日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「種を蒔く」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:砂漠、終末、雑草】


 ──カラカラの砂ばかりだ。

 セカイは、見渡す限りの荒野に覆われていた。時折吹きつけては過ぎ去ってゆく乾いた風
と砂埃が、その厳しさを暗に物語る。
 瞳に映るのは不毛の地、錆び付いた黄色(おうしょく)。
 故にヒトは長らく、それ以外の色彩を忘れてしまっていた。目の前に立ち塞がる今が全て
であり、当たり前だと慣れ切ってしまっていた。

「あのジジイ……まだやってたのか」
「うん? ああ。そういやこの前から、また植え出したんだっけか」
 そんな、朽ちてゆく大地の片隅。とある小さな集落の一角で。
 村の中を歩いていた青年達は、この日見知ったとある顔を遠巻きに見つけていた。但しそ
の目撃から絞り出した一言は、紛れもない侮蔑の類である。連れの呟きに応じたもう一人の
青年も、事実呆れ顔を浮かべながらそんな視線に倣っていた。
『──』
 老人である。土に汚れた老齢の男が、独り黙々と荒地に植物の苗を植えていた。村の敷地
ではあるがその外側の、半ば誰にも相手にされないようなスペースに、彼はこうして時折、
自らが育てた様々な樹木の苗を植えている。
 尤も……こんな厳しい環境だ。一口に苗といっても、十分に育っているとはお世辞にも言
えなかった。どうしても全体的に萎れかけた、小さな草の欠片のようにしか見えない。
「ったく、暇人な爺さんだぜ。どうせ植えるなら食いモンの種でも植えりゃあいいのに」
「どっちにしろ、まともに育つ訳ねぇじゃんよ。辺り一面こんなだぞ?」
 聞こえちまうぞ。関わり合いになるな──。
 青年達は遠巻きのまま、そのままのんべんだらりと歩いて行った。
 ただでさえ余裕のない村の食糧事情にも協力せず、延々と腹の足しにもならないような木
の苗を植えては育て損なう。そんな風変わりなこの老人を、彼らを含めた村の者達はかねて
より腫れ物扱いしてきた。なまじこの土地に暮らして長い古老の一人ということもあり、誰
も真正面から追い出そうというのも面倒臭がったのだ。
「……聞こえとるよ」
 青年達が立ち去ってしまった後、この老人はそう小さく呟いていた。再び自分以外に人の
姿がない、がらんとした村の外れの植林スペースで、彼は静かに自嘲(わら)いながら作業
の手を緩める。
 何も……今に始まった事ではない。皆誰一人、こと若い世代の者は、かつてこの大地に緑
が溢れていたことを知らない。信じてくれないし、想像だにしていない。だがかつてそうだ
ったというのなら、もう一度元に戻すことも不可能ではない筈だ。自分はそう信じて、長年
樹木の苗を植え続けている。
 しかし、こちらの話をまともに聞いてくれる者は皆無だ。寧ろさっき彼らが陰口を叩いて
いたように、何故作物の種ではないのかと不満を漏らす者も少なくはない。
 確かに今は、食うに困る現状を打開するには遠いかもしれない。だがこの苗達がいつか大
きく育ってくれ、それこそかつて言われてたように“森”となってこの大地に広がってくれ
れば、この村だけではなくより多くの人々が救われる。大地が本来の姿を取り戻し、多くの
命がまた戻ってくる……。
 何度もそう説得をしたが、結局皆は聞く耳を持たなかった。言いたい事は分かる。そんな
悠長な話ではなく、今この時、明日の飢えを凌ぐ為に食料が必要なのだと。
 ……そう激怒されて、家の温室で大事に育てていた種もみ達を、何度食い荒らされたこと
か。こちらがその度に抗議したこともあってか、気付けば村の者達は、努めて関わるまいと
距離を置くようになった。やれ業突く張りの爺だの、夢ばかりみている変人だの、同じ土地
に住んでいながら、まるでいない者であるかのように扱ってきた。事実もう何十年と苗を育
てては植えてを繰り返してはいるが、未だ目立った成果はみられない。苗は今回も弱々しく
乾いた風に挫けそうになっており、どれだけ長生きするかは不透明だ。
 ……自分は間違っているのか? 彼らの言うようにいい加減諦めて、村の者達とその日そ
の日を食い繋ぐ為に協力すべきなのか。
 或いはあの子のように、緑の残る土地に──。
「おじいちゃん、何してるの?」
 ちょうど、そんな時だった。ぼんやりと過去の記憶に沈みかけていた老人を救ったのは、
一人の幼い男の子だった。同じ粗末な服装をし、小首を傾げながら、酷く錆び付いた──お
そらくは使い回され続けた輪っか転がしの棒を手にしている。
「うむ? 儂は──」
 老人は言いかけて、思わず自ら口を噤んだ。また周りに村の大人がいないか警戒してしま
ったのだ。
 だがざっと辺りを見渡してみる限り、それらしい人影はない。そもそもこの辺りは村の敷
地内でも随分と外れにある。自分の存在や事情を知っているならば、好き好んで近寄ろうと
はしない筈だ。先程の青年達のように、外敵がいないか巡回でもしている最中でなければ。
