日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「√」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:箱、可能性、穏やか】


 その日、中田は夜の路地裏を歩いていた。ここの所続いていた寒さも底を過ぎたらしく、
日没後の肌寒さはすっかり和らいだ。少しずつ顔を覗かせる春の気配──何よりその傍らに
は、ホクホクと妙に満足そうな笑みを浮かべる女性が一人、肩を並べて歩いている。
「ん~、食べた食べたあ。お腹いっぱい~♪」
 左右の毛先がちょっと跳ねた、セミロングの黒髪。少し気の早い春物のコートとタートル
ネック、脚のラインをぴっちり包むズボン。
 中田の恋人・佐奈だ。普段は互いに忙しいため、中々こうして一緒に過ごせる機会も限ら
れてくる。だからかデートの際は、彼女の都合とリクエストに合わせることが多い。
 今日も二人は、夜遅くまで開いている人気のラーメン屋へ入り、たらふく食べてきた帰り
だった。幸せそうに頬を緩める彼女に、彼は努めて冷静に苦笑いを零す。
「しかし……よかったのか? またラーメンなんかで。その、こういう時なんだから、もっ
と良い奴を頼んでくれてもよかったのに」
「いいのいいの。うちの食堂って、レパートリーが少ないからさ。それにたまーにこうやっ
て、全力で油マシマシな(からだにわるい)ものを食べたくなる時ってあるじゃん?」
「……曲がりなりも、科学者の言葉とは思えないなあ」
 佐奈は、とある施設に勤めている研究者だ。世で言う所の理系女子(リケジョ)という奴
である。普段は白衣に身を包み、ビシッと決めている──らしいのだが、普段こうして会う
時には、決まってジャンクフードやB級グルメなどを食べ歩くことが多い。
 往々にして果ての見えない、昼夜を問わぬ研究の日々。
 きっとこれが彼女にとっての、気分転換なのだろう。
 確かに奢る側としては、安上がりに済んでいいのかもしれないが……正直健康面などで心
配ではある。
「まあまあ。いつも理詰めじゃあ息苦しいじゃない? あれが身体に良い、これが健康の秘
訣だーなんて色々言われても、人間いつかは死ぬんだしね。自分で選択肢を狭めるよりは、
好きなものを食べてた方がよっぽど健全だと思うな~」
 そ・れ・に。
 加えて当の佐奈は、そう悪戯っぽく笑ってみせる。こちらが抱く不安など見透かしていな
がら、まるで意に介していないかのように。
「こんなオフモードの私を見れるなんて、彼氏の特権だよ?」
「……そうかもな」
 ちょうど、そんな時である。優秀だけどもお茶目な恋人のウィンクに、中田が満更でもな
いという風に苦笑いを零した次の瞬間、二人の行く手に一匹の猫が座っているのが見えた。
僅かな外灯の明かりの下、ポリバケツの蓋の上にちょこんと乗っかっている。
「あ、ネコちゃん♪」
 満腹の幸福感と、或いは恋人との深夜デートで気が緩んでいたのか。佐奈はこのまだ距離
を置いたまま茶トラを見つけると、童心に返ったように微笑(わら)い、その場に屈み込ん
でチッチッと気を惹こうとし始めた。「あんまり刺激しない方が……」中田は傍らで立った
ままそれとなく諫めたが、当の彼女は気にする様子もなくちらっとこちらに振り向く。
「ねえ。たっくんは“シュレディンガーの猫”って知ってる?」
「シュレ……? あー。聞いたことあるような、ないような……」
「元々は量子力学の中から生まれた思考実験でね? まぁざっくり掻い摘むと、毒で満たさ
れた箱の中に猫を入れてから開けてみる時、猫が生きてるか死んでるかはその時まで分から
ないっていう話なんだけど」
