日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「疑似聖母(デミ・マリア)」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:悪魔、天使、見返り】


 私が初めてその施設の名前を聞いたのは、いつの頃だっただろう?
 記憶は曖昧だが、少なくとも私がまだ幼い頃には既に、それは組織として確立していたよ
うだ。今回取材を始めるにあたって様々な資料を紐解いてみた限り、彼女らはおよそ半世紀
以上も前から、この界隈では知る人ぞ知る一大勢力であったらしい。

 ここでは仮に、この施設を【家】と呼ぶことにする(詳細については別紙に適宜加筆して
ゆく形を採ろうと思う。順繰りにまとめるには、中々骨が折れそうだ。一旦覚え書きでも構
わないから残しておいて、後で整理しないと難しそうだ。長丁場になるだろうと予想する)
 そもそもこの【家】は、今から半世紀ほど前、とある女性──以降「院長」によって設立
された小さな福祉施設から始まった。その事業内容は生まれつきや事故などによって障害を
抱えたり、生活に困窮して行き場を失った人々、或いは身寄りのなくなった老人──様々な
理由で社会から弾き出された人々に手を差し伸べる、いわゆる“終の棲家”だ。海外でいう
所の救貧院というものに近いのだろう。
 驚くべきは、このような施設・理念が、半世紀以上も前にこの国に生まれていたという事
実だろう。設立者である院長は若くして医師の資格を持つ才媛だったが、ある時その私財を
擲ってこの【家】を立ち上げたらしい。当時はちょうど世の中が、高度経済成長を謳歌して
いた時代。いわば社会全体が「光」を全身に浴びていた中で、彼らのような社会的弱者は、
文字通りいないものとして扱われていたであろうことは想像に難くない。そもそも問題とし
て、人々の意識にすら上がっていなかった時代だ。
 そんな中で、実務的にも精神的にも院長たる彼女を支柱とした【家】は、多くの困窮する
人々を受け入れた。社会に強く光差す時代にあって、同時に生じていた筈の影に対して逸早
く動き出し、手を差し伸べた。多くの病める人々を支え、その最期を看取ったという。まさ
に慈愛・博愛の精神、という奴だ。実際少なからぬ人々が、この【家】に行き着き、自分達
を取り残した時代を横目にしながら余生を過ごしたのだろう。

 ──その身の上に関係なく、分け隔てなく救いの手を差し伸べる。
 きっと彼らにとっては、彼女達は冗談抜きに白衣の天使に映ったことだろう。その献身的
な活動が注目され、当時も何度か新聞などに取り上げられていたようだ。現在に至るまでの
知名度と組織の大きさも、きっとこれらと無縁ではないのだろう。
 だが私が今回彼女らを調べようと思ったのは、何もその業績を称賛する為ではない。彼女
ら、こと【家】を作り上げたこの院長には、かねてからとある疑惑がある。
 それは……この施設が、長らく現代版“姥捨山”として使われてきたのではないか? と
いうものだ。
 この【家】を取り上げた当時の新聞記事などは総じて彼女らを称賛していたが、私を含め
た多くの人々は、今日に至るまで不思議なほどに彼女らと【家】の存在を知らない。彼女ら
の活動はあくまで“慈善事業”だとしても、あまりに不自然だ。立ち上げられた時代が時代
だったにせよ、表向きの顔だけならば、もっと評価されてもおかしくない筈なのに。

