日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「HERO」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:見返り、輝く、脇役】


 自身の人生において、子供時代が終わった瞬間があるとすれば、それはきっと“この世界
の主役は自分ではない”と理解した時なのだろう。
 そういう意味で、私は随分と可愛げのない子供と見られていたのだろうと思う。なまじま
だ中学にも届かない頃から、私はそんな現実に気付いて──諦めることを覚えてしまったの
だから。
『○○君、○○君!』
『それでね? それでね──』
 勿論世代によって差はあるのだろうが、少なくとも私の周りでは、私以外の誰かが常に注
目の的だった。私ではない誰かが、いつも周りの人間に取り囲まれ、華やいでいた。
 大よそ、幼い頃はスポーツのできる子だったり、元気で快活な子だったり。
 それも年齢が上がってゆき、各々の個性が強く出始めれば、主な要件は段々と容姿を中心
としたものへと移り変わってゆく。人の、皆が熱を上げる魅力というものは、基本的に美男
美女であるか否かに正比例する。或いは裕福であるか否かだ。彼ら・彼女らは常にキラキラ
と輝きを放つようであるし、だからこそ他人は、そんな一段上の空気に属することを望む。
憧れるが故に持ち上げる。
『……』
 だがあれは、自分の住む世界とは違うのだ。
 はたして具体的にいつからだったのか? 私は子供心ながら、比較的早々に自分があそこ
に届かない人間だと、肌感覚として理解していたように思う。殊更私自身は整った容姿を持
つ訳でも、金銭的に恵まれた家庭に育った訳でもない──凡百の中の一人なのだという自覚
があった。もっと賢しらに言うならば、領分というものを弁えたつもりだったのか。
 全く……可愛げのない子供だったと思う。
 大抵の人間がいずれ通であろう道だとはいえ、そんな物分かりの良い子供というのは、周
りの大人達からすればつまらないものだ。
 ある意味、子供というのは無茶をやったり未熟故のかしかましさをやからすのが仕事であ
って、本来ならそこで周りの大人達に叱られ、自らも内省を繰り返すことで成長してゆく。
尤も中には、肥大する一方の自尊心が故に、様々な不都合を他人のせいにし続けたまま大き
くなった人間も少なくないが……それは今ここで訳知り顔に語るべき内容ではないだろう。
寧ろそんな他人びと自体も、私はじっと反面教師として遠巻きに見るばかりだった。やはり
自分は彼らのような、良くも悪くも輪の中心に立つような存在ではないのだと、その都度己
を律する口実(ざいりょう)にばかりしてきたように思う。

 端正な容姿でもない──寧ろ強面と形容した方がしっくりした顔立ちや体格と、決して裕
福とは言えない環境を鑑みた末に、私は学校を出てすぐ働き始めた。
 少しでも、これまで苦労を掛けた両親を助ける為に。
 そんな大義名分をこっそり掲げてみたものの、いざ社会に出て自分の出来ることというの
は限られていた。当時、それほど学があった訳でもなかった私は、これまた早々に背伸びす
ることを諦め、地元の小さな町工場に職を求めた。何か手に職があれば、食いっぱぐれもし
難くなるだろう──今思えば絶対確定などではない、そんなぼんやりとして理由でもって、
私の“大人”としての日々は始まった。入社して間もない頃は、まだ支給された作業服も汚
れがなく綺麗だった。
『ほう? 中々筋がいいな。若ぇのに大したモンだ』
 私が腰を落ち着けた職場は、お世辞にも大きな会社ではない。金属加工を主に手掛ける、
世の中に数多ある下請け工場の一つに過ぎなかった。
 それでも……私にとっては好都合な環境だったのかもしれない。
 基本的に華やかな表舞台とは縁遠い、技術一本で食い繋いでゆく裏方の世界。されど彼ら
大勢の“職人”達が、日々汗水を垂らして働いているからこそ、この世界は何とか回ってい
るのだと解る。少なくともそれだけでも、私にとっては救いだった。
『……どうも』
 幸い、私にはこの手の仕事の方が向いているらしかった。実際、人と会って調整役をして
といった類のそれは、歳を取った今でもあまり得意ではない。率先して自分が担うべき部分
ではないなと感じている。──良くも悪くも、やはり私は旧い人間なのだろう。
 ならば自分に出来ることは一つだけだ。私は日夜、携わるこの技術の研鑽に努めた。
 古臭いのかもしれない。事実世代が移ろってゆくにつれて、こういう役回りはしんどいだ
けだと倦厭されがちだというのは何となく分かっている。勿論個人個人の適性というものも
あるのだろうが、世の中全体が「豊か」になってゆくにつれて、より多くの人間が地味な労
苦というものを疎ましがる傾向にあるように思う。より即効性があって効率的な、華やかな
シーンに自分を彩りたいと夢見るのは、おそらく現代人の性質なのだろう。
 ……ただ、私は知っている。自分はそんな“主役”にはなれない。努力次第で、諦めずに
手を伸ばし続ければ届くんだとはよく云われるが、私はその選択肢を取らなかった。早々に
諦めて、無数のそうではない誰かになることを選んだ。
 元より、舞台の中心に立てる人間というのはごく一握りの存在だ。
 確かにそこで憶することなく、力強く登り続ける者──その精神を誰よりも強く我が物に
した者こそを「勝者」と呼ぶ点に異論はないが、現実として一握りのそれを生み出す為に、
大量の「敗者」もまた生まれざるを得ない。少なくとも……私はそんな現実に耐えられなか
った。多くの“誰か”を蹴落としてまでそこに至ろうとはどうしても思えなかった。賢しら
に道理を理解したつもりになり、早々に逃げ出した──弱い人間だ。
 私は、英雄などではない。