「……? そりゃあそうだろ。箱が透明でもない限り中は見えないんだし」
「そう。だから理論上、開けていない間は“生きている猫”と“死んでいる猫”が同時に存
在しているっていうのがこの話の肝。中に入れられた子は同じ筈なんだけどね」
 チッチッと、この野良猫にアピールを続けながら、語る佐奈。
 中田は正直この手の理論はよく分からなかったが、肩越しに笑みを寄越して饒舌になって
いる彼女の姿を眺めていると、何だかこちらまで気恥ずかしくなってしまう。尤もその原因
の大半は、内心で感じている彼女との“格差”の所為なのだけど。
(……やっぱり佐奈は、頭が良いんだなあ)
 片や優秀な人材が揃う研究機関の一員。片やしがない商社マン。
 彼女と知り合った切欠は、自社の扱っている備品が彼女らの研究所内でも使われていると
いう、ただそれだけの繋がりだ。そこから奇妙なことに、自分達は男女の仲にまで発展して
現在に至る。以前は知る由もなかった彼女の素顔を、たくさん見ることができた。
「えーっと……。要するに、もしもの世界ってこと?」
「そうだねえ。ざっくり言うとそんな感じ。平行世界って云うのかなあ? 同じ猫には違い
ないんだけど、その子が実は、何匹も同時に存在してる。私達も、本人も知らない場所で」
「……」
 平行世界。自分であって自分ではない。
 ではもしかしたら、この世界の何処かには、佐奈と出会わなかった場合の自分達もいると
いうことなのか。如何せん話がふわっとし過ぎて、イメージに苦しむ。
「な~」
 次の瞬間だった。それまで変わらぬ距離を保っていたポリバケツの上の猫が、突然そっぽ
を向いて飛び降りると、路地裏の更に奥まった方へと走り出して行ったのだ。
「あ、ネコちゃん!」
「おっ、おい。あんまり一人で……!」
 中田は慌てて止めようとしたが、間に合わなかった。この駆け抜けてゆく茶トラに釣られ
るようにして、佐奈もまた走り出してしまう。
「……仕方ないな」
 少しため息をつき、だがそんな自由気ままな彼女もまたいいなと、自分でも惚けていると
は自覚しながら、一人取り残された中田は彼女を追いかけた。……それだけ気に入ったのな
ら、自分が飼ってやってもいいかもしれない。二人が入って行った路地の暗闇を抜け、そん
なふいっと思いついた提案を胸に彼女と合流しようとする。
「っ──?!」
 しかしその先に広がっていた光景は、彼が信じて疑わなかったものとは全く違っていた。
路地を抜けた、明かりの見えないとある民家の前で、彼女とまるで見覚えのない男がちょう
ど鉢合わせになった格好で立ち止まっている。
 灰色のニット帽を目深に被り、明らかに挙動不審な男。
 彼がこの家の住人でないことを、中田は即座に感じ取った。それは自分の少し前で立ち竦
んでいる佐奈も同じだろう。何せ家は玄関先の照明すら点いておらず、彼自身は裏手の──
鍵の部分だけが割られた窓から出て来ていたのだから。
「あ、貴方……」
 故に、彼女がそう思わず呟いてしまったことが全ての引き金だった。暗がりで、ここから
ははっきりと確認することは出来なかったが、男はちょうどこの家を物色し終わった後の泥
棒なのだろう。当の本人も中田達に目撃された(みられた)と理解した瞬間、ギリッと歯を
食い縛りながら咄嗟にズボンのポケットへ手を伸ばしていた。「な~!?」手首のスナップ
を効かせながら、折り畳み式のナイフを取り出す。
「!? 佐奈!」
 本当に一瞬の出来事だった。背筋にこれまで感じたことのない寒気が走り、中田は思わず
そう恋人の名を叫んで駆け出していた。すぐ目の前にいる。目の前に、ただこの手を伸ばし
て引き寄せれば……。
「ぐっ?!」
