日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「ショウドウ」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:兵士、時流、魅惑的】


 今更何を言っているのか。ヒトの歴史とは、戦いの歴史と言っても過言ではない。
 如何に効率良く、且つ継続的に奪うか? 殺すか?
 その為の知恵と技術の蓄積を指すに他ならないというのに。

「──散れ、散れ! 見つかってるってばよ!」
 日も沈んだ後の夜長。少年達はこの日も、画面越し、オンラインを通じて集まっていた。
美麗な3Dで描かれた廃墟の島で、自身が操るキャラクタ達が銃を片手に動き回る。銃声が
聞こえていた。慌てて手近な屋内へと逃げ込み、その襲撃から逃れようとする。
『なあ、弾持ってねえ? AKの』
『あるぞ。置いとくな』
『サンキュ。つい無駄撃ちしちまった……』
「何とか移動した方が良さそうだなあ。この辺り、位置的に低いっぽいし……」
 彼らが遊んでいるのは、いわゆるFPSという奴だ。一人称視点のガンシューティング・
ゲーム。オンライン通信で離れた場所にいる他人とも繋がり、対戦や共闘をして遊ぶことが
出来るタイプの一つである。
 ここ数ヶ月、彼らは時間さえあればこうして集まっていた。
 音声チャット越しに仲間達のやり取りが聞こえる。目の前で仲間が別の仲間に弾薬のアイ
テムを渡し、一旦態勢を整える。
 どうやら此処よりも高い丘の方から、他のチームが攻撃を仕掛けてきたようだ。地形的に
こちらはどうしても不利だ。攻撃の止んだ隙に抜け出して、先ずは相手の姿を捉えることか
ら始めないと……。
「こら、岳士(たけし)ィ! まーたそんなゲームばかりして!」
 だがそんな時だった。皆で次の行動に移ろうとしていた次の瞬間、背後自室の扉を開けて
母親が入って来た。ズカズカと、こちらの都合などお構いなしに、開口一番あからさまに不
機嫌な口調でそう窘めてくる。
「っ、だー! ノックぐらいしろよ、もう!」
 故に慌てて手元のボリュームをゼロに絞り、着けていたヘッドセットを外して。
 母親にそう呼ばれた少年の一人は、同じく不機嫌な表情で振り向き、邪魔をするなと言わ
んばかりの睨みを利かせた。その間に手元では『悪い、親フラ』とだけチーム内にチャット
を打ち込み、画面向こうの仲間達も同じ廃屋内で待ってくれているように見える。
「さっきから呼んでたでしょ! なのに返事しないモンだから……」
「ヘッドセット着けてるからな。言ってるだろ? 部屋に行ったら邪魔すんなって」
「邪魔って何よ! そんなゲームばっかりして……! 勉強はどうしたのよ? 夜も遅いん
だしいい加減に寝なさいよ」
「帰って来た後やってたろ。こっちはこっちで程々に置くから、一々呼ばなくていいって」
 全くもう……。毎度の事ながら、少年はどうもこの母親と折り合いが悪かった。というよ
りは、ゲームというものに対する印象の差か。
 どうにも両親は、自分がこの手のゲームをやっているということ自体、快く思っていない
らしい。それだけじゃあない。漫画やアニメ──現代(いま)の自分達ぐらいの世代が割と
普通に慣れ親しんでいるコンテンツ全般を、信用ならぬものとして見ている節さえある。
「そう言って、また朝方までやってるんでしょ? そんな、戦争ごっこみたいなこと……。
ご近所にどう説明すればいいのよ」
「……」
 チッと、あからさまに舌打ちをして。
 少年はされど、反射的に言い返すのは止した。この手のやり取りは今に始まった事ではな
いし、そもそもこちらがどれだけ詳しく説明しようとしたって、相手は聞く耳自体を持って
などいないのだから。
「別にいいだろ。実際に人が死んでる訳じゃねえんだから」
 いいから放っておいてくれよ──再びヘッドセットを着け直しつつ、話はこれで終わりだ
と言わんばかりに少年は画面に向き直ろうとする。
「はあ……。そういう話じゃないでしょ? 異常よ、あんたは」
 対する母親も、自身の苛立ちが自制の域を超えそうになっているのを自覚し始めたのか、
この日の説教はそこで打ち止めにした。最後に、実の息子にそんな台詞を放って、尚も不満
といった様子で部屋の外へと出てゆく。
「悪い。お袋が邪魔しに来てた」
『みたいだなあ。ちらっと最初だけ聞こえてたぞ』
『TAKEは実家住みだもんなあ』
『こっちは何とかやり過ごせたっぽいぜ? 音も人も見えなくなった』
 改めて音声チャット越しに仲間達と話し、ゲーム内の状況を確認。リアルの方のトラブル
でキルさせられていたかと思ったが、幸い向こうも此処まで攻め込めずに諦めたらしい。或
いは動きが見えないことで、こっそり違う場所に逃げられたとでも判断したか。
『さ、気を取り直して続きやろうぜ。続き』
『とりあえず移動だな。他のチームがやり合ってる近くに布陣できるといいんだが……』
「ああ……」
 現実は煩わしい。少年は如何せん憂鬱な気分を入れ替えて、ゲームの中に没頭するよう、
先ほどまでのやり取りを努めて忘れようとした。今は自由時間だ。やるべきことを一先ず片
付けた後なら、ゲームぐらいやっていたって何が悪い? そう自分に言い聞かせる。

