日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「オルタナ」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:楽園、人形、卒業式】


 僕達は、生まれながらにして特別な存在です。
 私達は、この“家”から巣立つことを最高の名誉としています。

 僕達は、全てが清潔な白で覆われた、広々とした施設群に暮らしています。生まれた時か
ら見慣れた景色であり、寧ろ一個の大きな街と形容してもいいのですが……多くの仲間達は
親しみを込めて“家”と呼んでいます。
 それはひとえに、此処の全てが私達にとって何の憂いもない完全な場所だからです。
 ただ居るだけで心安からに過ごせる場所、皆の微笑みが絶えない大きなコミュニティ──
此処に生まれ、選ばれたことはとても幸せなのです。だからこそ、私達はその完全なる環境
を用意してくれた彼・彼女らに、応えなければなりません。
 そう。この“家”に暮らしているのは、僕達だけではありません。この素晴らしい環境を
維持・管理する為に奔走し、何より更なる高みへと導いてくれる存在──“先生”達です。
彼らは一人一人が各分野のスペシャリストであり、日々僕達に優れた知識や技術を教えてく
れています。
 私達に与えられている、白く清潔な個室。優れた機能性と、華美に走らずに質素ながらも
何処か気品を湛える制服の数々。徹底した栄養バランスと、美味しさを兼ね備えた食事。何
につけても健康な身体とは、完璧へと至る為の前提条件だと私達は知っています。
 その上で……僕達は日々勉学に勤しみます。勿論、適度な運動も欠かしません。
 知識にしろ実技にしろ、それらは全てスペシャリスト集団である“先生”達によって綿密
に計算されています。心配はありません。確かに毎日のスケジュールはみっちりと分刻みで
大変ではありますが、かといって休みが無い訳ではないのです。
 幼い頃から体力をつけ、知識を深め、何より上手な休養の取り方を学ぶ──全てはこの素
晴らしい環境の中で、僕達が更なる高みへと至る、まさに王道であるからです。僕達がただ
暮らすだけでも満たされた、この“家”から巣立ちを最高の名誉としているのは、即ちそれ
を認められた者がイコール“先生”達から認められたという何よりの証だからなのです。
 だからこそ、私達はそんな“先生”達からの期待に日々応えようと一生懸命に頑張ってい
るのですが……それでも私達は一人一人が別の人間です。彼らからすれば、まだまだ子供の
身である以上、発展途上と言われても致し方ない部分はあるのでしょう。
 ただ、そうやって徐々に僕達の間に能力や肉体的な差が生まれてゆくのは……正直辛くは
あります。

「では、点呼を取る。アダム、アレクシス、ブレンダン、キャロル、コーディ」
『はい!』
 しかし僕達は、そういった無駄な感情を表に出すことを禁じられています。日々指定され
た教室に集まっては講義を受け、優れた成績を残し続けることだけを求められます。誰より
も、一人でも上位に。
「ジョージ、ハンナ、ヘンリエッタ、イザベル」
『はい!』
「ハリー、ケネス、ロイド、マシュー」
『はい!』「はいっ!」
「あ~、マシュー。お前じゃない。七十三番の方のマシューだ」
 だから時折、教室内の空気が弛緩する時、私達の内心は少し薄暗くなっているのかもしれ
ません。生まれた時は皆同じなのに、ふとした瞬間に違う──ミスをする。そんな仲間が減
点されるさまを、しめしめと哂っているかのような。
「お前はもっと後の番号だろう? 他の者の順番もちゃんと把握しておくことだな」
 教壇の前に立つ“先生”が、そう淡々と小さな苦笑いを零して言いました。僕達も、そん
な表情につられてクスクスと誰からともなく笑ってしまいます。
 これだけ多くの人数がいるのだから、名前の一つや二つは被ってくる。それも踏まえて、
周りの状況を把握しながら適切な反応を逃がさない。これもまた、高みを目指す一つ……。
「あ、はい……」
 当のマシュー、私達の中でもちょっとぼ~っとした感じの男の子が申し訳なさそうに言い
ました。背丈は比較的高い子なのですが、どうやら少し頭の回転に後れをとりがちです。

