日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(書棚)感想:三上延『ビブリア古書堂の事件手帖』

書名:ビブリオ古書堂の事件手帖~栞子さんと奇妙な客人たち~
著者:三上延
出版:メディアワークス文庫(2011年)
分類:一般文藝/ライトミステリ

人から人へ。歳月を経ながら渡り歩いた本には、それぞれの物語が在る。
尤もそれらは、必ずしも温かな思い出達ばかりではなく、寧ろ辛く苦しい記憶こそを秘めて
いるのかもしれない。

これは本の虫と活字アレルギー、執着達が、紡いでは進む物語──。


此方では、随分とお久しぶりです(最早定型句になって久しい)
前回から一応何冊か本は読んでいたのですが、続編だったり同じ作者さんだったり、何より
感想をしたためるだけの余裕=暇を捻出出来ずにいました。
……もう軽く一年以上経っていますね。年初に「月に一冊は!」と目標を立てたのに、実際
に達成できたのが今年も半分を過ぎようとしている今頃という……。

さて、今回は三上延氏『ビブリオ古書堂の事件手帖』の読書感想です。知っておられる方は
ご存知のシリーズの一つかと思われます。ジャンルとしてはミステリですが、出版元となっ
たレーベル自体が“ライトミステリ”を標榜していることもあり、全体的にややラノベ寄り
の題材+文藝寄りという毛色が多いようです。かつてのライトノベル読者層が大人になり、
これらも面白い小説を読んで欲しい──客層の移行を意図したシリーズ群となっているよう
です。事実表紙イラストもそっち方面が多い。映画化? 設定変更? 知らない子ですね。
なので、分量自体は若干控え目。読み易さに軸足。
ガッツリ読書家さんというよりは、広く浅く読むような方が合っているのかな? と個人的
には感じました。物語の概要は次の通りです。

舞台は北鎌倉。幼少期の経験から、長く活字を追えなくなってしまった主人公。
そんな彼も、やがて図体だけは大きく成長し、就職活動の時期を迎える。しかし内心に在っ
たギャップも災いして結果は振るわず、卒業後も当てがない──無職の状態が続いていた。
だがそう鬱々としていた折、祖母が他界。母と共にその遺品を整理する中で、とある文豪の
サインが書かれた古本を発見する。
……もしかして、本物? いや、流石に偽物だろう。
「死んだら好きにして構わない」と生前言われていたものの、念の為にと母にせっつかれ、
彼は地元にある小さな古本屋・ビブリア古書堂の店長に鑑定を依頼することに。
そしてこの一件で知り合った若き黒髪美人の店主・篠川栞子との縁、彼女の本に対する人並
外れた知識と洞察力を目の当たりにする中で、彼は自身を含めた人々と「古書」を巡る様々
な事件に巻き込まれてゆく──といった内容。

本作の大きな特徴は、何より「古書」をテーマに据えたミステリだということ。
シリーズ第一作である本作も、全ての章が何かしらの本の名前となっており、それらを巡る
お話を順繰りに読んでゆく構成になっております(時系列は基本章番通り。続巻以降はまた
違ってくることもあるようですが)本の虫な店主・栞子さんがいわゆるホームズ役、主人公
の大輔君がいわゆるワトソン役。記号的、根っこの構造だけを観れば、割合スタンダードだ
と判ります。加えて二人のボーイミーツガール物──恋愛要素も? 本編がさっくり読めた
分、自分のような半端者でもそういった分析方面にリソースが割けたのかもしれませんね。
先述のレーベル自体が標榜する所もあって、なるほどぴったりだなと思いました。且つシン
プルで良く出来ている。普段、どうにも“盛る”方ばかりに傾いてしまいがちな自身の小説
と見比べて、嗚呼やっぱり“削って”何ぼなんだなあと……。
(尤も、シリーズというか巻数自体が増えてゆけば、全体の分量は物理的に嵩んでゆかざる
を得ませんけども)

