日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「紅⇔蒼」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:燃える、嫌、静か】


 突然ぴたりと冷たいものが伝ったような心地がして、思わず目を覚ました。
 いや、気付けばそこに立っていたと表現した方が良いのだろうか? 少なくとも次の瞬間
開けた瞳には、青暗く湿った、凸凹した岩肌の地面が延々と広がっている。どうやらかなり
広い空間のようで、ずっと向こうの地平はより深い暗闇に溶けてしまっている。何となく見
上げた頭上も同様だ。ただこちらは少し、所々から淡い光が差し込んで来ているらしい。
「……」
 此処は何処だろう? 少なくとも、見覚えのある場所ではない。
 何というか、妙に現実離れした空間だった。おそらくは洞窟の類だと思うのだが、さっき
見上げてみた天井──何処からとも知れない遥か頭上からぽつ、ぽつと差し込んでいる光の
お陰で、思ったより視界は確保できている。凸凹した岩肌、青暗く湿ってびっしりと生えて
いる苔が、そんな光を弾いているようだ。
『──せっ、燃やせ!』
 そうして何となくぶらぶらと歩き始めると、程なくして妙な光景に出くわした。そしてそ
れは何も、最初見つけた二人だけではなく、改めて見渡してみればこの無駄に広い洞窟内の
あちこちで起こっている出来事であるらしかった。
『な、何をするんだ!? は、離せ! 近寄るんじゃない!』
 他人(ひと)がいる。
 それも岩陰や石柱に隠れて、こちら側の視界から絶妙に隠されていたように。
 どうして最初、今まで気付かなかったんだろう……? 正直不審に思ったが、意識は先に
そんな彼らを観察することを始めていた。概ねボロの、決して綺麗ではない簡単な衣を纏っ
た者達が、大きく二つのパターンに分かれているさまが確認できる。
 一つは積極的に、やや狂気を孕んで火の点いた松明を掲げている者。彼らは足元に積み上
げた、幾つもの古びた荷物を焼き、或いは通り掛かったもう一つのパターンの者達のそれさ
えも隙あらば焼き払おうとしている。
 一つは消極的に、そんな古びた荷物を寧ろ後生大事に抱えるように背負い、しかしその遠
目から以上の重さに明らかな苦痛の表情を浮かべている者達だった。ゆっくりと背中のボロ
袋や収納箱を支えながら、この青暗い岩肌の中を進んでゆく。時折前者の松明を掲げた者達
に見つかり、その荷物を取り上げられて焼き払われようとするが、何故か彼らは決まってそ
れに強く抵抗する。まるでそれが、自分自身であるかのように。
『何を寝ぼけたこと言ってやがる? こっちは親切で言ってやってるんだぞ? お前だって
そんなモンを背負い続けてたら、しんどいだろうが』
『よ、余計なお世話だ! 放っておいてくれ! 俺は……これでいいんだ。このままがいい
んだ!』
 どれもこちらからの距離が遠いからか、それともこの洞窟内が基本的に薄暗いからか。
 いや、多分違う──直感的にそう思う。目を凝らしてはみたが、彼らの“顔”は一向に窺
い知ることができなかった。というよりも、そもそも存在していないかのように見えないの
だ。髪型や顔の輪郭、口元に服装、手足といった他のパーツは確かに見えているのに、何故
かその彼ら個々人を個々人たらしめている筈の人相が、どうにも判然としない。
 たが、そうしている間にも、彼らの攻防はお構いなしに続いている。中にはとうとう背中
の荷物を引き摺り下ろされ、燃やされてしまう者もいたが、一方でより意固地になって荷物
を守り、遂には松明を持つ側に噛み付き出すなんて者も確認できる。
『止めろって……言ってるだろ!!』
『あんたに、私の何が分かるっていうのよ!?』
 最初、積極的だの消極的だのと言ったが、これを見るとはたしてそんな勝手な形容が正し
かったのか。寧ろどちらの側も積極──攻撃性は持ち合わせていたのだけど、その向かう先
が外だったか内だったかの違いでしかなかったんじゃないか?
 一転して逆襲され、組み付かれた拍子に松明を手放してしまった彼らが、言葉にならない
叫びでじたばたと抗っている。
 松明に点いた火は、暫く落ちた地面の周りを赤く照らしていたが、やがてそんな両者の取
っ組み合いに巻き込まれるなどして消えてしまった。入れ替わるように、元あった青暗い洞
窟の色が、何事も無かったかのようにスッと再び現れる。
『ぜえ、ぜえ……! 思い知ったか……』
『……何でお前らに、僕の過去まで決められなきゃいけないんだ』
 随分と物騒な場所だ。最初の現実離れした、幻想的な風景という評価は取り消さなければ
ならない。それでも此処が見覚えのない場所で、どうにも自分と他人(だれか)との境界が
曖昧であることに変わりはないのだけど。
 物騒だなと思うと同時に、こうした光景を眺めていて抱いたのは“違和感”だ。

 どうして彼らは、そこまでして荷物を燃やさなければならないのだろう?
 どうして彼らは、そこまでして荷物を死守しなければならないのだろう?