 ずっとずっと大昔、ヒトは生きる為に他者を殺した。肉を喰らい、木の実などを採らなけ
れば、空腹で死ぬからだ。
 しかし体躯も、身体能力で遥かに勝る動物達を倒すには、彼らはあまりに弱過ぎた。数の
力で囲ったとしても、素の腕力では限界がある。そこで──生み出されたのが武器だ。
 持ち前の知恵と、創意工夫で補う。
 尤も実際はヒトだけに限らず、全ての生命に言えることだったが……こと彼らのそれは、
他の者達よりも優れていた。或いは一点に尖らせ、継承してゆく期間が比較的短かったのも
大きな要因だったのもしれない。
 如何に効率良く、且つ継続的に奪うか? 殺すか?
 武器を作り、火を熾し、更に強力な武器や防具を生み出し……。
 そして、ただ漫然と自然と在る恵みを喰ってゆく以外の道を、栽培という方法を見出した
人々は、次第に定住するようになった。集落を作り、狩りと栽培を使い分け、少しずつ少し
ずつ飢えの恐れから遠退き始めた。武器は……喫緊の物ではなくなる筈だった。
 なのに結局ヒトは、これらを手放すことを止めなかった。
 如何に効率よく、且つ継続的に奪うか? 殺すか?
 やがて彼らは気付いてしまう。自分達の集落だけではなく、余所のそれも奪ってしまえば
もっと食えるじゃあないか。
 戦いが始まった。かつてのヒトと動物とのそれではなく、ヒト同士のそれへ。只々生き残
る為の戦いの中に、もっともっとという貪欲さが含まれていった。確かに、より多くを持つ
ことは、ひいては大元の目的にも適う訳だが──果たしてその大前提を覚えていられた者は
どれだけ居たのだろう?
 ヒトの歴史とは、戦いの歴史と言っても過言ではない。
 そうして潰し合い、喰らったヒトらは集落から國へ、国家という概念の原形へ。
 近代化? 根本は何も変わっちゃあいないのさ。ただ武器が、技術が、規模がどんどん変
わって大きくなっていった、それだけだ。石や木の刃・矢じりが青銅に変わり、鉄に変わっ
て、大層な装飾品が増えただけだ。数人が数百人、数千・数万へと膨らみ、剣や槍が銃に取
って替わっただけだ。戦車や戦闘機が生まれただけだ。より効果的に、殺す技術だ。そこに
居る他人(てき)を根こそぎ吹き飛ばしてしまえば、ごっそり奪える……。
 ──ただそれらも、流石に殺り過ぎたとヒトは我に返り、反省し、歯止めを掛けようと試
みた。殺っても、同じぐらい沢山殺られれば、一体何の為か分からなくなる──そうだ。実
際はそこまでお利口な理由じゃない。割に合わないのと、やり逃げし始めた者達による後付
け設定の始まりなのだから。

 命を守ろう。全ての人々に人権を。自由を。
 嗚呼、それは誠に結構。綺麗な言葉だ。ここまで滅茶苦茶に殺しておいて、今更どの口が
と言ってしまえばそれまでだけども、歯止めが利くならそれに越した事はない。
 ただ……それは結局、一方で“押し込めただけ”だとも言えなくはなくて。既に何千年何
万年、彼らのDNAに刻まれた記憶は戦いを求めている。闘争を求める。だけど実際に血を
流すには拙いとしたら、どうすればいいか……?
 簡単なことだ。代わりを用意してやればいい。というよりも、ただ形を変えただけのそれ
と呼んだ方がいいのかもしれないけれど。
 政治、などと呼ぶ闘いが繰り広げられた。尤も時折それらは破綻し、文字通り戦火で世界
を覆い尽くすこともあるものの。
 経済、などと呼ぶ闘いが繰り広げられた。取った首の数ではなく、金という額で互いに競
い合って、富めるようにする。ひいては皆が飢えないように努める。尤も時折それらは手段
と目的が逆転し、一部の者ばかりに偏るものの。奪われ続けて死ぬ者も現れるものの。
 競技、などと呼ぶ闘いが繰り広げられた。始まりは兵隊の素質・訓練から起こり、やがて
その種類は多岐に及んで。加えてそんな起こりからの批判を避ける為に、当事者らは“精神
の修練”などという概念を持ち出した。競争に勝つ為に、ストイックに己を鍛える。相手を
分析する。文字通り自身の全てを捧げる──何ら他と変わる訳じゃない。
 ヒトの歴史とは、戦いの歴史と言っても過言ではない。姿形を変えただけで、血が流れな
いだけで、やっていることの本質はいつも闘争だった。より多くを、より上位を、より優位
を得る為に皆が必死に努力する。或いはルールの穴を突くことで、一歩二歩先を抜きん出よ
うとする。最近はそこにも、何とか「待った」を掛けようとする動きはあるものの……。