「はっ、はっ、ふう、ふう……」
「ま、待ってくれよ~。ハリー、キャロルぅ~」
 とはいえ、だからといって運動の方が得意かと言われると必ずしもそうではありません。
日課の一つであるランニングの際にも、僕らの友人である彼は、中々辛そうでした。背丈こ
そ僕やキャロルよりも頭一つ分以上高いのですが、体格がひょろっと細いので栄養が足りて
いないのかもしれません、
「だったらもっと飛ばしなさいよ。時間(わく)は決まっていてよ?」
「まあまあ、そんなこと言わずに……。マシュー、肩貸すよ」
 ああ。サンキューな……。後ろから遅れて来た彼に、僕は少し駆け足を緩めて合流してい
ました。体格差上、肩というよりも背中にそっと手を当ててやって、一緒に走ってあげると
いう格好ではありましたが。
「あんたもお人好しねえ。“先生”がこっちを見てるわよ?」
「要は時間内に決められた運動量をこなせばいいんだよ。休むべき時に休ませないと、身体
は十分なパフォーマンスを発揮できないよ?」
 妙に論理的で、なのに行動がちょくちょく感情優先のハリーも、結構な変わり者です。
 私達は、そうして繰り返される毎日を過ごしていました。定められたスケジュールをこな
して成績を残し、この“家”と“先生”達に報いられるよう頑張ってきました。「ほら、も
う少しだよ。頑張ろう?」友人の腰を押してあげる彼に、私も結局駆け足を緩め、トラック
の途中で待ってしまっていましたが。
『──』
 私達の走る運動用グラウンドの隅で、彼らは何やらひそひそと二言・三言話し合い、手元
のクリップボードにペンを走らせています。
 嗚呼、やっぱり“先生”達に見られたみたい。ハリーとマシューを、もしかしたら私のこ
とも、減点しているに違いないわ……。

「あ、見て見て。“大先生”が来てるよ」
 だから最初、彼らが姿を見せたと──その指名先が僕だと聞いて、正直驚きました。運動
場での一件の後、キャロルには何度か小言を言われていましたし、てっきりその通り僕らは
減点されたのだとばかり思っていたからです。
 “大先生”とは、巣立ちの前兆です。僕達は一般にそう呼んでいます。気付けば何処から
ともなくこの“家”へとやって来て、高い窓の向こうから僕達をじっと観察しています。
 詳しい理由は分からない──というより、巣立ってしまった後の仲間のことは知る術が無
いのでそう言わざるを得ないのですが、慣例として彼らが訪ねて来た際は“先生”達が随分
と丁重に迎えていること。それから程なくして誰かが巣立ってゆくこと。ただそういった情
報の蓄積だけが内々に伝えられてきたのです。
『……』
 だから最初、この時この“大先生”が僕を見ていたことに、僕は気付けませんでした。全
ては少し後になって“先生”達から呼び出され、教えて貰ったことです。
 基本的に子供や青年──若い年齢の人間が多い“家”にあって、逆に“大先生”達は総じ
てお年を召された方が多かったような気がします。
 何処か厳しい、思い詰めたような表情(かお)で、僕を見ていたこの“大先生”。
 頬は年齢相応か、それ以上に皺だらけで痩せこけており、杖を突いていました。傍らで何
やら色々と話し掛けていた白衣姿の“先生”達の言葉も、あまり聞いていないかのような印
象さえ受けます。