「研さん、研さん」
「これ、ちょっとムラがありますかね? 削った方がいいッスか?」
 なのに……気付けば私の周りには、同僚(なかま)達が集まってくる。入社した頃とさほ
ど変わった訳でもない、小さな町工場だ。
 あれから二十年弱。毎年ではないが、時折新しい若い世代が入って来ては、四苦八苦しな
がら技術を学んでゆく。私も私で、時代と共にどんどん更新されてゆくそれを学び直すので
安定など無かったが、それでも無駄に年季というか年の功なのか、困った時にはよく頼られ
ることが増えた。
 私自身、身につけた技術もふとした革新(きっかけ)で無に帰してしまうことをよくよく
知っているつもりだったのだが……物好きな後輩達だ。
「……そうだな。此処と、此処。右に3ミリずつ。少し、浮いている」
 了解ッス! 私の見立てに即応して、再び工作機に部品を掛け始める。私はそのまま、彼
らの仕事ぶりを離れて見ていたが……扱い自体は既に慣れ、問題はなさそうだった。
(私よりも、社長(オヤジさん)に聞いた方が確実だとは思うんだがな……)
 これも年配者の責任という奴か。気付けば随分と、毎日の仕事の中で他人に教えるという
場面が増えてきた。出来ればもっと自分は自分の、やるべき量をこなしたいとは内心思うの
だが、そこで彼らを責めるのは筋違いだろう。
 私一人では、どうしても物理的に捌ける限界というものがある。
 だからこその人手であり、同僚という存在があるのだ。小さくてもチームでやっていると
いう自覚を忘れれば、本当の意味で良い仕事は出来ないだろう。……そう、つい他人の騒が
しさを疎みがちな自分を、折につけて戒めるようになった。
「うひょ~、やっぱ研さんは凄いなあ!」
「本当、どうやったらここまで細かく削れるんだか……」
「そりゃあまあ、研さんはうちの古株中の古株だからなあ。こと技術に関しちゃ、あの人に
聞いとけば大丈夫だよ。ま、俺達もあまり甘えてばっかりじゃいられないけどな」
「……」
 工場の別室で、倉庫の前で。
 私はいつからか、そう彼らが自分の腕を褒めているさまを見聞きするようになった。尤も
当の本人の前では──こんな厳ついおじさんに直接向けるのはばつが悪いらしく、決まって
隠れるようにして話していたようだが。
 正直を言うと、慣れない。
 彼らに他意はなく、褒められているのだなと私も理解はするが……私の私自身の性分から
か、それを素直に受け取ることは出来なかった。“これまで”の技術を誇ることは、必ずし
も良いものだとは思わなかったからだ。
 何もこういった仕事に限らない。技術とは生き物だ。繰り返すが、ふとした切欠、より新
しく効果的なそれが見出された時点で“これまで”は終わる。そこでそれらに反発し、己の
名誉ばかりを優先すれば、人としても技術者としても落ち目だろう。様々な技術・ノウハウ
はあくまで“これから”を良くする為のものだ。私達は裏方──自身を充たすよりも、奉仕
者であらねばならないと考えている……。