 なのに、間に合わない。その手が届く寸前で、彼女の身体に突進してきた男のナイフが突
き刺さっていた。ビクンと半ば反射的に痙攣し、ごく短い声だけが夜闇の辺り一帯に響く。
「佐奈!」
 茶トラの猫が目の前の出来事に驚き、何処かへ逃げ去ってしまう。だが中田はそんなこと
など認識している暇もなく、自分のすぐ傍で崩れ落ちる恋人の姿を視ていた。全身の液体が
ぐちゃぐちゃに掻き回されそうになる錯覚の中、必死になって彼女の下へと転がり込み、口
を半開きにしたその身体を抱きかかえる。
「た……。たっくん……?」
「しゃ、喋るな! 傷が余計に……! と、とにかく手当! いや、救急車……??」
 自らの胸の中で、彼女がどんどん意識を手放そうとしているのが分かった。刺された傷口
からはじわじわと、赤い染みが広がってゆくのが見える。対する男の方も、両手でナイフを
握ったまま、よろよろとこの二人から後退ろうとしていた。殺ってしまって、始めて自身の
しでかした事の重大さに気付いたらしい。
「くそっ、血が止まらない……!! 佐奈、しっかりしてくれ! 佐奈ぁっ!!」
 失われてゆく彼女の体温。きっと結末は脳裏をよぎるものへと変わる。
 中田は表情(かお)をくしゃくしゃにして叫んでいた。その間も、大きく余裕のあった視
界が、どんどん彼女の一点に狭まってゆく。失われてゆく当人とは反対に、自分の中に滾る
血の熱は、加速度的に高まってゆく……。

「な~」
 次の瞬間、目の前で茶トラの猫が逃げ出していた。ポリバケツの上から飛び降り、もっと
暗がりの路地の中へと入り込んでゆく。
「あ、ネコちゃん!」
「おっ、おい。佐奈!」
 釣られて一人駆け出していった彼女を、中田は慌てて追った。二人と同様、夜闇で先の見
通せない別の向かいの路地に潜り、その抜けた先で彼は思わぬものを目撃する。
「っ──?!」
 泥棒らしきニット帽の男だった。一切明かりが消えていて人気の見えないとある民家の裏
手から、妙に辺りを気にしつつ出て来た所を目撃してしまう。
「あ、貴方……」
 だが拙いことに、運悪くこの瞬間に居合わせてしまった彼女は、そんな彼に思わず声を掛
けてしまったのだった。二人と一匹──中田達に顔を見られたと悟った男は、引き攣ったよ
うに顰めっ面をすると、ズボンのポケットから素早く折り畳み式のナイフを取り出す。
「佐奈!」
 目の前の出来事に、猫が悲鳴を上げて逃げ出す。だがそれよりも早く、ほぼ同時に、中田
は駆け出していた。男の構えた切っ先が向けられているのは──佐奈だったからだ。
「ぐっ?!」
 殆ど反射的な行為だった。彼は思わず立ち竦んでいた彼女を押し退け、自らがこれを庇っ
て男のナイフに刺されたのだ。位置は押し退けた直後の、やや横っ腹。ちょうど肉が薄くな
りがちなあばら辺りだ。無理やり押し出されるように肺の中から短い声を漏らし、中田はぐ
らっと苦悶の表情のまま、その場に倒れ込む。
「た……たっくん! たっくん、しっかりして!!」
 数拍唖然としていた恋人が、次の瞬間血相を変えて駆け寄ってきたのが分かった。脇腹が
じわじわと赤く染まってゆく自身の身体を、彼女は殆ど泣き叫ぶようにしながら抱きかかえ
ている。
 背中越しの気配で、男が怖気づいているらしいと解った。ザリ、ザリッと、自分を刺した
凶器を握ったまま後退っているらしい。
「……佐、奈……」
 明滅するように、視界が霞み始めた。
 嗚呼、良かった。とにかく君が無事で……。

「な~」
 次の瞬間、目の前で茶トラの猫が逃げ出す。それまで蓋の上にちょこんと座ってた、ポリ
バケツの上から飛び降り、すぐ横のもっと小さな路地の夜闇の中へと消えてゆく。
「あ、ネコちゃん!」