「……お前さんは、何処の子かな? 儂はあまり村の皆とは付き合いが薄くてのう。最近の
子ども達のことはさっぱり知らんのだよ」
「ぼくはパステル。お父さんはパスカルで~、お母さんはルルカ」
「ほう? パスカルの息子か。あのやんちゃ坊主も、そんな年になったんじゃのう……」
 ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ……。
 少しだけある、ばさついた白い顎鬚を撫でながら、老人はそう小さく微笑(わら)った。
聞き覚えのある者の名が出てきたのが嬉しかったものの、一方で気付かぬ内にそんなにも歳
月が経ってしまったかと、内心一抹の寂寥感を禁じ得ない。
 尤も当の男の子──パステルはそんなこちらの心情など知る由もなく、興味深そうに植林
スペースを覗き込んでいた。世代的にも、そもそも植物が人の手で育てられていること自体
珍しいのだろう。後で父親・パスカルに苦情をぶつけられるかもしれないな……。そう思い
ながらも、老人はちょちょいと彼を優しく手招きして迎えてあげた。ぱあっと屈託のない笑
顔を浮かべて、パステルは老人のすぐ胸の前に屈み込む。
「儂はの、ここに植物の苗を植えとるんじゃ」
「なえ?」
「そう、苗。儂らで言う植物の子どもじゃよ。これが大きくなれば、もっともっと大きな木
になり草になり、儂ら皆に恵みをもたらしてくれる」
「き? くさ? よく分かんないけど……本当に?」
「本当だとも。確かにもう長いこと、この大地にはそんな場所自体、殆ど無くなってしもう
たがのう」
 そっと目を細める老人。パステルはそんな彼の横顔を何となしに見上げながら、しかしい
まいちピンとは来ていないようだ。無理もないだろう。おそらく彼は生まれてこの方、この
土地から出たことも、出るという考えさえまだ頭にないのだろうから。
「儂の息子も、そんな未だ僅かに残っておる緑を頼って──もっと大きな街に出て行ってし
まった。そこも皆で寄って集れば、そう遠くない内に枯れ果ててしまうというのにな」
「……? うん」
 そう、やはりよくは解っていなくて。それでも一生懸命相槌を打ってくれて。
 老人はフッと微笑(わら)った。こうして誰かと話すのも久しぶりだ。それこそ次の世代
を担う子供達になど。村の大人達は、最初に顔を合わせる以前に、自分のことをあれこれ言
い聞かせているのだろう。変な年寄りだから、近付いちゃ駄目だぞ──偶々この子は、そん
な警句を受ける前にここまでぶらっと現れた。見る限りマイペースそうだから、同年代の子
供達と遊ぶというのもまだ上手くいっていないのかもしれない。
「ずっとずっと昔、まだ儂の爺さんのそのまた爺さん、ご先祖様が生きていた頃、この世界
はそれはそれは大層繁栄しておったそうな。鉄の住居が幾重にも重なって天高く伸び、広大
な緑が人の手によって管理されておったと聞く」
 だからこそ──こんな機会は滅多にないと何処かで悟ったからこそ、老人は話し始めた。
自身も幼い頃に、口伝でしか聞いたことのないこの世界本来の姿を。
 彼がただ一人、たとえ同じ村の者達に哂われ、避け続けられようとも諦めなかった理由は
そこに在る。かつては確かに在ったというのなら、もう一度作れる筈だ。何より……。
「じゃが人々はある時、その繁栄を謳歌していた力で激しく争い、お互いを滅ぼす一歩手前
までこの大地を焼き尽くしてしまったという。……今これほどに大地が荒廃し、草の根すら
も生えぬ原因は、その影響だとか何とか。にわかには信じられんがのう。じゃが、実際今で
も今の儂らがあずかり知らぬ技術、遺物は各地で見つかっておる。今度お前さんの父親・母
親にでも聞いてみるといい。儂らの生活は、今もそうした“過去”の残り火で維持されてお
るんじゃ。辛うじて、な」
「……??」
 パステルは、やはりと言うか盛大に頭に疑問符を浮かべていた。そもそもどれだけ幼子の
頭で理解できているか怪しいが、それでも老人が真剣な話をしているのは分かった。途中で
聞くのを投げ出さず、じっと耳を傾けてくれているだけ、よっぽど素直な子だ。
「うーんと……。じゃあその時みたいになれば、ぼく達もお腹いっぱい食べられるの? い
っぱい“なえ”が大きくなれば、食べられるの?」
「ああ、食べられるとも。この村だけじゃあない。隣村も、そのまた隣も、ずっとずっと遠
くの村も、全部じゃ」
 ぱああっと、この幼い少年が目を輝かせているのを見て、老人は一人可笑しくなった。
 ぼく“達”か……。もしかするとこの子は、他の皆とは少しばかり違うのやもしれん。た
だの感情移入、贔屓目かもしれんが……。
「だったら、ぼくもやる! おじいちゃんみたいに、いっぱい“なえ”を植える!」
 だからこそ──老人は思わず目を細めた。実際の所はただ“お腹いっぱいに食べられる”
というフレーズに釣られただけなのだろうが……今までずっと、実の息子にすら見捨てられ
て一人だったものだから、嬉しかった。
「ほほほ。心強いのう。……それなら儂の後も、安泰じゃな」

