日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「箱庭(コスモ)へ」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:宇宙、竜、迷信】


 ずっとずっと、遥か昔、世界は闇と混沌に満ちていました。そこへ降り立たれたのが、我
らが主(しゅ)・ウォルディン率いる光の神々です。
 未だ邪悪なるものどもの中に在った世界を、我らが主達はその輝ける力でもって明るく照
らされました。無から有が生まれ、即ち多くの命が命として分化し、それまで停滞していた
世界は大きく動き出しました。
 私達人間もそんな一人。我らが主と光の神々は、照らされてゆく世界と命らをまこと慈し
まれました。より多くの命が生まれ、健やかに育ってゆく……。神々に見守られしこの世界
の平穏は、いつまでも続くものと誰もが信じていました。
 ……しかし、そんな光が満ちてゆく世界の中で、唯一これを望まぬ者達がいました。始め
この世界の闇と混沌を司っていた、静寂の君・モーリスです。闇に潜み、彼女と彼女に従う
太古の魔神達は、ある時世界を再び手に入れようと戦いを仕掛けてきたのでした。
 約束されていた筈の平穏は、かくして破壊されてしまいました。
 されどこの世界の危機に、我らが主・ウォルディン率いる光の神々は、敢然と立ち向かわ
れます。闇より生まれ、再び這い出づらんとする彼らに、我らが主達は再びその輝ける光を
撃ち放ちます。一度は多くの命を生み、慈しんだ聖なる光は、まさに魔を退ける光の矢とな
り槍となってモーリス率いる闇の軍勢に降り注いだのでした。

 のちに“聖戦”と呼ばれることになる古の戦い。
 やがて魔神達は正面から攻めても分が悪いと悟ったのか、ある時から自らに従う命達に力
を分け与え、その尖兵とするようになりました。
 最初は聖なる力を振るう光の神々が優勢でしたが、そんな魔神達の卑劣な策略・数の力に
主らは次第に押され始めたといいます。
 ですが──希望はそこで潰えることはありませんでした。ならば我々も。光の神々と魔神
達の戦いに、何と我ら人間の祖達が共に戦うべく手を挙げたのです。
 主・ウォルディンは戸惑ったといいます。お前達にそんな危険な真似はさせられないと。
 しかし人々は、その挙げた手と志を決して投げ出しはしませんでした。これまで自分達は
貴方がたの加護の下で平穏に暮らすことができた。豊かになれた。今こそその恩を返すべき
時だと。
 人間達の熱意に押され、我らが主と光の神々は、自らに従う命達の中から特に素質と勇気
のある者らを選ばれました。魔神達がそうしたように、その聖なる力の一端を分け与え、闇
の軍勢を打ち破る新たな力としたのです。
 故に“聖戦”は、光の神々と魔神達だけに留まらず、この世界全ての生けとし生ける者を
巻き込んだ激しい戦いとなりました。もし魔神達に敗れれば、この世界は再び混沌の闇に呑
み込まれる──互いにその力を分け与えた人らをぶつけ合った戦いは、まさに世界の全てを
破壊し尽くすほどの過酷を極めたといいます。

 それでも、人は勝ちました。長い長い戦いの後、我々の祖達は遂に悪しき魔神・モーリス
らを打ち破ることに成功したのです。
 世界に満ちる輝きは、守られました。混沌の闇は我らが主・ウォルディン率いる光の神々
によって封印され、世界は再び平穏を取り戻しました。
 ただ一つ──神々が戦いの末、その力の大半を失ってしまったことを除いて。
『我らは眠りに就こうと思う。魔神達も潰えた。これからはお前達がこの世界と命達を導い
てやって欲しい』
 天に昇りゆく我らが主と神々。人々はそんな大役をと必死に呼び留めましたが、我らが主
は言います。それはとてもとても、清々しく優しい笑みだったと伝えられています。
『大丈夫。お前達はもう、自分の足で歩いて行ける。お前達が我らと共に戦うと申し出てく
れた時既に、その魂は誰よりも強く気高く成っていたのだ』
 そして我らが主・ウォルディンは、この共に戦った人の子らを王とし、後の世界を託され
ました。王となった勇士らはやがて各地に国を興し、代々この教えを元に人々を導いてゆく
ことになります。主・ウォルディンと光の神々が天へと還っていった後も、彼らは決してそ
の大恩を忘れることはなかったのです。
 かくして太古、我らが主・ウォルディンと光の神々が残した教えを後世に伝える。いつか
お戻りになられる神々を、胸を張って迎えられるように。
 即ちそれこそが、我々『聖法教会』の唯一にして、無二の使命なのです──。