 すると恋人の佐奈は、半ば弾かれるようにしてこれを追いかけて走り出してしまった。こ
ちらが止めるよりも一足早く、その姿が続いて夜闇の中へと消えてゆく。
「……全くもう」
 研究所に詰めている普段の仕事の反動か、オフモードの時の彼女はとかく奔放だ。中田は
今に始まった事ではないとしつつも、やれやれと嘆息をつくや否やこれを連れ戻すべく走り
出す。
「あ、貴方……」
 するとどうだろう。追い付いて出た別の路地裏の向こうでは、彼女が空き巣と思しき男と
運悪く鉢合わせしてしまった所ではないか。
 目深に被ったニット帽の、如何にも怪しい男。彼女や茶トラの猫、そして自分に姿を見ら
れたと悟った瞬間、ズボンのポケットから素早く折り畳み式のナイフを取り出し、口封じに
襲い掛かろうとする。
「佐奈、こっちだ!」
 故に中田は、咄嗟に目の前の彼女の手を取った。「な~!?」と驚いて泣き叫ぶ猫のこと
など眼中にもなく、ただ恋人をこの性質の悪い遭遇(エンカウント)から逃すべく、そのま
ま踵を返して大通りへと走り出す。
「待てや、ゴラァ!!」
 背後から男が叫んで来ているが、止まる訳がない。
 相手は武器を持っている。このまま走って、人目の多い場所にさえ出れば──。
『!?』
 しかし次の瞬間だった。そんな突然の出来事に行動を焦った結果、中田はちょうど大通り
の脇を通る車の前に出てしまったのだった。一瞬にして眩し過ぎるヘッドライトの光が、自
分と、自分が引っ張ってきた彼女を包み込んでけたたましく吼える。
「──」
 視界が、あっという間に捩じ切れる。横から叩き付けられた衝撃と、大きく宙を舞う感覚
が全身に走る激痛を寧ろ散らさずに身体の中に押し込めるかのようだ。眩暈を起こしたかの
ように震える視界の中で、自分か彼女のものかも判らぬ赤い血飛沫が浮いている……。

「な~」
 恋人がじゃれ合っていた猫が逃げ出して、中田は慌ててこれに釣られて駆け出した彼女の
後ろ姿を追った。今いる所よりも更に細く暗がりに呑まれている路地の向こう。彼女と一匹
が消えたその先へ、彼も駆け足で滑り込むように辿り着く。
「あ、貴方……」
 するとそこには、空き巣を終えた直後と思しきニット帽の男と、その姿を目撃してしまっ
た彼女の立ち竦むさまがあった。男は自らの失敗を悟ったのか、半ば反射的にズボンのポケ
ットから折り畳みナイフを取り出すと、あろうことか彼女に向かって襲い掛かる。
「おおっ──」
「ッ!」
 だからきっと、これは同様に反射的なんだ。中田は恋人に向けられたその害意に逸早く反
応すると、出て来た路地の壁──男とは真向かいの納屋に立て掛けてあった、角材の一つを
手に取って駆け出していた。彼女に向かって突進してくる男よりもリーチの上で先に、その
堅い一撃をがら空きの顔面へと振り下ろす。
「ガッ?!」
 自身の地面を蹴った勢いも手伝い、男は即座にその場に叩き付けられた。古びたアスファ
ルトの地面に、中田が振るった角材と共に飛び込み、そのまま白目を剥いて一瞬痙攣すると
動かなくなってしまう。
「……はあ、はあ、はあ」
 男は、頭から血を流して倒れていた。暗がりの中からでもかなりの出血量であり、少なく
ともすぐには立ち上がれないことぐらいは分かる。そんな変わり果てた男と、反撃された拍
子に手元から転がったナイフを見比べて、佐奈が怯えるように目を丸くしてその場に尻餅を
ついていた。中田も、咄嗟に振るった角材を手にしたまま、この動かなくなってしまった見
も知らぬ犯罪者を、大きく肩で息をしながらじっと見下ろしている。
「……ねえ、たっくん。これってもう、死んじゃったのかな?」
「分からない。でも軽症で済んでいないことは、確かだ」
 犯罪者。