 はたしてそれから、一体どれだけの月日が流れただろう?
 荒れ果てたセカイの片隅で、苗を植え続けた老人はずっと昔に死んだ。血縁を絶てど、志
を受け継いでいった者達はそれぞれの場所、それぞれの時代に散在し、その抱いた使命を必
死になりながらも全うした。時には大成を見ずにこの世を去り、或いは安堵して次の世代へ
と託し、いつか自分達が願った未来が来る日に向けて進み続けた。
 故に大地は──再び蘇ったのだ。
 一人また一人、次代次代へと託していった努力と執念と研究の成果は、やがてより効果的
な緑化へと結実した。乾いた風、不毛な大地ばかりだったセカイは、ある時を境に一転して
変質し始めた。大きく成長した木々は実を落とし、ヒトを含めた多くの人々を飢えから遠ざ
けた。同時に実から零れ落ちた種は無数に地中へと根を伸ばし、いつしか広大な“森”とな
って大地を黄色(おうしょく)から深過ぎるほどの緑へと変えてゆく。木々は渇きを潤し、
命を育て、四方八方に広がるテリトリーと化していった。かつて無だった其処は独自の生態
系を作り上げ、今や何人も──その礎を築き上げたヒトさえも拒む秘境へと変貌する。
「──皆、覚悟はいいか!?」
 その日拡大を続ける“森”を前にし、ヒトらの軍勢が集まっていた。各々に油をたっぷり
と塗った松明を手にしており、皆鬼気迫った表情でこのリーダー格の男を見上げている。
「これより、かの“森”への焼却作戦を開始する! このままではヒトの領域は、拡大の一
途を辿る“森”とそこに住まう異形達によって覆い尽くされてしまうだろう! 既に多くの
国が、同胞が呑まれ、死んだ。最早一刻の猶予も無い。大地を蝕み、人々を分断し続けるか
の憎き“森”と異形達を、今こそ我らの手で根絶やしにするのだ!!」
 おおおおおおおおッ!!
 このリーダー格の男の演説に、掲げる松明と銃剣の切っ先に応じて、男達が一斉に鬨の声
を上げた。彼を黒山の人だかりで覆いながら、微塵も殺気を隠さずに吼える。
 そして次の瞬間、炎を引っ下げて次々に“森”へと突入し始める仲間達を、彼は鼓舞する
ように激しく煽り立てた。
「進めぇ!! 足を止めたら、俺達にもう明日は無いと思え!!」
                                      (了)

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  1. 2019/01/14(月) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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