日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「投げ込んだのは」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:井戸、紫、歪み】


 これは何処かに在った──とある國のお話。

 その国は、古くから農耕によって栄えてきました。国土の大半が横に広く、人々が暮らす
には厳し過ぎる高山もあまりありません。各地には内海も多く、外敵から狙われ難いという
性質も併せ持っていました。
 つまり彼らは……ずっと“ムラ社会”の中で暮らしてきたのです。
 時代によって豊かさの度合いは違うとはいえ、彼らはその実、必ずしも好き好んで身を寄
せ合っていた訳ではありませんでした。厳密には長らく、そうする以外の選択肢自体が存在
しなかったのです。
 否が応でも協力し合わなければ、文字通り“全滅”しかねない……。
 誰かが個を発揮して逸脱に及ぶことは、即ち彼らのコミュニティにとって害と見做されて
きたのでした。
「──え? 今度は西ツ谷に?」
「そうなのよ~。下流にある村で、また出たんですって」
 加えてこの國には、かねてよりとある病が蔓延っていました。この國に生まれ、暮らして
きた人々のほぼ全員が、物心つく頃にはその存在を知るようになるほどの風土病です。
 ただ詳しい症状も、その正式な名称も、殆どの人々は知りませんでした。尤も知らないと
いうよりは、そもそも知ろうとしないと評するべきなのですが。
 強いて付けるならば──“毒”とでも呼べばいいのでしょうか。
 大よその人々は、この古くからの病を、自分達の目には視えない何物かの仕業と考えてい
ました。“自分達ではどうしようも出来ない”病に、只々恐れを抱いてきたのです。
「最近多いわねえ……。何だか昔より、増えてるような気がするわ」
「かもねえ。実際に数えたことはないから、はっきりとは分からないけど……」
 國内のとある村、その一角にある石積みの井戸の前で、恰幅の良い女性達が話し込んでい
ます。今日も陽が昇って頂点へ向かい、洗濯物を一通り干し終わった後。農耕の為に各所で
引かれいる水も、所変われば世間話・噂話の発信地となります。
「……厭ねえ。御上は一体、何をしているのかしら……?」
 彼女達は、一見そう困った風な声色をしていました。軽く小首を傾げていました。
 しかしその実、場のほぼ全員は、この遠い別集落で起こった被害を“他人事”としてしか
見ていなかったのです。遠い余所で罹患者が出たことよりも、都度脳裏に過ぎるのは、いつ
だって自分達に害が及ぶか及ばないのか? とにかくその一点に尽きるからです。

「──ガッ、アァァ……ッ!!」
 “毒”に蝕まれた人間を見分けるのは、比較的簡単です。程度にもよりますが、罹患者の
身体には、黒ずんだ紫色(ししょく)が現れるからです。
 しかし傍目にもそんな明らかな変化が──異変が見られるようになる頃には、当の本人達
はもう手遅れになっている場合が殆どでした。日に日に毒々しい紫色(ししょく)に覆われ
ていっては悶え苦しみ、遂には事切れてしまうのです。
「ひぃっ?!」
「り、罹患者だ! 罹患者が出たぞー!!」
「嗚呼……何てこった。俺達の村にも、とうとう罹っちまった奴が……」
「ぼさっとするな! 女と子供を急いで逃がせ! 手の空いてる連中は火を持って来い! 
もう今此処で“始末”するしかねえ!」
 ただ人々にとって脅威だったのは、その過程で罹患者達が酷く狂暴になってしまう点にあ
りました。半ば理性を失くし、近くにいる者達へと手当たり次第に襲い掛かる──なまじ多
くは、元々同じコミュニティに住む同胞であったがために、しばしば被害が拡大しがちであ
ったのです。
 それでも……いやだからこそ、世代と経験を積む中で人々も学習するようになりました。
 取り押さえようにも治療法を見つけようにも、一度発症してしまった罹患者は、常人のそ
れを大きく上回る膂力を発揮します。大の大人が束になっても上手くいくとは限りません。
 ならばいっそと、彼らはやがて、こうした罹患者達を自らの手で摘むようになりました。
情に絆されて野放しにすれば、被害は広がる一方だと知っているからです。
 直接組み付くのではなく、距離を置いて火を掛ける。浄化(クレンズ)する。
 それこそがこの國の人々にとって、取り得る数少ない“自衛”手段でした。

