日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「忌縁吐き」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:テレビ、中学校、最後】


『──だから、小中学校時代の友人なんてクソなんですよ。ただ大雑把に同じ地域に住んで
いた。それだけのことでしかないんだから』
 不意に石を投げ込まれ、穏やかだった水面に波紋が拡がってゆくかのような心地だった。
テレビ画面の向こうでは、そう元名物講師のタレントが、随分と熱の籠もった様子で自らの
持論を述べている。
「……」
 故に池は、正直不快だった。否定的だった。言葉にこそ口に出さないものの、直後そのま
ま続いてゆく番組をぼんやりと眺めている。
 このタレント曰く、人生で重要なのは社会に出てからの人脈であり、そんな全体の内僅か
数パーセントにも満たない関係性に拘るのは損でしかないのだと。事実大半の人間は進学後
に、この時分の交友関係が消滅しているとのデータも在るのだそうだ。
 ただそれでも──池は半ば反射的に、心の中で「そうだろうか?」と疑問を呈していた。
 確かに当時の同級生達とは、卒業以来殆ど会ってはいない。今は仕事関係の付き合いが大
半を占めているし、仮に再会したことがあっても同窓会のような場だけだ。しかも大抵の場
合、その場限りの一回だけというパターンである。
 にも拘わらず彼がこの発言にムッと、反射的に苛立ちを覚えたのは他でもない。ただ単に
そんな中学時代の同級生が一人、先日亡くなったと人伝に聞いたばかりだったからだ。
 あくまで人伝なので、詳しい話までは知らない。ただ尾ひれが付いたその内容を聞いた限
りでは、どうやら過労死だという。

『重要なのは、社会に出てからの人脈』
『人生全体の僅か数パーセントにも満たない時間』

 ……そうだろうか? 池はじっと考え込んでいた。このタレントの発言は一しきり終わっ
て、画面の向こうでは既に他のコメンテーター達にバトンが渡ったり、或いはさっさと足早
に次の話題にコーナーは移りつつあったが、池にはもうこれらの内容は見えていない。
 確かに就職してからの人脈というものは、時と場合によっては自身の出世に大きく関わる
環境要因かもしれない。その点は否定できないのだろうと思う。
 だが……そもそもそういった仕事上の繋がりと、プライベートでのそれは基本的に別物で
はないのか? はたして前者を「友人」と呼んでいいものなのだろうか? 自分個人の感覚
で言えば、利益云々で切ったり繋いだりするものを、友情とは呼ばない。縁というか、自分
が意図せずに形成された関係とは……そういうものだと思うのだ。
 尤もだからこそ、一方で腐れ縁というか、悪友とのしがらみから逃れられずにずるずると
来てしまうというパターンもある。苛めに苦しむ子供達もいる。どだい学校のような一つの
空間に閉じ込められていれば、ヒトも動物もいずれ共食いを始めるだろう。ただ幼少期のそ
ういった、揉んで揉まれてを含めた「人生」経験ではないのか……?
 しかしそれらは所詮、勝者の理論なのだろう。
 子供から大人へ。コミュ力に順応して生き残ってきた者達による上から目線の方便であっ
て、決してそうではなかった者達を慰めるものではない。あのタレント講師のように、あく
までそういった“敗者”を切り捨て、生存した──勝ち残ってきた者達のみを囲い込んで輝
く為のコミュニティだ。
「……っ」
 故に一旦、池は内から湧いてくる衝動を深く呑み込んだ。
 反発に反発を返せば、衝突しか起こらない。そんな言動は決して“賢く”はない──これ
までの経験から学んできた、彼なりの人生訓だった。アパートの部屋の中でそう深く静かに
嘆息をつき、手元に置いてあったスマホで軽く検索を掛けてみる。
 すると案の定、このタレント講師の“毒舌”発言に対し、早速噛み付いている人々の投稿
が目に留まった。いわゆる意識の高いユーザーは彼の言い分を指示していたが、ネット民は
基本的にそれらとは対極の属性に棲んでいる者達である。池自身、こうしたパッと反発心が
湧いた時、言わば反面教師的な意図でもってこれらを垣間見るようにしている。自分だけで
はないんだと、安堵しながらも、そうしたムーブへ安易に乗っからないようにしている。
『こいつどんだけ、ガキの頃に恨みがあんだよwww』
『っていうか、その頃からのダチとか割といる奴多いよな』
『俺も小学校からの幼馴染いるけど、今でもゆるゆる付き合いあるよ』
『自己紹介乙』
『子供の頃はカースト低かったんだろ。頭が良くても、こうも僻み根性丸出しの奴はなあ』
 曰く、このタレント講師自身がかつて“敗北側”だったのではないかと。幼少期に辛酸を
舐めてきたのだろうと。だからこそ自身の経験が反転して、いざ大人になって成功を掴んだ
途端、意識が低い人間達を屁理屈を捏ね回して叩くのだろうと……。
 実際どうなのかはさておき、なるほど一理あるなと池は思った。彼に限らず、掌を返して
古巣を攻撃するという例は世の中のあちこちに溢れている。一個人の経験則、一側面のみだ
った筈の話を、気が付けば「全て」に適用して訴えるという手法。手合い。
 ただ……それらに対してどちらが正しいとか、間違っているとか、そういう話の持ってゆ
き方ではない筈だとも池は思った。事の本質がズレてしまっている。もっと個別的で細かく
て、複雑なものを無理に“拡大”しようとするものからややこしくなる。
 ──だからこそ、自分達は中々分かり合えないんだろうな。
 池は一方でそう思考の片隅に過ぎらせていた。最早定型句のように、とうの昔から諦めて
しまっていた。
 池自身、幼少期の頃にやらかしてしまった過ちは決して少なくない。今でこそ歳相応の落
ち着きを身につけてはいるが、子供の頃は間違いなくやんちゃな部類だったのだ。当時その
容姿を理由にからかい、もとい苛められていた女子への加害にも周りの空気を読んで参加し
ていたし、反りが合わない他の男子との口論や殴り合いの喧嘩など日常茶飯事だった。或い
は不意の一言で相手を酷く傷付けてしまった、後悔したという失敗経などは数知れず……。
 彼・彼女らは、恨んでいるだろうか? もう何十年も昔のことだし、向こうも忘れてしま
っているんではないか?
 いや……それこそこちらの楽観、希望的観測かもしれない。心や体を壊した側にしてみれ
ば何てことない戯れだったのかもしれないが、いざ壊された側は、その後の人生においても
ずっとダメージを背負っている状態だと聞いたことがある。加害者はさっさと忘れたがるけ
ども、被害を受けた側はずっとずっと憶えている──。
 良くも悪くも「経験」で、過去なんてものは何かの切欠でもって水に流さなければ、一向
に前に進むことは出来ない。
 心身の障害──トラウマなどを抱える人々に対して、しばしばそんな励ましのような罵倒
のような言説が向けられることも今日珍しくはないが、少なくとも画一的にぶん投げて大丈
夫という類のものではないだろう。言わずもがな、聞かされる側の状態にもよる。何よりこ
のような言い方は、結局の所勝者の理論──持つ側の方便でしかないのではないか……?
(森……)
 だからこそ、思う。
 病死したというあいつも、結局はそうした“昔の痛み”の上に日々のダメージが積み重な
ってゆき、押し潰されてしまったんじゃないのか? 先日届いたかつての同級生の訃報に、
池は改めて遠いようで近い罪悪感に苛まれていた。
 当時自分は、彼とそこまで面識があり、仲が良かった訳でもない。どちらかと言うと向こ
うはいわゆる真面目君で、こっちはチャラ男の部類だった。ダチという名の連れはあちこち
にいたが、彼は基本的に孤独だったように思う。黙々と一人で席に座ったまま、授業ノート
や息抜きがてらの文庫本を読んでいたと記憶している。同じ中学生でも、明らかに人間とし
ての隔たりが在ったのだ。
 ……その意味で、結果的に幼少期の思い出というものはクソだったのかもしれなかった。
彼をじわじわと何十年もかけて、やがて死に至らしめたのであれば。