 他人の事情など分からない。正直一々調べたいとも思わないが、少なくともこっちの勝手
な思い込みで相手のそれに踏み込み、どうこうしろと注文をつけるものでもなかろうに。
 ……うん? 何で今、そんなことを思った? 何であれがただの荷物じゃあない、なんて
言い方をするよう選んだ?
 思わずガシガシと、片手で髪を掻き回す。段々と自分も、この妙な空間に中てられてきた
のかもしれない。あまりぼうっと眺めているままでは、いつか自分も彼らの仲間入りを果た
してしまいそうな……。
 さりとて、何処へ行けばいいのかというのは分からなかった。此処は何処だというさっき
の問いもあるし、そもそも出口自体、存在しているのか? 何となく落ち着かなくなり始め
て、またとぼとぼと歩き出すが、火をくべる者と荷物を背負う者達の往来と喧嘩ばかりが遠
巻きに見えるばかりで、一向に進んだという心地がしない。
『燃やすんだ、燃やすんだ! こんなもの、全部無くさなくっちゃ前に進めない……!』
『捨てられない……捨てられるものか。こいつを否定しちまったら、今までの俺は一体何だ
ったっていうんだ?』
「……」
 嗚呼、そうか。やはり彼らは対立しているようで、その実根っこでは同じなのだと。
 ある者は荷物を捨て去ることで、救われると考えた。散々背負ってきて、増えてしまった
それを消し去れば、自分にもツキが回ってくる筈だと信じた。
 一方またある者は逆に、そんな荷物を捨て去ることを恐れてきた。これまで散々背負って
きて、苦しみの元となってきたそれも、元を辿れば自分のツキの悪さが原因だと考えてきた
からだ。
 要するに、責め立てる対象が違う。松明を握った側は荷物それ自体──自分以外の何かだ
ったし、背負って歩くことを決めた側は自分自身──自分以外の何かに逃げることを“悪”
だとすら考える。
 ただ……それはどっちが正しくて、どっちが悪いという性質のものではないと思う。確か
に自分以外の誰かから擦り付けられた荷物な時もあるし、他ならぬ自分自身の巡り合わせと
か、隙(よわさ)が招いた場合だってあるのだろう。でもだからといって、安易に百八十度
回れば絶対大丈夫だなんてこともない筈だ。こっちが何を考えどう振る舞おうが、擦り付け
ようとしてくる奴は擦り付けてくるし、悪い運気はレールの上の列車よろしくこちらの中心
に流れ込み続ける。
 要するに、どうしようもないってことだ。
 自分が正しいか正しくないかなんてのは実際些細なもので、事の正邪だけで物事は決まら
ない。寧ろそうじゃない部分、もっとゴリゴリ個人的な感情やら都合やらがぶつかり合い、
結果どちらが勝ったか? というだけのことだ。
 世の中ってのはそんな綺麗なものじゃない。煩わしいこと極まりないが、それが現実だ。
 模範があって、そこに皆が従うんじゃない。先に勝っていった奴が、勝てるように振る舞
い続けた肝となる部分が規範だとか、当たり前と呼ぶのであって、人ってのはそんな一方通
行なものじゃない。もっと、ぐるぐるとループしている。理不尽の塊を、皆で回している。
「……」
 嗚呼、こんな場所でも厭なことを思い出してしまった。
 青暗い洞窟の中では、尚も延々と彼らが荷物を焼き払い、或いは何個も何個も背負っては
降ろそうとせずに歩いている。偶発的に──ふいっと視界に入った、ただそれだけで相手の
それを引き摺り出して焼こうとし、抵抗したり、嫌だなと息を潜めながら通り過ぎる。そこ
には元より、誰にも通用する正しさ(きじゅん)なんて在りはしないんだ。
 ああそうさ。よく知ってる。分かってるのに、どうにもならない。
 今までも散々と、経験してきたことだっていうのにな……。

「──」
 半分、自分の中の軸みたいな部分が落っこちそうになって、思わず目を覚ました。
 ガクンと引っ張られた身体と、顎を反射的にこちらに引き戻して、ぼうっと瞳に映った天
井を眺める。見慣れた木目だ。中途半端に温かさが残っている布団の中に自分がいるのだと
分かって、嗚呼あれはやっぱり夢だったのかと理解する。
 全く、酷い夢だ。
 寝相と、流石に歳のせいもあるのか、早速痛みを訴え出す節々を心の中で宥めてやりなが
ら、ごろりと反対側に寝返りを打ちつつ枕元に置いていた筈の目覚ましを手で探った。これ
もまた慣れ親しんだ固く四角い感触がすぐに応えてくる。「んんっ……!」小さく唸りなが
ら引き寄せた、デジタル表記の画面には、新しい年数が表示されていた。

 正直、変わり映えがしない。あまり年を跨いだという実感がない。
 布団から出ていないというのもあるけども、小さな縦棒を一本抜いただけじゃあ……。
                                      (了)

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  1. 2019/01/02(水) 00:00:00|
  2. 週刊三題
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

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