日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「フォビア」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:玩具、ヒロイン、機械】


「──何だ? あんたもこいつが“異常”だっていうクチか?」
 自身に向けられた疑問符に、彼はさほど不快感を隠すでもなく応えた。眉間に少し皺を寄
せてから、こちらを睨むように見つめてくる。
 ごく平凡な、この時代においてはそう珍しくもない中産階級の男だ。何度も着回してきた
と思しき上下の普段着姿で、どっかりと片足を組んだままソファに座り、同時にその片腕も
背もたれの側に投げ出している。
「案外、頭が固いんだな。じゃあどうすりゃいいってんだ?」
 そう挑発するかのように、投げ返される眼差し。
 彼もまた、時代に適った人間の一人として、この手の意見と接するのは煩わしいようだ。
ちらっとそのまま横目を──自身の傍らに座っている、もう一人の同席者の姿を見遣る。
『……』
 そこに居たのは、一人の美しい女性だった。彼のすぐ隣で、じっと俯き加減のまま沈黙を
保っている。
 いや、厳密には“人間ではない”とその前に付けるべきだろう。彼女は姿形こそ人間の女
性ではあるが、最新鋭の技術が詰まった自動人形(アンドロイド)なのである。
 何処か憂いを帯びた、神秘的な美貌。
 サラリとした銀髪を軽く後ろでまとめ上げた、スタイル抜群の身体。
 服装は標準のエプロンドレスから凛としたスーツ姿まで、納品先(クライアント)の希望
に応じて多彩なそれが用意されている。また所有者となった人間の金銭的余裕さえ許せば、
その後も自由に着飾ってやることもできる。こと富裕層にとっては、より豪華な装いに仕上
げてやることで、自らの財や権力を示すバロメーターにもなっているという。
 そして何よりも大きいのは──彼・彼女らを購入した人々が総じて、自らの家庭を持って
いないということ。いや、持つことを放棄した人間達であるという点だ。
 文明が成熟し、ヒトという“集団”として必死に生きる必然性が薄れていった中で、彼ら
は自身という“個”に強い拘りを持つようになった。自らが如何生き、何を選んで何を成す
かをその意思の下で決められるよう、こと従来の社会にあったしがらみから自由になること
を求めた。
 その結果の、自動人形(アンドロイド)である。
 今や男女間の交際すら、リスクとなり得る時代だ。結婚し、子を産み育てても、互いに反
目し合うようになるのは最早時間の問題だとさえ言える。そもそも意中の相手へアプローチ
しようとしても、それ自体に激しい拒絶を示されることも珍しくない。一歩間違えば犯罪と
訴えられ、社会的な全てを失うだろう。より豊かで、より端麗な顔立ちをしている者が優先
して選ばれるし、選んでゆく。内面的な美しさを訴えても、外見とは最も外側にある内面な
のだ。初手で嫌悪感を抱かれた時点で、その人間は「負け」なのである。
 ……だからこそ、そんな現実に気付いた少なからぬ者達は、早々にこの生物的競争から降
りることを決意した。どうせ自分達が“残り物”にしかならず、選べないのなら、その妥協
までに費やすリソースを“個”としての追求に振り直そうと考えたからだ。
 実際、この時代においてはそれは既に可能となりつつあった。自動人形(アンドロイド)
などの技術的な追随も然ることながら、種や国家、一族といった従来の“集団”に与すべし
といった価値観への反発も、この動きに拍車を掛けた。
 男と女。つがいになって子を作れ。
 今やそんな宿命とやらは、少なからぬ人々にとってはリスクばかりが悪目立ちする。加え
て好きになる相手も、異性だとは限らない……。