 一連の疑惑について、その根拠とされる情報はいくつかある。
 一つは【家】における死亡者・行方不明者の多さだ。公式に発表されたものではないが、
組織立ち上げから現在に至るまで、その数は他の施設と比べて明らかに多い。突出している
のだ。元より困窮者を積極的に受け入れてきた分、多少他所より多くなってしまうのは仕方
ないにしても、何十年もほぼダントツの数を刻み続けているのはやはり不自然だ。一体これ
だけの人間が、それも毎年いつの間にか消えているなど……異常という他ない(何よりこの
外部に出た数値はあくまで非公式。もしかしたらこれはまだまだ氷山の一角かもしれないと
いうのが、酷く恐ろしい)
 二つ目はその不透明な金の流れである。【家】はあくまで慈善団体として始まったもので
はあるが、現在は非常に大きな組織となっている。たとえ小さくても何かしようとすれば金
がかかるものなのに、これだけ実績と歳月が経っているとなれば尚更だろう。……にも拘わ
らず、現在もその運営は基本的に「寄付」で賄われているという。おかしな話だ。知名度と
善行に比例して広く人々から集まっているのならまだしも、先に述べたように私自身、その
存在を人伝に聞くまでは知らなかったのだ。少なくとも私が(かなり苦労して)手に入れた
資料によれば、寄付元の名義の多くは聞いたこともない幾つかの団体からとなっている。更
にこれらを辿ってみると、その根っこは総じて国内の有力企業や政治家に近しい──息が掛
かった団体に行き着く。つまりは寄付の名を借りた、賄賂の類ではないか? という事だ。
 更に三つ目は、院長自身への疑惑である。彼女は長年【家】のトップとして君臨し、実際
多くの人々に“終の棲家”を提供してきた訳だが、そこで得てきた様々な利益、金は何処へ
消えたのか? 同じく私が手に入れた資料からは、彼女が【家】を私物化し、運営費という
名の莫大な寄付金を不正に着服してきた疑惑が浮かび上がる。帳尻が合わないのだ。界隈の
雄となった現在、相応に入るものは入っている(いなければ、そもそも組織として維持して
ゆけない)筈の資金が、対外的な書類ではかなり低く報告されている。おそらくは着服の事
実を隠す為だろう。それだけ裏金に換わっている、隠蔽が常態化している実態があるという
証ではないのか。
 そして四つ目を挙げるのならば、他ならぬ院長のメディアへの露出具合だ。
 これだけ(表向きの)慈善事業を成し、一時は新聞などでも繰り返し取り上げられた彼女
だが、後年は全くといっていいほど表に出なくなっている。これは何も、謙虚という理由だ
けでは片付けられないだろう。
 私は改めて、彼女を取り上げた過去の記事を調べてみた。
 すると奇妙なことに、ある時を境にして彼女は急激になりを潜めていたのだ。
 ちょうどそれは、インターネットが広く世間に普及し始めた時期──。

 ###

 何も彼女及び【家】に関する疑惑は、私個人が始めたことじゃない。ここに人伝に聞いた
と書いた通り、疑惑それ自体は以前から囁かれていた。だが誰も、結局その核心に迫ること
ができなかったのだ。
 社会から弾き出された、行き場を失った人々を受け入れる“終の棲家”。
 だがその実態は、時代時代の権力者達と結託し、社会にとって「使えない」人間を隔離・
処分する為の施設だったのではないか?
 そうジャーナリストの先輩達が残し、伝えてきたこの資料を紐解き、自らもその足で話を
聞いて回ることで、私は考えるようになった。
 ……何より哀しいのは、彼らを【家】へと入れためいめいの家族や縁者達も少なからず、
どうやらその本性を知っていたらしいということ。判っていて、それでも傍に置いておけな
いと放り出したのか。面倒を見切れないと、彼女らに責任を丸投げしたのか……?

 ###

 ○月×日。上司から内々で呼び出しを食らった。指定された会議室に来てみれば、編集長
から総務、専務レベルまでがずらりと揃っていて驚く。
 何事から思えば、理由は実にシンプルだった。「例の福祉施設の取材を、すぐに止めろ」
そう編集長や専務達は私を取り囲むようにしてそう迫ってきたのだ。──それほどにヤバい
ヤマということか。直感的に理解した。以前から調べている内に、大分闇の深い問題だとの
認識はあったが、まさかすぐ上の者達が動いてくるとは。つまり相手は、それだけ個別具体
的に圧力を掛けられる人物──ないしパイプを持っている人物。まるでドラマみたいだなと
思ったが、当の本人達は酷く血走ったで訴えてくるものだから、私もその場で反骨心を露わ
にする訳にもいかなかった。取材を止める気は更々なかったが、勢いのまま突っ撥ねられる
ほど私自身、若いという自負はなかったものだから。

 △月●日。二度目の呼び出し。どうやら隠れて取材を続けていることがバレたらしい。編
集長はカンカンだった。「一体何を考えてる!? 俺達まで巻き込むんじゃない!」「ネタ
ならもっと、手頃なのがあるだろう?」「俺もお前も、組織だ。分かってるな……?」私の
頭の中に、報復という二文字が浮かんできた。これが国家権力か。【家】を暴こうとした先
輩達は、皆こうやって……?

