日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「積年」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:黒、雪、壊れる】


 しんしんと、君の上に歳月(とき)が降り積もる。
 よく他人はそれを綺麗だと云うけれど、僕には酷くくすんで汚れた、そんな正反対の色に
見えるんだ──。

 君が死んだのも、ちょうどこんな寒さが深まり始めた頃だった。
 あの日あの時、偶々同じ銀行に居合わせた、ただそれだけで君は事件に巻き込まれてしま
った。そして奴らの放った銃弾を受けて……君は二度と帰ってくることはなかった。
『大人しくろォ! 金を出せェ!』
『余計な真似するんじゃねえ! ぶっ殺すぞ!』
 犯人達は覆面と揃いのコート、拳銃で武装し、その日現場となった銀行を襲った。いわゆ
る強盗って奴だ。
 ただ僕自身、後々で伝え聞いた所によると、彼らの犯行はあまり手慣れた感じではなかっ
たらしい。初っ端から天井に向けて一発撃って威嚇──人通りによっては目的を達成する前
に外の人間に気付かれてしまう選択ミスをしていたし、何より終始酷く興奮した様子だった
という。虚勢だったのだろう。いざ犯行に及んではみたものの、内心ではいつ失敗してしま
うかと不安で不安で仕方なかったのだと思われる。
 ……そんな奴らに、君は殺された。なまじ君は昔から、負けん気の強い女性(ひと)だっ
たものだから。いつも真っ直ぐで、正義感に溢れる人だったから。
 遊ぶ金が欲しかった。
 借金の返済が迫っていた。
 職を転々としていて、将来に希望が持てなかった。
 今更その動機(りゆう)は、僕にとってはどうでもいい。ただそんな安易で頭の悪い考え
でもって起こされた犯行に、最愛の恋人が巻き込まれて死んだ──その事実が全てだ。あの
日からもこれからも、僕はお前達を許さない。

『どうして……?』
 最初その報せを受けた時、何かの冗談だと思った。
 だけど現実という奴は残酷で、慌てて僕が駆け付けた時、君は霊安室の寝台で冷たくなっ
ていたっけ。既にご両親も到着していて、合流した僕に何とも言えない哀しい表情(かお)
を向けてきた。申し訳ない──そう、謝られた。
 どうして? 何故貴方達が謝るんだ?
 それこそ落ち度があったとすれば、僕の方なのに。あの時一緒に居てあげてさえすれば、
こんな別離(けつまつ)なんて防げたかもしれないのに……。
『そんな事はないさ。あの子は昔っから、ぐいぐい前に行くというか、無茶ばかりする性格
だったからね』
『本当なら私達親の役目なのに、ついあの子の手綱を任せっ放しにしてしまって……。貴方
にも結局、こんな思いをさせてしまったし……』
 ごめんなさい。だからこそ、二人は僕に詫びた。
 ……嗚呼、そうだったな。君はこんなご両親から生まれて、君がそんな性格だからこそ、
今目の前にいるご両親はこんな感じで。
 二人や警察から聞いたよ。君は果敢──いや無謀にも、犯人達から居合わせた他の客らを
守ろうとした。突然の事態に怯え、涙しそうになるその姿を、君はきっと見て見ぬふりする
ことなど出来なかったんだろう。
 ……だけどせめて、助けが来るまで待って欲しかった。いつもみたいに、せめて僕が来る
まで、手綱を引っ張られることを込みで動き回る君であって欲しかった。
 確かに君の勇気は、結果的に行員や他の客達を救った。二度も銃声を響かせたことで警察
が駆けつけ、犯人達は程なくして逮捕されたからだ。
 でも、他でもない君が犠牲になってしまったら──元も子もないじゃないか。事件後、生
還した客らの何人かと会う機会があり、助けられたと礼を述べてくれたが……それで君が戻
ってくる訳じゃない。