『FPSっつーか、ゲームの何が悪いんだろうなあ。誰にも迷惑は掛けてねぇってのに』
『鯖とか電力には負担掛けてるけどな』
『そういうことじゃあねえよ。TAKEの母ちゃんみたいに、やっぱこの手のモンを目の敵
にする世代ってやっぱいるじゃん?』
「……俺がいつか、本物の銃とかを撃つんじゃないかって思うんだろうなあ。少なくとも今
はそっちまで守備範囲は行ってねえってのに。そもそも普通に捕まるじゃん」
 だよなー! 仲間達が通信越しに、ケラケラと笑っている。彼らはその間も連携し、他の
チームとの銃撃戦を繰り広げていた。どう立ち回れば、どう使いこなせばより多くのスコア
を稼ぐことが出来るのか? システム上の最善手、ないし楽しみ方を、彼らはエンジョイ勢
ながらも少なからず知っている。
『最近じゃあ、eスポーツってのもあるしな。単純に……感覚の違いなんだろ?』
『そうそう。こちとら昼間必死こいて仕事っていう戦いに明け暮れてんだ。ちょっとぐらい
別の戦いで遊んだって、バチは当たんねえよ』
 ババババッと、仲間達の放つ銃声がこだまする。3D描画の中で、薬莢が辺りに散らばっ
てゆくさまも細かに映し出されている。
 チームの面子は、未成年から学生、社会人まで多彩だ。同じゲームに集い、知り合い、こ
うして共闘するというのは、現実ではあり得なかっただろう。その点では既存の──メイン
ストリームたる競争のコミュニティを、間違いなく超えている。
 尤も人と人が交わる以上、現実(リアル)のそれと同じように、対人関係によるトラブル
もまた十分に起こり得るのだが。
 ──勉強する。いい学校に進む。つまりは大手の企業に就職し、たんまりと稼ぐ。
 何もそれ“だけ”が戦場(バトルフィールド)ではない。大体かつてのような当たり前、
神話的なシナリオも、今では寧ろ掴める者の方が珍しい。良くも悪くも、それすらある意味
で戦いなのだ。満遍なくからゼロサムへ。使い潰して荒稼ぎする者と、そうした構図を知っ
ていながら、生活の為にそこへしがみ付くしかない者……。
 ──ちょっとぐらい、別の戦いで。
 面々の年長、社会人らしき仲間の男性がそう自嘲(わら)うように言った。世の中は、今
や経済という巨大な戦いを行いながら日々を過ごしている。銃弾が飛び交うか金銭が飛び交
うか? そこに一体何の違いがあるというのだ? 後者は血が流れている訳ではないという
が……ただ視えないだけで、きっと誰かが泣いているのだろう。喰い奪われて苦しんでいる
のだろう。或いは思い詰めて、それこそ“死んで”しまいさえするのだろう。
 結局、本質的な部分は闘いなのだから。かつてありふれていた、物理的な戦い達の代わり
なのだから。
『あぎゃっぱッ!?』
『!? ツナ缶さんがやられた!』
『やっべ。狙撃か──何処にいる?』
「物陰に隠れよう!」
『ったくもう……。次から次へと~!』
 “戦争ごっこ”がいずれ本物にと、危惧しても今更だろう。
 ゲームなら血が流れない、だから“健全”だと主張するのも今更だろう。
 何としてでも止めたい? 自由にやらせて欲しい?
 いつからお互いが、一方的なものだと錯覚していた? 自分達こそが“正しい”と信じて
いた? どちらも繋がっている。ぐるぐると長い歳月、ヒトの歴史の中で、一つの輪っかと
して同義のものであるのに。
 常在戦場。どれもこれも、ただ成り代わってきたに過ぎないのに。
                                      (了)

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  1. 2019/06/03(月) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

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