして彼の意識は吹き飛び、文字通り沈み込むようにして再度上昇する。
 ゴポッと、無数の泡(あぶく)が生まれては消えていった。淡い翠色の溶液で満たされた
カプセル一つ一つの中に、神経の束が幾多もの配線と繋がった“脳”達が浮かんでいる。

 暫しのログアウト(ねむり)を。
 ヒトは再び、夢の中で夢をみる。
                                      (了)

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  1. 2019/07/01(月) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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