 しんしんと、君の上に歳月(とき)が降り積もる。
 犯人達は裁判に掛けられ、全員が無期懲役の判決を受けた。世間的にはそれで、もう事件
は終わった扱いとなって久しい。だけど正直僕は、甘いと思ってきた。君を、人一人を殺し
ておいて、未だ塀の向こうでのうのうと生きている。場合によっては、何年かすれば仮釈放
もあり得ると聞くし、それで本当に君の──ご両親の無念は晴らせたのかと疑問になる。
『辛かったでしょうね……。でも負けないで。きっと、この先に良い事があるから』
『いつまでも憎んだままでいないで、前に進むべきだよ。彼女の分まで、君はもっと幸せに
ならなきゃ』
 だけど、僕を僕と知って近付いてくる連中は、口を揃えるように“未来”を語る。明確な
根拠もなく、或いは訳知り顔に憎しみは何も生まないと嘯いて、僕をあの日の記憶から遠ざ
けようとする。
 ……あんたらに一体、何が分かるっていうんだ? 実際に恋人を亡くした経験でもあるっ
ていうのか? 結局は自分の持っている“回答(こたえ)”って奴を、他人に押し付けてで
も間違っていないのだと、確認したいだけじゃないのか?
 世間的にはそれを、偽善と呼ぶ。
 第一、あんたらに言われなくとも……僕はあの日から遠ざかってばかりなんだから。
 風化してゆくからだ。どんなに君のことを今でも想っていても、忘れたくないと願ってい
ても、月日が経つごとに記憶の中にあった君がどんどん薄れてゆくから。ぼやけて視えなく
なってゆくから。犯人達よりも、この手の偽善者達よりも……段々君のことを忘れていって
しまう自分自身が憎くて憎くて堪らなかった。許せなかった。
 だから君の写真を、僕は今もずっと肌身離さず持ち歩いている。ただ頭の中に留めている
だけでは、薄れゆく君の顔も思い出も、守れないんだと痛感してきたから。折につけてはロ
ケットを開けて、君が未だ生きていた頃のその笑顔を目に焼き付ける。そんな繰り返しを何
年も続けて、ようやく最近はその風化も抑えられてきたような気がしている。
 ……だけど、それまでに失われていったもの達は、きっともう二度とは戻らない。君の命
は勿論の事、確かにあったと胸を張れていたかつての思い出達も、一緒に笑っていられたそ
の先の未来(ひび)も。
 ご両親とも、今ではすっかり疎遠になってしまった。いざ顔を合わせても、お互い辛いだ
けだと、何となく解っているからというのも大きいのだろう。
『お前もさ……。そろそろ新しい恋を見つけたらどうだ?』
『言ってくれれば紹介するぜ? ずっとそのままじゃあ、お前の方もどうにかなっちまいそ
うでよお』
 流石に毎度、多少なりとも遠慮しながらの言い方ではあるが、友人達はそう時々僕を誘お
うとしてくれる。気持ちはありがたいし、心配されていることを解っていない訳ではないの
だが……そんな時脳裏に過ぎるのは、いつだって君の笑顔だった。僕に向けてくれた屈託の
ない笑みだった。まだ僕自身が忘れられず、忘れたくないでいるのに、新しい女性(ひと)
を見つけてっていうのは違うんじゃないかと思ってしまう。何よりその出会おうとしてくれ
た相手に失礼だと思う。実際に付き合いを始めてみないと、分からない部分はあるかもしれ
ないけれど、きっと心の中で君と比べてしまうだろうから……。

 しんしんと、君の上に歳月(とき)が降り積もる。
 まるで──いや、実際に僕自身がそう望んで──僕は周りの人々からすっかり取り残され
てしまった。彼らはもうずっと先を、どんどんと遠く向こうへと歩いてゆくのに、僕だけは
じっとこの場所に留まり続けている。倒れ伏して動かなくなった君へと静かに降り積もる、
その姿とこのくすんだ白色を見下ろしたまま。
 此処から離れてしまえば、きっと僕も少しは楽になれるのだろう。遠くへ行ってしまった
他の人達のように、僕も未来とやらに進めるのだろう。
 でもそれで……本当にいいのか? 君を見捨てて、僕だけが先に行っていいのか? 君が
歩いてゆけると信じて疑わなかった日々を、僕だけが。本当に僕が君を置き去りにして、君
の分まで目いっぱい生きることを、君は望んでいるのだろうか?
 だって独りぼっちになっちゃうじゃないか。
 こんな薄汚れた塵の下に、どんどんと埋もれゆく。そんな君の姿を、僕まで忘れてしまっ
ては、哀し過ぎるじゃないか──。

「……」
 しんしんと、僕の上に歳月(とき)が降り積もる。
 嗚呼、そうか。ずっと君の傍に居続けて、君を見守っていたものだから、すっかり見落と
していた。このくすんだ白色に塗されていたのは、何も君だけじゃなかった。歩いて行って
自らを揺らして、肩に頭に積もってゆくそれを振り解かずに立っている僕も、歳月(とき)
に埋もれて周りから見えなくなっていたんだな。
 一体あれから、どれだけの季節が巡ったのだろう?
 最初こそ犯人達を憎み、いつか塀の向こうから出て来たならば、今度こそこの手で始末し
てやろうなどとも考えていた時期もある。
 だがそれも──歳月(とき)が経つにつれて諦めてしまった。実際、目の前に現れた時に
どうなるか分からないが、少なくともそんな安易な方法で君が戻ってくることはない。きっ
と君は復讐なんて望んでいないだろうし、もし僕が塀の向こうに行ってしまったら、君を見
守れる人間がいなくなるじゃないか。
 何よりももう……僕の心はすっかり冷め切ってしまった。
 君と一緒に、この酷く薄汚れた白色の中に埋もれてゆく内に。
「……。ごめん」
 しんしんと、僕達の上に歳月(とき)が降り積もる。全てが先へと進む。
 なのに僕は、此処から未だに動くことさえ出来ずにいる。
                                      (了)

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  1. 2019/03/17(日) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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