日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「粗蜜流し」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:鷹、告白、冷酷】


『──罪悪感、ねえ。そんなものに一々足を止められてたら、こんな稼業、そもそもやって
らんないでしょ』
 指定されたオフィスの一室で、彼はそう最初の質問に答えていました。私がのっけから本
題に入ったことも、今回の取材の意図もとうに理解した上で、彼は嗤っていたのです。
 彼はいわゆる、ゴシップサイトの管理人の一人です。彼らはその時々に世間を騒がせてい
る事件をこぞって取り上げ、特にネット上の声──匿名掲示板における発言を掲載するとい
う手法を採っています。
 厄介なのは……それらを全く許可を取らずに行っているという点です。加えて総じて粗野
な、これら一部の声をさも大勢であるかのように拡散し、扇動している例も少なくないと言
われています。自身のサイトのアクセスを増やす為に、時々の事態を泥沼化させているとの
批判がかねてより出ているのです。
『おやおや。随分と突っ掛かってくるじゃないですか。まぁ話があった時点で、予想はして
ましたけど……』
 しかしながら彼は、最初に顔を合わせた時と変わらず、余裕綽々としていました。相手を
小馬鹿にしている態度です。サイトの管理人という肩書きを予め聞いていなければ、着古し
たワイシャツとジーパン姿──いけ好かない、ちょい悪気取りの青年ぐらいにしか見えなか
ったでしょう。
『こっちだって商売なモンでね? 流行りに乗っかるのは基本でしょうよ。だからこそ貴女
も、僕みたいな人間を取材しようと思った訳だ。阿漕だ何だって言うんなら、余所の大きい
所の方がよっぽど酷いじゃないですか』
 曰く彼は、あくまで自サイトの広告をより多くの人に、効率良く踏んで貰う為の手段を採
っているに過ぎないのだと。自分だけが詰られるのは、所詮恣意的な害意だと。
『ブン屋なんてのは、大昔から羽織ゴロなんて呼ばれてますしね? 大体僕らも、ニーズが
あるからやってるんです。無ければそもそも、こういうやり方はしませんよ。だから僕は、
“情報”というよりも“娯楽”を提供していると考えています』
 娯楽……? それが会話の主導権を奪う為の布石と解った時には、私は既にそう口元で呟
いていました。彼は得意げに、朗々と語り始めます。
『人間ってのは、他人を攻撃すると気持ち良いんですよ。自分が反撃されず、且つ相手に非
がある場合には尚更にね。その意味でネット社会ってのは、まさにおあつらえ向きな訳だ』
 まぁ技術的には、何処までも追っかけようと思えば、追っかけられますけどね……。
 それでも付け加えるように呟くのは、自身も追跡されて痛い目に遭ったことがあるからな
のでしょうか。或いは他人を小馬鹿にする一環で、そんなリスクを知らない人々を哂ってみ
せる為だったのかもしれません。
『古今東西、悪口は多くの人間にとって身近な“娯楽”であり続けてきました。僕らはその
ロングセラーに、ただ乗っかっているに過ぎないんですよ。こっちが一方的に与えているん
じゃない。彼らが、欲しているんです』
 いいですか? 屁理屈だと、私が反発の言葉を口にする前に、彼は続けます。それはまる
で、私“達”市民を嘲笑うかのようでした。
『例えば、名の知れた人間がいるとする。成功していて、社会的地位があればある程いい。
性格は……必要条件ではあるけど、十分条件ではないかな? ともかくそういった、自分で
は到底及ばないような誰かが、世の中には少なからず存在している。哀しいかなそれが現実
です。しかし大半の凡人は、そんな事実に耐えられない。尤もそういう発想に陥る時点で、
彼らは凡人止まりなんだけども……。しかしだからこそ、もしそんな完璧性を崩すスキャン
ダルが世に知られることとなれば、彼らは心の底から喜ぶ訳です。昔から、他人の不幸は蜜
の味、なんて云いますでしょう?』
 正直、下衆な嗤いでした。私は何とか反論の材料を探していましたが、これはこれでどう
しようもない“事実”なのです。寧ろそういったものを暴いてゆくことこそが、一側面では
ジャーナリズムと呼んでもいい。
 私達は、広く国民の知る権利を充足させる使命を帯びている。
 だけどもはたしてそれは、いち個人のプライベートや人生そのものを破壊してまで為さな
ければならないものなのか……?
