日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「火譚」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:神様、炎、終末】


 ──そうさね。始まりは全て、闇じゃった。全てが黒く塗り潰された無だったという。

 しかしある時、原初の火が熾(おこ)されたことで状況は変わった。ただ一つの無によっ
て満たされていたこの世界に、初めて有が生まれたのじゃ。
 ただ一つから対になるものへ。それは即ち静から動への変化に他ならぬ。
 闇の中から火が熾り、無から有が生まれた。照らされた闇から剥がれ落ちるように、光が
生まれた。照らされた部分とそうではないもの、熱と冷えが生まれた。更にそこから立ち昇
る風と留まる大地が形作られ……様々な命が生まれた。
 故に長らく、火とは生けとし生ける者にとり、全ての源じゃった。自分達を形作ったその
大元。彼らは火を恐れ、敬い、容易に近付くことを憚ってきた。
 じゃが、その中で唯一の例外と呼べる者達が現れた。そう、儂らヒトじゃよ。
 遥か太古、儂らの先祖は皆が畏れ憚ったその火を継ぎ、己が一助とする術を探り始めた。
ことヒトの歴史とは、そこから始まったと言ってもよい。

 始めはただ照らす光と、その暖かさに惹かれた。闇と冷えは、ヒトに限らず全ての命にと
っての大敵であったからじゃ。恐る恐る、ヒトはその篝(かがり)の下に身を寄せ合った。
依然として広く闇と無に覆われた世界の中で、生き抜くことに必死じゃった。
 しかし火は、自らの意思で自分達を燃やしたりはしない──やがて彼らはそう気付いたの
じゃった。近付き過ぎねば、そっと寄り添えば寧ろ有用だと、その知識は世代を重ねて伝え
られていった。これは他の種には見られぬ傾向じゃった。
 そこからヒトは、更に火を“使う”ことを覚えてゆく。
 一旦火に通せば、より多くの食べ物を口にすることができる──その経験に気付いた時、
ヒトという種は、明確に他のどのそれよりも大きく抜きん出ることに成功したと言って差し
支えなかろう。火で闇を払い、寒さを凌ぎ、更に空腹から遠退いていった彼らは、徐々にそ
の数を増してゆくことに成功する。その生息域を、西に東に北に南に、大きく拡大してゆく
ことになる。
 ──ヒトの時代の、始まりじゃ。
 火を知り、傅(かしず)く以外の生き方を見出したその進撃は止まらない。彼らは立ちは
だかる闇を払い、これを次々と認識の内側へと組み込んでいった。その過程で呑み込まれて
いった種は数あれど、最早彼らの脅威となる者達は数えるほどになっていった。その変化の
早さに、誰も食らいつくことができなかったのじゃ。
 ヒトは火によって飢えから逃れ、その数を増やしていった。多くの同胞を引き連れられる
ほどの余力は、程なくして彼らの知識をより深めてゆく切欠となる。
 ヒトは火によって金属を鍛え、武器という力を生み出した。それはこれまで以上に多くの
食糧を得る為の力となり、より確実に群れを富ませる循環を生み出した。放浪から定住へ。
そうして大きくなった群れは、やがて國(くに)と呼ばれるようになる。
 ヒトは火によって、闘争という概念を獲得した。より多くの糧を、より多くの人を、より
豊かな土地を──始めはただ獣を狩る為に使われていた武器が、いつしか同胞達にも向けら
れるようになった。
 國と國との、争いじゃ。
 勝てば相手から奪い、負ければ奪われる。火は口にできるものを増やすと共に、同時にそ
うした戦いの象徴としても掲げられた。燃え盛るそのさまに自らを投影し、武器を手に取る
自分達を大いに奮い立たせた。加えて実際に、撃ち破られた國はその火によって滅ぶ。火を
掛けられて焼き尽くされ、敗北を目の当たりにする──。奪われること、その他ならぬ象徴
でもあったのだ。
 そうして勝ち続け、奪い、より多くの富を蓄える。
 世界はいつしか、そんなヒトの支配する大地へと変わっていった。巨大な群れである國を
中心に、王を頂点に擁(だ)き、幾つかのそれがじっと睨み合う時代が以後長らく続くこと
になる。かつて闇と無に覆われていた世界は、すっかり様変わりした。火によって切り拓か
れ、火によって食い尽くされたのじゃ。
 確かにその意味では、闇と光がただ反転しただけとも言えるのやもしれん。
 仮に違うとすれば……そこにヒトという種の意思が介在したか否か? ただその一点に尽
きるのじゃろう。

 ──しかし彼らの繁栄も、決して永遠ではなかった。今儂らが、このような暗い穴蔵に暮
らしているようにな。途方もない歳月の中で、彼らは忘れ去っておったのじゃよ。火とは、
原初全ての源であったことを。かつて自分達もまた、これに畏れを以って接していたという
ことを。
 かつてヒトの王國は、まさしく栄華を極めていたという。火によって興り、火によって数
多の技術を生み出し、その暮らしは今とは比べ物にならぬほど高度なものであったらしい。
世界を覆っていた闇の一切を払い除けた彼らには、もう敵など存在しなかったと。
 じゃが……それでも彼らは滅びた。他でもない同胞同士の争いによって。
 火の文明の極致。それは一説によると、彼らが遂に“神の火”を造り出したという点にあ
るという。
 原初の火の再現、なのかもしれぬ。ただそれは極めて危うい力でもあった。もしこの火が
一度(ひとたび)武器として振るわれれば、小さな國一つがあっという間に消し飛ぶほどだ
ったからじゃ。事実この“神の火”を持つ王國らは、過去何度か“敵”に対して振るったと
も言われている。その度に、ヒトを含めた多くの命が潰えたのだとも。
 ……うん? ああ、恐ろしいのう。じゃが儂らがここまで堕ちたのは、直接的にはこれが
原因ではないとも言われておる。確かに“神の火”は凄まじい力を持っておったが、結局は
これも同じく火には違いないんじゃよ。最初に言ったじゃろう? 火は、自らの意思でこち
らを焼きはせぬと。熾すのは、いつだってヒトの側なんじゃよ。