『──だから、小中学校時代の友人なんてクソなんですよ。ただ大雑把に同じ地域に住んで
いた。それだけのことでしかないんだから』

 理想論だとは分かっている。だがやはり、皆が等しく幸せという訳にはいかないのかと池
は独り思い悩んでしまっていた。寧ろ現実はそんな幸せの総量(パイ)を取り合うばかりの
様相で、その意味で皆が等しくあるためには、全員が不幸せでなければ成り立たないという
極端さすら在る。そう言葉の通りに易く、分割できないのだ。金と心の平穏は、多くの人間
において相関関係にさえある。
 ……だからと言って、自身の幸せ(それ)を誰に譲り渡すという訳にもいかない。実際に
出来やしないし、そもそも替えの利く類のものじゃない。自分のそれと相手のそれが同じだ
とは限らない。却って“施し”は、彼らへの侮辱にさえなるだろう……。
「? どったの? 珍しく難しい顔なんかして」
 ちょうど、そんな時だった。池の部屋にふとガチリと鍵の開く音がした。玄関の扉を慣れ
た手つきで開け、スーパーの買い物袋を提げた女性が一人、そう普段の彼らしくもない表情
を怪訝半分からかい半分で言いながら入って来る。
 池は少しムッとしたが、結局そのまま彼女が部屋に足を踏み入れてくるのを止めることは
しなかった。入ってすぐの冷蔵庫に袋の中身をしまいつつ、流しの前に立つ。彼女が自身の
部屋に出入りするさまは、彼にとってもすっかり当たり前の日常となって久しい。
「まだ晩ご飯、食べてないんでしょ? 二人分適当に作るね」
「ああ。悪ぃな」
 うなじ辺りで軽く切りそろえられた茶髪に、上下灰と黒の動き易いズボン。勝手知りたる
様子で確認する、飾らないさばさばとした口調。
 彼女の名は仁美。
 池の高校時代の同級生であり、こうしてもう何年も、彼と半同棲生活を送っている。
                                      (了)

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  1. 2019/01/27(日) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

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