「──おーい、十倉(とくら)。ちょっといいか?」
 この世界の主役は、私はではない。ずっと私はそう思ってきた。事実私は幼い頃から今に
至るまでずっと、地道に平凡な暮らしを続けてきたし、これからもそれはさして変わりない
ものだと信じていた。
「? 何でしょう」
 なのに……彼らはどうして私にそこまでしてくれるのか?
 その日私は、ふと社長(オヤジさん)に呼び出された。何かミスでもしただろうか……?
工作機を止めて作業を中断し、促されるままに工場入り口横の事務所兼社長室に入る。
「ああ、そんなに身構えなくてもいい。今日はお前さんに、良い縁談(はなし)を持って来
たんでな」
「……いい話、ですか」
 予想に反して、用件とは自分に対する見合い話だった。何でも彼の友人が、娘の結婚相手
を探しているのだという。
「恩返しも兼ねてってことさ。お前さんのお陰で、うちも随分と楽になった。仕事っぷりも
そうだが、若い連中の面倒もよく見てくれてるからな」
「いえ……。必要だからやっているだけです。それに外回りなんかは、社長(オヤジさん)
が……」
「ははは。いいんだよ、誰にでも向き不向きはあらあ。全部背負いこむことはねえ。今みた
いに、役割分担だけでもしっかりしてりゃあ、こっちとしても大助かりさ」
 正直な所、最初私は戸惑いばかりが強かった。何だかんだで捻くれ者な自分は、褒められ
ることに不慣れだったし、何よりそれを真っ直ぐに向けてくれる社長(オヤジさん)が眩し
かった。
 事務所に居合わせていた数人の女性──事務員も、窓ガラス越しにこちらを見てニコニコ
と微笑んでいた。直接か又聞きかは知らないが、彼女らも今回の縁談についてはある程度聞
き及んでいるらしい。
「お前さんも、すっかりいい歳だ。お節介だとは思うが、そろそろ身を固めてもいいんじゃ
ねえかと思ってな。そいつから相談された時、お前のことを推薦したんだよ」
 ほら、この娘(こ)さ。言って彼は、引き出しの中にしまっていた見合い写真をこちらに
寄越してくる。私は逡巡したが、結局受け取らざるを得なかった。わざわざその友人の相談
に乗り、仲介役を請け負った──長年の恩人でもある彼の面子を、即この場で潰すような真
似は、私には出来なかった。
『──』
 厚手の台紙を開くと、一人の女性が写真に収まっていた。実際に合ってみないとはっきり
したことは判らないだろうが、結構小柄な女性のようだ。縦の楕円形に切り取られたその中
で、彼女ははにかむように微笑(わら)っている。見合い写真になると知ってか、それとも
性格からして控えめなのか。背景の花畑に、若干埋もれそうな感じを受ける。
 この人が、社長(オヤジさん)の友人の娘……? 随分と若いじゃないか。下手すれば、
自分よりも一回り近く年下に見える。見た目の小柄さもあるが、軽く肩に乗せて結わった髪
と白い肌、着飾らないシンプルな薄桃のワンピース姿──楚々としたさまとぎこちなさが、
余計に彼女を幼く見せているような気がする。
「可愛らしいだろう? 優梨ちゃんっていうんだけどな。俺も以前に会ったことがあるが、
ほんわかとした良い娘(こ)だよ」
 だからさ? 一度会うだけ会ってはくれねえか──?
 髪だけでなく、顎鬚まですっかり灰色に染まったこの半生の恩人に、私はそう笑みを向け
られながら頼まれてしまった。お節介、面子。躊躇う気持ちもすぐそういった“これまで”
によって相殺させられ、私は押し黙らざるを得なかった。写真を収めた台紙を片手に開いた
まま、にわかに引っ張り出された舞台の上で、途方に暮れるかのように。
「……」
 どうして? いや、社長(オヤジさん)なりの信頼の証だということは解っている。
 何故今更? 私はずっと“主役”なんかじゃなかったのに。
                                      (了)

スポンサーサイト



  1. 2019/04/07(日) 00:00:00|
  2. 週刊三題
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<(企画)週刊三題「直(じか)発電」 | ホーム | (雑記)やはり鈍りは避け得ねど>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://higurasisouann.blog27.fc2.com/tb.php/1099-5582ded0
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

訪問者累計

最新記事

最新発言

検索窓

月別履歴

10 | 2019/11 | 12
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

分類/索引

【案内板】 (2)
【小説:短編】 (20)
本の蟲 (1)
硝子野不動産店 (1)
夏の日の幻影 (1)
四番線の彼女 (1)
夢視の宿 (1)
線を曳く町 (1)
炬燵の神様 (1)
三者三盗噺 (1)
色眼鏡 (1)
奴らは攻城戦師 (1)
詰め替える (1)
同じ籠の狢 (1)
二十年後の遺言 (1)
轍の先 (1)
水に流せば (1)
真夜中の御二柱 (1)
いつか見た夢 (1)
神様達の初詣 (1)
白い花束 (1)
丸の代償 (1)
【小説:長編】 (192)
Amethyst League (6)
アンティーク・ノート (3)
ユウキのヒカリ (5)
NIGHT GUNNERS (5)
レディ・ルーン-Bonds of RU'MEL- (6)
ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- (110)
死に損いのデッドレス (5)
Dear SORCERY (4)
サハラ・セレクタブル (48)
【企画処】 (469)
週刊三題 (459)
その他参加物 (10)
【資料庫】 (2)
【落書帳】 (2)
【詩歌帳】 (8)
【雑記帳】 (400)
【読書棚】 (32)
【遊戯倉】 (25)
path. (4)
decide: (3)
ユー録FW(凍結中) (17)

記事録

交友関係

このブログをリンクに追加する

(RSSリンク)

(QRコード)

QR

Tweets by long_month