 ただ勿論ながら──これは事実上の集団リンチと変わりません。明確な病変、目印の有無
で自分達と罹患者らを分けられるのを好都合に、病それ自身の解明と抑止は中々進みません
でした。
「全く……御上は何をやってるんだ?」
「先月は、北ツ淵でも出たらしいわ」
「もう、あちこちに拡がっちまってるんだな……」
「確かに“毒”自体は、昔からのものではあるけれど……」
「……やるしかねぇんだろうな。このままじゃあ俺達は、皆道連れだ」
 國を蝕む病は、長い歳月を経て少しずつ少しずつ、確実に大きくなっていました。それは
年々数を増やしてゆく罹患者──元同胞達を目の当たりにさせられる、各地の人々を切羽詰
まらせるには充分過ぎる材料でした。
 罹患者狩りが始まります。國中の村々で、肌に紫色(ししょく)が現れ始めた者がいると
判れば、彼らはこれを容赦なく“処分”し始めました。妻や子供、或いはまだ働き盛りの夫
であろうとも、皆心を鬼にして立ち向かいました。放っておけば、いずれ“毒”は他の誰か
を、自分達の村全体を呑み込むかもしれない──今絶たねば、それまで強いてきた犠牲全て
が無駄になってしまいます。
「ま、待ってくれ! お、俺は、まだ狂ってない……!」
「だからと言って、明日も正気だという保証が、お前にはあるのか?」
 仕方ないんだ。恨むなら、その“毒”を恨んでくれ。
 國中で松明を掲げ、武装した人々は振り上げます。紫色(ししょく)が頬に出始めた青年
が、顔を引き攣らせながら請いますが、直後その願いは永遠に叶わなくなりました。
 “毒”を──絶たなければならない。
 ある時意を決した村人達の蜂起は、程なくして他の集落にも次々と波及してゆきました。
 何とかなるだろう。ずっとそう先送りしてきたことで、自分達は今追い詰められている。
病が何処から生まれ、何をもって罹るのかが判らない以上、片っ端からこれを潰してゆくし
か方法はない……。人々は皆、そう鬼気迫りながら信じて疑わなかったのです。

「──どういうこと? 何でうちの人が……主人が殺されなきゃいけないの!?」
 しかし彼らは、終ぞ気付けないままだったのです。そもそも知ろうとさえしなかった、そ
の延長線上から抜け出していなかったのですから。
 仕方ないんだ。そう自他に言い聞かせながら、“毒の”罹患者──かつての同胞に手を掛
けていた人々。されど状況は一向に好転する兆しはなく、寧ろいつしか狩っていた側の者達
の中から、新たに罹患者が現れ出すという始末でした。そんな一人、男の妻が半ば怒りに衝
き動かされて訴えますが、松明を掲げる仲間達は一様に目を逸らします。
「どういうことだよ……? 何で、何で被害が止まねえ!?」
「御上は? 御上からの連絡は!?」
「……俺達を、逮捕? ば、馬鹿言え! こっちは必死になって“毒”を止めようとしてん
だぞ? うだうだ言い訳ばかりして何もして来なかった連中に、何でそんな……」
「くそっ、狂ってやがる! この國は、一体いつからこんなにおかしくなっちまったんだ。
一体、いつ……」
 強いて言うなら、始めからでした。“毒”の原因はずっと、彼らのすぐ傍に在り続けてい
たのです。
 彼らを蝕んできた風土病、その正体は他ならぬ彼ら自身でした。この國に生きてきた人々
が、日々吐き出していた“陰口”が長い年月を経て溜まり続け、遂には彼ら自身をも呑み込
み始めていたのです。長らく身を寄せ合ってきたが故の密度です。
 “毒”に中てられたから、紫色(ししょく)に覆われた訳でも、狂暴化した訳でもありま
せん。元を辿れば、それは全て彼ら自身が己の中に育ててきたものです。
 ただ少し、その“再配分”にしばしば偏りが出るというだけで──。
「……もしかして。“毒”を撒いてるのはそもそも、御上達じゃあねえだろうな?」
「はあ!? そ、そんなことして、何の得になるってんだよ?」
「知らねえよ。だけどまるで動いてくれないし、拡がる一方だし……まるで俺達の頭数が減
るのを待ってるみたいじゃねえか」
「……文句ばかり言うような人間は要らない。年貢だけ納めてろって腹かよ」
 それでも彼らは、いつだって原因は余所にあると疑います。悪しき他人(だれか)さえい
なくなれば、再び平穏無事な日々が戻ってくる筈だと信じています。
 國中に蔓延った病は、未だ止みそうにはありません。
                                      (了)

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  1. 2019/06/09(日) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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