「男なんて要らないわよ。彼さえいれば、あとは何も要らないわ♪」
「僕と同じような人を、尚且つパートナーになってくれる誰かを見つけ出すというのは大変
ですからね……。その意味では、とても良い時代になったと思います」
「もう少し、儂が若かったら嫁さんにとでも思ったのかもしれんが……流石にこんな歳じゃ
しのう。偽物と哂われるのやもしれんが、満足しておるよ。この子を、儂は本当の娘じゃと
思っておる」
 自動人形(アンドロイド)達を求める人々の姿は、多様だ。時代の要請と人々のニーズ。
良くも悪くも双方がカチリと噛み合ったからこそ、この技術は広く世の中に普及した。今や
両者が普通に街中を歩いている光景も珍しくはなくなっている。
『……はい。私もです、ヨーコ』
『そう言って貰えるのなら幸いです。自分はマスターの為に作られたのですから』
『うんっ。私もお爺ちゃんのこと、大好きだよ?』
 用途は何も人間の男性と女型とは限らない。逆に人間の女性と男型という組み合わせも少
なくはない。自らの理想の“異性”を自動人形(アンドロイド)として手に入れた彼女に、
彼はまさに王子様よろしく微笑みかけていた。
 或いは人間の男性と、男型のカップルもいる。一時はやれ生産性だの異常性癖だのと迫害
を受けた類の者達ではあるが、殊更“自由”と権利意識が進んだ現在、彼らないし彼女らに
面と向かって苦言を呈する者は皆無となった。そんな在り方の人間もいる──それは積極的
に認知したというよりは、お互い関わらずにいようというコンセンサスが故なのだが。
 加えて中にはそうしたパートナー関係ではなく、ただ庇護する対象、話し相手として購入
する者もいる。愛した人を失い、その生前と同じ姿を求めて。既に子らが独立し、その寂し
さを埋める為に──理由は、自動人形(アンドロイド)を傍らに置くようになった動機は、
実に様々だ。生身の人間では失敗してしまっても、彼ら・彼女らにはそれは無い。こちらの
求めた関係性(オーダー)を、完璧にこなしてくれる。
「──流石に、都合が良過ぎるとは思うがねえ……。まぁ他人様のあれこれに口を出す気は
更々ねぇんだがよ?」
「こっちはちゃんと、お腹を痛めて子供達を産んでるのよ? あんなの、ずるいじゃない。
自分勝手よ。そりゃあまあ、今の旦那がいいかって訊かれると、正直アレだけど……」
 だが一方で、そんな昨今の向きを快く思わない人間達も、また世の中には一定数いた。違
和感こそ抱いていたが、燻り続ける火のように努めて表向きには出さなかったのである。
 結局の所、自動人形(アンドロイド)をパートナーにするということは、彼・彼女らを購
入する人間のエゴに他ならないからだ。どれだけ愛着を持って接しようが、相手は人間では
ないのである。
 搭載AIによってはより人間に近い思考回路・行動様式を獲得するようにもなるが、基本
的に求められているのは特定の役割(ロール)である場合が殆どだ。あくまで生身の人間、
他人と出会い、コミュニティを維持している側の人間達からすれば、これら“自由”の探求
者は異質に映るのだろう。尤も同時にそれは、相手側からしても同じ──唾棄すべき旧態の
奴隷ではあるのだが。
「だけどよう。実際問題、ツレを作って産んで貰ってってのはしんどいだろ? 一昔前なら
ともかく、今じゃあ『人口子宮』の施設もあちこちにあるし、そっちの方が効率はいいじゃ
ねえか。要するに、頭数がいなきゃ国が無くなるって言いたいんだろ?」
 故に彼ら“個”の信奉者は言います。技術的にそういった問題は克服した。そもそも上か
ら産めよ増やせよと言われるのは鼻持ちならぬ……。
 性的な発散と、命を継ぐ為の行為は必ずしも同質ではない。だからこそ、こと前者のよう
な意図を含む自動人形(アンドロイド)の使用を、世の一定数の人々は嫌悪するのだが……
問題の本丸はそこではないのだった。
 ──頭数。押しつけがましい“義務”に対するそんな揶揄。自分達とは別に、人為的に管
理されたシステムの方が能率が良いという彼らの反論は、実際の所正しくはない。
 ──増えてはいないのだ。統計上、社会が抱えるヒトという種の頭数、人口は殆ど回復し
ていない。寧ろ緩やかに減少は続いており、多くの技術群が発展をみたこの時代においても
そんな現状は止められずにいたのだ。ヒトと共に歩む自動人形(アンドロイド)達が街中に
溢れ、一見するとそのような危機が迫っているとは中々認識し辛いのだが。
 何とか説得を試みようとする者達がいる。それに噛み付くが如く反発する者がいる。どれ
だけ“交配”をシステムの中に組み込もうとも、未だヒトはそれらを完全に掌握するまでに
は至っていなかった。未だそのプロセスの途上なのか、それとも御すること自体がそもそも
不可能なのか……。