『あれはね、復讐だと僕は思ってるんですよ。どれだけ“綺麗”で“正しい”ことを、世の
中の成功者達が声高に叫んでも、人間ってのはそんなお行儀の良い生き物じゃない。寧ろそ
うやって、社会の表通りが綺麗に整備されてゆけばゆくほど、一つ角を曲がればそういった
世界から弾かれた連中でごった返している。苦しい苦しいと、行き場の無い生き辛さを一人
一人が抱えて生きているんです』
 だからこそ、少なからぬそんな人々の“ガス抜き”の為にも、自分達のような商売は今後
も需要がある筈だと彼は言います。
 とある地方の名士が、日常的に妻へ暴力を振るっていたと判れば、皆こぞって駆け付けま
すし、クリーンさを売りにしていた首長が実は黒い交際歴があると知ればそちらへ。著名人
の惚れた腫れた、或いは破局。金遣いの荒さと、結末としての借金漬け。たった一度の過ち
を目敏く押さえては、まるで鬼の首を取ったように殺到する。叩くだけ叩いて、ある程度気
が晴れれば、さっさと次の標的を探して歩き回る……。
『ハゲタカ──と言うのも勿体無い。イナゴですよ。まるでイナゴの群れだ』
 それが“綺麗”で“正しい”世界に生きられない人々の、一番の娯楽だと彼は言います。
敢えてそんな例えを持ち出すのは、単に強調したいからでしょう。事実語っているその表情
からは、悦んでいても侮蔑するような意図は感じられません。酷く割り切り、そして妙に乾
いて──悟ってしまっているように、私には見えました。
『綺麗で正しくて、ミス一つも無く完璧で……。世の中がその方向へ進む限り、進んでゆけ
ばゆくほど、この両者の落差は苛烈を極めてゆく筈ですよ。何せ“隙”を見せれば、あっと
いう間に殴り殺されるんだから。まぁ、そうやって他ならぬ自分達が引き摺り下ろす側に回
るんだから、世話無いですがね』
 でもそれが需要(ニーズ)だから。彼はあくまでこれを商機として利用しているだけだと
嘯きます。汚くて間違っている、そんな娯楽がもし無くなってしまえば、それこそこの社会
はもっと目に見えて滅茶苦茶になるだろうとも。
『中にはやれそれはお国柄だの、何だのと言う人もいますが……根っこの部分は何人だろう
がそう変わりはしませんよ。皮が多少違った所で、基本中身は同じなんだから。ただ露骨に
やるか、隠れてコソコソやるかの違いでしょ? 片っ方に目を瞑って、片っ方を詰ろうって
いうのなら、それこそ“綺麗”でもないし“正しく”もないでしょ』
 ……ねっ? だからこそ彼がそう付け加えてきた言葉は、他ならぬ私自身への当て付けだ
と理解したのでした。最初に随分と突っ掛かってくると表現したのは、こうした考えを含め
て、彼を“糾弾”しようとした私の正義感・使命感への批判でもあったのです。
『間違っていたらごめんなさいね。でも貴女は多分、僕らみたいな業者を“悪者”だと決め
込んだ上で、今回取材を申し込んできた。そりゃあまあ、実態が判らない以上は書きようも
ないですからねえ……解りますよ。だけどそれで、何が救えます? 一体誰が知りたいと思
ってるんです? 少なくとも、彼らは好きでやっている。おそらく、中には自分のやってい
ることが醜いことだと、自覚している人も少なくはないでしょう。でもそうせざるを得なか
った。渦中の彼・彼女を叩かなければ、自分がじわじわと元在った“眩しさ”と“正論”で
押し潰されてしまうからです。……貴女がやろうとしているのは、そういうことなんじゃな
いですか? 他人の粗を叩く他人を叩いた所で、結局は同じじゃないですか』
 違う──ッ!! 私は反論しようとしましたが、上手く言葉に出来ませんでした。
 何というか、そのまま反射的に彼に怒鳴ろうものなら、それこそ彼に“負け”を認めたよ
うなものな気がして。
 ギュッと。取材の間ずっと、掌の中のICレコーダーを握り締めていました。一連のやり
取りは全て録音されているというのもあり、この場で喧嘩腰になってしまっては記者失格だ
と仕事人の私が何度も押し留めてくれた部分が大きいと思います。
 ──それは別に、貴方のやっていることを正当化する理由にはならないでしょう?
 秘して声には出さず、ただ筆と文字に起こすことでその反論としたいと考えます。たとえ
法的に大きな瑕疵を突けなくとも、彼らの言う便乗(しょうばい)は、少なくとも倫理的に
は根深い問題を抱えているのです。
 これまで各々が、ただ独りで背負い込んできた筈の、自身のどす黒い感情。己との闘い。
 彼らはそれを、自らの利益の踏み台にして煽っています。徒に拡散し、一つの集合体とし
て融合させ、更に多くの“犠牲者”を生み出しているのです。彼がそのような理屈で私達を
詰るのならば、彼もまた、己の利益のみを求めるこの稼業を哂わなければ──。
『……っと。そろそろ時間ですね。では、この辺りで失礼致します』
 すると彼は、まるで私の長考と沈黙を見透かしたように腕時計を一瞥したかと思うと、立
ち上がりました。それまで相対していた会議テーブルを離れ、去り際フッと肩越しに、こち
らへ視線を寄越すと哂います。
『精々、僕のことを宣伝して(えんじょうさせて)くださいよ? ジャーナリストさん?』
                                      (了)

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  1. 2019/02/04(月) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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