「では、始めよう。なぁに、何も心配することはない」
 よかったな! 流石は俺の親友だぜ! マシューはそうまるで自分のことのように喜んで
送り出してくれました。……小言を言える相手が減っちゃうわね。片やキャロルはそう心な
しか膨れっ面で、最後まで彼女らしさを失いませんでした。
 “家”からの巣立ちを言い渡されて数日、僕は“先生”達に連れられて、普段行き来さえ
できない区域まで昇って来ていました。通された室内には色んな装置がくっ付いたベッドが
明かりの下に一台。これは──もしかして手術台?
 僕が不安になっているのを解っているのか、周りと囲むように立つ“先生”達はあくまで
淡々とそう言います。
 ですが、それが逆に不気味でなりませんでした。明らかに今までとは場も人も、全ての雰
囲気が違い過ぎていたのです。
 巣立ちなら、色々と荷物をまとめなくっちゃいけない筈じゃあ? 僕は手ぶらだ。
 巣立った後の、新しい住まいやすべき事は何なのだろう? 僕は何も聞いていない。
 何よりもこの部屋は……“白く”ない。真っ黒だ。まるで手術台を、僕の身体を“先生”
達が無理やり乗せ、拘束するその光景を外に漏らさないようにする為の、暗く見通しが利か
ない見慣れたことのない景色。明らかにおかしい──そう半ば本能的に抵抗を始めた僕を、
大の大人数人がかりで押さえつけて、袖を捲った腕に注射器を。
「……心配要らないと言っただろう? やれやれ。勘付いた所でどうにもならんのに」
 口までテープで塞がれ、僕の叫びはそれ以上響くことはありませんでした。自然と涙目に
なって頭上の明かりが視界に入っていても、そこに“先生”だった大人達が影を作るように
割り込んで来ます。ブツリと、身体の中に何かが入り込んでゆくのが分かりました。

 助けて マシュー キャロル
 意識 が 飛ぶ 僕が 僕で なくなって ゆく
 身体中 が 痺 れる 壊れ る 壊され て ゆく
 僕が 消え 違う
 僕らは 皆 騙され こんな 筈じゃ

 誰か 助け

 ***

「如何ですかな? 身体の具合は?」
 はたしてそれから一体、どれぐらいの時間が経っただろう? 暗がりの中、手術台に乗せ
られていた少年・ハリーは、拘束されたままゆっくりと目を覚ました。
 周りにはじっと、固唾を呑んでこれを見守っている白衣姿の男達がいた。彼が意識を取り
戻したと確認してから、それまで繋いであった拘束具や各種機材──彼の身体のあちこちに
繋がれていた無数の細いコードがぶちぶちと、次々に引き抜かれてゆく。
「……ああ。まだ多少違和感はあるが、概ね良好だよ。何より身体の重苦しさが段違いだ」
 白衣姿の男達にそっと抱え起こされながら、彼はようやくといった風に深く一息をついて
言った。掌を握っては閉じてを繰り返し、ためつすがめつをしながら、徐々に彼は“新しい
自分の身体”を得た喜びに浸っていたようだ。
 他でもない。白い“家”とは即ち、人体の替え(スペア)を製造・出荷する為の大規模施
設なのである。同施設を運営するこの会社は、彼のように豊富な資金力を持つ人間をメイン
ターゲットとし、彼らの若かりし頃の肉体──希望があればもっと成熟した青年期のそれを
契約に基づき提供。老いや病気を患った古い肉体から記憶を移し替える手術を経て、文字通
り彼らを若返らせることが出来る。全く新しい延命の形である。
 いつからか、言わばこの究極の生命医療は、広く世の中に知られていった。勿論導入当初
は倫理的な意味でも、一層経済的な格差が固定するとの批判はあったが、結局は金と技術的
な“可能”さえあれば何処までも突き進めてしまう。人間とはそういう生き物だ。
 今や同様の事業を展開する企業は、数十社にも上ろうとしている。尤も数が増え、玉石金
剛の様相を呈する分、乗り換え自のトラブルといったリスクも増えてきてはしまうのだが。
「少々、若過ぎたかな……。だがもう、私も長くは待てないのでね」
 手術台から足を下ろし、この元老紳士は静かに安堵して苦笑(わら)う。捨てた方の身体
は老齢が故の病魔に蝕まれつつあり、彼はかねてより同社に提供していた自身のDNAから
作られた替え(スペア)への乗り換えを申請していたのだった。
「承知しております。ですが急激な肉体の成長は、まだまだ変異のリスクがありますので」
 ぺこり。大事なスポンサーの一人でもあり、顧客でもある彼に、白衣の“先生”達はそう
丁重に会釈をした。一応ビジネスモデルとしては確立して年数が経っているが、技術的には
まだまだ高みを目指せる筈だ。もっと自在に、もっとニーズに合わせて年齢や健康状態を調
整できる、最高の人間(スペア)を。
「ご利用ありがとうございました。今後とも是非ご贔屓の程を。Mr.エヴァンズ」
                                      (了)

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  1. 2019/02/24(日) 00:00:00|
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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