 ***

 とまあ、この世界の人間達の伝承とはそんな風になっている。
 ものの見事に洗脳されているというか、何というか。勝てば官軍は、何も私達の世界だけ
に限った話ではないらしい。親は子に似る──私達が創った箱庭(せかい)なのだから、当
然と言えば当然なのかもしれないけれど。
 都合が悪いことは、全部相手に丸投げして責任転嫁だ。
 育成中の生命を改造して、ダイブ中の政敵(てき)を襲わせるなんて屑の発想だし、そも
そもプロジェクト内が割れる原因を作ったのは、サブチーフのウォルディン達の方だ。寧ろ
モーリスさんは箱庭(フラスコ)への恣意的な介入には否定的で、どんな形であれ生命達は
いち結果として受け入れるべき、という考えの持ち主だった。当初はチーム全体の空気も、
そんな向きが大勢だったというのに……。
 いや、私に今更そんなことをうだうだと言う資格はない。私は──私達は、あの時起こり
始めていた対立から逃げたんだ。純粋な研究さえままならない、他にも並行して進めている
箱庭(フラスコ)はあったから、その一個に拘らずに移ってしまえばいいやと……。
 尤も結果からして、その判断は間違いだったと言わざるを得ない。結局ウォルディン派と
モーリス派の対立は研究所(ラボ)全体を巻き込み、他のプロジェクトも軒並み頓挫してし
まったからだ。数年後、新たに残ったメンバーで一からやり直しはしたけれど、それでもあ
の時あの場所で私達が創っていた箱庭(せかい)は、二度と元には戻らない。

 箱庭内(ここ)では、ウォルディン派は良き「主神」、モーリス派は悪しき「魔神」とし
て伝えられているらしい。
 更にもう一つ……私のような当時の諍いに加わず、プロジェクト──この箱庭(せかい)
から去っていった者達は「竜神」と呼ばれている。伝承上では、私達はその翼を広げ、新た
な世界を目指して旅立ったとされる。
 尾ひれはひれもここまでくると、乾いた笑いしか出ない。あながち間違ってはいないが、
随分と大袈裟に脚色されたものだ。それでも両派どちらにもつかなかった半端者の“神”と
いう人間達の評価は、プロジェクトに関わったいち研究者として、甘んじて受けなければな
らないだろう。
 オルディン達は帰って来ない。その興味はもうこの箱庭(せかい)の命を育てることでは
なく、如何に自らに都合の良いデータとして維持できるかにしかないのだから。
 事実上手くいかなかった他の箱庭(フラスコ)は廃棄されてしまっているし、モーリスさ
ん達もモーリスさん達で、当時のプロジェクトから撤退してしまって久しい。恣意の塊とな
った此処へ、わざわざダイブしに来る人間なんてよほどの物好きだ。
 計画の当初ならいざしらず、今や“新天地”候補は他にも幾つかある。この世界にまだ残
っている人間は、少しでも心地の良い環境をと望み、選り好みをし続けているに過ぎない。
かく言う私もその一人なのだが──個人的にはどちらかというと“諦め”の境地に近いと思
っている。でなければ、こんな旧型の箱庭(せかい)になど足を向けはしないだろう。

「──君が、×××ね?」
 でもだからこそ、幸いオルディン達の監視の眼はとうにがら空きになっている。私は久し
ぶりにダイブし、長らく忘れ去られたこの箱庭(せかい)の今を訪ね歩いた。……やたら大
袈裟なこの世界の人間達の伝承もそうだが、何より驚いたのは、私以外にもまだこちらに顔
を出している面子がちらほらいるらしいということだ。大方抽選に漏れて流れてきたのか、
或いは私と似たような酔狂な連中なのか。
「……。あんたは……?」
 だからこそ、私はもう一度この箱庭(フラスコ)を“洗浄”しようと思う。彼らからすれ
ば、また世界を引っ掻き回されることになるんだろうけれど、それでも放っておけなかった
のは、ひとえに私の研究者としての“意地”──私自身の贖罪の為なのだろう。
 古の神話、伝承より続く力。神々の尖兵。
 その子孫であり、それ故にこの世界から虐げられてきた少年の下を訪れて、私は訊ねる。
 黒髪と黒で統一された、陰気な上下の装束。熱帯大陸辺りの民族衣装のようだ。
 過去どれだけの出来事があったかは知らないけれど、映るもの全てに酷く絶望して色を失
ってしまった眼。彼のあまりに淡々とし過ぎた声色と雰囲気に、私は答えた。
「私はイシルドア。貴方達の云う──“竜”よ」
 今や淀んだ靄に覆われ、外側からも満足に見えなくなってしまったこの箱庭(フラスコ)
の中で。
                                      (了)

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  1. 2019/03/24(日) 00:00:00|
  2. 週刊三題
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

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