 相手に対して下した、そんな脳内に過ぎったフレーズを、中田は一人密かに反芻する。
 すっかり腰の抜けてしまった恋人が、静かに混乱したまま黙り込んでいる。自身も手に残
る嫌な感触と、何よりすぐ目の前で転がるつい先刻まで人間だったものを見つめて、徐々に
自分がやらかしてしまった事実に侵食され始め──。

「って、聞いてる? たっくん。私の話?」
「ッ!?」
 故に次の瞬間、中田は不意に飛び込んできた佐奈の声に、思わずビクンと身体を痙攣させ
ていた。景色が刹那切り替わった……ような気がしたが、さりとてではその前の景色とは何
だったのかという小さな自問にさえ、満足に答えられなかった己を自覚する。
「あ……いや……。悪い、ちょっと考え事してた」
「むぅ~、もう。折角私が講釈してあげてるのに~。その道のプロの話だなんて、中々聞け
ないよ?」
 咄嗟に繕った苦笑いを浮かべると、この恋人はそうわざとらしく頬を膨らませて言った。
 それでも本気でないことは、その声色で分かる。伊達に恋人同士として、何年も同じ時間
をコツコツ共有してきた仲ではないのだ。
「ええと。それで、何の話だっけ?」
「やっぱり聞いてない~。ほら、猫だよ。“シュレディンガーの猫”。量子力学の思考実験
の一つで、箱の中に生きている猫”と“死んでいる猫”が同時に存在しているっていう話」
 言われて促されてみれば、少し距離の離れたポリバケツの蓋の上に、一匹の猫がちょこん
と座ってこっちを見ていた。茶トラの多分若い猫だ。毛色としては珍しい部類に入るのだろ
うが、おそらく純粋な野良ではなかろう。大方飼われていたものが逃げたり、捨てられたり
したものか。
「……平行世界、みたいな話か」
「お? 何だか理解が早いねえ。細かい理論は色々あるんだけど、まぁざっくりと言っちゃ
えばそんな感じ」
 だからポツリと何となく呟いたこちらに一言に、彼女は嬉しそうだった。ニコッと見慣れ
たオフモード、彼女本来の笑顔をみせ、その場に屈んでこの猫の気を惹こうとしていた視線
を更に見上げる。
「……」
 今、どうしてそんな?
 なまじ付き合いが長いせいで、知らぬ間に自分にもその手の知識がついていたのか……。
 それでね~? だが尚も、彼女の薀蓄(うんちく)は続く。何だかんだで彼女は根っから
の科学者で、だからこそキツいと折につけ愚痴を零すその仕事も続けられているのだろう。
中田は話半分でそんな恋人の饒舌を聞き流しながら、フッと胸奥に小さな温かみを感じつつ
苦笑を浮かべた。
「な~」
 すると次の瞬間、自分達と向かい合っていたこの虎猫がポリバケツの上から飛び降りた。
彼女が思わず「あっ」と視線を向け直して立ち上がろうとするが、彼はポンとその肩を叩い
て優しく制していた。春の気配が出てきたとはいえ、まだ夜は冷える。あまり長居していて
は、折角ラーメンを食べて温まった身体も冷えてしまうだろう。
「佐奈、そろそろ行こう。明日も朝から仕事なんだろう?」
 そう愛おしく、努めて苦笑(わら)う笑顔。
 ちょんと黙ったまま、目を瞬いて彼を見つめる佐奈。
 そんな二人を遠巻きに、この野良の茶トラは音もなく路地裏の闇へと消えて行った。
                                      (了)

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  1. 2019/03/01(金) 00:00:00|
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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