 ──そう。最も恐ろしいのは、ヒトそれ自身が備える火なのじゃ。それぞれが胸奥に抱き
続け、時として放つ。儂らが今もかく紡ぐ──言霊と呼ぶ、な。
 かつての王國が滅び去ったのは、火でも火から興った技術でもない。それらを繰り、自分
自身の力と混同したヒトそれ自体の所為に他ならぬ。火を恐れ、敬い、使わせて貰っている
ということを忘れたその傲慢さが、結果として彼らを再び灰と闇の中に押し戻したのじゃ。
とんだとばっちりだがのう……。じゃが先人の罪を、儂らは忘れてはならぬ。その罪は確か
に彼ら自身のそれであって、儂ら個人に直接課せられたものではないが……憶えておくべき
ものではある。何故なら知ることができるからじゃ。知ってさえいれば、同じ過ちを回避す
ることはできよう。儂はその為に、こうして語り部をやっておるとも言える。お主ら若い世
代の者達に、この太古の記憶を伝える為にな。
 ……ここからは多分に儂自身の考えを含むが、思うに、儂らはこの火を広げ過ぎるべきで
はなかったのじゃろう。かつて先祖達は、確かに火を制することで多くの富を得たが、はた
してその過程でどれだけのものを失ったのじゃろう? より多く、より他人よりも──原初
から継いだ火を闘争の印としてまで、彼らは拡がるべきだったのか? 少なくともそうした
欲求に果てが無かった以上、いずれ儂らは得た悦びよりも、得られぬ怨嗟に埋もれていった
に違いない。帳尻が合わなくなっていた筈じゃ。そのことに……彼らはてんで気付かなかっ
た。気付こうともしなかった……。

 ふむ。確かにお主らには、まだ難しい話かもしれんのう。じゃが頭の片隅にでも置いてお
いておくれ。いつかもっと未来、自身が儂ぐらいに歳を取れば、何となく解るじゃろう。
 ──火とは、絶やしさえしなければ充分だったんじゃ。彼らも儂らも、最初はこうして身
を寄せ合い、篝の下で暖を取るだけでよかった。闇に呑まれず、凍えず、温かな食事と寝床
さえあれば、儂らは何とか生きてゆける。確かにかつて在ったという王國に比べれば、この
ような洞窟暮らしは、酷く見劣りするのかもしれんが。
 ──ただ、そっと擁いているだけでいい。己がそれぞれに宿しているその火を、別段外に
放って激しく燃やす必要など無いんじゃ。足りないと、許さないと、声に出すよりも己の内
側にしまっておいて欲しい。言葉とは、目に見えぬもう一つの火じゃ。たとえ一つ一つが小
さくとも、寄り集まれば時に“神の火”さえ凌ぐこともある恐ろしい種火へと変わる。
 故に、儂らはそれらを熾す時、努めて慎重にならねばならん。他人はそれでも構わず燃や
し、焼き散らかすかもしれんが……それでも一人ならば、まだいずれ鎮火しよう。
 肝心なのは、そういった誰かの火に、自らのそれをくべぬことじゃ。意思を固くして与せ
ぬことじゃ。ゆめゆめ、忘れてはならんよ?

 ……はは、すまんのう。長々と、こんな老いぼれの話を聞いてくれて。
 尤もこんな穴蔵暮らしでは、暇潰しの助けにもならぬか。
                                      (了)

スポンサーサイト



  1. 2019/03/04(月) 00:00:00|
  2. 週刊三題
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<(雑記)綺麗なもの××を、視ていたい | ホーム | (企画)週刊三題「√」>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://higurasisouann.blog27.fc2.com/tb.php/1089-3784528a
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

訪問者累計

最新記事

最新発言

検索窓

月別履歴

09 | 2019/10 | 11
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -

分類/索引

【案内板】 (2)
【小説:短編】 (20)
本の蟲 (1)
硝子野不動産店 (1)
夏の日の幻影 (1)
四番線の彼女 (1)
夢視の宿 (1)
線を曳く町 (1)
炬燵の神様 (1)
三者三盗噺 (1)
色眼鏡 (1)
奴らは攻城戦師 (1)
詰め替える (1)
同じ籠の狢 (1)
二十年後の遺言 (1)
轍の先 (1)
水に流せば (1)
真夜中の御二柱 (1)
いつか見た夢 (1)
神様達の初詣 (1)
白い花束 (1)
丸の代償 (1)
【小説:長編】 (190)
Amethyst League (6)
アンティーク・ノート (3)
ユウキのヒカリ (5)
NIGHT GUNNERS (5)
レディ・ルーン-Bonds of RU'MEL- (6)
ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- (109)
死に損いのデッドレス (5)
Dear SORCERY (4)
サハラ・セレクタブル (47)
【企画処】 (463)
週刊三題 (453)
その他参加物 (10)
【資料庫】 (2)
【落書帳】 (2)
【詩歌帳】 (8)
【雑記帳】 (398)
【読書棚】 (32)
【遊戯倉】 (25)
path. (4)
decide: (3)
ユー録FW(凍結中) (17)

記事録

交友関係

このブログをリンクに追加する

(RSSリンク)

(QRコード)

QR

Tweets by long_month