「ほ、放っておいてくれよお! 俺はただ、自分が好きだから買っただけで……!」
「だから嫌なのよねえ。そうやって自分達の価値観を、一方的に押し付けてくる輩は……」
 “個”を優先する為には、往々にして“集団”から距離を置かねばならない。自らの在り
ようを他人に強いられぬ為には、外堀からその“自由”を認めさせなければならない。
 そうやって、人々はかつてから今の時代に至るまで、技術と思想と血潮を闘わせてきた。
都合の良い異性像、或いは同性。ないしは性別や種族、人型であるか否かさえも越えて。
 闘う者もいたのだろう。一方でただ自分──外に出さぬよう閉じ込めた趣向の中で、秘し
てそれを満喫している者もいる。自動人形(アンドロイド)の所有者達もまた然りであり、
中には見目麗しい女性という皮(ガワ)を敢えて剥がし、金属骨格剥き出しの姿を愛でるよ
うな主もいる。本来ならば違法である所の複数の“男”達を侍らせて、自分だけの玉座に就
いているような主もいる。
 ただ彼らも──彼らを詰る者達も、一つ大きな点を忘れている。
 それはどのような世の中を、快適な環境を手に入れるかに拘らず、その維持管理には必ず
別の誰かがいるということだ。直接自分の為にではないにせよ、日々必死になりながらその
役目を果たしてくれているということだ。
 集団(しがらみ)を疎み、個(みずから)のみを愛そうとも。
 個(みがって)に憤り、集団(ことわり)ばかりを諭そうとも。
 彼らを造るコミュニティは、何時も等しく衰亡(あす)へと向かう。
                                      (了)

スポンサーサイト



  1. 2019/04/01(月) 00:00:00|
  2. 週刊三題
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<(雑記)やはり鈍りは避け得ねど | ホーム | (雑記)諍い厭いとアップグレード>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://higurasisouann.blog27.fc2.com/tb.php/1097-263179ee
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

訪問者累計

最新記事

最新発言

検索窓

月別履歴

07 | 2020/08 | 09
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -

分類/索引

【案内板】 (2)
【小説:短編】 (20)
本の蟲 (1)
硝子野不動産店 (1)
夏の日の幻影 (1)
四番線の彼女 (1)
夢視の宿 (1)
線を曳く町 (1)
炬燵の神様 (1)
三者三盗噺 (1)
色眼鏡 (1)
奴らは攻城戦師 (1)
詰め替える (1)
同じ籠の狢 (1)
二十年後の遺言 (1)
轍の先 (1)
水に流せば (1)
真夜中の御二柱 (1)
いつか見た夢 (1)
神様達の初詣 (1)
白い花束 (1)
丸の代償 (1)
【小説:長編】 (205)
Amethyst League (6)
アンティーク・ノート (3)
ユウキのヒカリ (5)
NIGHT GUNNERS (5)
レディ・ルーン-Bonds of RU'MEL- (6)
ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- (116)
死に損いのデッドレス (5)
Dear SORCERY (4)
サハラ・セレクタブル (55)
【企画処】 (510)
週刊三題 (500)
その他参加物 (10)
【資料庫】 (2)
【落書帳】 (2)
【詩歌帳】 (9)
【雑記帳】 (419)
【読書棚】 (32)
【遊戯倉】 (25)
path. (4)
decide: (3)
ユー録FW(凍結中) (17)

記事録

交友関係

このブログをリンクに追加する

(RSSリンク)

(QRコード)

QR

Tweets by long_month