 △月◆日。自宅に帰ると娘が妙に怯えてぐずっていたものだから、妻に訊いてみた所、何
でも下校中ずっと見知らぬ男が尾けてきたのだという。……ただの偶然、別の不審者という
線もあったが、私には予感じみた確信があった。これは、報復だ。奴らは上司に圧力を掛け
るだけでは飽き足らず、家族にまで手を伸ばし始めたのだろう。迂闊だった。最初に呼び出
しを食らった時点で、もっと警戒すべきだったのに。
 どうする? 取材を止めるべきか? いや、そもそも止めた所で無罪放免となるのか?
 もう暫く時間が欲しい。ショックで、頭が混乱している。
 場合によっては、娘を妻に任せて身を引くことも考えないといけないかもしれない。

 □月×日。──地下の駐車場で、見知らぬ車に轢き殺されかけた。
 もう間違いない。奴らは本気で私を消しにかかっている。今回は何とか柱に隠れて逃げ切
れたものの、先日の娘の件といい、既に私の身元は特定されているのだろう。いっそ大人し
く轢かれていれば、持っていたこの取材ノートも奪われて「一件落着」だったのだろうか?
 ……いや、やはりそれだけで終わるとはどうしても思えない。
 もう知ってしまったから、これだけの資料が残り、出回ってしまったのでないかと疑われ
ていたら、奴らは行動を止めないだろう。上司や同僚達、妻や子にまで被害が及ぶような事
になれば、私は死んでも死に切れない……。

 □月◎日。妻に離婚届を渡した。あまり詳しく話してしまえば元も子もなかったが、彼女
は最後まで「何故」を繰り返していた。私は只々謝るしかなかった。

 ◇月●日。畜生! あいつら、やりやがった!
 帰って来たら、妻と娘が死んでいた。何者かに拳銃で一発。目の前が真っ暗になった。
 ……遅かったのか? 私はもっと早く、奴らを取材するに当たって「臨戦態勢」を敷くべ
きだったのか? もう判子は押して貰っていたんだ。来週には、二人の為の部屋を探しに行
こうって約束していたのに……。

 ●月×日。妻と娘の葬儀にさえ身が入らない。殆ど義理で出席していた編集長達の眼も、
明らかに冷たかった。「だから言わんこっちゃない……」とでも言いたげに。
 辞表は合間を縫って書いていたが、終ぞ渡しそびれた。そもそもこの何ヶ月か色んなこと
が起こり過ぎて、身体がついてゆかない。こうやってノートに吐き出すのだって、もう。

 ●月◇日。二人が死んだあの家の片付け。警察は結局形だけで、親身に調べてくれそうに
なかった。彼らも権力の側なのだから、当然と言えば当然か。いや、寧ろ事情を知った者達
の少なからずは、内心怯えているようにも見えた。
「申し訳ありません。でも、あそこだけは……」去り際、そう耳打ちしてきたベテラン刑事
の謝罪の言葉も、私には酷く虚しく聞こえる。

 ×月×日。家族も仕事も、何もかも失った。このノートも、今日で止めようと思う。
 試しに調べてみようなどという、あの時の好奇心を心底悔やむ。結局私は悪に敗け、屈し
たのだ。いや……もし仮に奴らの陰謀を暴けたとしても、私が得られたであろう名声とその
ことで大きく人々に揺り戻ってくる、彼女ら【家】に丸投げされていた責任とが、はたして
釣り合い得たのだろうか? 思い返してみる限り、甚だ疑問だ。
 なるべく遠くへ逃げよう。もうこれ以上、私の知る人達を消させる訳にはいかない。
 このノートや資料も、すぐに燃 ###記述はここで途絶えている###
                                      (了)

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  1. 2018/12/16(日) 00:00:00|
  2. 週刊三題
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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