一章目は、主人公・大輔の祖母にまつわるエピソード。
二章目は、古書堂の常連・志田の登場。
三章目は、訳あり(?)夫婦・坂口の大波小波。
そして四章目は、他ならぬ栞子さんにまつわる重大事件──おそらく続編以降にも繋がって
ゆくであろう因縁の一端。

繰り返しますが、本編の構成自体はとてもスタンダードです。一口にミステリ小説と言って
も「古書」に狙いを絞り、その上で従来から在る安楽椅子探偵や、ビジュアルその他諸々を
含めたラノベ的ボーイミーツガール。それとなく萌え要素。そこから話数を重ねる毎に人物
ないし物語の核心部分、伏せられていた“秘密”を解いてゆき、いずれ全体の結末へと収束
して行く……。

いやね? 言うのは簡単ですけど、実際にこうスマートに物語を畳むのって、中々どうして
難しいんですよ(創作している人じゃないと伝わらないかもしれませんが)プロ・アマを問
わずにこの命題というのは常にあって──前者な先生方はこと、版元の金のなる木=引き延
ばし戦略に遭いながらという面も多々ありますが──大体一つの物語を書いていると、段々
愛着ってものが沸いて来るものです。或いは執着してしまうものです。もしこの作品を完結
させたとして、次のそれが受けるとは限らない。保証なんて無い……結局の所そこは、個人
の意思の強さ云々の問題になるのでしょうが、つい長々と物語を「続け」たくなってしまう
ってのが作者の性。いや、寧ろ広げ過ぎた風呂敷を畳もうとして苦戦する内に長くなってし
まうとも言えるか……(胸が痛い)

世にある数多くのシリーズ化した作品の例に漏れず、本作も当稿現在で既に七巻、発行部数
は三桁万部にも及んでいます。題材の性質故、作中で扱われた古書は現実でも売り上げが伸
びるなど、その影響は決して少なくなく。そう考えると必ずしも「スパッと終わる」物語だ
けが良い物語なのかどうか、ちょいとばかし怪しくはなってきますが。

続けば続くほど、如何せん壮大になってしまいがちな物語。小説と云ふもの。
個人的には、今後も“淡々”と栞子さんがその古書オタクっぷりを発揮して謎を解決、めで
たしめでたしという繰り返しを呼んでいたいですね。なまじ自分がいち書き手で、一旦そう
いう“日常パート”が崩れて大きな物語になっていった時、往々にして寂しい気持ちになっ
てしまうからか。現実の僕達がこうも辛くて苦しいのに、物語の中でもそんな大上段な世界
を見せて来なくてもいいよ──かつて友人にも似たようなことを言われた感慨が、ここ暫く
の僕には解るような気がします。尤も実際何かを書こうとすると、この筆から放たれた物語
達は、全力でその逆ベクトルへ疾走してしまうのですけど……。

欲を言えば、最後に栞子さんの○○に対し、主人公が●●●●て×を×××しまうのは正直
「みっともない」と感じました。そこからの明確なリカバリーも、本編には描かれていない
ようでしたし。途中までの展開は面白かったのになあ……。
ただまあ、僕の個人的な異性に対するポリシーというか、性格的な嗜好もあるのでしょうし、
きっと続編への布石も兼ねているのだろうと信じたい。メタなことを言えば、そもそも恋愛
要素を含んでいる物語って、基本“結ばれたら終わり”な部分がありますしねえ。

ただ「都合の良いヒロイン」では収まらない。本限定執着系女子。
おそらく本編全体を読み解くキーワードの一つが、その辺りに在る?

<長月的評価>
文章:★★★★☆(分量自体は広く浅くな層向け。でも且つスマートに纏まっている感)
技巧:★★★★☆(古書縛りでもちゃんとミステリ。僕にもっと推理脳があれば……)
物語:★★★☆☆(全体として好印象。ただ続きが如何化けるかに、個人的には不安も?)

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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

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